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異世界事情は意外に身近な所で廻っている?  作者: 渋谷 彰
第一章

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異世界事情は意外に身近な所で廻ってる

戦の勝敗は決していた、これ以上の戦闘は無意味。誰もがそう思う中で凌二と黒騎士は互いの矜持(きょうじ)をもって戦い、それも終わりを告げた筈だった。だが、ロドスは恐怖に勝る憎悪を身に宿し、新たな火種を起こした。


「ロドス! 貴様何をした!!!」ガリエルは怒りに任せ()えるが、ロドスは狂気を含んだ笑みを浮かべる。


「今の黒騎士なら(あやつ)れる様だな? 陛下から(たまわ)った魔導の指輪、効果の程は言わずと知れた事。これなら私は死ぬ事は無いかもしれんな、クックックッ」


ロドスの指には指輪から発せられる魔力の(ほのお)が見える。(くろ)ずんだ紫色、本人の心情を現わすかの様に、(いびつ)目紛(めまぐる)しく姿を変える焔。そして、ガリエルに向け手を(かざ)し、思考内で命令を下す。


ガリエルは凌二から剣を引き抜くと、凌二の苦痛の声を他所(よそ)に徐に立ち上がる。


「何をさせるつもりだ! 戦いを(けが)すつもりか!」下衆(げす)の考えに見当は付く。だが、身体の自由が(うば)われ操られるガリエルは、叫び凌二の仲間の介入(かいにゅう)を期待する事しか出来なかった。


操られたガリエルは剣を振り上げようとするが、ダメージから右手の力が入らずに剣を落としてしまう。


「おや? 思ったよりガタが来てますね、まあ左手があるから良しとしましょう」


命令を下され意思とは関係なく、左手で剣を拾い上げるとゆっくりと振り上げる。


「英雄王! 頼む! 逃げてくれ!」アリッサ達は(ようや)く我に戻り、凌二の元に()け出した。


主人様(マスター)(ささや)く様に(つむぎ)から声が掛かる。苦痛を耐え「ああ……解って……る」脂汗を流しながら答えると、アリッサ達を止める様に手を伸ばす。


「先生と……紬に……感謝しないとな」


剣が身体を(つらぬ)く瞬間に、杖代わりにしていた国綱(くにつな)(わず)かに反応してくれた。お陰で致命傷にはならずに済んだけど、歯を喰いしばってないと悲鳴しか出ない。「敵にすれば、つけ入る(すき)すきになる」心の片隅に残ってなければ反応出来なかったな、本当……言われた事が現実になっちまった。


勉強になった。だけど、俺は自分の考えを変える気は無いよ先生。


「逃げろーー!」叫びと共に、凌二へ斬撃が振り下ろされた。しかし、辺りに金属音が響き渡り、国綱の(さや)がピシピシと音を立てながら(くだ)る。


斬撃を受け止めた凌二は静かに口を切った。「なあ……皆んな、聞きたい……んだが。ロドスって……奴の事どう思う?」凌二の心の奥から()き出る感情が、身体を支配する苦痛を上回る。


「そうですね、私と致しましては。人として見れませんね」


「人の意思を無視して、操るってのは僕も気に入らないね」


「そうだね〜 自分の手を汚さず、戦うのってどうかな〜」


「俺の意見は聞かなくても解るよな? 凌二」


砕け散る鞘から現れた光に(あふ)れる刀身、それと共に凌二の右手のルーンにに三つの光の葉が現れ、翼の様に広がる。今まで見た事もないルーンの形状に、ロドスは困惑(こんわく)の色を浮かべ狼狽(うろた)える。


「満場一致だロドス、お前に裁きを下す……生まれ変わって一から出直せ!」そう言い放ち、輝く刀身を振り上げる。そして、ロドスが()う様に逃げる中、ガリエルは微笑みを浮かべ「有難う」一言凌二に告げ瞳を閉じると、凌二もそれに微笑みで応え。刀を振り下ろし光の刃を繰り出した。


そして、ロドスとガリエルは光に包まれ、光の柱と共に世界から消え去さり。凌二は光の柱を見届けると、その場に倒れ意識を手放した。


穏やかな風が頬を()で、波を思わせる優しく心を(いや)す様な音が耳に届く。その身を包み込む暖かな光を感じ、ガリエルは静かに目を開けた。


木の幹とさわさわと風に(なび)く葉、目の前に広がる空は蒼く、(きら)めく星々の様な木漏(こも)れ日に誘われる様に、光を手で(さえぎ)りながら身体を起こす。そこには畑が広がり青々とした小麦が収穫時期が待ち遠しいのか、落ち着きが無いようにそわそわと風に揺られていた。


