煌めく星の元、人間は儚い
日が没すると、辺りは原初の闇に包まれる。
今晩は、少しの間、ランタンの光を灯さず、夜空を見上げることにした。
丁度キャンピングカーの中央に、パワーウィンドウによる天井を開け放つ事が出来るので、それを行いつつ、その真下の座席に三人がぎゅうぎゅう詰めになりながら、夜の闇を見渡す。
はっきりしたことは分からないが、人工の光が無くなったせいであろう、流星群が良く見え、数分に一回の割合で、見ることが出来た。
隕石が地球に惹かれ、激しく瞬きながら、消えていく。
「宇宙の広さと暗闇を想像すると、何だか人間の営みって儚いですよね…」
と、岬が呟く。
「そうね…。私たちが存在するのなんて宇宙から比べると一瞬にも満たないし…あーあ、何だか腹が立つ」
僕は暢気に「何が腹立つの?」と尋ねる。
「私を囲む宇宙、世界全てによ。どうして、不老不死じゃないの? 人間って考えるだけで苦しむ存在なの?そんなの私は嫌」
「限りあるから精一杯生きないと勿体ないんじゃないかな。それにこんな状態になってしまったし、尚の事、僕たちは一生懸命生きなくちゃ」
「…私もそう思います。宇宙は広いけど、自意識は持ちません。自意識、考える力、それらを与えてくれたのもまた世界であり、宇宙ですから…相補的関係なのではないでしょうか」「まだわかんない。それより寒くなってきたわ、寝ましょ」
その夜、岬に何時ものように安定剤を半分あげて、僕もそれを嚥下する。
明日の倫の出方が気になり、中々、眠りに落ちることが出来なかった。
夜空には満天の星空と、人工衛星、彗星が良く見えた。
そんな夜空を見ると、怖いのでブランケットをかぶり、眠りの帳が落ちるのを待っていた。
夜眠る時間が早いので、朝起きるのも皆、早い。
レトルトではあるが、岬は小さな机に並べている。
真利亜は、車のバッテリーから充電した携帯ゲームに勤しんでいる。
「おはよう」
今日はいよいよ倫を乗せ、原子力発電所より少しでも遠い、自衛隊の駐屯所に向かう予定であった。
僕は日課である、ガイガーカウンターを外気にさらす。
状況は良くない。
まだ、人体に影響を与えるレベルでは無かったが少しづつ上昇していっている。
これは二人には告げていない。
あまり、恐怖を煽っても仕方が無いし、何より可哀そうだ。
簡単に朝食を終え(パンの缶詰、こんなものまであるのかと感心した)、糧秣庫の奥に居る倫のもとに向かう。
倫は既に完全武装で、なんとサングラスまでつけており、どこかアメリカの軍人をイメージさせた。
「よ、おはよ」右手を軽く上げ、欧米チックな挨拶を寄越す。
僕も「おはよう。いよいよ今日出発だけど、食品や薬品などの荷物は大体こちらで用意してあるから、本当に必要なものだけ持ってきてね」と告げる。
倫は「OKOK」と述べながら、細長い筒のようなものを手にした。
「それ何なのよ?」
真利亜は少し神経質気味に尋ねる。
「サブマシンガンよ。これがあれば百人力。弾丸も沢山あるんだ」
ひっという、真利亜の嗚咽が聞こえたようであった。
勇気を振り絞り、真利亜は問う。
「誰を想定しての銃よ。拳銃で良いじゃないのよ」
倫は首を振る。
「これでも軽装備。仮想敵は…色々居るけど熊とか猪とか…それに」
僕はそのあとの言葉を続けさせなかった。
「…倫が責任を持って管理するなら携行を許可する、ってそんな偉そうな事は言えないけど、武器は使う判断が、実際の使用よりも難しいと思う。その点、心に止めておいて」
倫こくりと一つ頷き、それを布に包み、他には何点かのもの、双眼鏡などを手にし、立ち上げる。
「それじゃ、行こうか」
「詳しい場所はこの地図にあるから。出来るだけ国道を通れるよう赤入れといたから」
倫は何でもないように、僕に地図を渡す。
自衛隊で使われていたのだろう、しっかりした紙質の分厚い地図であった。




