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異世界事情は意外に身近な所で廻っている?  作者: 渋谷 彰
第二章

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雛鳥

客足が無い店内は、木の香りと芳ばしい珈琲(コーヒー)の香りが(ただよ)い。その中を息を整えながら歩む凌二(りょうじ)に、ガルドは微笑みを浮かべながら椅子を引き席へと(いざな)った。


凌二は「有難うございます」と、お礼を言いながら椅子に腰を下ろすと、姿勢を正し改めて遅れた事を謝った。その王らしからぬ振る舞いに、四人は思わず微笑みを浮かべてしまう。


ガルドは一つ(せき)を落とすと「話の前に取り()えず、珈琲を入れてくるかの」そう言いながら席を立ち、カウンターに視線を向ける。すると、何やらコソコソと此方(こちら)(うかが)(つむぎ)がおり、目があった途端に、猫の様に素早くカウンターに身を(かく)した。


カウンターの裏で、床にへたり込む紬は頭を抱え。

「どうしよう、いざ姿を見せようとしたら緊張(きんちょう)してきた。そもそもだけど、刀が人化しても意味がないんじゃない? 戦闘に関しては無用な能力だと、少なくとも私はそう思う……」

そっか、名を(もら)って……ただ、浮かれていただけなんだ。


そう結論付けると次第に冷静になり、気が付けば頭を抱えていた手は服を強く(にぎ)りしめていた。


「何やってるんだか……」自分を笑う様に呟くと、「そうだな、らしくない……いやむしろ、らしいかの?」と、横から掛けられた言葉に(おどろ)かされ、視線を向けると珈琲を()れているガルドの姿があった。


(わし)が入った事に気付かんとはの。何について悩んでいるのか見当つかんが、国民は陛下(へいか)と共にあればそれで充分、お前さんは違うのかの?」


紬はため息をつきながら「それって、充分わかってて仰ってますよね」と言葉を返し、ガルドはニヤリと(ふく)みのある笑みで答えた。


「陛下は走ってきた様だし、アイス珈琲を出そうと思ってるが、冷えるまでちょっと時間が掛かるの〜」


「あ〜はい、はい、お気遣い有難うございます。魔法で冷やさない所に(こだわ)りを感じますが、いい感じになったら持っていきますので、とっとと席に戻りやがって下さい」


そう言いながらシッシと追い出す様に手を振るが、先程の深刻な表情はなくなっていた。そして、口調が可笑しかったのか、笑いを(こら)えながら席へと戻るその背中に向け、複雑な心情ながら「有難う」と(つぶや)いた。


ガルドは席につくと、ファムファーレン王の訪問での事を話した。そして、凌二はダリスダキアの招待について思考を巡らせる。


戦時中ではない国に(おとず)れるのは、国外の事を知る良い機会だと思う。ガルドさん達が言っていた時期的な事もあるけど、「王として、個人として?」ってのが脳裏(のうり)()ぎる。取り(つく)われた姿がみたい訳じゃなく、あるべき姿をみたいと思ってるけど……


思考に(ふけ)る凌二を横目に、ヨシュアはガルドに「あの、これって少々不味くないですかね?」と、小声で話し掛ける。


「ああ、そうだの」そう返事をすると「どう言う事だ?」と、ダナが割って入ってきた。


「陛下の性格上、真摯(しんし)に招待に受けそうだと言う事だの。つまりは、影武者を作る時間がないの」


「そいつはヤバいな、どうにかなんねえか?」ダナが冷や汗をかきつつ呟くと「陛下の命に(そむ)く事は出来ませんが……」と、タスクも会話に割って入ってくるが「正式な形で招待されたんだよな」凌二の言葉に室内は静寂(せいじゃく)に包まれた。


「なら……」と、(さら)に言葉を続けようとした時。「アイス珈琲をお持ちしました」そう声を掛けられ、凌二は礼を言おうと視線を向けた瞬間、呆気(あっけ)に取られる。


「あ……あれ? 紬だよね? どうして此処(ここ)に?」戸惑い、疑問が次々と(あふ)れ出る凌二に対し。紬は笑顔で答えるが、少々申し訳ない思いが(にじ)んでいた。そして、今までの経緯(けいい)を説明し始め、終わる頃には「紬はこの世界はどう感じる?」と、問い掛けられる。


主人(マスター)もあの世界を知る、ならば誤魔化(ごまか)しは効かない。ならば……「似て非なるもの、全てが(かがや)いて見えます」刀の存在として失望される恐怖を胸に、嘘偽(うそいつわ)りなく答え「そうか」と、短い返事に不安を感じる。


凌二は決意を胸にし、世界に色が戻ったあの時を思い起こす。つい最近の事だが、今では遠い昔の事の様に思えてしまう。全くお互い似たもの同士だな、そう思うと笑みが(こぼ)れ出した。


