岬ちゃんの家
次の日、拳銃を一応手にしながら、岬ちゃんの案内で、彼女の家に向かった。
相変わらず、カラスは飛び交い、ゴミステーションのゴミはカラスか野犬に食われつくしたのであろう、残滓を残し何もなかった。
「案外匂いとかしないですね」
岬ちゃんは二三歩前に進みながら、後ろ手に手を組み、口笛でも吹きそうに軽快に歩いていく。
僕はそのスピードについていくだけで軽く息が切れた。
市内の隅にある僕のアパートから歩いて30分はある、市内中央部の閑静な住宅街にその家はあった。
比較的大きなガレージがあり、築数十年は経つであろう、それでいて端正に管理されてきた感のある、大きな家があった。
岬ちゃんは「ここ」指さす。
止める間もなく、岬ちゃんは扉に飛びつき、ノブを回す。
ぎぃと鈍い音ともに、扉が開く。
「どうぞ、私の家です」
もしかしたら、何か─他人か何か─がいるかもしれないので、「岬ちゃん、一緒に探そう」と告げた。
「う―ん、大丈夫だと思いますけど、それではちょっと寄り道させて下さい」
そして、走り出し、戸棚を開けると「はい」と、鍵束を僕に放り出した。
慌てて、それを受け取り、ポケットに入れる。
「ちょっと私の部屋からとってきたいものがあって」
そういうと、ちょこちょこと二階への階段へ進んでいく。
僕はまた慌てて、彼女の後ろについていく。
二階の奥の部屋に岬ちゃんは立ち止まり、ドアに手を当て、固まってる。
開けるのに逡巡しているかのようだった。
眉に力を入れ、意識的にぐっとドアを押し開けた。
僕も何気なく、彼女の部屋を岬ちゃんの肩越しに覗き込んだ。
「いや、恥ずかしいです…」
頬を染め、岬ちゃんは呟いた。
僕も「ごめん」と部屋の中が見られる場所から体をずらした。
「ちょっと部屋の前で待っていて下さい」
数分だろうか、岬ちゃんのポケットが膨らんだ状態で、彼女は部屋から出てきた。
「ごめんなさい。キャンピングカー上手く動くと良いのですが」
「全然待ってないし大丈夫、さあ、車を見に行こう」
ガレージを鍵で大きく開ける。
国産高級車と共に、大きなキャンピングカーが鎮座していた。
「鍵はここですよ」
どこに鍵をさすのか逡巡していると、岬ちゃんがつんつんと、鍵穴を示していた。
かちゃ、鍵が解錠される。
同時に、住居部の鍵も解錠されたようであった。
「ここですよー」
岬ちゃんは早速、住居部へと靴を脱ぎ入っていった。
僕も「お邪魔します」と囁きながら、住居部に入る。
広い。
キャンピングカーの中でもトレーラーを牽引するに近い、大きさの住居面積であった。
入ってすぐの部分にキッチンになっており、携帯型のガスボンベで火が付くようになっており、長椅子が並ぶ部分を抜けると、トイレとシャワーが付いており、水はどうやら外部からタンクで給水できるようであった。
トイレはため込み式の便槽なので使わないほうが無難だろうと思った。
岬ちゃんはちょろちょろと動き、物品庫から多量の缶詰やお菓子を発見した。
お金あるところにあるんだなあと思いつつも、それもすべてリセットだと考えると、気が楽になる。
ところで、何故、僕は街中から出たいのか。
説明が不足していた。
僕は映画が好きで、色々見たんだが、人が居なくなった街は早急に荒廃化する。
それだけなら未だしも、火事が生じ、街中が火の海になったり、拳銃ではとても相手に出来ない、熊が出没したりと不安は尽きない。
食糧や水源さえ何とかなれば、このようなキャンピングカーでの山での生活が一番安心感が高いと僕は結論していた。