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異世界事情は意外に身近な所で廻っている?  作者: 渋谷 彰
第二章

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タスクの苦悩、エレナの後悔

陽が最も高くなる頃、剣の広場に子供達の輪の中で(たたず)む少年の姿があった。長い黒髪は後ろで(まと)められ、シャツにベストと一般的な(よそお)い。そして、手にはオモチャの剣が(にぎ)られている。


「それじゃあ! お昼ご飯だから、帰るねタスクくん!」


「ああ、えっと。わかった……」


「また遊んでね! タスクにいちゃん!」


「ああ、そうだな……」子供達が手を振りながら帰って行くのを見届けると、段に腰を下ろし溜息(ためいき)をつき、(おもむろ)に頭を抱え込むと思考を巡らせる。


確かに見た目は子供なんだが、中身は三百歳の大人……いや、長老と言っていい。凌二陛下に忠誠を誓い、この身が滅ぶまで尽力する。そうなんだが、そうなのだが! 正直な所、子供と同じ目線で(たわむ)れるのに、違和感が尋常(じんじょう)ではない!


こうなると、学校にも通わされるのでは……


「それは面白そうですね〜」と足音と共に、思考を(さえぎ)るように声が掛かる。視線を向けるとそこには、包みを持ったヨシュアの姿があった。


「ヨシュア殿、思考を読むのはやめて頂きたいのだが……」


「冗談ですよ、カマをかけただけです。お昼はまだでしたよね?」


微笑みながら包みをひょいと持ち上げ、昼食を()る様に(うなが)すとタスクの隣に腰を下ろす。


「先程、ガルドさんのお店で作って貰ったんですよ」そう言いながら包みを開けると、食欲を(そそ)る香りと共に色とりどりのサンドイッチが姿を現した。その匂いにタスクは、三百年忘れ未だ慣れない空腹感に襲われる。


「良いのか?」そう(たず)ねると、ヨシュアは珈琲(コーヒー)()れ手渡しながら「勿論(もちろん)ですよ」と、微笑みながら応えた。


タスクは珈琲を一口含むと、サンドイッチを手に取り口に運ぶ。これまた忘れていた食感と味を思い出すと、感謝の涙が(にじ)み出してくる。中身はどうであれ、その姿は子供そのもので微笑ましい光景であり、ヨシュアから見れば保護対象と思えてしまう。


昨日転生したばかりで、待遇などは決まっていない。それを決めるためにガルドの所に(おもむ)いたのだが、アドレアの事ですっかり忘れていた。転生時の態度で裏切る事はないと確信させたが、先程の様子を見る限り違和感に悩まされている。そして、彼の居場所が無い事が問題、これは守り人達の共通意見だった。


「食べながらで良いんで、聞いてくれますか?」ヨシュアはタスクに視線を向けると言葉を切り出す。咀嚼(そしゃく)しながらタスクは(うなず)き、それを見届けると真剣な面持ちで言葉を続ける。


「転生した身体の状態、魂の定着経過を診る事が必要です……ですが、これは建前の様なもの」


今、発した言葉を医師としての建前と明言すると、表情を暖かなものに変え本心を語り出す。


「私ももうすぐ三十を迎えます。独身貴族を謳歌(おうか)するにも、少々飽きが来ましてね。居場所を作る為にも、私と一緒に暮らしませんか?」


口に入れたサンドイッチを珈琲で流し込むと、表情を(くも)らせタスクは言葉を返す。


「少年の姿はしているが、中身は違う。一人でも大丈夫だと思うが?」


「それもそうですが、色々面倒な事が起きるのでは?」


ヨシュアは意地の悪い笑みを浮かべ答える。先程の状況を見られたのか、そう思ったタスクは意趣返(いしゅがえ)しを(たくら)み。意地の悪い笑みを浮かべると言葉を返す。


「迷惑を掛けるし、反抗期に入ったら苦労するぞ?」


「大丈夫ですよ。私は生ある者に、遅れは取りませんからね」


意趣返しをさらりと(かわ)され、見事な反撃をくらうタスク。ヨシュアの技量を知る彼には、その言葉は(いつわ)りでは無いと納得させるものがある。


(しばら)くの沈黙(ちんもく)が過ぎると、二人は顔を見合わせながら笑い声をあげる。いつも冷静なヨシュアにしてみれば珍しい事、タスクにしても好意を受けるのは、凌二以外では(はる)か昔の事だった。


「それでは呼び方も、お父さんにした方がいいか?」


「嬉しい限りですが、慣れるまではお好きになさって下さい」珈琲を(すす)りサンドイッチを平らげ、二人は診療所へ向かい歩き始める。その姿は事情を知らない者が見れば、父親と息子が仲良く家に帰るように見えるだろう。



場所が変わり、フルクランダム北西部に建築された城壁。通用門で騎士の一団が(おとず)れており、(かか)げる(はた)はファムファーレンの紋章が刻まれ、その中には王とエレナ達もいた。


