第四十三話
あぁ、温かくて気持ち良い。お腹の辺りも背中も温かくてね。寝ちゃいそう……には、ならない!
魔力の消費で疲れて眠くはなるけど、背中が気になって眠るどころではない!
何かディルアスのキャラが変わってきたような、何てことを考えていたら、耳元で声をかけられドキッとした。心臓に悪い。
「もう動けるか?」
耳に息がかかる。慌てて凭れていた身体を起こした。
「う、うん、大丈夫!」
「そうか、ならいくぞ」
ディルアスは立ち上がり手を差し伸べた。その手を取り立ち上がる。
「ありがとう」
「あぁ」
ディルアス、意外に紳士的なんだよなぁ。意外は失礼か。
ルナとオブを抱っこし、再び飛翔し、先程アレンたちと別れた場所まで戻る。
アレンが思い切り手を振っているのが見えた。
「とんでもない結界だったな! 本当に古のドラゴンの言う通りだった。お前ら本当に凄いよ! 黒い靄みたいなのが上がっていくのが見えたが、もしかしてあれが王宮に巣食っていた魔物か!?」
「殿下、お二人はお疲れでしょうし、まずはお部屋でお茶でもしながらくつろいでいただいたほうが。あなたも小汚ないですし」
「小汚ないって言うな!」
「はいはい、とにかく着替えてください。ディルアス様、ユウ様にはお部屋をご用意いたしますので、そちらでおくつろぎを」
アレンとリシュレルさんのやり取りを見ていて笑った。
部屋へ案内されるまでの間もずっと言い合っている。漫才みたいだな。まあでもリシュレルさんのほうがお兄さん的なのか、一枚上手な感じだけど。
案内された部屋はとても豪華で、調度品も全て高級そうだった。
ディルアスは隣の部屋だ。
後で呼びに来るから、と今はくつろぐように香りの良いお茶を用意してくれた。
椅子に座り込み深い息を吐く。ルナとオブも伸びをして身体を伸ばしている。
座っていると一気に疲れが襲って来てついうとうとしてしまった、
『ユウ、起きろ』
ルナの声が耳元で聞こえ目を開けた。目の前に超絶美形の顔があり一瞬で目が覚めた。色んな意味で眩しい。
しかも気付けばなぜかルナを押し倒して抱き付いてるし!
「な、何で人間化してるの!?」
『小型化のままで起こそうとしても、抱き付くばかりで起きないからだ』
「アハハ……、ごめん」
もふもふがあるとつい抱き付いてずっともふもふしてしまう。恐らく寝惚けながらルナにしがみついてずっともふもふしてたんだろうなぁ。
慌てて身体を起こした。
『さっきから誰か呼んでいるぞ』
「えっ!?」
慌てて扉を開けた。
そこには侍女らしき人がいた。
「ユウ様ですね? アレン殿下がお待ちですのでご案内致します」
「あ、はい、ありがとうございます」
侍女さんに少しだけ待ってもらい、扉を閉めてルナに急いで小型化するよう言った。
ルナはやれやれと少し呆れ顔。
ルナとオブを抱っこしながら侍女さんの後に付いていく。
「あの、ディルアスは?」
「ディルアス様ももうおいでになられてますよ」
侍女さんは振り返りにこりと笑顔で言った。
長い廊下を歩いていると、窓から庭園らしきものが見えた。とても広く、綺麗に手入れされていた。
しばらく歩いていると侍女さんは一つの扉の前で止まり、扉を叩いた。
「ユウ様をお連れしました」
「どうぞ」
リシュレルさんの声がした。
侍女さんはお辞儀をし、中へ入るよう促した。
部屋の中に入ると、アレン、ディルアス、リシュレルさんがいた。
「ユウ、少しは休めたか?」
「うん、まあ一応」
「ハハ、なんだそれ」
椅子に座るよう促される。
ディルアスの横に座る。向かいにはアレンが座り、リシュレルさんはアレンの横に立っている。
「まずは、礼を言わせてくれ。お前たちのおかげで助かった。感謝する」
「魔を払えたとしてもすぐに元通りという訳には行かないでしょうが、不可思議なものを取り除いた後は陛下と殿下次第ですからね」
「お前なぁ……」
「ユウ様、ディルアス様、ありがとうございます」
「フフ」
二人のやり取りが面白い。
「で、あの黒い靄が魔物か?」
「あぁ」
「魔物が人の心を惑わせていたということか……」
アレンは考え込んだ。
「徐々にではありますが、段々と魔物が増えていますね」
「うん、それなんだが……」
アレンがリシュレルさんをチラッと見た。リシュレルさんは扉の外を確認した後、何かの魔法を発動させた。
「空間隔離か」
「空間隔離?」
「あぁ、話が外に漏れないように、この部屋だけ別空間になったみたいな感じだな。リシュは大丈夫だ」
「勇者についてか……」
「あぁ」
勇者……、ギクリとした。




