第六話
「私の名前はマリーだよ。旦那と一緒に飲み食い処をやってんだよ」
二階に上がりながら自己紹介をしてくれた。
「ディルアスも昔ここに住んでたんだよ。子供の頃から一緒にいたからねぇ、息子みたいなもんだよ」
子供の頃から? 親は? 疑問に思ったがあまり深く聞くのも悪い気がして何も聞けなかった。
ディルアスはその間も無表情のままだ。
ディルアスは慣れたように二階に上がってすぐの部屋に入った。
「ユウはこっちの部屋を使っとくれ」
ディルアスが入った部屋の一つ奥の部屋だった。
部屋は簡素なベッドとクローゼットらしきものがあるだけだった。
マリーさんは違う部屋に行ってから何かを両腕に抱えながら戻って来た。
「私の使い古しで悪いが今はこれ使っときな。あんたの服何か変わってて目立つからねぇ」
そう言いながら渡したのは服やタオルなどだった。
服……、確かに街中で見かけた人々の服装は日本のものとは全く違うかった。
確かに目立つか。有り難く服を借りることにした。
「明日色々必要なものを買いに行けば良いさ。奥には洗面と風呂とあるからね。適当に使っとくれ。もう少ししたら下の店を開けるから、後で降りといで。夕食は店で食べたら良いよ」
そう言うとマリーさんは下の店に降りて行った。
部屋に一人になってボーッとした。気が抜けたというか。
しばらく放心していてから意識が戻って来ると、今現在置かれている状況を必死で整理した。
何でこんなことになった!?
バイトの帰りに周りが白くなったと思ったら、いきなり違う世界に放り込まれ、何の説明もなく生きていけと!?
言葉が通じたのは有り難いけど、魔法やらドラゴンやら、訳分からない!
私も魔法使えたりするのかな、いや、ないか。こんな平凡な人間連れてきてどうすんのよ。
誰か何とか言いなさいよ!
一人でジタバタとツッコミを入れながら考えた。
「これ、帰れるのかな……」
ぼそっと呟いたが、怖くなって考えるのを止めた。
とりあえずこの世界での生活に慣れるしかないか。
溜め息を吐きながらマリーさんが貸してくれた服に着替えた。
少し大きいだけで丈等は丁度良い感じ。長袖のワンピース型で、前にボタンが並んでいて、長い裾のスカートだった。
さて、下の店に降りてみるか。お腹も空いて来たし。
店はすでにオープンしていたようで、多くの客がいた。テーブルはすでに半分以上は埋まっている。
グルっと見回すと一つの席にディルアスがいた。
マリーさんはこちらに気付くとディルアスと同じテーブルに着くように身振りで言った。
おずおずとディルアスの向かいに座る。
何か喋り掛けたほうが良いかな、と悩んでいると入り口のほうから大きな声が聞こえた。