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第十一話

「さて、魔法講座だけど、まず魔力を感じられるかどうかからだね。とりあえず見てて」


 そう言うとフィルさんは掌を身体の前で上に向けた。見詰めていると、フィルさんの掌がユラユラ揺れている?

 ユラユラ揺れて見えたのは熱で陽炎のような状態だったためか、と納得した。掌には小さな炎が浮かんでいたのだった。

 おぉ、凄い! と思わず声が漏れた。


「俺の手に魔力が集まっているのを感じるかな?」

「うーん、すいません、ちょっと分からないです」


 魔力と言われてもよく分からなかった。


「じゃあちょっと手を出して」


 フィルさんは炎を消して握手をしてきた。


「今から魔力を手に集中させるから何か感じたら教えて」


 そう言うとフィルさんは握っている手に少し力を込めて念じるかのように集中していた。

 フィルさんの手に意識を集中させていると、段々と熱を帯びてくるのを感じた。これが魔力なのかな?


「何だか熱く感じます」

「そう、ならそのまま感じててね」


 フィルさんは手を握ったまままた集中した。

 すると今度は何だかゾワゾワ? モヤモヤ? と握った手から何かが入ってくるような感覚に襲われた。


「うわっ、何かゾワゾワする!」


 思わず手を離した。


「感じたみたいだね。それが魔力だよ」


 フィルさんは笑いながら言った。


「今のような身体の中にある魔力を手に集中させたり、身体全体から張り巡らせたり、そうやって魔力を外に放出するんだ。そうするとそこから魔力が形となって出てくる」


 そう言いながらフィルさんは再び炎を出した。それに合わせるかのようにメルダさんも水を出した。メルダさんの水は球体となって掌の上でフヨフヨと浮いている。


「魔力をコントロール出来るようになればこんなことも出来るよ」


 フィルさんは炎を風に乗せ、様々な向きに舞うかのように炎を躍らせた。

 メルダさんも同じように水を雫に変え躍らせた。


「凄い、綺麗……」


 あまりに綺麗な光景でうっとり眺めた。


「ユウもやってみな? とりあえず手に魔力を集中するところから始めよう。身体の中に魔力があるんだと信じて、意識を手に集中するんだ」


 頷き、意識を集中させてみた。身体の中に魔力がある。私には魔力があるんだ。それを集めるんだ。そう心の中で呟いた。

 そうすると身体の真ん中、お腹の辺りで何やらチリチリと熱を感じた。もしかしてこれが魔力!?

