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異世界事情は意外に身近な所で廻っている?  作者: 渋谷 彰
第一章

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32/47

戦火の行方

陽が最も高く輝く頃、フルクランダムの剣の広場は住民達で(あふ)れていた。台座に立つ白いローブを(まと)ったモーリスは、住民を見渡すと静かに口を開く。


「今、陛下(へいか)はファムファーレンに単身で向かわれておる」その言葉を受けた住民達は、事の重大さに(ざわ)めき立つ。ドルドガーラの侵攻については皆が知っている、そして、ファムファーレンが落ちる意味も。


静粛(せいしゅく)に!」騒めきを力尽くで(しず)める様に放つ。再び住民を見渡すと静かに口を切る。


「皆が陛下の力になりたい、共に戦いたいと思っている事は知っておる。それは陛下も同じ、だからこそ皆に助力を求めたのじゃ」


モーリスは(おもむろ)に杖を頭上に(かか)げ、杖の先端(せんたん)に付けられた少々大きめの魔鉱石(まこうせき)をキラリと光らせ「陛下の策の為、皆の声を借りたい!」そう告げると、住民達の沈黙が歓声に変わる。そして、モーリスの耳に付けられた魔鉱石のピアスから、凌二の名乗りが伝わる。


「今じゃ! 雄叫(おたけ)びを上げよ! 陛下をお助けするのだ!」


広場に天を(つらぬ)き地を揺らさんばかりの声が響き渡る、その声は杖の魔鉱石から凌二の元に送られた。


(しばら)くして、機動要塞グラン・タイラントの指令室に、撤退(てったい)する戦車からの入電を(しら)せるアラームが響く。兵士は迅速(じんそく)に対応し、()れを一段高い椅子に腰掛ける隻眼(せきがん)の男に報告する。


「失礼します。たった今報せが入り、黒騎士以外の騎士は全滅。援軍が迫り一時撤退するとの事です」


「ふむ、規模が解らんな」隻眼の男は観測兵(かんそくへい)に視線を向けると確認を促す。

「了解です。ですが「領域探索」外なので、もう少し近付かないと」そう観測兵は答えると、隻眼の男は(さと)す様に口を開く。


「地形などの詳細な情報は不要だ、それは先行部隊が持っている。今は敵の数。いや、有無を知りたいのだ。「熱源探索」を使って範囲(はんい)を広げろ」


「はっ!」短く力強い返事を返すと、観測兵は迅速に索敵(さくてき)を始める。数秒後の探索(たんさ)結果を受けると隻眼の男は高々と笑い出した。


「戦を知らぬ、学者風情(がくしゃふぜい)が戦場に立つからだ。にしても、騎士を(ほふ)る力を持っているにも関わらず、策を労するとは自惚(うぬぼ)れがない証拠。英雄王の生まれ変わりか……手合わせを願いたいものだな」


感嘆(かんたん)の声を呟くと笑いを(こら)えながら「ロドスの隊に報せてやれ」と、命令を下し。グラン・タイラントの全連絡網を開かせると口を切る。


「これより、ファムファーレン城へ侵攻を開始する、戦場は生き物だ何があるか解らん。各員、臨機応変(りんきおうへん)に動く事を(せつ)に願う。以上だ」


そして、進路を機動要塞グラン・タイラント向け走る戦車はその脚を止める。


撤退しながらも、車内で治療を受けていたロドスは「ここは、何処だ……」そう呟くと、片腕の感覚がない事を知る。何事も無かったように身体を起こすと、連絡を受けた兵士が一礼し報告を行う。「は?」と声を()らしたロドスは激昂(げっこう)し叫んだ。


「そうか! 我々は(だま)されたのか、あの「宗方 凌二」と言うクソ餓鬼(がき)に!! あの片眼の野郎も、さぞかし高笑いしてるだろう!! あの黒騎士もだ、下僕(げぼく)のくせに!! 馬鹿にしやがって、許さん、許さんぞおおおおお!!」


怒りを吐き出し、(あら)げた息を整えながら「後方の輸送部隊に城に入る様に、連絡をしなさい」と、命令を下し。思考を巡らせる為に、指をうねらせようとするが忘れていたのか、思い出したかの様に「腕も拾いに行かないといけませんね」冷静にそう呟くと、戦車の進路を城に向け走らせた。

