第十三話
マリー亭で過ごすうちにメルダとフィルとも仲良くなった。二人は魔法を勉強していた。
強力な魔法ばかり教わっていた俺は初歩の魔法が分からなかった。二人に不思議がられ、一緒に初歩から学んで行くことにした。
オーグやマリー、メルダにフィル、みんな優しかった。優しいからこそ怖かった。大切になればなるほど近付くのが怖くなった。またいつか失うのではないかと。
十年程過ぎた頃、無性にグレイブに会いたくなった。マリーたちには内緒で街を抜け出し、空間転移魔法で王宮まで行った。
門番に宮廷魔導士のグレイブに会いたいと告げた。
門番は驚いたように言った。グレイブはいない、と。
もう五年も前の話だ、と教えてくれた。
その時もグレイブは宮廷魔導士団を引き連れて、魔物退治に出かけていた。そこではかなりの強力な魔物が出たらしく苦戦を強いられ、魔力を使い果たしたグレイブは最期の力で魔物と共に消滅した、と。
彼は今でも我々の英雄だ、と、門番は涙ぐみながら教えてくれた。
まただ。また大切な人がいなくなった。
しばらくマリー亭に帰ることが出来ず、グレイブと一緒に過ごした場所で泣き続けた。
マリー亭に帰ったときにはみんなに心配されていた。どうしたのか、何かあったのか、と聞かれたが何もないと答えた。
この人たちまで失ったら俺はどうなるんだろう。
怖かった。だからなるべく深く関わらないつもりだった。大人になり魔導士となってからは、各地を転々としながら過ごした。どこかで誰かと親しくなるのが怖かった。
そうやって過ごしていたときにケシュナの森でユウを見付けた。
不思議な格好をしていた。なぜそんなところに倒れていたのか不思議だった。関わらないでいようと思ったのに、一人きりで倒れている姿が幼い自分と重なった。
自分から関わってしまったのだ。
どうして良いか分からなかった。とりあえずマリー亭に連れて行けばマリーたちに託せる。そう思って連れて行くことにした。
自分は怖いから深く付き合わないと決めているくせに、困ったときだけ頼る。そういう自分も情けなくて嫌いだった。
ユウはこの世界のことを何も知らず、どこから来たのかも全く分からなかった。この世界の異物のような。それが自分と重なるような、全く反対の存在のような、不思議な感覚に襲われた。
深く関わりたくない、しかし、なぜか気になる。
しばらく遠くから見守ってみよう。そう思った。
一週間程、魔法訓練を見ていたが、ユウは普通ではない速度で習得していった。俺がグレイブに教わっていたときのように。
きっと一人でも大丈夫だろう、そう思った。
もう関わる必要もない、街を出よう。マリーたちには告げずにキシュクを後にした。