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異世界事情は意外に身近な所で廻っている?  作者: 渋谷 彰
第一章

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黒騎士

平和の訪れを告げ、暖かく穏やかな橙色(だいだいいろ)の光が辺りを包む。その中で機動要塞グラン・タイラントの魔導炉の爆発が響く。機密保持の破壊工作だろう、彼等の魔導兵器の技術は各国の先を進むのだから当然のこと。


「終わったな。同盟の件は考えさせてくれんか? まずは国を建て直さんことにはな」


「ですね、出来る事なら手伝います」


「ん? いや、まだ仕事が残ってる様だ」ロドスの元に歩み寄る人影を捉えると、表情を(くも)らせ王は口を切った。その言葉に喜びに()く一同も視線を向ける。夕陽に照らされ鈍い光を放つ漆黒(しっこく)の鎧、剣豪と(うた)われる王を子供扱いする剣技を見たものは固唾(かたず)を吞む。「黒騎士」魔導兵器である騎士達を率い、「疾閃刃(しっせんじん)」をいとも容易く(しの)いだ腕は剣聖と言っていい。


足を止める事なく(おもむろ)に剣を抜き放ち、アリッサに向け刃を横に滑らせ始める。

「アリッサさん! 来るぞ!」距離があるにも関わらず、その動きが何を意味するか解った凌二は叫ぶ。そして、咄嗟(とっさ)障壁(しょうへき)を展開したアリッサは衝撃を受けた。


華奢(きゃしゃ)な体躯はその場に居ることを許されず、障壁と共に後方へ押し出され氷の結界から弾き出される。主人を無くした「悠久(ゆうきゅう)氷柩(ひょうきゅう)」は維持する事が叶わず、氷粉となり消え去った。


「宗方君の声が無かったらと思うと、ぞっとするわね」呆れた声をあげ、(ひたい)に冷たい汗が伝う。(ゆが)めた表情にある瞳は効力が切れたのか、元の黒いものへと変わった。


ロドスは目の前を歩く黒騎士に「くっ黒騎士、いや、黒騎士様! たった助けて下さい!」恐怖により抱いた憎しみを忘れ、命乞いをするが「邪魔だ」と、願いを一蹴(いっしゅう)され。更には徐にローブを掴まれると、道端(みちばた)に転がる小石の様に投げ捨てられる。


黒騎士は視線をアリッサ達に向けと、その時にはアリッサの放った炎の弾丸が迫っていた。慌てる事無く、炎を(てのひら)で受けると握り潰し()き消す。


「フッ。「赤眼の悪魔」目の効力が無ければ、只の魔導師に成り下がるか……」


兜の奥の瞳を細め言葉を吐き捨てると、黒騎士はアリッサに向け()けだした。アリッサは迎撃すべく再び炎の弾丸を放つが、鎧を身に付けているのにも関わらず高い跳躍(ちょうやく)を見せ炎を(かわ)し。大地もろとも切り裂く様に、斬撃(ざんげき)を縦に繰り出す。


「遅延魔法! 「瞬速移動」発動!」保険の回避呪文を唱え、雷鳴(らいめい)の如く襲い掛かる斬撃を横に躱す。しかし、剣は地に着くと同時に(はじ)ける様に軌道(きどう)を変え、刃が意思を持っているかと思わせる様にアリッサを追い喉元(のどもと)に迫る。


その刹那(せつな)、アドレアの放った矢が黒騎士に(はし)る。精霊の加護を受けた矢は風を(まと)い、貫通力を上げると共に風圧により受けた者の行動を阻害(そがい)する。黒騎士は瞬時にアリッサを討つ事が出来ないと判断すると、刃をその矢に向け切り裂いた。その瞬間、死角から(ふところ)に潜り込んだヨシュアは、掌を黒騎士の腹部に当て気を放つ。


(よど)みなく流れる様に繰り出される連続攻撃。守り人として何度も繰り返し、高レベルの魔獣すら倒す信頼できる連携だった。しかし、ヨシュアに伝わる手応えは(かす)かな物で、黒騎士はヨシュアの顳顬(こめかみ)に向け柄で打撃を繰り出し吹きとばした。


