岬ちゃんとの出会い
何時の目覚めと同じようだったと思う。
ただ、何とも言い難い夢を見ていたような気がする。
だから、スマホのアラームが鳴るのと、起床するのに若干ラグが生じてしまったようだ。
欠伸を噛み殺しながら窓のカーテンを開ける。
カラカラとさわやかな音を発しながら、外の景色が目に入ってくる。
昨日とは打って変わって、快晴であった。
雲一つない快晴は、外を眺めている目が痛くなるほど。
欠伸をまた一つし、歯磨きをしながらスマホのSNSを確認するも、何故か昨夜の12時きっかりに、更新が途切れ、その時気づいたのだが、電波がゼロになっており、スマホ役に立たない、板切れと化して。
何となく不安に思い、PCを立ち上げる。PCへのメールも12時を境に止まっており、回線の不備も案じ、モデムを除くと電源切れで停まっていた。慌ててテレビの電源をつけると、勿論テレビも付かない。
スマホやPCがついたのはバッテリーによるもので、少なくともこの界隈は電源の供給が止まっていると考えて過言では無いだろう。
さて、どうしようかな。
数分の逡巡の末、もう一度窓辺から、外を伺った。
人がまったく歩いていない…。
時折、カラスが不吉な声の合唱をし、犬が走って行っていた。
何時か学校で、家電は電源が通じていなくても、繋がるという噂を聞いていたので、隣の管理人夫婦に借りようと、軽くラフに着替え、隣のイヤホンを押す。
いや、イヤホンは通じて無いなと気づき、ドアをノックする、二回、三回…。
誰も出て来ないし反応もなかった。
仕方ないので、特に交流が無い他のアパートの部屋の扉をノックして回ったが徒労に終わった。
一体、どうしたのだろうか…?
この時になって初めて肌が粟立つような恐怖を感じた。
僕は弱い人間だ。
大学も休みがちであるし、ようやく3年になった時には既に浪人生でも無いのに、他の学生より1年遅れ、消極的であるが故か、定かでは無いが、教授連からも好かれていない。
おまけにパニック障害を持つ精神障碍者で、安定剤は欠かせない。
しかしこうしていても、どうにもならないので、部屋から安定剤と500㏄のミネラルウォーターを持って、それらを入れたリュックを背負い、アパートの外に出た。
カラスが一羽僕の上を滑空している。
周りの家々からも何も聞こえては来ず、そのせいか、普段は感じないカラスや野犬、地域猫の存在の雰囲気が周囲にみっしりと感じられた。
とりあえず、交番に行こうと歩を進める。
「すいませーん」交番の中に声をかけるも、静寂が帰るのみであった。
さて、どうしよう。
僕は不安で体が震えだし、呼吸が荒くなってきたので、薬を飲んで、自分のアパートの部屋にと逃げ帰り、カギをかけてベットに潜り込み、ただただ怯えていた。
しばらく薬のせいもあり、うとうとしていた。
ドンドンと容赦の無いノックが部屋に響く。
僕は夢の続きなのかと思ったが、その音は続き、僕は慌ててドアの鍵を解錠した。
そこには思っても居なかった風体の人が、少しだけ疲れたように端正な顔に微笑みを
浮かべ、「よかった…人が居た…」と呟くと、涙をぽろぽろと零し、ワンピースを濡らして
行く。
僕自身も内心、人がいてよかったと思って、万歳三唱したい位だが、僕より小さい子と泣くのも可笑しいものだと考え、言葉を紡ぎだす。
「大丈夫だよ。お兄ちゃんも居るし、君…うんと、君は何ていうの?」
ぐすぐすとさせながら「岬…針谷岬…小学6年生です…」
「そっか、岬ちゃんね、僕は神崎修平って言うんだ。宜しくね」
「はい。修平お兄様」
こういうノリは苦手だが、流石にこういう事態では肝が多少は座ったと見える。
岬ちゃんのその顔をしげしげと見ると、瞳が大きく、鼻も整っていて、美少女とこういう子が呼ばれるんだろうなあと、ふと思った。
話を聞くと、大体が僕の体験と同じで、起きたら人が居なかった。
周りの一軒家はなんだか、森閑として怖くなり、このアパートを選んだらしい。
岬ちゃんは「良かったです…でもみんなどこいっただろう」と俯く。
僕はこのまま一日、様子を見るという妥協策を選んだ。
食料は近くのコンビニから缶詰や飲料を確保し、怖いという理由で、岬ちゃんと、その一晩を過ごすことになった。
部屋が1DKなので、ベットには岬ちゃん、僕は毛布に包まって、空の風呂の中で眠ることになった