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異世界事情は意外に身近な所で廻っている?  作者: 渋谷 彰
第二章

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王と罪

堤は風にたなびく髪を気にすることなく、凌二に近づくと不意に顔をほころばせ。


「下手だけど、あんたも術のほうするんだな」


余計な一言に落胆しつつも、先日の表情とは打って変わった屈託のない笑顔に少々驚きながら頷いた。


「まあ、下手だけど頑張ってるつもりだよ」


ちょっとだけ皮肉を込めて返したつもりだったけど、自分で言うとダメージでかいな。俺、今泣いてないよね、大丈夫だよね。


「ああ、わりい! 貶すつもりじゃなかったんだって」


生気が薄れていく姿を見かね、あたふたしながら声を掛ける。


「そりゃ~昼寝の邪魔されたから、ちょっとイラっとしたけど、ほんのちょこっとだぜ、マジミニマムだぜ!」


「ぷっ、くっ、マジミニマムって何なんだよ」


慌てながら懸命に言葉を紡ぐ様子に加え、普段聞かない言葉使いに思わず噴き出した凌二を見て、胸をなでおろした。


「いや~マジですまん、ちょっと嬉しくてテンションが上がってたみたいだ」


「嬉しい? なんで?」


「普通なら剣を習うなら道のほうだろ? 剣術するほうが稀だし、まあ仲間意識を感じたみたいなもんかな」


仲間意識か、そう言われるとなんだか嬉しくなってくるな。多分だけど剣道部にちょっかい掛けるのは寂しさからかもしれない。


「剣道だって大変だって知ってる、けどよ術ってのはさ~」


ちゃんとした交流をもてば、問題を起こすこともないんじゃ……



「人を斬るためのものだろ? 正に力こそ正義ってやつだ」



穏やかな笑みから零れたその一言に戦慄が走り、胸の鼓動が静かにそして鈍く響き始める。



「それに不思議なんだよ、お前さ…」



その先の言葉を口にした瞬間、チャイムが鳴り響きかき消された。


「ちっもう終わりかよ…って、次は井上の授業じゃねえか! わりい急ぐわ、じゃな生徒会長!」


颯爽と踵を返し、「んなわけねえか」と、ぼそりと呟き走ってその場を後にした。


そして、その背中を見送った凌二も教室に向かい始めるが、静かに響いていた鼓動は激しさを増し、しだいに足取りが重くなっていくのを感じた。


かき消された言葉だった、しかし、読唇術を使えるわけじゃないが、短い言葉だったため口の動きを見て理解してしまった。



「斬ったことあるのか?」



と、彼はそう尋ねてきた。それが脳裏を駆け巡り、震える手で胸を抉る様に掴みながら、その場に膝から崩れ落ちた。


「なんで忘れてたんだ、例え屍兵だったとしても、彼の存在自体を…俺は、俺はこの手で…」


震えながら乱れた呼吸で呟き、廊下に力なく倒れこんだ。



微かに聞こえてくる人の声に気付き目を覚し、室内を見回すと橙色の光が窓から差し込んでいて、長い時間気を失っていたことを知る。


「大丈夫ですか? 宗方会長」


不意に掛けられた声のほうにゆっくりと視線を向けると、見知った生徒会役員の神納木が心配そうに見ていた。


「神納木か」


「廊下に倒れてたので、勝手ながら保健室に運ばせて貰いましたが、とりあえずは大丈夫そうですね。あと悠馬でお願いします」


「ああ、ごめんまだ慣れなくてね」精一杯の笑顔で答えたつもりだった。


「堤と何かあったんですか?」


その言葉に一瞬体が跳ねた、しかし、本当のところは自分の罪に気付き、その重さが想像を絶するもので、今にも押しつぶされそうだという事。


「いや、何もないよ。屋上でご飯食べてたら居合わせただけ」


これは自分自身の問題、誰かに話して解決するほど簡単な事じゃない。


「そうですか、何かあったらちゃんと言ってください」


「ああ、その時は相談するよ」そう言ってベットから出ると帰路につこうとドアに手を掛ける瞬間。


「そうそう、宗方会長。先日の戦に正義ってあると思いますか?」



?……なぜ彼はそんなことを聞くのだろうか?



「あって欲しいとは思ってる」

堤の言葉で気付かされてしまった、正しいと思った行動が今ではそう断言することができない。


「そうですか……強いて言えば防衛側には正当性があるかもしれませんが、自分は両軍とも悪を行使したと思っています。」


以前なら憤りを隠せなかったろう、だが彼の言葉を否定する事は今の俺には出来ず、拳を握りしめ耐えることしかできない。


「人の多くは正しくあろうとします。ですが、武器をもってそれを振るい、悪を行い正義を語る。そんな馬鹿げた話なんてないでしょう」


ああ、そうだな。ファムファーレンの事を思い返せば、嫌って程わかるよ。


「武器を持たない者も例外ではありません。生きるために生命を糧に、いえ奪っているんです。どの世界でも関係なく人は平等に悪であり、それを自覚して生きていくべきです」


平等に悪である、今の自分には妙に馴染む言葉だ。なら正義っていったい何なんだ? 己の悪行を正当化する為の免罪符なのだろうか?


「我々は悪が必要か不必要か見極める責任があると考えます。そして、先日の戦は必要な悪を行使したと自分は思います。ですから宗方会長……」


あの時の決断は間違っていないと思う、だけど、敵を討ち存在そのものを奪った罪は簡単に割り切れる問題じゃない。


「ごめん。先に帰らせてもらうよ」そう告げ目を合わせることなくドアを開けるとその場を後にした。それを見届けると隣のベットのカーテンが開き、凜が少し怒気を含んだ声で悠馬を睨みつけながら口を開いた。


「あのね、話の持っていき方無理やりだったんじゃないの?」


そう問われ、少し苦笑いをして掌を組み額に当て下を向きながら口を開いた。


「だな、それでも言わずにいられなかったんだよ。凜だってわかるだろ?」


「うん。一人で抱え込むには重たすぎるし、強い人でもどうなるかわからないよね」


そう返され、自分の過去を思い返しながら静かに答えると。


「それに堤な。こっちの人間なのに向こうの人間気質だからさ、悪影響あたえないかなって心配なんだよ」


思いもよらない理由を聞き、くすりと笑いながら「ああ、確かにね~ドルドガーラによくいそう」そう言葉を返し悠馬の隣に歩み寄ると真剣な眼差しで語りかけた。


「それと、陛下は気が付いていないと思うけど、アーデル様の思いに縛られているんじゃないかな?」


悠馬は視線を上げると無言で続きを促し「戦火を無くす事に焦ってる気がするんだ」と告げられると再び視線を落とした。


英雄王の器として生をうけ、今はフルクランダムの王としての責任、戦での敵を討った罪を感じでいる。この平穏な国で暮らしていた陛下にとって耐えがたい苦痛に襲われているだろう。それらが陛下をどう変えてしまうのか心配でならない。


夕日が沈み夜が訪れるように、陛下とフルクランダムの未来に陰りがないこと願うばかりだ。

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