第七十二話
「うっわー! 凄いっすねー! さっきの魔法! めっちゃ格好いい!! しかもドラゴンに銀狼っすか!? スッゲー!!」
出て来たのは茶色の髪と瞳の男性だった。同い年くらいだろうか? 少し上くらいかな?
やたらとテンション高いな、と少したじろいだ。
ディルアスが残りの魔物を消滅させ、こちらに来た。
「誰だ?」
「あ、俺、サクヤって言います! お二人ともめっちゃ凄い魔法っすね! 俺、見とれちゃって!」
サクヤと名乗った人物はどうやら魔物の気配を追って来たら、私たちが戦っているのを目撃し、入り込む隙がないからと、そのまま見物していたらしい。
「俺も少しは魔法使えるんですけど、お二人程凄くないんで、ほんと格好いいなって思って! 俺もそれくらい使えるようになりて~!」
テンション高いな。
しかし何かこの気配……この人の気配……何か気になる。
チラッとルナを見た。ルナもこちらを向き目を合わせた。
やっぱり……。
「俺に魔法教えてくれません!?」
目を輝かせていた。
「無理です、行こう、ディルアス」
「え? あ、あぁ」
サクヤはキョトンとした顔をしていたが、ハッとして叫んだ。
「またどこかで会ったら魔法教えてくださいね~!」
大きく手を振っていた。
私はディルアスの腕を引っ張りながら足早にその場を離れた。
サクヤから見えなくなると、空間転移でロッジまで一気に帰った。
「ルナ、怪我見せて?」
魔物に噛み付かれた痕が何ヵ所もあった。
『大したことはない』
「治癒するね。さっきすぐに治癒出来なくてごめんね」
横たわるルナの横にしゃがみ、治癒魔法をかけた。
『いや、それはいい。それよりも……』
「うん……あの人……」
ディルアスが治癒をしている私の横に立った。
「さっきのやつがどうかしたのか? 何者だ?」
「うん……多分……多分でしかないけど……」
治癒が終わりルナは立ち上がり身体を伸ばした。
私も立ち上がりディルアスの方を向いた。
「あの人……多分、新しい勇者……」
「!! 本当にか!?」
「多分……」
「なぜ分かった?」
『魔力の気配が似ていた』
ルナが言った。ルナは昔の勇者とも繋がりがあり、私とも繋がりがある。勇者の気配を知っている。
だからあの時ルナと目を合わせた。きっとルナも何か感じただろうと思って。
やはりそうだった。
『過去の勇者とも、ユウとも、気配が似ている』
「なるほど、そうか……」
ディルアスは考え込んでしまった。
「とりあえずアレンとイグリードに報告するか」
椅子に座りアレンとイグリードを呼び出す。
「アレン、イグリード、聞こえる?」
「ユウか! どうした?」
「今大丈夫?」
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
イグリードはどこかに移動しているようだ。
「すまない、私室に移動して空間隔離をかけていた。良いぞ」
「あ、俺もしとくか」
アレンは忘れていたようだ。
「ついさっきなんだけど、魔物が大量に出て……」
「魔物が大量!? どうなったんだ!? 今連絡が来てるということは無事なんだな!?」
「あぁ、うん、それは何とか大丈夫」
「はぁ、さすがユウとディルアスだな。余裕な感じか?」
アレンが笑いながら言った。
「そこまで余裕でもないけどね。大量過ぎたし、ルナは怪我したし」
「ルナが怪我!? 大丈夫なのか!?」
「治癒したから大丈夫だよ」
「そうか、なら良かった」
「で、何かあったんだろ?」
イグリードが聞いた。
「うん。勇者らしき人にあった」
「!?」
「勇者!?」
「うん」
なぜ分かったのか、ディルアスに説明した時と同じように説明をした。
しばらく沈黙が流れた。
「そ、そうか……いずれ現れてユウと接触があるかもとは思っていたが、こうも早々に接触することになるとはな」
「うん……」
「ユウのことはバレてないんだよな?」
「すぐに別れたから大丈夫だと思う」
「だがロッジ近くだったから危ないかもな」
確かにロッジ近く、森を出てすぐのところだった。
「あの森は国所有だから、一般人は入れないが……用心するに越したことはないな。ユウは出来るだけ一人になるな」
「うん」
「用心しろよ! 何かあったら連絡してくれ。またこちらも何か分かったら連絡するよ」
「分かった」
通信を終わり、ディルアスと話し合った。
「とりあえず索敵を強化しておこう。今は魔物や敵意のある人間にしかほぼ感知しない。普通の人間もはっきり分かるくらいに強化出来ないか考えよう」
「うん、でもそんな方法あるの?」
「分からない。でも索敵にも高位魔法があるからな、それを応用する方法はあるかもしれない」
「うーん、応用かぁ……図書館で調べてみるとか?」
「あまり街には行きたくないがな……手詰まりになったら行ってみよう」
対人間に特化した索敵の研究をすることになってしまった……。




