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異世界で勇者になりましたが引きこもります【完結】  作者: きゆり
六章 勇者

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第五十五話

 神というその人物はウキウキと話し出した。


「まず魔物はね、人間の負の感情から生まれるの! 妬み嫉みや苦しみとかね! 他にも色々だけど~。それでね、それを退治するために勇者が現れるでしょ? まあ私が連れて来るんだけど~。勇者が現れるとね、勇者の負の感情から何と魔王の種が生まれるの!」


 さも自慢気にニコニコ話す。それに不快感を感じる。みんな同じだったようで顔を歪ませている。

 それに気付かずなのか気にしていないだけか、神はニコニコと話を続ける。


「魔王の種が生まれると、人間の負の感情を吸収するだけじゃなく、勇者が倒した魔物たちをも吸収してどんどん強くなりまーす! 魔王が強くなるればなるほど、魔王から魔物もたくさん生まれまーす! 凄いでしょ? これ!」


「!?」


 みんな呆然とした。


「ということは、魔物を倒せば倒した分だけ魔王が強くなり、さらに魔物が増えるということ……か?」

「ピンポーン」


 ニコニコと神は肯定した。


「魔王や魔物を増やすために勇者を召還した?」

「そういうことだね~」

「ふざけるな! 何のためにそんなことを!」


「だって、人間は人間同士で争うでしょ?」


 急に神の顔付きが変わった。冷たい顔だ。

 その顔は一瞬で元に戻ったが、それでも恐ろしさを感じた。


「人間てさ、共通の敵がいないと人間同士で争うじゃない? だから私が共通の敵を作ってあげてるの~! そのおかげで人間同士の戦争は起こってないでしょ?」


 冷たい顔は戻りニコリとした笑顔だったが、なぜか背筋がゾッとした。

 笑顔の裏に冷酷な顔が垣間見える。


「確かに魔王が出現するせいで、四国は不戦条約を結び平穏を保っている……」

「でしょ~? 私のおかげ!」


 ニッコリと神は笑ったが、もうそれが本当の笑顔ではないことはみんな分かっていた。


「もしも……もしも勇者が戦わなかったら?」


 自分が戦うと魔物が増える、なんて聞いて戦える程お気楽にはなれない。


「もしも勇者が戦わなかったらねぇ、うん、魔物は増えないだろうね~」

「!!」


 みんなハッと顔を見合わせた。


「昔にもいたんだよ~。ユウとは違って真実は何も知らない子だったけど、自分が勇者だと気付かなくて戦わなかった子」

「勇者だと気付かなかった……」

「そう、ユウみたいに魔力に興味を持って鍛練する子はおのずと勇者であることに気付いたり、気付かずとも魔王と戦ったりするんだけど、たまに魔力に興味がなくて、全く気付かず勇者の役目を果たさない子がいるんだよね~」


「その場合、どうなるの?」


 みんな息を呑んだ。


「うーんと、その場合は魔王は力が増えないから魔物も増えないねぇ。人間の負の感情だけで細々魔物が出るくらいかなぁ。そしてその子はどこかで天寿を全うして死んでいくね~」

「そ、それならそのほうが魔物で苦しむことはないんじゃ!?」

「でもそうすると人間同士で戦争しちゃうよ~?」

「!!」


「そうだ、確かに過去何度かは四国で戦争が起こったときがあるそうだ。だがその度に魔王が現れ国同士の争いをしている場合じゃなくなり、四国の均衡が崩れることはなかったらしい」

「ね?」


 イグリードが過去の話をすると、神は不敵な笑みを浮かべた。


「戦争も起こって欲しくないけど、でも私は……魔物が増えてみんなが苦しむのも嫌だ……」

「うーん、でも戦わないと戦争が起こるだけじゃなくて、ユウも元の世界に帰れないよ?」

「!! 元の世界に帰れるの!?」

「うん、魔王を倒したらね~。こちらの世界に来たときのまま、同じ時間同じ場所に帰れるよ~」


 帰れる……元の世界に……。

 ハッとした。ルナの以前の契約者、突然いなくなったって言ってた。それは元の世界に帰った、ということ……。

 ルナを見た。ルナは落ち着いていた。前契約者がいなくなった理由を知れて安堵したのだろうか、優しい顔をしていた。


「でも戦わないなら、そのままこの世界で天寿を全うして死んでいく?」

「いや、ユウは無理だねぇ」

「えっ?」


 みんなが怪訝な顔をした。


「ユウはこうやって真実を知ってしまったからねぇ。戦わないと言われたら、私は次の勇者を見付けるしかない。次の勇者が見付かったら君はこの世界にはいられない。勇者は二人はいらないんだよね」

「元の世界に戻されるということ?」

「いや?…元の世界には帰ることは出来ないよ。魔王を倒すことで、帰る条件が満たされるんだ」

「じゃあどうなるの?」


 天寿を全うすることもない、元の世界にも帰れない、だとすると……微かに震える。

 ルナとオブが足元に寄って来てくれた。ディルアスも側に来て肩を支えてくれる。みんな心配してくれている気持ちが嬉しかった。


「ユウは次の勇者が見付かった時点で消えてしまうねぇ。存在がなくなってしまう」

「!!」


 ディルアスが支えた肩を強く掴む。アレンとイグリードは驚愕の顔をしこちらを見る。

 私は……私は動けなかった。


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