柔らかな心
「倫、凄いね」
思ったことを口にする。
流石に表情を蒼ざめさせながら気丈に「何とかね…お兄さん、逃げるの早すぎ」と冗談を欠かさない。
「そっか…でも外はもう油断ならないね」
倫は「最初からだよ、人間の手が入らないとすぐ自然は復元するものだから」
僕は不思議に思ったことを尋ねた。
「倫のお父さんってどんな人だったの?」
倫は微苦笑を浮かべる。
「変わった人だったよ。サバイバリストって言うのかな、この世界は直に崩壊し、自分たちだけで自然と対峙していかなくてはならないって言ってた」
「それってアメリカで流行ってたやつ?」
「そうそう、それで本人はみんなを守るのが役目の自衛隊だったから笑えるよね」
倫は少し瞳を潤ませながら、そういった。
こんな倫を見るのは珍しかった。
流石に獣とは言え、射殺したことにショックを受けているのだろう。
自分自身が何が出来、何が出来ないか悟ったのかもしれない。
「倫、今日は本当にありがとう。君が居てくけれなかったら死んでいたよ」
ぐいっと、袖で涙を拭い「やだなあ、お兄さん、当たり前のことを、しただけだよ」
と強がる。
僕は片手で倫の右手を握り、ぐっと力を込めた。
倫も心地よさそうに。目を閉じる。
しばらくして離すと「ありがとう」と一言。
家に帰り着くと、真利亜と岬が扉から飛びつく。
「大丈夫だったの! お兄ちゃんドジだし心配していたんだ」
岬は「お帰りになるのを信じていました」と答える。
「何よそれじゃ、私が信じて無かったみたいじゃない」と真利亜は言った。
「そ、そんなわけでは…」
僕は「はいはい、無事だったんだから大丈夫。血清も無事手に入れたよ」と告げる。
倫の事はあえて伝えなかった。
彼女もか細い女の子であり、繊細な傷つきやすさを持っていることに気づいたから。




