第五話
街の入り口から少し離れた場所にゼルは降りた。
ディルアスはゼルから飛び降り、同じく飛び降りるよう促される。
少しよろめきながらも何とか飛び降りると、ディルアスはゼルに何やら話し掛けていた。
ドラゴンと会話なんて出来るんだ、と少し離れた場所から眺めていた。
ディルアスがこちらに振り向くと、ゼルは再び翼を広げどこかに飛んで行ってしまった。
「行くぞ」
「ゼルは?」
街に向かって歩き出したディルアスに聞いた。
「街に一緒に入ることもあるが、今日は外で待機させた」
え、あの巨体で一緒に街に入れるんだ。と、不思議に思っていたのを見透かすようにディルアスが続けた。
「魔導具で身体を小さくさせる」
「身体を小さく!?」
「あぁ」
色々分からないことが多すぎて、質問責めにしそうだったのを堪えた。きっとキリがない。
そんなことをしてしまえば、きっとディルアスも辟易するだろう。
ここはグッと我慢だ。
街の入り口には門兵らしき人が立っていたが、止められることもなく入ることが出来た。
キシュクの街。この辺りで一番大きいと言われただけあって、凄い人が多く賑やかだ。
街並みはヨーロッパみたいな感じかな、とぼんやり考える。
石畳に石造りの建物。遠目には時計台のようなものも見える。
あちこちに露店も並びとても賑やかだ。
ディルアスはそれらの店に見向きもせず、街の奥へと進んで行く。
小走りで付いて行くが、あちこちの店が気になり、危うくはぐれそうになる。
「こっちだ」
ある程度歩き続けると一軒の店らしき建物の前で止まった。
扉を開けて中に入って行く。
中に入ると広い部屋にたくさんのテーブルと椅子が置かれていた。
レストラン? しかし誰もいない。
灯りがないため薄暗い。営業している雰囲気はない。
扉の音に気付いた店の人間であろう人物が奥の部屋から出て来た。
四十から五十くらいの歳だろうか、母親くらいの年代の女性だった。
ディルアスに気付くと突然大きな声を上げた。
「ディルアスじゃないか! 久しぶりだね!」
そう言うとディルアスに近付き肩をバシバシ叩いた。
「あぁ」
ディルアスの返事は素っ気ない。
「なんだい、相変わらず声が小さいねぇ! 相変わらず細いし、ちゃんと食べてんのかい!?」
女性はディルアスの態度は全く気にしてない素振りで捲し立てる。
どうやら古い知人のようだ。
「ん? そっちの子は誰だい?」
いきなり話を振られ焦って声が裏返った。
「わ、私は、えっと……」
「旅先で拾った。他国から来たらしく、この国のことは全く分からない。世話してやってくれないか?」
他国から来たことになった。まあ何者か分からないものね。こんな不審者をよく連れて来てくれたもんだ。
女性は少し考え込み、
「まああんたのことだから、何か感じるものがあったんだね」
そう言ってニカッと笑った。
「あんた名前は?」
「由宇と言います」
「ユウか、じゃあユウ! 二階においで! ディルアスも今日は泊まってくだろ?」
「あぁ」
二階? 何だか説明もないまま、二人で話が纏まってしまった。