草花や木々が生い(しげ)る山中にて、道無き道を進み枝を踏み、草を()き分ける音がする。それと共に、ガルドを(うら)む様な声も加わっていた。


「全く、張り切るのは良いんですけど、獣道(けものみち)ですら有りませんね。って、これは」


「全くね! 身体能力の差ってのを考えてないでしょ、あの人は!」


「あはは、ですが、後少しで抜けますから我慢して下さい」


ヨシュア、アリッサ、アドレアの三人は先行する凌二を追いかけ、鬱蒼(うっそう)とした森の中を進んでいた。少々湿った空気に気分を害されたのか、更にガルドに対する不満を語りながら気分を(まぎ)らわせ進む。そして、(しばら)くすると木々の向こうから差し込む光が強くなり、吹き込む風が草原の香りを運び込んだ。


そして、森を抜け出し草原が目に広がると、ファムファーレンの城が目に入る。(いく)つもの荷馬車がフルクランダムに向け()けて行き、そして、それを追い掛ける者が見当たらない事に安堵(あんど)の息を吐く。


「さて、凌二君の策の運び具合はどうでしょうかね? 共に行ければ良かったのですが」


「あの時点では荷馬車しか無かったし、早馬を使っても半日は軽くかかるわ。選択の余地は無かったわね」


「サラさんが認識灯(にんしきとう)を創ってくれた事で、移動門を使ってこれたんです。良しとしましょう」


「でもね、置く場所ってのがね」とアリッサが呟くと、城の方から黒く大きな狼が向かって来る。それに(またが)り手を振る凌二の姿が見え、ヨシュアに声が掛けられる。「ヨシュア先生ーー! 怪我人いるからーー!」その声を聞くと、三人は凌二達の元に走り出した。


合流すると狼の口に(くわ)えられていた王は、ぼとりとその場に落とされる。ヨシュアは直ぐに治療にあたるが、その王の(あつか)いの雑さに凌二は心の中で「本っ当にスイマセン!」と、土下寝(どげね)で何度も謝った。


そんな胸中を知っているのかいないのか、ガナードは凌二に言葉を掛ける。


「大丈夫ですよ凌二殿、うちの王はそんなに(やわ)な方では無いですから」


乾いた笑い声で応えるが、唾液(だえき)(まみ)れている王に視線をやると。「いや〜 そこじゃ無いんだ、俺が気にしてる所は。これ絶対に後で何か言われる!」心の中で声を大にして叫び、大事な事だけにもう一度叫ぼうと思う。


「本当に……本当に、凌二殿なのですか?」とエレナに問われる。真剣な眼差(まなざ)しに少し気圧(けお)されるが、凌二はその眼に失礼の無いように真剣な面持ちで応えた。


「はい、俺は宗方 凌二です。すみませんでした、もう少し早ければアミュレットが(こわ)れる事は……」


だが、アミュレットお陰で軽傷で済んだ事は、正に幸運だった。カミラの仕事の(すご)さを見せ付けられた様な気がする。


そして、言葉を言い切る前に、エレナは凌二の胸に飛び込む。そして、今まで我慢していた涙を、全て流し尽くす様に泣き叫ぶ。その様子に皆、微笑みを浮かべ見守っていた。暫くして、治療を終えた王が凌二に声を掛ける。


「感動の再会中に悪いが、助けて貰った事に感謝する……援軍がこれだけか、中々のペテン師の様だな凌二殿」


「いや〜 俺は音声を出せる魔鉱石をばら()いただけで、それだけじゃ無理だったかも知れません。上手くいったのはウチの住民達と、俺の策に合わせてくれたクラースさんのお陰です」


「まあ、折角(せっかく)仕掛けた爆弾を有効に使いたかった、ってのも有りますがね。凌二殿お帰りになられて、何よりです」


「クラースさんのお陰だよ。俺に出逢ってくれて、有難う御座います」深々と頭を下げ感謝すると、クラースは(せき)を切った様に泣き始めた。


(なだ)める様に声を掛けている、アレンとバートも眼に涙を浮かべ。バートは凌二に視線を向けると「俺もアレンも凌二殿に出逢えたことを感謝してるよ」と、言葉を掛けてくれる。


人の(つな)がりの暖かさを噛み締め、瞳が(うる)みかけた時「で、これから如何(いかが)なさいますか? 主人様(マスター)」と、現実に引き戻す言葉が投げ掛けられた。一同は誰が(しゃべ)っているのかと、辺りを見回す中。凌二の顔に流れる汗は滝の様になっていく。


「まさかとは思いますが……敵を一時的に撤退させた後は、何もお考えになっていらっしゃらないと? 時間を稼ぎ王を救出した事は賛辞(さんじ)に値しますが、敵も間抜けばかりでは御座いません。時間が経てば再び侵攻を始めるかと」


「何と……言いますか、俺的にはこれが……精一杯だって言うかね」と、刀に視線を向けあたふたと言い(よど)んでいる凌二を見て、声の主を辿(たど)る一同は凌二の腰に(たず)わる刀に視線を向けると釘付けになった。


