岬ちゃんを怯えさせてしまう
そして、夜が明け、窓のカーテンを開けると、激しい野良犬の鳴き声が響き渡り、不吉な兆候を予見させていた。
僕は冷静に考え、何か武装するものが必要だなと考えた。
今は果物ナイフしか手元にはない。
岬ちゃんも怯えている。
僕は警察の交番から「拳銃」を拝借することに決めた。
これ以上の武器は無く、もし「何か」が危害を加えようとしても、少しは対抗できるのではないかと。
安定剤を飲み、噛まれても多少は大丈夫なように、厚手の服装をし、果物ナイフを携行しながら、そっと外へ出た。
これは岬ちゃんをアパートの部屋に残し、僕自身一人で行う事になる。
交番まで歩いて15分ほどある。
犬が通りかかるたびに、カラスが不吉な音色を奏でる度に、僕は怯えていたが、特に何もなく、交番までたどり着いた。
さて、どうなるかと考え、唯一鍵の掛かってない2階の警察官夜勤休憩室に行くと、煎餅布団が2セット引いてあり、そこに、着ていた服から肉体だけが蒸発したかのように、皺だらけの警察服が並んでいた。
何となく覚えていた知識で、果物ナイフで鍵がたくさん掛かったホルダーを外そうと四苦八苦し、それは数時間後にようやく報われた。
あとは1階のロッカーから合う鍵を試していき、拳銃と弾丸を手に入れた。
説明マニュアルに沿って弾丸を装填し、撃鉄を起こし、一発だけ放ってみる。
ばーん、という思ったより乾いた小さな音が響き、警察署のまどが粉々になった。
これで動物をおそれる必要は無いだろう。
あくまで動物は…だが。
仮に人が残っていても、それが善人とは限らないのだから。
僕たちとて、必ずしも善人と断言出来ないのだから。
コンビニで食料を調達し、その後、岬ちゃんが待つアパートの僕の部屋へと戻った。
夜に良く眠れないのか、昼間はうとうととしていることが多いけれど、今日は部屋の
隅で、少し怯えたような表情を浮かべていた。
「さっき、ぱんって音が聞こえました。もしかして他に人が居るのですか?」
僕の安易な行動で、彼女を怯えさせてしまった。
「ごめんね。さっき、拳銃を一発撃ってみたんだ」
少し引いた表情を浮かべる岬ちゃん。
「…少し怖いです…でも必要なのは分かります…」