プロローグ(現実世界で)
小説執筆において、タイトルとあらすじを考える事が一番の難関であると私は痛感しました。
私立藤堂学院。ここは県内の中でも有数のマンモス校であり、在校生徒は小学生から高校生まで4000人を超える。それだけの数の生徒が通っている学校なだけあって、校舎もやたらと広い。夕暮れ時とあって、校内に響くのはすぐ近くの野球場から聞こえてくる掛け声だけだ。
その中の校舎の1つ、高等部の階段を1人の男子生徒が駆け上がっていた。指定の制服を身にまとい、胸元には藤堂学院高校の2年生であることを証明する青のブローチがついている。
「ハァ・・・・・ハァ・・・・・」
彼は運動系の部活に所属していて、階段を走る練習をしているわけではない。この学院に小学生から通ってはいるが、今まで部活動を行った事はまず無かった。その為息を切らせ名てフラフラと走っている。
「あと、すこし・・・・・!」
そして高校部の4階にたどり着くと、少し膝に手を置いて息を整えた後、再び走り出す。
音を立てながら勢いよく扉を開ける。教室の中には1人の女子生徒が机に腰かけていた。少女は足を組み、少しだけ笑みを浮かべながら教室に飛び込んできた少年を見つめている。
「あら、遅かったわね。少し待ったわ」
女子生徒は髪を触りながら少年に声をかける。少女の後ろの窓が開いているため、風が教室に入り白いカーテンと少女の黒い髪を揺らす。
「これでも・・・ぜん、りょくですよ・・・・・。それに、なんで4階にいるんスか。ここは、1年の教室のハズでしょ」
男子生徒は教室の入り口で膝に手をついて、顔を下に向けて息を切らせながら彼女に文句を漏らす。藤堂学院の高等部は4階に1年、3階に2年、2階に3年の教室がある。
「あら?学年が違う教室に私がいたらおかしい?」
「おかしいって言うか、変でしょ。わざわざ3年のアンタが1年の教室にいるなんて」
男子生徒の言う通り、彼女の胸には藤堂学院高校の3年である赤のブローチがついている。少女は自分の教室がある2階ではなく、1
「理由は簡単よ。2階よりも4階の方が疲れるでしょう?貴方が」
そう言って少女は蠱惑的に笑って見せた。
少年は軽く息を整え、顔を上げて少女を真っすぐ見つめる。
「とんでもない理由ッスね。で?何の理由があって呼んだんですか?帰るとこだったんですケド」
「あぁ、とても重要な要件なのよ。貴方にしか頼めないの」
そういうと少女は腕の力と足を振った反動で机から飛ぶように降りる。そして隣の机に置いてあったカバンを手に取って少年に近づき、そして手に持っていたカバンを少年に差し出した。。
少年は不思議そうな顔をしながら、ひとまず差し出されたカバンを両手で受け取る。カバンを預けた少女は足を止める事無く少年の横を抜けて教室の出口に向かっていく。
「おい、これどうすれば・・・・・」
「今から帰るのよ。それでカバン持ちが欲しかったの。お願いね?」
少女は後ろに手を組みながら、満面の笑みで少年の方に振り返った。少女の口から出た言葉を理解できなかったのか、少年は少しだけ固まった後、声を荒げた。
「ハァ!?荷物持ちの為だけに呼んだんスか!?」
「えぇ。折角私を慕ってくれる後輩がいるんですもの。仕事を上げないと可哀そうだと思ってね」
「別にアンタなんか慕ってないし、荷物くらい自分で・・・・・」
少年は少女の言葉に納得していないようで、少女へ文句を言うために詰め寄るが、少女がスカートのポケットに手を入れるのを見るとすぐに言葉を飲んだ。
「あら?それは残念ね。本当に慕っていないの?」
少女はポケットから取り出したスマートフォンを手にしながら、笑いながら少年に問いかける。少年はその少女を見て苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。
「・・・・・慕ってますし、尊敬も敬愛もしてますよ。荷物持ちも喜んでやらせて貰いますよ」
「あら、そう?フフっ、ありがとう。持つべきものは従順な後輩ね」
そして少女は出口の方へ向き直り、教室から外へ出て廊下を歩いていく。そして少年も自分のカバンと少女のカバンを両手に持ちながら少女の後を追った。
少年、西条真司は少女、布田木茉莉に弱みを握られている。