表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界事情は意外に身近な所で廻っている?  作者: 渋谷 彰
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/47

剣と老人

時は戻り、辺りが夕陽に()められ生徒たちが帰路につき始めた頃、静寂(せいじゃく)に包まれた生徒会室に一人(たたず)凌二(りょうじ)の姿があった。


「なにも出来なかったな……」


試合を思い返すと溜息(ためいき)を一つ()らし、力なく言葉を吐き出した。


タスクは姿形は中学一年生ぐらいであるものの、その中にある知識や技術は、「黒騎士ガリエル」が三百年闘い続け得たもので、生半可(なまはんか)な努力で追いつけるものじゃない。


そして、「タスクも随分(ずいぶん)と体に慣れてきたようですが」とヨシュアが発した言葉。まだ上があると思うと、悔しさはあっさりと消え去り、正直なところ尊敬の念しかない。


更に付け加えるなら、魔法や身体スキルに武器スキルとか使われたら()す術もない。自分の現状を(かんが)みると情けない話だけど、一本とるのは永遠に不可能だと確信めいたものがある。


再び溜息を(こぼ)すと共に最終下校の(かね)(ひび)き、パタパタと生徒会室に近付いてくる足音に気付き、ドアに視線を向けた途端(とたん)に勢いよく開かれた。


「遅くなってすいません! 提出物終わりました!」


入室したと思えば、勢いよく頭をさげ謝罪をした彼は神納木(こうのき) 悠馬(ゆうま)。クラスは違うが同級生であり生徒会役員でもある。


「あっ、ああ、うん。お疲れ様、今日は終わりだから帰っても大丈夫だよ」


一緒に向こうの世界に行ったものの、課題を忘れていた彼はとんぼ返りする羽目になったらしい。意外とうっかりさんのようだな。まあ、俺も自分のことは言えないけど……


「へ……宗方(むなかた)会長はもう帰られるんですか?」


五条(ごじょう)さんが転生組に今日のことを通達してくれたけど、()れるまでもう少し掛かると思いますとの連絡がきてたが……うん、「い」が無くなってる、自分の周りで彼は意外と順応力に長けてるかもしれない。


「そうなんだけど、敬語はやめてくれると有り難い、同級生なんだし」


「そう言われましても……わかりました、善処します」


「うん、知ってるよ。それしないやつだからね」そう言葉をかけると、彼は静かに視線を()らし乾いた笑い声を(しぼ)り出した。


「まあ、下校時間だ、(かぎ)閉めて帰ろう。五条さんも待ってるんだろ?」


彼と五条さんは幼馴染(おさななじ)みで、仲がいい事を知っている。これは安戸からの情報ね、これがリア充ってやつか……爆発しないかな?


(りん)なら、氷見野(ひみの)さん達と先に帰りましたよ。我々も親睦(しんぼく)を深めるために一緒に帰りませんか?」


思考を(さえぎ)るように声を掛けられるが、名前呼び……親睦を深めるとか、自分では中々言い出せない台詞(せりふ)だ。本当に爆発しないかな?


まあ、冗談はさておき。彼らとの間にある(かべ)を取っ払う為にも、親睦を深めるのは(もっと)もな事だ。


「じゃあ、帰りますか」そう言葉を返し施錠(せじょう)した後、職員室に鍵を返却して二人は校舎を出たのだが、校門へ向かう途中に部活棟(ぶかつとう)を通り過ぎようとした時、数人の生徒が言い(あらそ)いをしているのが目に入ってくる。


以前の自分なら気にぜず帰宅する所だが「なんかあったのか?」と、思わず(こぼ)してしまう。そして、視線を横に向けると、表情を(くも)らせながら神納木は「……またか」と(つぶや)いていた。


「えっと、神納木は彼らの事知ってるのか?」


「はい、一人を(のぞ)いた他は剣道部員でして……宗方会長、出来れば苗字ではなく名前でお願いします」


「え? ああ、って! 今それどころじゃないだろ?」


「それもそうですね、取り敢えず仲裁(ちゅうさい)してきます」そう言うと、彼らに向かって走って行く。


その背中が(たの)もしく「彼らの事を知らない俺がいってもな」と頭をよぎるが、立場上ここでぼ〜っとしてる訳にもいかないか、そう結論付け神納……あっと、悠馬のあとを追いかけた。


近づくにつれ、問題を起こしたであろう生徒が見えてくる。茶髪で端正(たんせい)な顔立ち、部員を倒すだけあって身体つきはがっしりとしていて、身長は俺より少し高いくらい。口論の最中において、今なお竹刀を小刻みに動かしているところ見ると、かなりの戦闘狂だと思う。


