血清を使う時
幾星霜が過ぎた。
冬が終わり、春の訪れも近い。
僕たちは冬の間、あれこれ話し合いをした結果、遠いが違う自衛隊の駐屯所に向かうことにした。
人を捜すのも兼ねているし、流石に冬の半年の間に、蓄えた糧食も少なくなってきたので、それが理由でもある。
だが、外は危険だ。
僕はあの熊の襲来以来、実弾は打たなかったが、何時でも射撃出来るよう、照準の合わせ方から撃鉄の起こし方、落ち着いて相手に照準を向ける心がまえなどを一人で練習した。
倫ばかりに重荷を背負わせるわけにはいかないから。
雪が8割は溶け、早春が訪れた。
僕たちはキャンピングカーのタイヤを通常のに換装し、残った糧秣と安定剤や抗生剤、解熱剤、そして血清を積み込み、地図を参照に、目標の自衛隊駐屯地へと向かう旅に出る。
日本は最大でも、ツキノワグマが最大の脅威で、これがアメリカのようにグリズリーなどが出没すると大変だった。
春先は天候も良く、まだ肌寒いが真利亜は窓を開け、手を差し出しながら、機嫌よさそうに鼻歌を歌っていた。
倫も岬もようやく長い冬から解放されたので、二人とも機嫌よさげだ。
僕自身、薬を飲まなくても、気分爽快であった。
次の駐屯地までは大分かかる。
だけれども、コンビニやスーパーを探ったりせず、下の用を足す以外は車の外に出ないようにしている。
流石に下の用を足すときは、近くに僕か倫が哨戒し、安全を保つようにする。
ぐるるという、嫌な鳴き声が聞こえた。
その時の哨戒は僕だったので、一瞬の躊躇の末、用を足していた岬へと駆けよる。
幸い、用は足した後で、ズボンは上げていたが、太ももの部分に血が滲んでいる。
近くで、ピットブルと思われる犬が泡を吹きながら、僕の方へと向かってきた。
練習が役に立ったのか、岬を噛まれた怒りが勝ったのか、拳銃でそのピットブルの眉間に一発で命中させ絶命させた。
「岬! 大丈夫か!」
僕の叫びを聞き、倫と真利亜も車内から出てくる。
倫は傷を確認しながら「傷は浅いけど…」と表情を曇らせる。
この時のために、危険を犯したのでは無いか。
「血清を使おう」
こくりと倫は頷く。