「おや、失礼しました。私は国綱(くにつな)、名は(つむぎ)と申します。主人様と共々よろしくお願い申し上げます」


一同が驚き目を点にする中「やはり意思をお持ちでしたか」と、ヨシュアが言葉を(こぼ)すと紬は「そこらに転がる三流の伝説の剣と一緒にされると困りますわ」と、自分を(ほこ)るように言い返す。凌二には紬が高笑いをあげながら、胸を張る姿が眼に浮かぶようだった。


そんな中、「陛下〜」と、声をあげ城の方から此方(こちら)に走って来る兵士が一人。


王は視線を向け「おっ、確かあの者は、物見櫓(ものみやぐら)に居た兵か。無事逃げ出せて何よりだ」安堵の息を()らし呟くが、走る姿に違和感を覚える。「大変ですーー!」と、声が掛かると共に城から轟音(ごうおん)が響き渡る。


「どうやら、進軍が始まったようです……思ったより早かったですね、如何しますか陛下(へいか)?」


ヨシュアは俺に視線を向けると、静かに言葉を掛けて来る。「陛下」と呼んだ事の意味は解ってるつもりだけど、さっき戦って解った。やはり俺は敵といえど、命を奪う事に抵抗を感じる。そして、仲間が命を落とす事だってある筈だ。王としての決断がこれ程重いものかと、戦火を前にして思い知らされる。


顔を(ゆが)め苦悩する凌二を置き去りにする様に、戦場は刻一刻(こくいっこく)と変化し与えられた時間を削り取っていく。


此方に駆けて来る兵の背後から再び轟音が響くと、城の城壁が崩れ其処(そこ)から先程の二個中隊が雪崩(なだれ)れ込む。その様子を見た凌二は口を開くが、命を左右する重さに声が出てこない。


「宗方君、君は何を願い何を望むの?」と、背後からアリッサに問われる。視線を向けると両腕を組み、少し首を(かし)げ微笑みながら優しい眼差しを向けていた。


「自分の言った事、忘れたのかしら? 戦火を少なくする事を願い、同盟国を作り抑止力になる事を望んだ筈よ。そして、住……国民は貴方と共に歩みたいと願い、()れを勝ち取った。それは、貴方の願いを共に叶えると言っているのよ」


「そうですね、陛下の御心(みこころ)には胸を打たれます。ですが、陛下の願いを叶えるために必要な戦です。そして、戦場……いえ、戦乱の世では綺麗事ばかりでは無く、時には敵を討つと非情に努める必要も御座います」


解ってる、解っているんだ。それでも俺は……民を戦に導くなんて事はしたくない。


そう心で呟くと、見透(みす)かしたようにヨシュアは「王の我儘(わがまま)を聞き叶えるのも臣下の務め。御心のままに、それがどれほど過酷(かこく)なものでも叶えてみせましょう」と、(かしこ)まりながら忠誠と言葉を凌二に(おく)る。


その言葉を受けると、凌二は諦めたように溜息をつく。今更ながら国民の願いの強さに(おそ)れ入る「その言葉信じるよ」そう呟くと、王に視線を向け口を切る。


緊迫(きんぱく)した中で申し訳ないんですが。フルクランダムの王として、ファムファーレンへの同盟を申し込ませて下さい」


「は? 同盟も何も国は(ほろ)びたと言っても良い。凌二殿の(えき)にはならん、考えるまでも無い筈だ。それに、機動要塞グラン・タイラントが後方に控えておる、進軍が始まったからには奴らも来る。あれを止める手立ては無い」


機動要塞グラン・タイラント名前の(ひびき)は強そうだけど、城に入って()ぐに出たから見てないんだよね。正直なところ何も知らない、実物も見た訳じゃないから対策を()る事も出来ない。どうしよう?


凌二は、機動要塞グラン・タイラントって何? と言う感じでヨシュアに視線を送る。(わざ)とらしく一つ咳をすると、主人に恥を欠かせない様にアドレアに説明を始めた。


「ドルドガーラの魔導兵器、機動要塞グラン・タイラントですか。その姿は砂漠地帯の巨大な地龍を()した兵器でして、長距離魔導砲と対人魔導機関砲、非常に強固な装甲を持ち。対魔障壁にしても、高いレベルで備えています。難攻不落の要塞で、現存するのは一基ですが国を侵略するのには充分ですね」


腹を(くく)り同盟を組む為に戦う事を決めたが、説明を聞きた途端(とたん)暗礁(あんしょう)に乗り上げた。だけど、機動要塞グラン・タイラントをどうにかすれば、状況は好転するかも知れない。流石(さすが)に外からどうにかなるとは思わないし、何とか内部に入って止める事が……