「お前らいい加減にしとけ、最終下校の鐘はなってるぞ」


「だって神納木先輩!」そう抗議(こうぎ)の声が上がるが、悠馬は(てのひら)を向けて遮り、茶髪の生徒に視線を向け問いかけた。


「……(つつみ)これ以上はお袋さんに連絡することになるが、いいのか?」


堤と呼ばれた茶髪の生徒は、舌打ちと共に竹刀を放り投げ、渋々と(きびす)を返しこの場を去っていった。


「さてと、どうしてこうなったんだ?」そう部員達に問いかけると、試合を受けた生徒が未だ怒りが治まらない様子で、少々興奮状態で説明し始めた。


数時間前、ふいに剣道部員達は「なぁ、剣道と剣術どっちが強いと思う?」そう問いかけられ、最初は相手にしていなかったが、道場での度重(たびかさ)なる無礼な態度に我慢出来ず、試合を受け手酷(てひど)くやられてしまう。


それが原因で今の状態が出来上がったという事らしいが、試合を受けてしまった以上はしょうがないと思うところだ。幸い防具の上からだった事もあり、大した怪我を負うことがなかったのが救いだな。


「お前ら、そう簡単に試合を受けるんじゃない! 新人戦も近いんだろ、怪我したらどうするんだ?」


堤を糾弾(きゅうだん)していた部員達は、その言葉に口を閉ざす。その様子をみた悠馬は「今頃気がついたのか」少々、(あき)れていたが、視線を凌二にむけると口を切った。


「宗方会長、今回は双方(そうほう)へ厳重注意と言う事でよろしいですか?」


「まあ、その辺が妥当(だとう)なところかな。今後、気を付けてくれれば有り難いんだけど……うん、下校時間だし今日は解散。遅くならないようにしてくれよ」


じゃないと、先生から帰られないんですけど〜ってクレーム入って、雑用という強制労働が発生するかもしれないからな!


「すみませんでした、以後気をつけます!」そう言い一礼をして、部員達はその場を後にし部室に戻っていき、その後ろ姿を横目にしながら、二人も帰路につく。


校門を出て(しばら)く空気が重いと感じていたが、並木(なみき)通りに差し掛かると悠馬が表情を曇らせながら口を開いた。


「宗方会長、先ほどの堤という生徒のことですが……どう思われましたか?」


「うん? 茶髪のやつか、そうだな戦闘狂ってところかな?」


思わぬ返答でツボに入ったのか、曇った表情を吹き飛ばすように笑い声をあげる。


「ああ、す、すいません。確かに、それは昔から変わっていませんね」


「うん? 昔からって言うと、知り合いなのか?」


「はい、小学校からの(くさ)(えん)です……ですが、問題行動を起こす様な奴じゃ無かったんですよ」


ヘェ〜と言葉を返すが、実際問題を起こしてるからな、にわかには信じられん所だ。まあ、自分も人のことは言えないし、他人の事情に土足で上がり込む様なことはしたくないんだが。


「実は半年前に……彼奴(あいつ)の兄さんが亡くなったらしく、両親も離婚したみたいでして、そこから荒れ始めた感じです」


同情はするが、問題を起こしてもいい理由にならない。以前の自分なら、彼の様に荒れることは無いだろうが、今は何とも言えない。


「そうなのか」と答えるが、言葉が後に続かない。それは悠馬も同様で、並木通りを抜けて分かれ道に差し掛かるまで、お互いに沈黙(ちんもく)を保ち続けた。


「宗方会長、自分は此処(ここ)で失礼します」


「ああ、また明日」


そう返して帰路(きろ)に着く凌二の背中を見送り、姿が見えなくなる頃にポケットのスマホが震え出す。ディスプレイに映し出された五条 凛の文字。


「はい、もしもし悠馬だけど」


「お疲れ様、今どの辺なの?」


「今並木通り抜けた所かな、そっちは?」


「もう自分の部屋だよ。家もそうだけど、氷見野さん達も門限きびしいもん」


門限に対して不満がある事はわかったけど、なんだろな言い方可愛いな。そう思い若干顔の熱が上がった所で「で、陛下(へいか)の様子はどうだったの?」と問いかけられる。


「今のところは問題ないかな。多分だけど、タスクから一本とる事を考えてるから、他の事に気を回す余裕(よゆう)が無いんじゃないか?」


「そっか〜 なら良いんだけど」


「たださ……」躊躇(ためら)いながらも言葉を続けようとする悠馬に「うん?」と背中を押す様に言葉を返す。


「凛も知ってるだろ、アレは突然(おそ)いかかってくる。しかも、容赦(ようしゃ)無くな」


スマホ()しにギュっと何かを強く(にぎ)りしめる音が聞こえるが、彼女もそれについて沈黙をもって肯定(こうてい)する。


「言い方は悪いかもしれないけど、陛下はこちら(がわ)がベースだと思う。だからこそ心配なんだよ……そんでもってこの件に関しては、氷見野さん達に(たよ)る事はない……じゃあ、明日な」


