黒騎士
平和の訪れを告げ、暖かく穏やかな橙色の光が辺りを包む。その中で機動要塞グラン・タイラントの魔導炉の爆発が響く。機密保持の破壊工作だろう、彼等の魔導兵器の技術は各国の先を進むのだから当然のこと。
「終わったな。同盟の件は考えさせてくれんか? まずは国を建て直さんことにはな」
「ですね、出来る事なら手伝います」
「ん? いや、まだ仕事が残ってる様だ」ロドスの元に歩み寄る人影を捉えると、表情を曇らせ王は口を切った。その言葉に喜びに沸く一同も視線を向ける。夕陽に照らされ鈍い光を放つ漆黒の鎧、剣豪と謳われる王を子供扱いする剣技を見たものは固唾を吞む。「黒騎士」魔導兵器である騎士達を率い、「疾閃刃」をいとも容易く凌いだ腕は剣聖と言っていい。
足を止める事なく徐に剣を抜き放ち、アリッサに向け刃を横に滑らせ始める。
「アリッサさん! 来るぞ!」距離があるにも関わらず、その動きが何を意味するか解った凌二は叫ぶ。そして、咄嗟に障壁を展開したアリッサは衝撃を受けた。
華奢な体躯はその場に居ることを許されず、障壁と共に後方へ押し出され氷の結界から弾き出される。主人を無くした「悠久の氷柩」は維持する事が叶わず、氷粉となり消え去った。
「宗方君の声が無かったらと思うと、ぞっとするわね」呆れた声をあげ、額に冷たい汗が伝う。歪めた表情にある瞳は効力が切れたのか、元の黒いものへと変わった。
ロドスは目の前を歩く黒騎士に「くっ黒騎士、いや、黒騎士様! たった助けて下さい!」恐怖により抱いた憎しみを忘れ、命乞いをするが「邪魔だ」と、願いを一蹴され。更には徐にローブを掴まれると、道端に転がる小石の様に投げ捨てられる。
黒騎士は視線をアリッサ達に向けと、その時にはアリッサの放った炎の弾丸が迫っていた。慌てる事無く、炎を掌で受けると握り潰し搔き消す。
「フッ。「赤眼の悪魔」目の効力が無ければ、只の魔導師に成り下がるか……」
兜の奥の瞳を細め言葉を吐き捨てると、黒騎士はアリッサに向け駆けだした。アリッサは迎撃すべく再び炎の弾丸を放つが、鎧を身に付けているのにも関わらず高い跳躍を見せ炎を躱し。大地もろとも切り裂く様に、斬撃を縦に繰り出す。
「遅延魔法! 「瞬速移動」発動!」保険の回避呪文を唱え、雷鳴の如く襲い掛かる斬撃を横に躱す。しかし、剣は地に着くと同時に弾ける様に軌道を変え、刃が意思を持っているかと思わせる様にアリッサを追い喉元に迫る。
その刹那、アドレアの放った矢が黒騎士に疾る。精霊の加護を受けた矢は風を纏い、貫通力を上げると共に風圧により受けた者の行動を阻害する。黒騎士は瞬時にアリッサを討つ事が出来ないと判断すると、刃をその矢に向け切り裂いた。その瞬間、死角から懐に潜り込んだヨシュアは、掌を黒騎士の腹部に当て気を放つ。
淀みなく流れる様に繰り出される連続攻撃。守り人として何度も繰り返し、高レベルの魔獣すら倒す信頼できる連携だった。しかし、ヨシュアに伝わる手応えは微かな物で、黒騎士はヨシュアの顳顬に向け柄で打撃を繰り出し吹きとばした。
「中々手を掛けさせるが、話にならんな」黒騎士は静かに呟くと、昏倒しているヨシュアに向け剣を振り上げ斬撃を放つ。
目の前に鮮血が舞い上がる筈だった。しかし、黒騎士の視界には赤いものではなく、黒く艶やかな毛が舞い散り屍となるヨシュアの姿は消えていた。
少し離れた所から獣の息遣いが聞こえる。そして、此方に向け歩み寄る足音、自身に満ち自惚れた者の歩みでは無い。恐れを抱き無謀だと知りつつも、戦いに赴く勇気を持つ者の歩み。