 感じたそれを逃がさないように、ゆっくりと手に移動させて行く。すると掌が段々熱を帯びてくるのが分かった。

 そのまま『炎』を想像した。

 掌からフィルさんが出したよりも少し大きい炎が出た。


「ユウ! 凄いじゃないか!」


 フィルさんとメルダさんの声が重なった。

 突然叫ばれたことによって集中力が途切れ、掌の炎は消えた。


「一度聞いただけで出来るなんて、ユウって凄い才能じゃないか!」

「うん、ディルアスと同じくらいになるかも」


 フィルさんとメルダさんは興奮気味に言った。

 これから毎日今のような鍛練を繰り返したら良いと教えてくれた。


「手が空いているときは付き合うし、それ以外のときはこれを読むと良いよ」


 そう言いながらフィルさんは分厚い本を渡した。魔法訓練の本だった。色々な魔法の技、その使い方などが載った本だった。

 ペラペラと捲ってみると字も読めそうだったから、有り難く借りることにした。


「あたしも暇なときは付き合うからね」


 メルダさんも笑顔で言う。

 二人にお礼を言って、談笑しているとマリーさんがそろそろ店を開けるから手伝ってくれ、と声を掛けてきた。

 二人は今日は帰るらしく店の入り口で見送った。


「魔法は使えそうだね」


 マリーさんがたまに様子を見ていたらしく言った。


「はい! お二人のおかげです」

「ディルアスもさっきまであんたたちを見てたんだけどねぇ。見てるなら一緒に入ったら良いのに、って声掛けたら何も言わずまたどっか行っちゃったよ」


 やれやれ、という顔でマリーさんは苦笑する。

 ディルアスがいたのか、どうせなら魔法見せて欲しかったなぁ。いつか見せてくれるかなぁ。と、ぼんやり考えていたら、ふとメルダさんの話を思い出した。


「ディルアスが笑わないのって、何か原因があるんですか?」


 少し躊躇いながら聞いてみた。


「ん? あぁ、メルダから何か聞いたかい?」


 話したくないことなら、とやめようかと思ったが、マリーさんは大丈夫、と店の準備をしながら話を続ける。


「ディルアスはね、親を魔物に殺されたんだ」

「魔物……」


 昔は魔物もたくさんいたが現在はあまりいないらしい。それは百年に一度くらいのペースで勇者が現れ、魔王を倒すからだそうだ。

 魔王が現れるとどこからともなく勇者が現れて魔王を退治してくれるらしい。魔王を倒すと自然に魔物の数も減って行く。そうやって魔物が増えたり減ったりを何千年と繰り返している、らしい。

 マリーさん自身も子供のときのお伽噺話でしか知らないから本当のところは分からない、と笑った。


「あの当時も魔物はそんなにたくさんはいなかったんだけどね」


 二十年前、ディルアスがまだ五歳の頃、両親と共に街から街へ馬車で移動しているときに、魔物に襲われたのだそうだ。

 その時に両親はディルアスの目の前で惨殺され、ディルアスは一人生き残った。目の前で両親を殺されたディルアスの心の内は計り知れないものがあっただろう。

 ディルアスはなぜか魔物に襲われなかったらしい。


「その時助けてくれたのが宮廷魔導士様だったんだよ」


 魔物が出ているという噂を聞き付け、王宮から数名の魔導士が派遣されていたらしい。ディルアス親子が襲われた後、宮廷魔導士が一人生き残っていたディルアスを発見し保護した。

 ディルアスは魔導士が現れたとき、無意識に結界を張っていたらしい。それを見た魔導士はディルアスの素質を伸ばそうと、一週間だけ魔法の使い方を教えたそうだ。

 たった一週間でも才能のあったディルアスは五歳にして大人顔負けの魔法を使いこなしてしまったらしい。

 その後王宮に戻らないといけない魔導士は近くの街、キシュクのマリー亭にやって来て、ディルアスの身の上を説明しマリーさんたちに託して去って行ったのだそうだ。


 話を聞いて呆然とした。両親を目の前で殺された……。辛すぎる。言葉が出なかった。


「あの子が笑わない原因は両親が目の前で殺されたからかもしれない。あの事件のせいで感情を出せなくなってしまったのかもね」


 寂しそうにマリーさんは微笑んだ。


「でも私たちはあの子を愛してるし大切な息子なんだよ。メルダもフィルもきっと兄弟のように大事に思ってくれてる。あの子は一人じゃない」


 とても大切に思っているのが伝わる。


「きっとディルアスも皆さんのことがとても大切で信頼してるんでしょうね。私をここに連れてきてくれたんだもん」


 マリーさんはその言葉に喜んでくれた。


「こんな話したけど、今はみんな全く悲しい気持ちとかはないから気にしないでおくれよ? ディルアスはユウのこともとても心配しているようだし仲良くしてやってね」


 心配してくれてるのかな、と、若干の疑問はあったが、みんなと同じようにディルアスと仲良くなれたら良いのにな、と温かい気持ちになった。


 話をした後は店で手伝いを続けた。慣れないこともあったけど、お客さんがみんな優しかった。


 魔法を教えてもらってからは、一人で借りた本をひたすら読んだり、イメージトレーニングをしたりをひたすら繰り返す毎日だった。

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