第二十二話
それに続いて同じく岩の裏に入る。
そこには目を疑うものがいた。
たくさんの動物たちに囲まれて、真っ黒……漆黒のドラゴンがそこに横たわっていた。
「え、ドラゴン……?」
ん? でもディルアスが連れていたドラゴンよりも少し小さいような?
「子供のドラゴン?」
『そうだ』
「何でこんなところにドラゴンが? しかも一匹で?」
ドラゴンは稀少種らしく滅多にその姿はお目にかかれないらしい。
竜の谷というドラゴンの巣のようなところがあるらしいが、誰もみたことがないため噂話でしかない。
ディルアスのように人間が騎獣として使役するのは極めて珍しいらしく、ディルアスはたまたま捕まえた、と言っていたらしい。
しかし滅多に手に入らないためか、ドラゴンの鱗は武器や防具の素材として、かなりの価値があるらしく、人間に狙われることもよくある。大抵の人間は返り討ちに遭うのだが。
中でも漆黒のドラゴンの鱗は最高級品らしい。
だからなのか、ディルアスは人目に付く所ではドラゴンを連れ歩かなかったらしい。
街に入るにしても魔法で小さい姿に変えてから……初めてキシュクに着いたときに言っていたことはこのことだったのだ。
『どこから連れて来たのかは分からないが、人間に捕らわれていたのだ。鱗を剥ぎ取ろうとしていた。まだ子供だったため逃げることが出来なかったようだ』
「酷い……」
そうか、それを助け、動けないこのドラゴンを守ろうとして、動物たちやこの狼は近付く人間を襲っていたのか。
『そなたはどうだ? 同じ人間か?』
それは鱗を剥ぎ取ろうとした人間と同じか? と聞かれているのだろう。
違う! と叫びたかったが、動物たちにしてみたら人間はみんな敵なんだろうか。
どう答えても言い訳になるような気がした。
「同じじゃない! って言いたいけど、信じてもらえるかは分からない」
そう言ってドラゴンに近付いた。動物たちが警戒する。狼も臨戦態勢に入った。ウサギだけは私の足元に付いていてくれた。それが嬉しかった。
漆黒のドラゴンの横にしゃがんだ。良く見るとすでに鱗を剥がされている箇所が何ヵ所もあった。
だいぶ日にちが経ってしまっていたせいか、赤黒く固まっているようだ。
あちこちが赤黒く痛々しい。
ドラゴンはうっすらと眼を開け、こちらを見た。瞳も漆黒だった。
漆黒の姿に漆黒の瞳、ディルアスの姿が思い浮かんだ。そして幼い頃に辛い目にあったということも。
「君はディルアスと似ているね」
そう言うとドラゴンは再び眼を閉じた。
ドラゴンの額をそっと撫でた。狼は唸ったが、ドラゴンは微動だにしなかった。動く力もないのだろう。
立ち上がり両手をドラゴンに翳した。
そして今使える最大の治癒魔法を!
ドラゴンの身体が白く光り出した。魔石が反応しさらに強く発動する。
「お願い。全部治って!」
今ある力を全て使いきる勢いで魔力を消費していく。
すると少しずつ剥がされた鱗が再生していく。
光が爆発的に広がり、そして消滅した。
私は座り込んでいた。
ドラゴンは?
『治っている。人間よ、感謝する』
狼から嬉しい言葉を聞いた。
良かった、治ったんだ。そう思ったと同時に意識が途切れた。