兜の奥で笑みを浮かべ、足音の主に視線を向ける。そこには蒼い外套を靡かせ、黒騎士に挑む凌二の姿があった。
「主人様、勝算のほどは?」と、覚悟を決めながら歩く凌二に紬は問いかける。「ある訳ないだろ」簡単に返された返事は、紬に伝わる手の震えが本心から言っている事を知らせた。
「さっきの剣技と身のこなし、彼は只者じゃないね。紬の力を持って、良くて善戦して倒されるかな。勝ち目は無いよ、逃げた方が良い」
剣の世界で紬の背後から、クワドは冷静に分析した意見を投げ掛ける。
「確かにね〜 凌二君は戦を知らないんだから、剣技とか魔法とかも無縁だったんでしょ?」
「彼奴は全然身体を鍛えてなかったからなぁ、身体強化をかけても、大した効力を得る事はないだろう」
更にフィルフィアとアーデルも続けて意見を投げる。それを聞き紬は「そうなんだけどさ」と呟き、顔を顰めると勢いよく後ろを振り返った。
「なんで? 私の世界に無断で入り込んでんだよお前ら!」
驚きの声を上げられ顔を見合わせた三人は、何言ってるのか解らないと言った表情を浮かべ口を開く。
「いや、だってな〜」「凌二君の初陣だしね」「やっぱり気になるしね〜」と、あっけらかんと言葉を返す。
こいつら観戦決め込むつもりだな、こっちはそれどころじゃねえんだよ! そう思いながらも勝ち目の無い戦いに挑み、足掻く為に思考を巡らせる凌二に視線を戻し。紬自身も主人の為に思考を巡らせる。
私の力を使っていながら、全てにおいて黒騎士は遥かに主人の上をいく。魔力は未だに回復していない為、剣技を放つ事すら儘ならない。八方塞がりで勝機がまるで見えない、結果は初めから見えている。そう結論に至った紬は凌二に向け口を切った。
「勝ち目の無い勝負に挑むのは無謀の極み、撤退を勧めます。が、あの者と戦う理由がお有りですか?」
「理由か……」そう呟くと、黒騎士に得体の知れない感情を抱いた事を思い出す。
さっきの攻防を観て恐ろしさを感じ、自分が敵うはずは無いと確信めいたものを抱かせた。だけど、あの時感じたものは、これとは違う様な気がする。
「何となくだけど、戦わないといけない気がした……理由はそれだけ。紬、力を貸してくれ」
「承知しました」そう返事を返すと、紬は服を掴み握りしめる。
何が護ってやるだ! 何が三流の伝説の剣とは違うだ! 主人を護る事が出来ない剣に何の価値がある! 己の力の無さを悔やみ、過信した自分自身を糾弾し心の中で泣き叫ぶ。
「剣と会話をするか、観ていて不思議なものだな」黒騎士は凌二に声を掛けると、徐に剣を鞘に収め。そして、兜に手を掛けながら続ける。
「これから死合う者に礼を尽くそう。俺はドルドガーラ聖教の騎士、ガリエル・ブリューナ……」
兜の下に隠された顔が現れ一同は声を失う、パキリと音を立て口元に笑みを浮かべながらも続けた。
「種族は人間だ」
現れたのは髑髏の形をはっきりと見せる輪郭と、それに張り付く木の樹皮の様な乾いた皮膚、目には赤黒い光が浮かび、額には魔鉱石が埋め込まれ、中には紫色の仄かな光が宿っていた。形は人のものだが、生きているとは言い難い。
「成る程、屍兵という訳でしたか……」ヨシュアは納得した様に呟き、ガリエルは肯定する様に頷いた。
「三百年前、俺は王剣の奪還の任に当たっていた。だが、赤眼の悪魔により撤退を余儀なくされ失敗し、その罰としてこの身に落ちた。再び見える事が出来るとはな、王剣の奪還を今この時もって成すとしよう」
そうか、あの時感じたもの。この人も皆んなと同じなんだ、三百年前の事に囚われ続けている。
凌二の思考を遮る様にガリエルは口を開き「この兜が地に着いたのを合図としよう」そう言葉を掛け、兜を空高く投げ上げる。