「俺もそう思うよ、紬にもこの世界に触れて欲しい」そう告げると、紬は顔を赤らめオロオロし始め、突然腕をブンブンと振り出した。


「そ、そ、そう言ってもらえると(うれ)しいのですが、おっ王刀としてどうなのかと思ったり、しなかったりと色々複雑なのですが!」


「大丈夫だ、俺も頑張るからさ」そう告げると、紬は更に顔を赤ると「そう言えば、掃除道具を片付け忘れてました!」と声を張り、逃げる様に二階に走り去っていく。


その背中を見送り、視線をガルド達に向けると「さて、紬については聞いた通りですが、俺は個人的に外の国を知りたいと思ってます」と、自分の考えを口にする。


「それは()ぐにでもと、言う事ですかの?」不安を滲ませながらガルドは問い掛け「出来ればそう思っています」そう返されると、四人は不安を()く感じ表情を(しぶ)いものに変えるが、凌二は(なお)も続ける。


「思っていますが、今の自分は力も知識もない。どこに行くにせよ、道中無事に過ごせるとは思っていません。出来る事、出来ない事を把握(はあく)したいと思ってます」


その言葉を受け「グッジョブ紬 (さん)!!!」と、四人は満面(まんめん)の笑みを浮かべ心で叫び、テーブルの下でガッツポーズをした。


「個人的にですか……では会議はこの辺りにして、個人的に若者の相談に乗りましょうか」ニヤリと笑みを浮かべ、ヨシュアはガルド達に目配(めくば)せをしながら答え尚も続けた。


「まずは知識についてですが、(まつりごと)よりもモンスターの危険性及び弱点と倒し方。スキルや魔法の事もありますが、(まず)ずは自身を守れる様になれば及第点(きゅうだいてん)と言う所ですね」


「そうだの北の山岳地帯、南側は例外とするが。幸いな事に我が国を中心に、ファムファーレンからフィリシアードまで、道中は強力なモンスターはおらんがの」


「まあ、街道を守る冒険者もいるし、馬車に護衛(ごえい)も付ければ問題もほとんどないしな」


ダナの言葉を聞くと案外大丈夫そうだなと思い「なら、直ぐにでも大丈夫そうだな」と、凌二は言葉を零すが、それを聴き逃さなかったタスクは(いさ)める様に口を切った。


「いえ、常時お守りできるとは限りません。ですので自身を守れる、と言うのは最低条件だと思います」


そうタスクに言われ返す言葉が見つからない。が、では具体的にどの程度技量があれば良いのか? と言う疑問が生まれ、王刀を持った自分を指されればお手上げだ。


ヨシュアは凌二の思考を(さえぎ)る様に「そうですね、タスクと手合わせして一本取れれば良しとしましょうか」そう言葉を掛け、思わず凌二はタスクに視線を向けた。


相手は姿形は中学一年生程度、そして此方は高校二年生と体付きは勝っていると思う。そう無理な話じゃ無いかと、楽観視している凌二を他所に、ヨシュアとタスクはアイコンタクトを取る。


「影武者の選出に、時間が欲しいのはわかりますね?」


「はい、理解しているつもりです父上」とコクリと肯く。


「よろしい、では全力で迎え撃って下さい。行く行くは陛下の為になりますので、情け容赦なくやっちゃって下さい。あっ、くれぐれも怪我をさせない様にですが、出来ますか?」


そう思惑を伝えると、タスクは親指を立てながら「もちろんです、父上!」と、そう返した。


そのやり取りを見届けたガルドは「じゃあ、手合わせは裏庭でするかの」そう言うと、紙に「紬へ、店番を頼むの」と書き置きすると皆と裏庭に向かった。


……………………………………………………


と、言う事だ。ガルドは紬に一連の説明をし終わり、「では、私達は帰りますね」と、颯爽(さっそう)と白衣をはためかせヨシュアは(きびす)を返し、タスクはその後を追いかけ帰っていった。そして「例の件で発注が来たみたいだから、後は任せたぞ」と、ダナもこの場を去っていく。


視線を大地に横たわる凌二に向け「立てるかの?」そう問い掛けると、疲れ果てた様子で「ちょっと無理そうなんで、もう少しこのまま寝てます」と、苦笑いを浮かべそう返される。


微笑みながら「そうかの」と、言葉を掛け辺りを見回す。辺りは橙色(だいだいいろ)に包まれており。凌二の視線を追い空を見ると、紺色とのグラデーションが描かれ、星々も姿を見せ始めている。


巣立つまで雛鳥を守るのは、親鳥の役目。願わくは、このまま平穏(へいおん)が続く事をって所だの。そうガルドは星々に語りかけた。

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