「中々手を掛けさせるが、話にならんな」黒騎士は静かに呟くと、昏倒(こんとう)しているヨシュアに向け剣を振り上げ斬撃を放つ。

目の前に鮮血が舞い上がる(はず)だった。しかし、黒騎士の視界には赤いものではなく、黒く(つや)やかな毛が舞い散り(しかばね)となるヨシュアの姿は消えていた。


少し離れた所から獣の息遣(いきづか)いが聞こえる。そして、此方(こちら)に向け歩み寄る足音、自身に満ち自惚(うぬぼ)れた者の歩みでは無い。恐れを抱き無謀(むぼう)だと知りつつも、戦いに(おもむ)く勇気を持つ者の歩み。


兜の奥で笑みを浮かべ、足音の主に視線を向ける。そこには(あお)外套(がいとう)(なび)かせ、黒騎士に(いど)む凌二の姿があった。


主人様(マスター)、勝算のほどは?」と、覚悟を決めながら歩く凌二に(つむぎ)は問いかける。「ある訳ないだろ」簡単に返された返事は、紬に伝わる手の(ふる)えが本心から言っている事を知らせた。


「さっきの剣技と身のこなし、彼は只者じゃないね。紬の力を持って、良くて善戦して倒されるかな。勝ち目は無いよ、逃げた方が良い」


剣の世界で紬の背後から、クワドは冷静に分析した意見を投げ掛ける。


「確かにね〜 凌二君は戦を知らないんだから、剣技とか魔法とかも無縁だったんでしょ?」


「彼奴は全然身体を(きた)えてなかったからなぁ、身体強化をかけても、大した効力を得る事はないだろう」


更にフィルフィアとアーデルも続けて意見を投げる。それを聞き紬は「そうなんだけどさ」と呟き、顔を(しか)めると勢いよく後ろを振り返った。


「なんで? 私の世界に無断で入り込んでんだよお前ら!」


驚きの声を上げられ顔を見合わせた三人は、何言ってるのか解らないと言った表情を浮かべ口を開く。


「いや、だってな〜」「凌二君の初陣だしね」「やっぱり気になるしね〜」と、あっけらかんと言葉を返す。


こいつら観戦決め込むつもりだな、こっちはそれどころじゃねえんだよ! そう思いながらも勝ち目の無い戦いに挑み、足掻(あが)く為に思考を(めぐ)らせる凌二に視線を戻し。紬自身も主人の為に思考を巡らせる。


私の力を使っていながら、全てにおいて黒騎士は遥かに主人の上をいく。魔力は未だに回復していない為、剣技を放つ事すら(まま)ならない。八方塞(はっぽうふさ)がりで勝機がまるで見えない、結果は初めから見えている。そう結論に至った紬は凌二に向け口を切った。


「勝ち目の無い勝負に挑むのは無謀の(きわ)み、撤退(てったい)(すす)めます。が、あの者と戦う理由がお有りですか?」


「理由か……」そう呟くと、黒騎士に得体の知れない感情を抱いた事を思い出す。

さっきの攻防を観て恐ろしさを感じ、自分が(かな)うはずは無いと確信めいたものを抱かせた。だけど、あの時感じたものは、これとは違う様な気がする。


「何となくだけど、戦わないといけない気がした……理由はそれだけ。紬、力を貸してくれ」


「承知しました」そう返事を返すと、紬は服を(つか)み握りしめる。


何が(まも)ってやるだ! 何が三流の伝説の剣とは違うだ! 主人を護る事が出来ない剣に何の価値がある! 己の力の無さを()やみ、過信した自分自身を糾弾(きゅうだん)し心の中で泣き叫ぶ。


「剣と会話をするか、観ていて不思議なものだな」黒騎士は凌二に声を掛けると、徐に剣を(さや)に収め。そして、(かぶと)に手を掛けながら続ける。


「これから死合う者に礼を尽くそう。俺はドルドガーラ聖教の騎士、ガリエル・ブリューナ……」


兜の下に(かく)された顔が現れ一同は声を失う、パキリと音を立て口元に笑みを浮かべながらも続けた。


「種族は人間だ」


現れたのは髑髏(どくろ)の形をはっきりと見せる輪郭(りんかく)と、それに張り付く木の樹皮の様な乾いた皮膚、目には赤黒い光が浮かび、額には魔鉱石が埋め込まれ、中には紫色の(ほの)かな光が宿っていた。形は人のものだが、生きているとは言い難い。