戦とは程遠い長閑(のどか)な風景を目の当たりにし、微笑みながらも(さみ)しげな瞳で遠くを眺め、自分の戦いが終わった事を実感する。


「ここは死後の世界か、俺には過ぎた所だな。この手は血に(まみ)れている、三百年も罪を重ねて来た者が居ていい場所じゃ無い」


誰に伝える訳でもなく(なげ)く様に言葉を吐き捨て、この場を去ろうと腰を上げようとしたが、後ろから草を踏み分け歩み寄る足音が聞こえ、腰を戻すと声が掛けられた。


「一年だろうが三百年だろうが、戦に関わる者は例外なく罪を重ねてる。それが英雄と呼ばれる者だとしてもな」


ガリエルは声を聞くと自分の耳を疑う。その声色は先ほど死闘を繰り広げた英雄王のもの、彼もあの後命を失ったのかと思うと振り向く事に恐怖を抱く。その様子を見た声の主は、笑みを浮かべながらも続けた。


「俺は民を思い誓約(せいやく)を成した。その結果、民に罪の意識を植え付けてしまった。それも三百年もだ、ただ消えるだけで済まされるとは思っていない」


「誓約を成した」その言葉を聞き、ガリエルはゆっくりと声の主に視線を移す。そこには三百年前に見た英雄王の姿があった。


「お前はどう思う? 俺の……いや、お前の罪は消えるだけで許されると思うか?」


「そうだな、消えるだけでは許されないと思う。生きてる間に気付けたら良かったんだが、もう遅いな」


英雄王と凌二の面影が(ほとん)ど同じ事に驚くも、その問いに冷静に答える。


「凌二が器として身を(ささ)げてくれた事で、俺の犯した罪と向き合う機会を与えてくれた。そして、俺は剣の力として存在し、凌二の手助けをして(つぐな)っていきたいと思ってる」


「剣の力?」ガリエルは困惑の色を浮かべ、思わず疑問を口に出すと足音が近づいて来るのを感じる。


「そっ、ここは死後の世界じゃない。剣……刀の世界、力を司る者が住む所だよ。アンタは今、生と死の狭間(はざま)にいるって感じかな?」


「過ちを認めその重さも知った、罪を償うつもりが有れば機会を与える。凌二がお前をここに呼んだ意図は、そんな所だろう。決めるのはお前だ、どうする?」


「機会? 俺にそんな資格は……」自分を否定する言葉を吐き出そうとするが、紬は遮る様に口を開いた。


「はいはい、文句はお人好しの主人様に言って貰えるかな。あっちの準備出来たみたいだし、じゃないとアンタこの世界に()り潰されるから」


そう言うとガリエルの手を取り、(なか)ば強引に光の柱を現せ姿を包み込む。


「主人様は戦火を少なくするって言ってる。その道のりは見当が付かないぐらい遠くて、過酷(かこく)なものだと思う。もし、罪を償うつもりなら、主人様を支えて欲しい」


次第にガリエルの姿が光の粉へと変わり始め、「凌二の事、頼んだぞ」そうアーデルがそう告げると、ガリエルは光の柱と共に刀の世界を後にした


そして、フルクランダムの中心から少し離れた、古い建物が並ぶ昔ながらの街並み。そこにあるヨシュアの診療所では、ヨシュアは勿論(もちろん)のこと凌二、アリッサ、サラがベットの周りで表情を(くも)らせていた。


そのベットの上には、身の丈約百四十センチ。髪の毛は黒く、長髪だが手入れが無く乱雑(らんざつ)。まるで野生の中で育った様な少年が横たわっていた。


「しかし、まあ何と言いますか、大丈夫ですかね?」


「安心しなさい、この身体は元々は英雄王の為に用意したの。私とサラが時間を掛けて育てたのよ、保証するわ」


「医者として興味はありますが、色々あるのでこれで最初で最後にして頂きたいですね。後、彼が味方になってくれるとは限りませんし……」


ヨシュアは凌二に視線を向けながら口を開くが「再び敵になる可能性」を示唆(しさ)するのを躊躇(ためら)う。彼の王としての資質がそこに在る事を、ヨシュア自身も認め(ほこ)らしくもあったからだ。


