真利亜と出会う
それに街を出る前に、もう一度、拡声器で、街中を回る予定でもあった。
どんな人でもあればとは言わないけど、やはり仲間が欲しい。
運転席に座ると、広く視界が見渡せる。
通常の車しか、それもペーパーでしか運転したことのない僕には新鮮であると同時に、不安が募る。
安定剤を一錠含み、岬ちゃんはオペレーターとして、助手席に座らせ、車をよろよろと発進させた。
ガスメモリが満タンに近いのはありがたい。
時間をかけ、ゆっくりゆっくりと僕のアパートの前に帰り着く。
岬ちゃんに手伝ってもらい、薬を山ほどキャンピングカーに乗せ、そのあとライターやら懐中電灯やら水や食糧を積み込み、次にスーパーに向かう。
腐らない缶詰を中心に、食糧を選び、積み込んでく。
ただ、生鮮食品が傷み、スーパー内は酷い匂いで、思わず嗚咽が込み上げた。
岬ちゃんも泣きそうな顔をして仕事を手伝う。
ある程度積み込んだ後「これで良いかな」岬ちゃんに告げた。
嬉しそうに、スーパーから外にで、大きく背伸びしながら、深呼吸している。
僕も深呼吸し、一息ついた。
「はい」先ほど拝借した清凉飲料水を投げ与え、僕自身も蓋を開け、ごくごくと嚥下する。
岬ちゃんも喜びながら「ぬるーい」と言っていた。
「この街は明日出発しようと思う。そして、食糧などの調達以外、山の森林公園で暮らそうと思うんだ」
岬ちゃんは少し考えた後「街を離れるのは怖いけど仕方がないですよね…」
僕は「でもそれが正しいかは分からない。岬ちゃんも何かあったら言ってね」と、岬ちゃんにお願いした。
もじもじしながら「私で良ければ」と満更でもなさそうであった。
…この時点で僕は岬ちゃんに告げていなかったが、一番怖いものの存在があることを隠していた、というよりも、僕自身どうしたら良いのか迷い続けていた。
─原子力発電所─
これは人出が少しでも離れると電力が途切れ、メルトダウンを起こし暴走する。
自動停電することを願うしかない。
でも、確かなことは何も言えない以上、こちらも対策をとるしかない。
確かこの街から一番近い原子力発電所まで60㎞、遠いとは言えない。
車という足を用意し、できればどこかでガイガーカウンターを拝借し、その場所がまずくなった場合、移動しなければならないだろう。
僕は、そっと溜息を付き、頓服を一錠飲みほした。
課題は多い。
そもそも何故、このように人だけが居なくなったのか。
僕はSFが好きで色々読んでいるので、シミュレートは出来るが、まさか自分がそのようなシチュエーションに放り込まれるとは。
たどたどしく、キャンピングカーを運転しながら、この街を離れる最後に、拡声器で人を探す。
スマホの電源が生きていたので、繰り返し、録音したセリフを繰り返させる。
「どなたかおりませんか…怪しいものではありません。どなたかおりませんか…云々
ゆっくりと車を徐行させながら、恐らく誰も居ないだろうなと思った。
と、「止まって!」と岬ちゃんが叫ぶ。
驚いて急ブレーキを掛けると、車の前方数十メートル先に、人が立っていた。
僕は拳銃に手をおきながら、窓から乗り出し語り掛ける。
見るところ、背が高めで、ショートカットの女の子に見える。
「悪いけど、手を挙げてこっちに来てくれないかな」
僕がそういうと、若干不貞腐れたように、歩を近づける。
車の横に来ると、その子は言った。
「私は神崎真利亜、宜しくね」
「僕は足立修平、宜しく」
ボーイッシュで端正な顔を確認すると岬ちゃんは少し震えながら、目を見開いていた。
真利亜は、僕の顔を見、そして岬ちゃんを確認した。
「あら、岬じゃない。あんたも残っていたのね。まあ、あんたらしいといえばらしいわね。これからも…宜しくね」
含みを混入させ、真利亜はさらりと言いのけた。
僕はまるで無視された格好である。
慣れては居るが些か不快でもあった。
ふと、気づいたように僕に視線を向ける真利亜。
「あなたも宜しくね」
外人のように手を差し伸べ、握手を求める。
僕はどぎまぎしながら、握手した。