第五十六話
ブックマークありがとうございます!
「消えるってどういうことだ!!」
アレンが叫んだ。
「どうもこうもないよ? 勇者の役目を放棄するなら、戻る権利も天寿を全うする権利もなくなってしまうだけさ~」
固まって動けない。考えることも出来ない。思考回路が停止したかのようだ。
「さて、どうする? ユウ」
神は顔を覗き込んできた。
ディルアスが抱き寄せ神から引き離す。
「うーん、とりあえずどうするか決まったら教えてね~。勇者を放棄するなら新しい子を探さないといけないし。あー、いっぱい喋って疲れたよ~。じゃあね~」
軽口を叩いて消えていった。
「ユウ……ユウ!」
ディルアスが肩を揺さぶる。
「あ、ディルアス……ごめん」
呆然としたままだった。イグリードとアレンに座るよう促される。
沈黙が流れる。
「やはり過去と同じように魔物討伐をしていくのが一番良いんじゃないか?」
イグリードが口を開いた。
「あ、あぁ、俺もそう思う」
アレンも同意した。ディルアスは何も言わない。
「でも……魔物が増えると被害も大きくなる……」
やっと言葉が出た。
過去の記載を読んでいると、魔物に襲われたときの被害状況も載っていた。魔物が増える度にその被害は甚大なものになっていた。
それを思うと気軽に言えない。
「ユウが戦うのなら俺たちは全力で人々を守る」
アレンもイグリードも真っ直ぐな瞳を向けた。
だから心配するな、と。
「ありがとう、少し時間が欲しい」
部屋に戻り放心していた。考えることを放棄してただ一日放心していた。
『ユウ』
ルナは人間化し横に座った。肩を抱き引き寄せ瞼を手で隠した。
『我らはいつまでも側にいる』
オブも寄り添って来た。
掌の温もりを瞼に感じ眠りについた。
夢を見た。向こうの世界の夢だ。
ただ無気力に生きていた。
何かに夢中になれることもなく、ただ大学とバイトを繰り返しているだけだった。
あの時はあれで普通だった。何も疑問に思わなかった。
今は……だいぶ変わったよね。色んな意味で。
無気力だった自分が信じられないくらいに、今が大事になっている。
いきなり異世界に放り込まれ訳が分からなかったけど、たくさんの優しい人たちに助けられ楽しくて。
魔法にも興味を持ち夢中で勉強した。
色んな種類のドキドキがいっぱいあった。
楽しかった。そう、とても……。
うん、こちらの世界で私は良い人生を経験出来たんじゃないかな。
今から元の世界に戻ればきっと前みたいな無気力じゃなく、一生懸命生きられるはず。
そう思う。そう思わせてくれたからこそ……。
こちらの世界が大切になった。
だからこそ魔物で苦しんで欲しくはない。
アレンとイグリードには争いを起こさないことで人々を守って欲しい。
決めた。