「ヨシュア先生の言いたい事は解るよ」凌二はそう言葉を掛け、更に続けようとした時。横たわる少年が「ここは何処(どこ)だ?」と声と共に身体を起こしてきた。


「よう、漸く目が覚めたみたいだな。中々起きないから心配したぞ?」


凌二は微笑みながら言葉を掛けるが、少年は曇った表情を浮かべシーツを(にぎ)りしめ口を開く。


「何故こんな事を、俺は再び生を受けて良い奴じゃない。三百年も重ねて来た罪は、煉獄(れんごく)の炎に焼かれても消えやしない」


「過ちを認めその重さも知ったんだ、同じ事はしないだろ?」凌二は(さと)す様に言葉を掛けると、徐に少年の頭に手をやると少々乱暴に撫で口を切る。


「直ぐにとはいかないが、アンタの願いを叶えたいと思う。その代わりと言っちゃ何だけど、俺の願い……戦火を少なくする為に、三百年の経験を活かして手伝ってくれないか?」


凌二の申し出を聞き「お人好しの主人様か」そう呟き笑みを浮かべると、少年の瞳には止め()なく涙が溢れ出してくる。


「過ちを認めその重さも知った」と、先代の英雄王と同じ事言葉を掛け、三百年の罪を経験だと言い放つ。そんなお人好しの王は見た事がない、その人柄に味方も沢山出来るだろう。だが、戦乱の世だ、それを(ねた)(うと)み敵となる者が出て来る。罪を償うと言うのもあるが、それ以上に彼の願いの行く末が見てみたい、支えていきたいと素直にそう思ってしまった。


「こんな俺で良ければ……」涙を拭いながらも忠誠を誓おうと声を出すが、溢れる感情がそれを邪魔をする。涙を懸命(けんめい)に抑えようとしている仕草を、微笑ましく見つめながら凌二は(なだ)める様に言葉を掛ける。


「急がなくて大丈夫だ、落ち着いてから返事をくれれば良い……えっと、ガリエルだったな」


「黒騎士……ガリエル……はもう居ない」その言葉を受けた凌二は彼の決意を知る。


「そっか、そうだな……名前か」さっき言った取り引きなんかどうでも良いんだが。三百年(とら)われてたんだ、これからは自分の意思で自由に生きて貰いたいな。大空に吹く気ままな風と共に生きる鳥の様な……


「空を駆ける翼か、翼と空でタスクってどうかな?」


少年は過去の名を捨て、新たな名を受けると(うなず)きながらも涙を流し続けた。彼の後悔は涙が()れても、(ぬぐ)われるものではないだろう。凌二はそう思いつつも、タスクの頭をポンポンと軽く撫でると診療所を後にした。


外に出ると(すで)に陽は高く昇り、降り注ぐ日差しは目を(くら)ませる。ファムファーレンの戦の終結を迎え、一連の騒動もこれで終わったと思うと安堵(あんど)の息を()らす。


意識を失って気が付けば一日も経ってたな、戦の後処理もヨシュア先生達に任せっきりだったけど。情けない話、王として()れでよかったのか?


ファムファーレンの戦の最中、凌二が知らぬ間にヨシュアから出された指示により。同級生達と住民選抜の者が、西側にあるダリスダキア、東側にあるラリアトロームの援軍として向かい敵を撤退に追い込んでいた。


更には前線で散り散りとなった、ファムファーレン兵の集結も有って、三国同盟の前線は再構築され。機動要塞グラン・タイラントを失ったドルドガーラは、迂闊(うかつ)に侵攻する事が出来なくなっている。


それもあってか、ダナ率いる職人部隊と三国の職人達での、城壁と城の修繕(しゅうぜん)と強化が順調に進んでおり、同盟の話も最初は従属国(じゅうぞくこく)としてくれと申込みがあったが、凌二は対等であるべきだと申し出を断り同盟を結ぶ。そして、民の受け入れにより、フルクランダムは大きく成長し国らしくなってきた。


「まあ、取り敢えずは一件落着って所かな」そう呟くと、背後から声が掛かる。


「言いたくは無いけど、まだ一つ問題が残ってるんじゃ無いかしら?」アリッサは顳顬(こめかみ)を押さえながら嘆く様に言葉を吐き出し、それに続けて「あはは、確かにそんなのあったね」と思い出したかの様にサラも呆れながら呟いた。


「あっ」凌二は声を漏らし頭を()き「帰りたくねえな」と、嘆きながら微笑むと二人に視線を向けて口を切る。


「じゃあ帰りますか、我が家に」言葉を受けると、アリッサとサラは微笑みを浮かべ頷き三人は古城へと向かった。



……………………



ざわざわと声が響く今日この頃、皆さんいかがお過ごしですか? 私は絶賛(ぜっさん)学生生活を満喫(まんきつ)中です。普段であれば今いるところは、体育の授業で若者が汗を流し、放課後では運動部が汗を流す筈なのですが。