「成る程、屍兵(しかばねへい)という訳でしたか……」ヨシュアは納得した様に(つぶや)き、ガリエルは肯定(こうてい)する様に頷いた。


「三百年前、俺は王剣の奪還(だっかん)の任に当たっていた。だが、赤眼の悪魔により撤退を余儀(よぎ)なくされ失敗し、その罰としてこの身に落ちた。再び見える事が出来るとはな、王剣の奪還を今この時もって()すとしよう」


そうか、あの時感じたもの。この人も皆んなと同じなんだ、三百年前の事に(とら)われ続けている。


凌二の思考を(さえぎ)る様にガリエルは口を開き「この兜が地に着いたのを合図としよう」そう言葉を掛け、兜を空高く投げ上げる。


「他の騎士もそうだったのか?」


「ロドスが言うには先の騎士達は、ファムファーレン兵の亡骸(なきがら)を使っていた様だな」


凌二はガリエルは返答を受けると、ガリエルを見つめその遠くに巨大な力を感じる。


そうか、資料に目を通して抱いた違和感、敵兵の亡骸を使い屍兵を作り出す。それが(おとろ)えを知らない軍勢の正体か……


思考を遮る様に兜が地に落ち、辺りに金属音を響かせる。ガリエルは徐に剣を抜き放つが、凌二は音と共に弾ける様に駆け出す。


「ふざけるな! 死を与えても尚(おとし)める、ドルドガーラ王は神になったつもりかよ!」そう叫び、雄叫びをあげ()ぎ払う様に剣撃を繰り出した。


凌二の剣撃を受け流そうとするが、差し込まれ衝撃を受け止める「神か、そうかもしれん。死者を(よみがえ)らせる、正に神の所業(しょぎょう)だ」ガリエルは大きく足を前に出し、身体を入れ替える様に反転すると(なな)めに斬撃を振り下ろす。凌二は勢いをそのままに、前方に飛び込む様に躱した。


膝を地に付けながらも「それは(もてあそ)ばれているって言わないか? 死者を冒涜(ぼうとく)している様にしか見えない」そう言葉を返し再び切り込もうとすると、ガリエルの放った斬撃が迫りこれを受け止めると、衝撃を抑えられず弾き飛ばされた。


「人は弱い、だからこそ力を合わせ協力する。この世で最も優良たる種族と言え、世を()べるに相応(ふさわ)しい。それを守る為に死しても闘う者が必要なのだよ」


倒れ込んだ凌二は直ぐに体制を立て直し、口の中で鉄の味とジャリっとした感覚がするが構わず口を切る。


詭弁(きべん)だな、命を奪って無理矢理に従えてるの間違いだろ?」そう言うと、凌二は猛然(もうぜん)と距離を詰め斬撃を繰り出すが、ガリエルに受け止められる。ぎりぎりと鈍い金属音が()る中で更に続ける。


「アンタの言う事が本当なら、話し合って協力を求めればいい! 人間同士で争う必要は無い筈だ!」


()れこそ詭弁なのだよ。残念な事に国や人それぞれ意志や思想があり、色々な主張があり、対立が生まれ戦が起きる。それが意味する事は「相容れない意志や思想の存在」だ! だが、それでも成さねばならん」


凌二を押し返し剣を振り上げ「だから武力を持って、それを我らの思想に()め上げる」そう言い放ち、斬撃を撃ち下ろす。凌二は(みね)に手を当て両手(もろて)で受け止めるが、刀から伝わってくる衝撃を逃がす事が出来ずに、後ろにヨロヨロと退いてしまう。


「人間と言う種を守る為に、我々は一つに(まと)まらねばならん。それがドルドガーラ聖教、王たる大司教様のお言葉だ」


ガリエルは蹌踉(よろ)めく凌二に止めを刺すべく、徐に「疾閃刃」を繰り出す態勢をとる。そして、凌二はその姿を捉えつつ、朦朧(もうろう)としながらも思考を巡らせる。


人間と言う種を守るか、感情をそのままに放った言葉がでかくなったもんだ。確かに一つに纏まる事が出来れば、人間同士の戦火は無くなる。だが、アンタ達の思想は、更なる戦火を生むんじゃ無いのか? 武力によって強いられた思想に、人の意思は()(にじ)られるんじゃ無いのか?


