雨の日の憂鬱
他の二人が少し後ろに離れて、何か話ふけってるのを確認し、倫に話しかけた。
「ガイガーカウンターで毎日測定しているんだけ、少しづつ上がってきているんだよね、どう思う?
「冷却出来ないとアウトって父さんから聞いてたし、もうダメなんだろうね」
「もっと離れないとということかな」
倫は頭の後ろの腕を回し、軽く欠伸する。
「お兄さん考えすぎだよ。幸い、この辺りは原発が少ないし、私たちが生きている間は大丈夫っしょ」
僕は頭をかいた。
「それじゃ、次の駐屯地を永住的な場所と見なして大丈夫という事だね」
「一つだけ問題があるけどね」
と、続ける。
「他に人が居て、共存が難しい場合、どうするか」
僕の胸に暗雲が立ち込める。
何も言えず僕は歩いていると、倫は更に続けた。
「そういう場合、デリートしかないよね」
ゆっくりと車を運転しながら、先ほどの倫の言葉を反芻する。
「デリート」
出来るか否かは分からないけれども、そういう事態になったら僕自身の手を染める事をその時、覚悟した。
その日は曇天で、雨がぱらついていた。
真利亜は窓を少し開け、手を出しながら、雨を手のひらに受けている。
曇天の日は僕は調子が悪い。
先ほど安定剤を飲んだので運転する以上、これ以上量は増やせず、鬱々と運転を続ける。
岬ちゃんは本を読み、倫は寝室のルームで眠っていた。
「ねえ、岬…真利亜、もし、もしもだよこれから先、人に危害を加えることが自分たちを守ること繋がっていたら、出来るかな?」
真利亜は窓を閉め、そっと嘆息した。
「出来るも出来ないも、やることになったら、やらなきゃならないでしょ、愚問よ愚問」
岬ちゃんは、本に、栞し、その本をテーブルにおいて、僕の方に視線を向け、小首を傾げた。
「私たちが安心を求める以上、そういう事態になったら相手の安寧と私たちの安寧、即ち正義と正義の応酬だと思います」
一息に言い、息をつぐむ。
「そうなったら正義と正義のぶつかり合いで、真の意味での正しさは無いのではないでしょうか」
直接、僕の質問には答えず、間接的に答える岬。
ふと、ベットルームから声が聞こえる。
「アンタたちって案外まともだね。その為の武器でもあるし、武器にはそれ以上の意味も価値もないから」
倫は目を閉じていただけなのだろう、そう答えた。
その後は沈黙が続き、ぽとぽとと、天井に雨粒がぶつかる音がする。
「どのくらい進んだかな」
僕は倫に問う。
地図を取り出し、開くと指で探りながら、答える。
「お兄さん、残念。この調子だとまだまだ掛かるね
「そっかー、はぁ…」
思わず嘆息した。
「雨は嫌ですね。過去のダメだったこと、嫌だった事が思い浮かびます
岬は、ぽつり呟いた。
真利亜も流石に、どんよりとした表情を浮かべている。
先は、まだ長かった。
当初はスマホに連動させたスピーカーでの呼び出しを続けていたが、そのうち辞めた。
これ以上、人が集まっても、キャンピングカーに収容できない事と、偶然、女の子ばかり
集まってしまった僕たちの単位は、色々な意味で危険を秘めている。
それに…一番の理由は、どうせダメだろうという諦念であった。
「あーあ、憂鬱」
真利亜は背伸びしながら、吐息した。
岬はトランプで一人占いをしていたが、心ここにあらずという感であった。
「雨の日は憂鬱って誰が決めた?」
倫は、ベットから起き上がり、キャンピングカーのリビングに向かう。
両手をポケットに差し込み、悪戯そうに笑っている。