俺は転移門をくぐり此方(こちら)に戻った所で、氷見野(ひみの)先生の手で即座にキャッチ&リリース。いや、リリースは無かったな。有無も言わさず壇上(だんじょう)に連れて行かれた姿は、売りに出されるあれだ、悲しい音楽のあれ、そうそうドナられた? そんな感じで正直居た(たま)れない。


(ささ)やかな現実逃避から無理矢理引き戻す様に、キーーンとハウリング音と共に声が響き渡る。


「はいは〜い、みんな静粛(せいしゅく)にお願いします」そう言葉を掛けられた状況は、HRを()ねた全校集会である。


帰還後に氷見野先生が出した条件は、生徒会長になる事。今までは妹が努めていて仕事を押し付けるにも、何となく後ろめたいものがあったのだろう。つまりは、従順な犬が欲しかったと、俺はそう思っている。アレ? なんか泣けてきた。


「え〜。今期の生徒会がまだ発足(ほっそく)出来ていませんでしたが、候補者も居なかったので教員推薦(きょういんすいせん)により。新生徒会長となった宗方(むなかた) 凌二(りょうじ)君です」


氷見野先生が俺に視線を向けるが、こういう事は事前に知っとかないと用意出来ないんですよ。だけど、取引した手前、断る事は出来ない。しょうがない、王としての威厳(いげん)を見せるとしよう。


「え〜 紹介にあずかりました」


おっ良いね〜 自分で言って何だけど落ち着いてるなぁ。ああ、広場での出来事は、今だに忘れられないな。


「むっ宗方 りょっ凌二だ、です?」


そうそうこんな感じで()んじゃったんだよな……俺の学生生活は今終わりを告げた。


一瞬の静寂(せいじゃく)の後に訪れた爆笑の(うず)。凌二は顔を赤く染め上げ一礼し、壇上を降りると逃げる様に体育館を後にし生徒会室に向かった。


橙色(だいだいいろ)に染められる校舎、遠くから運動部のランニングの掛け声が聞こえる生徒会室。凌二は生徒会長の机にうつ伏せ、顔の熱が引くのを待っていると氷見野達が入ってくる。


「中々見応えのある自己紹介だったわね」


微笑みながら嫌味(いやみ)を言うのはやめてね? 氷見野(ひみの) 麗月(かづき)ことアリッサ・グレイフィードさん。


「緊張したらああなっちゃうよ。ね、宗方君」


(かば)ってくれる貴方は女神の様だ、べっ別に告白してる訳じゃ無いんだからね? 市ノ羽(いちのは) 咲奏(さら)ことサラ・デアシエルさん。


「まあまあ、()し返してもアレですし」


アレって何? 何なの何が言いたいの君は! 結局は(てのひら)で転がされたけど、感謝してるよ安戸(あど) 一希(いつき)ことアドレアさん。あれ向こうの世界のフルネーム聞いてないけど、まあ今度でいいか。


「そもそも、安戸君が!」

「あれ? 今それ言いますか?」

「まあまあ、二人とも落ち着いてね。あっ、お腹すかない?」


凌二は三人のやり取りを微笑みながら見つめる、ファムファーレンの戦の終結と先生からの条件の達成。両方の世界の騒動が収まり、長閑で暖かい光景を何時迄も眺めていたい。そう思うと自分の恥ずかしさが、下らなく思えてきた。


「凌二、それでどうします? フルクランダムに戻りますか?」

「待ちなさい、生徒会の事もちゃんとしないと駄目よ」

「まあまあ、二人とも落ち着いてね。あっ新作のドーナツ出るんだって!」


この先の不安なんて欠片(かけら)も気に掛けてない、その振る舞いと言葉を聞いて思わず笑ってしまう。


窓から差し込む夕陽が注ぐ、橙色の光は以前なら(さび)しく思っただろう。でも、今は寂しさは無く、暖かく優しく包んでくれる。彼等のお陰でもあるんだろうが……


一人じゃ何も出来なかった、彼等だけじゃ無い。街の皆んなや、紬達が一緒に頑張ってくれたから今がある。知らないうちに、周りの人達に支えられてたんだ……異世界か。


凌二は夕陽に微笑みを(おく)ると、(ささや)く様に呟いた。


「異世界事情は、意外に身近な所で廻ってる」と。

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