「王と言うものは、例外なく強欲なものだよ」氷見野(ひみの)先生の言葉が浮かぶ。


王だけじゃなく、支配する奴はそうみたいですよ先生。スケールでか過ぎて付いていけないんですけどね……俺みたいな何も持ってない奴が、そう思うのも無理ないと思うんですよ。


いや、それは昔の俺か。国って言っても小さなもんだが、今は皆んながいる。守りたいって思うし両方の世界が大切だ。壮大(そうだい)なお題目(だいもく)(かか)げるアンタらに言わせれば、ちっぽけなもんだ笑われてもしょうがない。だけどな……


俺は王として、傲慢(ごうまん)と言われようが! 強欲で貪欲(どんよく)だと(のの)られようが! 自分の望みを叶える為に足掻かせて貰う!


唇を噛み思考から自分を無理矢理戻し、凌二はガリエルに向け走り出す。未だに蹌踉めきから回復出来ていない足では、「疾閃刃」を止める事は出来ないと知りつつも足掻く。


「主人様!」思わず叫ぶ紬、凌二の結末を想像し確信してしまった。自分の力では如何(どう)しようも無い、力の無さを呪い涙を流し(たたず)むだけだった。


「あのさ紬、僕等の存在する意味はあるのかな?」


涙を流し茫然(ぼうぜん)とする紬に、クワドは以前掛けた言葉を掛ける。何を言っている? 疑問を抱きつつ表情はそのままで、徐に視線をクワドに向ける。


「力を(つかさど)る僕らは存在していればいいって、君は言ったけど。力は意思を持って振るわれる、密接な関係があるんだ」


「そうだよ、つまりは紬ちゃんは本来の力を使ってないって事だね〜」


国綱(くにつな)か。(つな)ってのはな、幾つもの糸が()りあって(ひも)になり、更にそれを撚り合わせて綱になるんだよ。最初の紐を作るのはお前なんだ。多分、その名に「紡ぐ人」って願いがあったんじゃないか? 女の子だから「紬」にしたと思うけどな」


「それで、紬ちゃんはどうしたいの?」(さと)す様に優しくフィルフィアは語り掛け、紬は懇願(こんがん)する様に願いを口に出す。


「主人様を助けたい、力を貸して!」その言葉と共に紬の身体は仄かな黄金色(こがねいろ)の光に包まれた。


「それじゃあ僕は「力」を司る者として、ちょっと特別な身体強化を与えるよ。まあ、地獄(じごく)の筋肉痛は覚悟して貰うけどね」


「私は「知」を司る者として、身体強化を得るなら「思考加速」を与えてあげるね〜」


「俺は「心」か、でも彼奴(あいつ)に必要かな? 紬、彼奴と話せるか?」アーデルにそう問われ「背中に手を触れてくれれば話せるよ」そう教えると、アーデルは凌二に話し掛けた。


突然、景色の流れが(ゆる)やかになり、凌二はこれは走馬灯(そうまとう)かと考えている最中。「よう凌二、かなり追い詰められてるな」と、アーデルが呑気に話しかけてくる。


「おう、今は走馬灯中だ」って自分で言っててなんだが、初めて聞くな走馬灯中って何だよそれ?


「安心しろ、それはフィルフィアの「思考加速」だ。クワドは特別な「身体強化」を与えてくれる、地獄の筋肉痛は覚悟してって事だ」


「マジか、死ぬよりましだけど、それで死ぬって事はないよね?」地獄と付いた時点で、不安が半端(はんぱ)ないんだが。


「そう思うんなら、今後は身体を鍛えるんだな。でっ、俺からなんだが、今更(いまさら)心をどうのこうの言ってもな。だから、俺の剣技の記憶を少し分けてやる。全部と言いたいが剣の形が違うからな、その先はお前が技を(みが)いていくべきだろ?」


「確かにそうだな、ありがとなアーデル」そう答え、自分の身体に力を感じると「後な、多分この状態は長くは持たない。紬も()れてないからな、手早く決めろ」アーデルはそう告げると、紬の背中から手を離した。


凌二は「身体強化」で動きを速め、「思考加速」でその力を制御する。ガリエルとの距離を(またた)く間に詰め、斬撃を放つと鍔迫(つばぜ)り合いに持ち込み「疾閃刃」を防いだ。


「まだ息を残すか」そう(つぶや)くと、先程までと受ける剣撃と、素人(しろうと)同然の体捌(たいさば)きにも明らかな違いを感じる。しかし、冷静に刃を滑らせ斬撃を放つ。凌二は脚を前方に出し、刃を躱しながら反転し斬撃を返した。


その刃はガリエルの肩を捉え、その瞬間、ガリエルは持ち手を変え身体を反転させ斬撃を疾らせる。その切っ先は凌二の左頬を切り裂き鮮血が舞う。


「くっそ!」紬達の力を借りても、まだ足りないのか! 俺が弱いからだ、俺がもっと強く! もっと速ければ!


