第十六話
さて、何を附与しようかな、考えながらマリー亭へ帰った。
攻撃力強化やら防御力強化って言ってたなぁ。魔物とか魔獣って聞いたし、やっぱりそんなのに襲われたら必要だよねぇ。
マリー亭のバイトが終わって部屋に戻ると、本を片手に考えた。
飛翔魔法のスピード強化とか、ディルアスが使ってたような保護魔法の強化とか……あ、結界強化と索敵魔法強化とかも良いかもしれない。
後は通信魔法が気になるなぁ。でも通信する相手と対面しながら附与かぁ、それは追々かな。
思い付いた魔法を手当たり次第附与してみることにした。
終わったときには真夜中になっていた。さすがに疲れた。そのまま気を失ったかのように眠っていた。
次の日色々試したくなり、マリーさんにお願いしてバイトはお休みさせてもらい、街の外に出てみることにした。
ディルアスに連れられてキシュクに来てから初めて街の外へ。少し緊張する。
ドキドキしながら門を潜る。ゼルから降ろしてもらった場所がすでに懐かしい感じがした。
あれから数週間しか経っていない。遠い昔のようだ。ディルアスはどうしてるのかな、とふと思い出す。
人目に付かない場所まで歩いて移動し、魔法を試す。今まで街中では出来なかった威力を確かめる。
炎、水、氷、風、雷、あらゆる攻撃系魔法を打ってみた。今まで街中では控えていたが、制限せずに、さらに魔導具を介して放つ魔法は異常な威力だった。
下手すると街一つ分を消してしまいそうな……。
目の前にあった木々を消滅させてしまいそうな勢いだったので、慌ててその攻撃魔法の先に結界を張った。
結界魔法も魔導具で強化されたため、凄まじい威力の攻撃魔法でも消し飛ぶこともなく、周囲に魔法を漏らすことなく防ぐことが出来た。
これから魔法攻撃するときは要注意だな。
後は飛翔訓練でもしてみようかな。保護魔法を身体全体に張って、足に魔力を集中させる。
フワリと身体が浮き上がり、そのまま一気に上空へ。これもまた凄いスピードだった。
最初は速すぎる速度に慣れなかったが、時間が立つに連れコントロール出来るようになり慣れて来た。
少し疲れたから休憩しよう、と地上に降り立ち座り込んで休憩していると、ウサギのような小さな動物が何匹か現れた。
そういえば意思疎通も附与してあったんだ、と思い出し、その小動物に話し掛けてみた。
「ねぇ、私の喋っている言葉分かる?」
そう声をかけると、小動物はビクッとした。
『なんでわたしたちのことばがわかるの?』
おぉ! 本当に通じた!
「動物とお喋り出来る魔法があるんだよ!」
『おしゃべり?』
「そう! みんなと話すことが出来るんだよ!」
他の魔法も凄かったが意思疎通の魔法が一番嬉しいかもしれない! うん、かなり嬉しい。
『へー、そうなんだ。じゃあにんげんともなかよくなれるかな?』
「あ、うーん、この魔法、みんながみんな使える訳じゃないみたいだから、やっぱり仲良くなれない人もいると思う」
何だか申し訳なくなった。
その小動物はガッカリした顔をしているようだった。
「ごめんね、その代わり私がいっぱい仲良くなるよ!」
日が暮れ出して来た。
「今日はこの辺で帰るね~」
小動物たちと別れて、キシュクへと戻った。