三人目の少女
一息付くと、もう夜闇があたりを覆っている。
逃げるようにキャンピングカーに入り、取り合えず駐屯所を出ると、地味な以前は駐車場だった場所に車を停め、久しぶりのごちそうを三人で頂戴した。
翌朝。
僕たちは3人でここに暫く留まるか話し合った。
原子力発電所の放射性物質による放射線の影響を受ける可能性が高い事、それも風や地形により、はっきりと言えないこと、学童期の岬ちゃんや真利亜はその受ける影響が大きい事を告げ、また、自衛隊の駐屯所には、人が居たとしたら集まる可能性が高く、それは安全かどうかはっきりとしないことを議論の俎上にあげ、侃侃諤諤の意見の応酬は続いた。
岬ちゃんは「ここにいるメリットも分かりますが…でも、知らない人がもし来たら…怖いです」と撤退の意見に傾く。
「放射性物質は…もうこうなった以上、自然に任せるしか無いと思います…大分離れているし、大丈夫と信じたい…」
真利亜は「人なんてもう居ないわよ。食べ物が沢山あるここ一番」と、一端言葉を切り「てか、食べ物だけじゃないんでしょ、ここに向かった理由」
痛いところを付かれた。
武装したいこと、僕はまだ他者の存在を恐れていることを暗黙のうちに示唆された。
「それに放射線なんたらは岬に賛成。考えてもしゃーないでしょ」
まだ、食べ物を満杯に詰め終えていない事もあり、少しだけその分、モラトリアムとして考える時間を与えられた。
それまでに結論を決めておくことを約束し、その日の議論を終える。
と、岬ちゃんは僕の上着の端を掴みながら「少し良いですか」と告げる。
「良いよ」と僕は答えた。
真利亜が丁度、糧秣庫で食物の選別を行っている途中、そこに向かい歩きながら言葉を交わす。
「…私の勘違いや考えすぎかもしれないんですが」
大きな瞳を僕に向け、上向く。
「最初から糧秣庫の鍵が開いていた事、中途半端に開けられていた食品の存在する事、
そして何より食べかけの残飯の缶が散らばっていたこと、これらを考えると、だれか他に居るのではないかと…怖いです」
ぎゅっと、僕の上着を握る、岬ちゃん。
そこまで、僕は見ていないし、考えていなかった。
それを知っていたら、答えはここからの撤退以外なかっただろう。
真利亜の事が不安になり、糧秣庫へと速足で向かった。
「真利亜―。何処にいる?」
懐中電灯が光の輪を作り、その輪の部分だけ光を照らす。
がたんとした音がなり、積み上げられた食品の一角が崩れる。
「来ちゃダメ!」
真利亜の厳しい声が響く。
かちゃりと、心臓を冷たくするような音がなり、懐中電灯の光の輪の中に、真利亜を羽交い絞めにしながら、拳銃を突き付けている、12歳位の少女が立っていた。
「下手に動かないで」
「俺たちは何もしない! 真利亜を放してやってくれ!」
「こういうシチュエーションではみんな同じような事、言うよね」
少女は冷たい笑みを浮かべていた。
目鼻立ちのはっきりとした、セミロングの少女であり、髪の毛が茶色のその子が、精一杯に粋がっている。
だけど、だからこそ、危険な状況でもあった。
恐れのあまり激高というのが一番考えられる。
僕は自分の名を告げ 「君は…何て言うの?」と問いかけた。
「鈴木倫」
「僕は足立修平」
「倫ちゃん…銃を下ろしてくれないかな?」
不快そうに眉をしかめ倫。
なら、僕は武器は捨てるから、君もそのあとで良いから、捨てよう。
答える間を与えず、僕はベルトの拳銃を床に下ろした。
「へえ、修平お兄さん、銃を持っていたんだ、やるじゃん」
「約束だ。君も捨ててくれ」
「あんたバカ? 圧倒的に有利なのは私よ、なんで捨てなきゃならないのよ」
「約束と違う!」
「約束した覚えは無い!」
僕の背中には汗がにじみ出た。
ここまでなのか…。