「うん、また明日……」そう告げられ、静かに通話を切りポケットに仕舞い込み、顔を上げると冷たい風が頬を撫でる。


徐に夕焼け空を見上げると、薄らと浮かぶ月に「陛下、信じてますよ」と(ささや)いた。


……………………………………………………………………


凌二は家に着き「ただいま〜」と一声かけ、二階の自室へ行き荷物をベットに放り投げ、動きやすい服に着替え終わる頃に一階から「おかえり〜凌二、ご飯できてるわよ」と声が掛かる。


自分としては、出来ればジョギングから帰ってから食事の方がいいんだけど……悠馬から堤の話を聞いてしまっただけに、後で食べるとは言いにくい。


「わかった〜 今行くよ」そう答えながら、階段を降りてダイニングに向かうと、エプロン姿の母さんがご飯をよそいながら、食事中は新聞を読むのをやめる様にと、父さんに小言をいっている所だった。


「ただいま、父さん。今日は早かったんだね」


そう言葉を掛けると、母さんに怒られっている所を見られてしまったと言わんばかりに、苦笑いを浮かべながら新聞をたたみ始める。


「よっ、よう凌二、おかえり。お前の方は少し遅かったみたいだな」


「ちょっと問題があってね、時間を取られただけだよ」


「そうか、ならしょうがないな」と、あっさりした答えを返し、内容を追求してこない所は興味(きょうみ)がないだけなのか、はたまた(ふところ)の深さからだろうか? 


そう疑問を浮かべたところで、母さんの教えてよ〜コールを「子供も色々あるんだよ、話してくれるまで待ってやるのも(やさ)しさだろ」と押さえつつ、「まあ、自分でどうにもならん時は(たよ)りになるかわからんが、ちゃんと言えよ」と、有り難い言葉をくれた。


後者の方だったみたいだな、そう思い感謝(かんしゃ)の言葉を返すと、照れ臭そうに「おっおう、かっ母さんご飯にしよう」と、赤らめた顔を誤魔化(ごまか)す様に食事を始めた。


そして、食事中にふと堤の「なぁ、剣道と剣術どっちが強いと思う?」って言葉を思い出し、父さんに聞いてみた所。


「ん? 何事もやり方次第だと思う。と言う訳で、答えとしては「わからない」ってとこだな」


ドヤ顔しながら発した言葉なんだが、何となくだけど、この場合は興味がない感じなんだろうな。それに乾いた笑い声で返すと食事をすませ、少し時間を置いて日課のジョギングをする為に家を出た。


人気のない歩道を暫く走ると、今朝の公園が見えてくる。


「朝と違って人を()けることがない分、思ったよりも早く着きそうだな」


そう思いながら歩道を()けぬけ、公園の門を(くぐ)ると、時計に(そな)えつけられたシンプルなライトが遊具やベンチを照らしており。古い(やしろ)に至っては、時折道路を走る車のライトが当たらなければ姿を見せないと、静寂を絵に描いたような世界があった。


「体力的には余裕があるけど、取り敢えず一休みするか」と、ベンチに向かう途中にこつりと足に感触が伝わり、視線を落とすと木の枝が転がっていた。


()んづけて転んでたら、怪我するとこだったな」そう呟き木の枝を拾い上げると、向こうで使った木剣の事を思い出し、試合を反芻(はんすう)しながら素振りを始める。


あの時はこうだった、この場合はこうした方が良かったかもと、ファムファーレンの(いくさ)と試合の経験をかき集め一心不乱に木の枝を振り続けるが、剣術の知識がない凌二は正解にたどり着く事なく疲れ果ててしまう。木剣として振るわれていた木の枝を身体を支える杖へと役割をかえると、凌二はベンチに向かい始めた。


「ほっほっほっ もうチャンバラはしまいかの〜」


人影は無いと思っていた凌二は、心臓を()ね上げゆっくりと声の主に視線を向ける。


その少し掠れた男性の声は社の方から発せられ、車の通りが無かった為気が付かなかったようで、視界に入ってきたのは長い白髪(はくはつ)を後ろに(たば)ね、身長は自分より少し低い程度で、着物を着た少し腰が曲がった老人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