「やってくれる!」この身に傷を負うなど二百年ぶりだ、楽しくさせる!


屍兵であるガリエルは痛覚(つうかく)が無い分、斬撃に対し素早く対応できた。そして、凌二が()()り鮮血が舞う中、再び「疾閃刃」を放つ態勢をとった。しかし、凌二は(あきら)める事なく仰け反りつつも、下から斬撃を切り上げる。


その斬撃は空を切り、(むな)しく天を仰いだ刀はガリエルには届かなかった。


動きを読まれていたのか、構えを(くず)しながらも一歩後ろに退いただけで躱される。最後の反撃を躱され、無防備な背中を向けた凌二にガリエルは止めを刺しにかかる。


「主人様! 負けないでえええ!」刀から伝わる紬の声、それと共にルーンが仄かに光り魔力が戻る。だが、背中を向けた今、反撃する事は叶わない。ガリエルもルーンの光に気が付くも、時は(すで)に遅しと剣技詠唱(けんぎえいしょう)を始める。


(はし)剣閃(けんせん)……」


静かに腰を落とし、力が抜けない様に大地を踏みしめ剣を構える。


「我放つは……」次の()(つな)げ、剣に魔力と気を注ぎ込み力を溜めた瞬間。ガリエルの耳に(かす)かに届く声「疾れ剣閃……」凌二も疾閃刃の剣技詠唱を始めていた。


未だ諦めを見せない、振り向きざまに放つつもりか? もう遅い!


無明(むみょう)(やいば)なり」


「これで終わりだ!」と、ガリエルは勝利を確信し叫びながら放つ。最後の剣技詠唱の句を発し薙ぎ払った瞬間、凌二の姿はガリエルの視界から消え去った。


技を放ち身体の自由がきかない僅かな時間、我が目を疑い困惑の色を隠せないガリエル。その視界に微かに見える蒼い影。大地を這う様に近付きながら、次第に大きくなる剣技詠唱の句。


「我放つは……」


凌二は斬撃の勢いをそのままに()を描くように身を(ひるがえ)し、地を()う様に身を屈ませた。これはアーデルから貰った戦技の一つだった。


「無明の刃なり!」


最後の句を告げ、天を切り裂くように斬りあげ「疾閃刃」を放つ。技後硬直に(おちい)ったガリエルは、真空の刃に身体を切り裂かれ金属音をたて大地に身を預けた。その直後「身体強化」と「思考加速」の効果も切れ、凌二は体が鉛のように重くなり歩く事すら覚束(おぼつか)ない。もう少し時が流れていたら、この逆の結果になっただろう。


大地に仰向けになったガリエルは天を仰ぎ「最後に楽しませて貰った、感謝する」そう呟くと、続けて口を開いた。


「三百年戦ってきたが、未だ戦乱の世は続き戦火は収まらない。間違っていると解っていたんだが、生き方を変える事が出来なかった」


凌二は身体を引きずり鞘に収めた国綱を杖代わりにして、ガリエルに歩み寄る。凌二に視線を向けると「お前は何を望む?」そう問い掛ける。


「大切な人達が出来たんだ。だから、守りたいってそれだけだよ……」


「ふふ、生前は俺もそうだったなぁ……額の魔鉱石を(くだ)けば完全に俺は消える。その前に一つ頼みがある、俺の部下も未だに戦に囚われている。同じ様に救ってくれないか?」


「出来る範囲でならな」そう返事をすると、膝をつき凌二は左手を差し伸べる。ガリエルも最後の別れと、応えようと手を伸ばす。その刹那、冷たく非情(ひじょう)な刃が凌二を貫く。


「何故、どうしてだ!? 英雄王!!!」


「やっぱ……痛えなぁ」


蒼い外套を貫くガリエルの右手に握られた剣の切っ先、次第に(にじ)む血により黒ずんでいく。剣を伝い地面も次第に赤く染まり始め、その光景を見たアリッサ達は声を失う。それを嘲笑(あざわら)うかの様に、(みにく)く狂気に満ちた笑い声が響き渡った。


「私はもうお終いだ……ヒィヒャアアッハハハ! 黒騎士も英雄王も道連れだあああ!」

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