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罪の余波

気が付けばいつもの公園にいた、校舎を出た所から記憶があいまいになってる感じがする。

それほど俺はあの場所から逃げ出したかったんだろう。


この時間に来たことはないけど、夕日に染まった遊具で遊んでいる子供は一人もいない、ただ静寂がただよっているだけ。普段なら寂しく思うかもしれないが、今はこの状況が有難く思える。


ベンチに近寄り腰を落とし項垂れる。いつもなら自主トレで疲れ切っているところだけど、現状は疲れなんてものはない、原因は精神的な事だと分かりきってる。


違う世界での出来事だって理解はしてる、守りたい人、自分の命を守るために剣を振るう事も……間違っていると思っていない。


「人の多くは正しく在ろうとします」


神納木の言葉が頭に響く。

深く息を吐き、顔を上げた。目の前には普段の風景が広がり、それを見た瞬間に胸が締め付けられた。


ああ、そうだよ俺は正しいことをしようと思った。誰かを護るために武力を行使し戦に勝った、それの何がいけないんだ?


「……わかってるんだろ俺。その手で命を……黒騎士の存在を奪ったことが許せないんだ」


そう自分自身に言い放った。都合のいい理由を挙げればいくらでも正当性を示せる、たとえ世界が違っていても……


「っ! そうじゃないだろ!」


自分の思考に怒りを抱き思わず声を上げてしまう。はっと我に返り辺りを見回し、誰もいないことを確認すると安堵の息を零した。


異世界の常識だとしても、現実世界の常識じゃないんだ。そう自分に言い聞かせ、どうすればいいのか結論が出ないまま、帰路に着こうとすると静寂を破る様に、後ろから声が掛かった。


「お兄ちゃん、今日は剣術の稽古はしないの?」


振り向くとこの前会ったお爺さんのお孫さんがいた。手を振ったのを覚えてくれてたのかな?


「今日はちょっとね、もう帰ろうと思ったんだよ」


「えぇ、そうなんだ……いっしょに遊ぼうと思ったのに」


この“残念そうな声”が、沈んだ心にふっと光が差す感じがした。


「また今度一緒に遊ぼうか……お名前は?」と目線を合わせ口を開く。


「私はね椿っていうの」


その後ろから、椿とそっくりな姿の子が駆け寄り息を整える。

双子なのか、動きまでどこか似ている。


「先に行ってずるいよ、ふう……僕の名前は梓だよ」


「そっか椿ちゃんに梓くんだね、お兄ちゃんは宗方 凌二っていうんだよろしくね」


「うん」

「うん」


元気よく同時に返事が返ってくる、なんとなくこの瞬間は息がしやすく感じる。


「もう遅いから帰るけど、二人も早く帰るんだよ……あっお爺さんにもよろしくね」


「お爺さん? あっうん、わかった~」と梓が答えると椿も続いて口を開く。


「お兄ちゃん、遊びに行くからね~」


「ああ、楽しみにしてるよ。またな~」


お互いに手を振って別れを告げ、公園を後にした。


公園からの帰り道、ずっと悩み続けていたけど、結局どうしていいのかわからないままだ。

気づけば、もうすぐ我が家の玄関が見えてくる。


こんな事、父さん母さんにも相談できるもんじゃない。どんな顔をして会えばいいのかもわからない。

玄関のドアを目の前にして足が止まり、呼吸も浅くなって手が伸びない。罪を犯した手でドアを開く資格があるのか?


「ん~と、宅配ですか~」


間延びした声と共にドアが開く。父さんの外面を見て、葛藤していた自分も呆気にとられた。


「あっと、えっと、ただいま……」


「おっと凌二か、お帰り。気配がしたから宅配だと思ったぞ」


気配がしたからって、どっかの諜報員でもあるまいし。そう突っ込みをいれる気力もなく、乾いた笑いで返すのが精一杯だった。


「もうすぐご飯だから、早く着替えて降りてこいよ」


そう言って踵を返し中に入っていく。その背を追うように続くが、どうしてもいつも通りに接することが出来そうにない。


「ごめん父さん……今日は疲れてるし、食欲無いからもう寝るよ」


そう告げ「ちょっとだけでも食べろよ」という言葉も最後まで聞かずに二階の部屋に駆け込んだ。


ドアを閉め無意識的に鍵をかける、世界から自分を切り離したかったんだろう。実際にそうなるわけではないのは解っているが、人と会わなくなるだけでも少しは楽になる。


制服のままでベッドに倒れこみ、今日の出来事を思い出す。罪の自覚、自分を正当化する醜さ、それでも尚正しくあろうとする愚かさ。そして家族に打ち明ける事も出来ず冷たい態度を取った自分への嫌悪感。


「もう、なんか滅茶苦茶だ……訳が分かんないよ!」


続けて脳裏に浮かぶ言葉を感情のまま、枕に顔を押し付けて声を荒げた。それは何の脈絡もない言葉の羅列、幼い子供が癇癪を起こしたときの様に思いを吐き出すだけ。そして、疲れ果てたのか次第に微睡に誘われていった。


「お兄ちゃん、遊ぼ」


うっすらと声が聞こえてくる、なんとなく聞き覚えのある声だ。


「うん、まだ寝てるのかな?」


そうだ、さっき公園で話した双子の声だ。確信と共に意識を覚醒し始め、体を起こすと辺りを見回す。


二人と話したときと同じ景色、まるでタイムリープしたような感覚に落ちる。それとも俺が公園で寝てしまったのだろうか?


「おはよお兄ちゃん、何して遊ぶ?」

「おはよお兄ちゃん、何して遊ぶ?」


同時に同じ質問をしてくるところ、双子で間違いないなと確信めいたものを抱かせる。


「ああ、おはよう……っていきなり言われてもな」


「鬼ごっこ? かくれんぼ? 紐とびどれにする?」


椿は遊びを提案しながら手を引っ張り始め、その瞬間表情を曇らせた。


「お兄ちゃん、泣いてるの?」それを聞き梓も近寄り手を取ると同じように顔を歪めた。


何もかも見透かされたような、その言葉に声が出なかった。


「どうして、そんなに苦しいの?」

「どうして、そんなに悲しいの?」


二人は何も言えない俺を不思議がり、顔を見合わせた。


「どうしたんだろ? 梓はわかる?」


「う~ん、お兄ちゃん剣術の練習してたからね、遊べないかも?」


「それだよ! 剣で遊べばお兄ちゃん元気になるんじゃないかな!」


その言葉の後に、胸の奥がざわついた。

次の瞬間、世界は回転して俺の意識は再び途切れた。

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