「他の騎士もそうだったのか?」
「ロドスが言うには先の騎士達は、ファムファーレン兵の亡骸を使っていた様だな」
凌二はガリエルは返答を受けると、ガリエルを見つめその遠くに巨大な力を感じる。
そうか、資料に目を通して抱いた違和感、敵兵の亡骸を使い屍兵を作り出す。それが衰えを知らない軍勢の正体か……
思考を遮る様に兜が地に落ち、辺りに金属音を響かせる。ガリエルは徐に剣を抜き放つが、凌二は音と共に弾ける様に駆け出す。
「ふざけるな! 死を与えても尚蔑める、ドルドガーラ王は神になったつもりかよ!」そう叫び、雄叫びをあげ薙ぎ払う様に剣撃を繰り出した。
凌二の剣撃を受け流そうとするが、差し込まれ衝撃を受け止める「神か、そうかもしれん。死者を蘇らせる、正に神の所業だ」ガリエルは大きく足を前に出し、身体を入れ替える様に反転すると斜めに斬撃を振り下ろす。凌二は勢いをそのままに、前方に飛び込む様に躱した。
膝を地に付けながらも「それは弄ばれているって言わないか? 死者を冒涜している様にしか見えない」そう言葉を返し再び切り込もうとすると、ガリエルの放った斬撃が迫りこれを受け止めると、衝撃を抑えられず弾き飛ばされた。
「人は弱い、だからこそ力を合わせ協力する。この世で最も優良たる種族と言え、世を統べるに相応しい。それを守る為に死しても闘う者が必要なのだよ」
倒れ込んだ凌二は直ぐに体制を立て直し、口の中で鉄の味とジャリっとした感覚がするが構わず口を切る。
「詭弁だな、命を奪って無理矢理に従えてるの間違いだろ?」そう言うと、凌二は猛然と距離を詰め斬撃を繰り出すが、ガリエルに受け止められる。ぎりぎりと鈍い金属音が鳴る中で更に続ける。
「アンタの言う事が本当なら、話し合って協力を求めればいい! 人間同士で争う必要は無い筈だ!」
「其れこそ詭弁なのだよ。残念な事に国や人それぞれ意志や思想があり、色々な主張があり、対立が生まれ戦が起きる。それが意味する事は「相容れない意志や思想の存在」だ! だが、それでも成さねばならん」
凌二を押し返し剣を振り上げ「だから武力を持って、それを我らの思想に染め上げる」そう言い放ち、斬撃を撃ち下ろす。凌二は峰に手を当て両手で受け止めるが、刀から伝わってくる衝撃を逃がす事が出来ずに、後ろにヨロヨロと退いてしまう。
「人間と言う種を守る為に、我々は一つに纏まらねばならん。それがドルドガーラ聖教、王たる大司教様のお言葉だ」
ガリエルは蹌踉めく凌二に止めを刺すべく、徐に「疾閃刃」を繰り出す態勢をとる。そして、凌二はその姿を捉えつつ、朦朧としながらも思考を巡らせる。
人間と言う種を守るか、感情をそのままに放った言葉がでかくなったもんだ。確かに一つに纏まる事が出来れば、人間同士の戦火は無くなる。だが、アンタ達の思想は、更なる戦火を生むんじゃ無いのか? 武力によって強いられた思想に、人の意思は踏み躙られるんじゃ無いのか?
「王と言うものは、例外なく強欲なものだよ」氷見野先生の言葉が浮かぶ。
王だけじゃなく、支配する奴はそうみたいですよ先生。スケールでか過ぎて付いていけないんですけどね……俺みたいな何も持ってない奴が、そう思うのも無理ないと思うんですよ。
いや、それは昔の俺か。国って言っても小さなもんだが、今は皆んながいる。守りたいって思うし両方の世界が大切だ。壮大なお題目を掲げるアンタらに言わせれば、ちっぽけなもんだ笑われてもしょうがない。だけどな……
俺は王として、傲慢と言われようが! 強欲で貪欲だと罵られようが! 自分の望みを叶える為に足掻かせて貰う!
