第十四話
一週間みっちりと魔法訓練を行った。
昼間は一人でだったりメルダさんやフィルさんが付き合ってくれて実践を、夕方からは店の手伝いをして、夜寝る前には借りた本を読み漁り、不思議なことに一度読んだ魔法は自然に身体に染み込むかのように使いこなせるようになった。
二人にはとても驚かれた。
「はー、ほんとユウって凄いな。一週間でほぼ一通りの魔法使えるようになったんじゃないか?」
「ほんとにねぇ。ディルアスといい、魔法の才能ある奴ってのは凄いんだねぇ」
「もう俺たちが教えることはないよなぁ、というかこれ以上は何も教えられることがないな」
フィルさんとメルダさんは笑った。
「もっと強力な魔法を学びたかったら王立図書館とかに行けば、色々な魔導書があるだろうけどね」
「王立図書館?」
「うん、王宮のすぐ横にある図書館。物凄く大きいから色んな本がたくさんあるよ。王宮からも行き来出来るけど、王宮の敷地とは別だから一般にも開放してあるんだ」
「へ~、いつか行ってみたいな」
「王都までは一日あればキシュクから馬車ですぐに行けるよ」
「フィルさんもメルダさんも行ったことあるんですか?」
「フィルは魔導具の卸しに、あたしは治療士としての勉強で王都には何度か行ってるからね。そのついでに図書館とかにも行くよ」
話を聞いているとますます行ってみたくなった。
「まあとりあえずもう少し実践的に使いこなせてから依頼を受けたりして様子見ながらじゃない?」
「まあそうだね」
メルダさんの意見にフィルさんも賛同した。
「依頼?」
二人とも頷いた。
「ディルアスがやってるようなことかな。街で何か困ったことや助けて欲しいことがあれば領主様から依頼がある、それを仕事として受けるんだ」
「なるほど」
「俺から領主様にユウのこと売り込んどくよ」
「えっ! いや、そんな大事には……」
焦って返事を返すと、フィルさんは笑った。
「あの魔法見せてよ」
唐突にフィルさんが頼んで来た。
あの魔法とはあれのことかな。
二人から少し離れると、両手に魔力を集中し、右手から炎の玉を上空に投げた。空高く炎が上がり落下し出す直前にその炎の玉を見ながら高く付き出した手をグッと握り締める。
すると炎の玉はパーンと音を上げて弾けた。花火のように。
こちらの世界では花火がないらしい。私が作った魔法だと思われてしまったが、まあ私オリジナルと言えばそうかもしれない。
さらに左手からは水の玉を同じように上空へ投げた。その玉も左手をグッと握り締めると、細かい雫となってパラパラと雨のように降ってくる。
炎の光が雫を通してキラキラと輝いていた。
「綺麗だねぇ」
メルダさんが見上げながら呟く。
「あぁ、本当に凄いよ。領主様にはしっかり売り込むから。そうそう、明日うちの店においで」
「店にですか?」
「うん」
そう言うとフィルさんはニコニコしながら帰って行った。メルダさんも依頼を受けるときには必ず相談すること! と約束させられ帰って行った。
夕方になり店を手伝っているときに、ふと今日は一日ディルアスを見かけなかったな、と思いマリーさんに聞いた。
「ディルアスはどこか行ってるんですか?」
「ん? ディルアスかい? そういやいないね。あ~、また何も言わずに出て行ったかねぇ」
マリーさんは苦笑した。
「よくあるんだ、気にしないで良いよ。いつも急にいなくなったかと思うと、また突然ひょっこり帰って来たり」
「お礼言いたかったなぁ」
呟くとマリーさんは微笑んだ。
「あの子が一週間もここにいるなんて珍しいことだよ。しかもあんたの魔法訓練をずっと見てたよ」
最後は意味深な笑顔でそう言った。
どういう笑顔かは分からなかったが、やはり助けてくれたお礼をちゃんと言いたかったな、と思った。