戦が終わって二日しか経っていないが、壁を分割して作り現場で組み合わせる、ダナが教えた最新工法のお陰で修復の目処(めど)が早くもたった。その報告と避難した民の視察、そして、今後の事を話し合う為に来訪したようだ。


「どうぞ、お通り下さい」門衛(もんえい)に促され通り抜けると、目に入って来たのは建設中の家々。避難した民の為に職人達と住民達が協力しており、目を見張る勢いで進んでいる。更には避難した民も協力を申し出ている為、エレナには「英雄王誕生の()が再び行われるのか」と錯覚(さっかく)させるぐらいの人で(にぎ)わっていた。


「はは、驚いたな。城壁の事もそうだが、建築技術は我が国の遥か先を行ってるな」


民達の邪魔になら無い様に馬を歩かせ、辺りを見回しながら王は呟く。エレナは応える様に、微笑みながら口を開いた。


「三百年の研鑽(けんさん)によりものだと、ダナさんは(おっしゃ)ってました」


「戦を続けていた者には、辿(たど)り着けぬ境地だな」エレナの言葉を聞き己を笑う様に呟くと、馬に近寄る人影を捉え馬脚を止める。


「陛下、皆様。遠路遥々(えんろはるばる)お疲れ様でした」その人影は近寄り(かしこま)ると口を開く。


「ハンナさん元気にしてましたか?」エレナは思わず、王に先んじて声を掛けてしまった。

彼女の助言が無ければこの街に来る事も無かった、戦の結果は悲惨(ひさん)なものへと変わっていただろう。それだけに、ハンナに抱く感謝の気持ちは大きく、それと共に新天地で馴染(なじ)めるのか? と心配が(つの)っていた。


言葉を受けるとハンナは微笑みながら、腕を曲げ力瘤(ちからこぶ)を作ると口を切った。


「失礼ながら、言わせて頂きます。商人と農民は戦いに向きませんが、昔から(たくま)しいものですよエレナ様」


「ふふ、あははは! 確かにな! 我が国の商人と農民の逞しさは、引けを取っておなんな」


ニカッと割れんばかりの笑みを浮かべたハンナにつられ、王も思わず高笑いをしながら言葉を返す。


そして、ガルドと商人達の会合により、試算された予算を抑える事が出来。更には交易経路の開拓にも成功し、フルクランダムが国として認知され始めている事を報告に受ける。


「流石は凌二殿だ。国を起こして間もないのだがな」王が感嘆(かんたん)の声をあげると、ニヤリと含みのある笑みを浮かべハンナは言葉を掛ける。


「私達は商売をするには困りませんが、同盟を結んだ事で(まつりごと)に関わる事もあるかと思います。そこで、国の代表の方がいらっしゃると助かるのですが」


「ふむ、そうだな。度々(たびたび)訪れる事になると、凌二殿に迷惑を掛けるかも知れんな……」


ニヤリと笑みを浮かべるハンナに、同じ様に笑みを浮かべ目配(めくば)せをした後に口を切る。


「自分は残念ながら王だしなぁ。この街に来た事のある者、凌二殿と面識がある者に頼むとするか」


気付かれないようにチラリとエレナに視線を向け、「どうだろうか?」と一言皆に声を掛ける。すると、エレナは肩をピクリと、()ねさせ動揺を見せるが疑問にも思う。


自分から名乗りを上げると思っていたんだがな。王であっても乙女心は解らんものだ、どうしたものか?


ハンナに目で語り掛けると、応える様に見立てが間違っていたのか? とハンナは苦笑いを浮かべる。


俯きながら目を泳がせるエレナの胸中は、穏やかなものではなかった。


正直な所、名乗り出たい! だが、ガルドさんに面と向かって「私はこの街が……嫌いになってしまったようです」なんて事を言ってしまった。今回の訪問についても、対面したら気まずい雰囲気に包まれるのは必至。誤魔化(ごまか)すか……いやいや、それは無理な話だろ私ぃぃぃ!


冷や汗を滝の様に流し小声で呟くエレナを見兼ねて、ガナードは王に言葉を掛ける。


「取り敢えずは、ガルド殿に相談致しましょう。かの御仁であれば、良い知恵を出してくれると思います」


「それもそうだな……ハンナとやら報告御苦労だった、今後も尽力してくれ。それでは失礼するぞ」


畏るハンナに別れを告げると、騎士の一団はフルクランダムの中心に向け馬を向かわせる。そして、エレナは涙ながらに(ののし)られる事を覚悟に決めると呟いた。


「やっぱり、何とか誤魔化せないかしら」


往生際(おうじょうぎわ)が悪いですぞ、エレナ様」


ガナードが呆れた様に(しか)りつけると、トホホとエレナは観念(かんねん)してガルドの元に向かうのであった。

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