唇を噛み思考から自分を無理矢理戻し、凌二はガリエルに向け走り出す。未だに蹌踉めきから回復出来ていない足では、「疾閃刃」を止める事は出来ないと知りつつも足掻く。
「主人様!」思わず叫ぶ紬、凌二の結末を想像し確信してしまった。自分の力では如何しようも無い、力の無さを呪い涙を流し佇むだけだった。
「あのさ紬、僕等の存在する意味はあるのかな?」
涙を流し茫然とする紬に、クワドは以前掛けた言葉を掛ける。何を言っている? 疑問を抱きつつ表情はそのままで、徐に視線をクワドに向ける。
「力を司る僕らは存在していればいいって、君は言ったけど。力は意思を持って振るわれる、密接な関係があるんだ」
「そうだよ、つまりは紬ちゃんは本来の力を使ってないって事だね〜」
「国綱か。綱ってのはな、幾つもの糸が撚りあって紐になり、更にそれを撚り合わせて綱になるんだよ。最初の紐を作るのはお前なんだ。多分、その名に「紡ぐ人」って願いがあったんじゃないか? 女の子だから「紬」にしたと思うけどな」
「それで、紬ちゃんはどうしたいの?」諭す様に優しくフィルフィアは語り掛け、紬は懇願する様に願いを口に出す。
「主人様を助けたい、力を貸して!」その言葉と共に紬の身体は仄かな黄金色の光に包まれた。
「それじゃあ僕は「力」を司る者として、ちょっと特別な身体強化を与えるよ。まあ、地獄の筋肉痛は覚悟して貰うけどね」
「私は「知」を司る者として、身体強化を得るなら「思考加速」を与えてあげるね〜」
「俺は「心」か、でも彼奴に必要かな? 紬、彼奴と話せるか?」アーデルにそう問われ「背中に手を触れてくれれば話せるよ」そう教えると、アーデルは凌二に話し掛けた。
突然、景色の流れが緩やかになり、凌二はこれは走馬灯かと考えている最中。「よう凌二、かなり追い詰められてるな」と、アーデルが呑気に話しかけてくる。
「おう、今は走馬灯中だ」って自分で言っててなんだが、初めて聞くな走馬灯中って何だよそれ?
「安心しろ、それはフィルフィアの「思考加速」だ。クワドは特別な「身体強化」を与えてくれる、地獄の筋肉痛は覚悟してって事だ」
「マジか、死ぬよりましだけど、それで死ぬって事はないよね?」地獄と付いた時点で、不安が半端ないんだが。
「そう思うんなら、今後は身体を鍛えるんだな。でっ、俺からなんだが、今更心をどうのこうの言ってもな。だから、俺の剣技の記憶を少し分けてやる。全部と言いたいが剣の形が違うからな、その先はお前が技を磨いていくべきだろ?」
「確かにそうだな、ありがとなアーデル」そう答え、自分の身体に力を感じると「後な、多分この状態は長くは持たない。紬も慣れてないからな、手早く決めろ」アーデルはそう告げると、紬の背中から手を離した。
凌二は「身体強化」で動きを速め、「思考加速」でその力を制御する。ガリエルとの距離を瞬く間に詰め、斬撃を放つと鍔迫り合いに持ち込み「疾閃刃」を防いだ。
「まだ息を残すか」そう呟くと、先程までと受ける剣撃と、素人同然の体捌きにも明らかな違いを感じる。しかし、冷静に刃を滑らせ斬撃を放つ。凌二は脚を前方に出し、刃を躱しながら反転し斬撃を返した。
その刃はガリエルの肩を捉え、その瞬間、ガリエルは持ち手を変え身体を反転させ斬撃を疾らせる。その切っ先は凌二の左頬を切り裂き鮮血が舞う。
「くっそ!」紬達の力を借りても、まだ足りないのか! 俺が弱いからだ、俺がもっと強く! もっと速ければ!
