表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おぼえていないさがしもの

作者: みやま のぞみ

 ぼくはなにを忘れてしまったんだろう?


 ロボットは自分に聞いてみますが、こたえはいつも見つかりません。


 だから彼は歩きます。古びた体をぎしぎしきしませて、おぼえていないさがしものを見つけるために。


 出会ったひとにはたずねます。


「ずっとなにかをさがしているんだけど、それがなにか思い出せないんだ。きみはそれがなんだと思う?」


 ライオンさんは答えます。


「それはきっと敵だよ。君がたおさないといけない敵。早く会えるといいね」


 そうなんだろうか。ロボットは首をかしげます。ぎしり、と、きしんだ音がしました。こんなおんぼろの自分が見つけて、たおせるものなんだろうか。ロボットにはよくわかりません。




「ずっとなにかをさがしているんだけど、それがなにか思い出せないんだ。きみはそれがなんだと思う?」


 お花の精は答えます。


「それはきっと愛よ。それはなによりもすばらしいもの。見つかるといいわね」


 そうなんだろうか。ロボットは首をかしげます。ぎしり、と、きしんだ音がしました。ロボットにはピンときませんでした。


 ――そもそもぼくって男の子なのかな? 女の子なのかな?


 なぞがひとつ増えました。困りました。




「ずっとなにかをさがしているんだけど、それがなにか思い出せないんだ。きみはそれがなんだと思う?」


 茶トラのネコは答えます。


「んー? さがしものー? またたび、とかー?」


 そうなんだろうか。ロボットは首をかしげます。ぎしり、と、きしんだ音がしました。それはきみがほしいものじゃないかな、と思いましたが、ネコがあまりにうれしそうに、またたびのすばらしさをかたるので、ロボットは何も言わずにだまっておきました。





「ずっとなにかをさがしているんだけど、それがなにか思い出せないんだ。あなたはそれがなんだと思う?」


 りっぱなよろいの騎士きしさまは答えます。


「それはきっと忠義であろう。そなたが仕えるべき主。主を失うことはとてもつらいことだ。騎士にとっても、機械にとっても」


 そうなんだろうか。ロボットは首をかしげます。ぎしり、と、きしんだ音がしました。そもそもちゅうぎ、ってなんだろう。ポンコツロボットにはむずかしくてゼンゼンわかりません。


 いっしょにいた、おひめさまにも聞いてみましたが、ツンとそっぽを向いて、答えてはくれません。きげんが悪かったのかな、とロボットは思います。




「ずっとなにかをさがしているんだけど、それがなにか思い出せないんだ。あなたはそれがなんだと思う?」


 魔法まほう使いのおじいさんは答えます。


「それはきっと真理じゃな。この世界という設問の回答。それはひとの寿命では到底たどり着けぬ場所にある。

 あぁ、お前さんの持つ時間がワシは羨ましいよ」


 それは。騎士きしさまが言っていたことよりも、もっとずっとずっとむずかしくて、なにひとつわからないほどで、なのに……なのに、どうして。


 ――なつかしい。


「……ハカセ?」


「――ん? それはお前さんを作った者のことかね? 実に興味深い。どうじゃな、一度会わせてはくれんかな?」


「……ハカセ、会う? 会う?」


 なにかを思い出しそうになったロボットはあたまをかかえます。みしり、と。今までとはちがう音が聞こえました。


「会う……ハカセ、どこ?」


 わすれていたこと、そのひとつは思い出せたものの、さがしていたものなのかはわかりません。


 ふむ。と、魔法まほう使いのおじいさんはあごひげをなでて、ロボットにおしえてくれました。


「世界の中心にある高い高い山の上に、この世界の始まりから生きるドラゴンがんでおる。の者はすべてを視通みとおを持つという。会ってみると良いじゃろう」


 ロボットはよろこび、せかいの中心をめざすのでした。




 ずっと、ずっと長いあいだロボットは歩きつづけました。みしみし、ぎしぎし、もうからだを動かすだけで、音を立てない部品はありません。


「ずっとなにかをさがしているんだけど、それがなにか思い出せないんだ。あなたはそれがなんだと思う?」


 ようやくたどりついたせかいの中心、この世でいちばん高い場所で、ロボットはドラゴンにたずねます。


「それは私にもわからないよ」


 ドラゴンの声は、それはそれはやさしいものでした。見た目はすっごくこわいのに。ロボットがそうかんがえると、ドラゴンは声を上げて笑いました。


「見た目ばかりは、自分ではどうにもなならいからねぇ」


 思ったことを言い当てられて、ロボットはとてもおどろきます。そしておどろいたあとには、こうも思いました。これなら、ぼくのさがしものだってわかりそうなものなのに、と。


「さがしものを、本当に探しているものを決めるのはお前自身だよ。

 ……けれど、ここまで来たんだ、少し手助けをしてやろうかねぇ」


 ドラゴンがそう言うと、あたりに光があふれました。目がくらんで、白く、白く、なにもかもが真っ白になって……




 気が付くと、ロボットはなつかしい場所に立っていました。


 覚えているよりもずっとボロボロで、まるで今のロボットのようですが、見まちがうはずがありません。そこは、ロボットがハカセといっしょにくらしていた、けんきゅうじょでした。


 そこを見たことで、ロボットはわすれていたことを……いいえ、ふたをされていたきおくを、思い出しました。




『ワシはもう長くはない。ワシが死んだら、お前は、自分の幸せを探すんだよ?』


 ハカセが言って、ロボットは首をかしげます。きしんだ音なんて聞こえません。


『ハハ、ちょっと難しかったかな? 好きにしていい、ということだ』


 きおくにぷろてくとを……などとハカセは言っていますが、いつも通り、ロボットにはちんぷんかんぷんです。


『幸せになりなさい。それが、ワシの願いだ』




 さがしていたものを、ロボットはかんぜんに思い出しました。


 そして見つけました。


 ぎしぎし、みしみし、全身をきしませながら、ロボットはけんきゅうじょのうらてへと向かいます。


 とうとうたえきれなくなって、片方の足が折れました。たおれたひょうしに、うでも少しゆがみます。それでも地面をはって、ロボットはたどりつきました。


 ほうっておかれて、すっかりボロボロになったお墓がそこにはありました。


 おんなじくらいボロボロなロボットが、そっとお墓に寄り添います。


「……ただいま、ハカセ」




 見つけたよ、ハカセ。


 ぼくのしあわせは、ずっとここにあったよ。


 ぼくももうすぐ動かなくなるけれど、ロボットにも天国ってあるのかなぁ。


 もしもあるのなら、にんげんとロボット、別々じゃないといいなぁ。




 長い長い旅を終えたロボットは、帰り着いた家で眠りに就きました。


 古びたお墓の隣に仲良く並んで、もう動くことのないロボットは、まるでもうひとつのお墓のようでした。


 ロボットが天国でハカセに会えたのかどうか――それは、ドラゴンにだってわからないことです。

幸せな結末かどうか。

それは、彼が決めること。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 忘れてほしいけれど、覚えていてほしい。記憶を消してしまうことのできなかった博士の想いが切ないですね。 博士とロボットはお互いにとって、家族のように大切な存在だったのですね。最後の最後にたど…
[一言] 自分亡き後は好きに生きてもらえるように、ハカセはロボットの記憶にプロテクトをかけたのでしょうね。 記憶を封じただけで消去しなかったのは、自分を完全には忘れて欲しくないというハカセの未練でしょ…
[一言] きっとロボットは幸せになれたんだと思います。 読ませて頂いてありがとうございます。
2020/12/18 18:15 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