「やってくれる!」この身に傷を負うなど二百年ぶりだ、楽しくさせる!
屍兵であるガリエルは痛覚が無い分、斬撃に対し素早く対応できた。そして、凌二が仰け反り鮮血が舞う中、再び「疾閃刃」を放つ態勢をとった。しかし、凌二は諦める事なく仰け反りつつも、下から斬撃を切り上げる。
その斬撃は空を切り、虚しく天を仰いだ刀はガリエルには届かなかった。
動きを読まれていたのか、構えを崩しながらも一歩後ろに退いただけで躱される。最後の反撃を躱され、無防備な背中を向けた凌二にガリエルは止めを刺しにかかる。
「主人様! 負けないでえええ!」刀から伝わる紬の声、それと共にルーンが仄かに光り魔力が戻る。だが、背中を向けた今、反撃する事は叶わない。ガリエルもルーンの光に気が付くも、時は既に遅しと剣技詠唱を始める。
「疾れ剣閃……」
静かに腰を落とし、力が抜けない様に大地を踏みしめ剣を構える。
「我放つは……」次の句に繋げ、剣に魔力と気を注ぎ込み力を溜めた瞬間。ガリエルの耳に微かに届く声「疾れ剣閃……」凌二も疾閃刃の剣技詠唱を始めていた。
未だ諦めを見せない、振り向きざまに放つつもりか? もう遅い!
「無明の刃なり」
「これで終わりだ!」と、ガリエルは勝利を確信し叫びながら放つ。最後の剣技詠唱の句を発し薙ぎ払った瞬間、凌二の姿はガリエルの視界から消え去った。
技を放ち身体の自由がきかない僅かな時間、我が目を疑い困惑の色を隠せないガリエル。その視界に微かに見える蒼い影。大地を這う様に近付きながら、次第に大きくなる剣技詠唱の句。
「我放つは……」
凌二は斬撃の勢いをそのままに弧を描くように身を翻し、地を這う様に身を屈ませた。これはアーデルから貰った戦技の一つだった。
「無明の刃なり!」
最後の句を告げ、天を切り裂くように斬りあげ「疾閃刃」を放つ。技後硬直に陥ったガリエルは、真空の刃に身体を切り裂かれ金属音をたて大地に身を預けた。その直後「身体強化」と「思考加速」の効果も切れ、凌二は体が鉛のように重くなり歩く事すら覚束ない。もう少し時が流れていたら、この逆の結果になっただろう。
大地に仰向けになったガリエルは天を仰ぎ「最後に楽しませて貰った、感謝する」そう呟くと、続けて口を開いた。
「三百年戦ってきたが、未だ戦乱の世は続き戦火は収まらない。間違っていると解っていたんだが、生き方を変える事が出来なかった」
凌二は身体を引きずり鞘に収めた国綱を杖代わりにして、ガリエルに歩み寄る。凌二に視線を向けると「お前は何を望む?」そう問い掛ける。
「大切な人達が出来たんだ。だから、守りたいってそれだけだよ……」
「ふふ、生前は俺もそうだったなぁ……額の魔鉱石を砕けば完全に俺は消える。その前に一つ頼みがある、俺の部下も未だに戦に囚われている。同じ様に救ってくれないか?」
「出来る範囲でならな」そう返事をすると、膝をつき凌二は左手を差し伸べる。ガリエルも最後の別れと、応えようと手を伸ばす。その刹那、冷たく非情な刃が凌二を貫く。
「何故、どうしてだ!? 英雄王!!!」
「やっぱ……痛えなぁ」
蒼い外套を貫くガリエルの右手に握られた剣の切っ先、次第に滲む血により黒ずんでいく。剣を伝い地面も次第に赤く染まり始め、その光景を見たアリッサ達は声を失う。それを嘲笑うかの様に、醜く狂気に満ちた笑い声が響き渡った。
「私はもうお終いだ……ヒィヒャアアッハハハ! 黒騎士も英雄王も道連れだあああ!」