思考を(さえぎ)る様に「陛下ーー! 逃げて下さーーい!」と声が耳に届く、視線を向けると物見櫓に居た兵が此方に辿り着こうとしていたが、敵兵もかなり近付いている。


「陛下、御命令を」とヨシュアが言葉を掛け、続ける様に「そうね、指示をお願いするわ」と、アリッサは微笑みながら口を開く。目を閉じ拳を握り締め、自分が出す命令により命が奪われる、その罪の重さを思い知る。そして、歯を噛み締め顔を歪ませると罪を背負う覚悟を決め、凌二は静かに(まぶた)をあげ雄々しく言葉を響かせた。


「我が名を持って命を下す! この地はファムファーレンの王と民のものだ、侵攻(しんこう)する者共を押し戻せ! そして、誰一人として欠ける事無く、我が元に戻る事を厳命(げんめい)する!」


命令を(つつし)んで受け入れる、そう意思を示す様にヨシュア達は静かに(うなず)き、迫り来る敵兵の前に向け歩き出す。その中で微笑みを浮かべながら、嬉しそうにヨシュアは口を開く。


「いや〜 陛下からの厳命ですか、嬉しい限りです。敵兵の数は今の所二、三百と言った所ですね、私は何方(どちら)かと言いますと複数戦向きでは無いのですが……」


「まあ、三人で相手する数じゃないわね、その辺は私が何とかするわ。問題は機動要塞グラン・タイラントね……対抗する魔法はあるけど、人の身だと放つのに時間が掛かるわね」


「それに関しては、何やらカミラさんに考えがあるみたいですよ?」


「そう言えば……サラも何か言ってたわね」世間話をする様に悠然(ゆうぜん)と歩む三人に向け、敵兵は猛然(もうぜん)と向かって来る。


アリッサは立ち止まると(おもむろ)に腕を伸ばし、大地に掌を向け(かざ)し詠唱を始め、幾つもの魔方陣が囲う様に浮かび上がり、黒い霧が現れ人の姿を現し始める。その数は五十を超え、魔導師として(ただ)ならぬ力を示す。


「ふう、以前はもっと多く出せたけど、人の身だとこんなものかしら」そう(なげ)くと、眷属(けんぞく)達はヨシュアを中心に二手に分かれ、敵兵に向かって走り出した。ヨシュアは()れを横目に「陛下の御心に叶う戦をします。出来れば暴走させない様にお願いしますよ」意地の悪い笑みを浮かべながら言葉を掛け、歩調を(くず)さず散歩(さんぽ)をするかの様に集団の中に向かう。


己を(さら)すように間合いに入ると、先頭の敵兵が雄叫びをあげヨシュアに剣で()りつける。

縦に切り下ろされた斬撃(ざんげき)は、何気ない歩法で(かわ)され。ヨシュアが兵士の肘に掌を()える様に触れると、ダラリと肘から先が力無くぶら下がり関節を外される。更に笑顔を浮かべつつ、舞う様に位置を反転させると、兵士に残る腕の関節は音もなく外された。


息をつく暇も与えないと、背後に回った敵兵は手を(ゆる)めずヨシュアに斬りかかる。しかし、くるりと反転したかと思うと、振り下ろされる手首を掴まれた瞬間に関節を外され。そして、ヨシュアは歩法を使い兵の隣に並び立つ様に位置を取ると、「失礼しますよ」そう(ささや)くと同時に反対の手首の関節を外した。


武器を持つ事が出来なくなった、二人の兵士は悲鳴(ひめい)と共に膝をつく。その声は戦場に響き渡り、敵兵団の戦意を削り動きを暫くの間止める事が出来た。ヨシュアは兵士達を視界に収めると、(すず)しげな表情で口を開いた。


「我が王の御心により、無駄な殺生(せっしょう)はしません。お帰りの方は追いませんが、未だ戦意をお持ちの方は……そうですねえ、それなりに痛い思いをしてお帰り下さいね」


「戦い方も性格が出るわね。嫌味眼鏡(いやみめがね)顳顬(こめかみ)を押さえながらアリッサが皮肉を吐き捨てると、ヨシュアの前に二メートルも有ろうかと思う大男が、兵士達を()き分け現れる。その手には長めのハンマーを持ち、間合いの長さは一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。


「貴様はどうやら、関節を外すのが得意らしいな。ならば、触れられなければ良いことよ!」


言葉を放つと共に大男は、ハンマーをヨシュアに向け()(はら)う。大きく(たくま)しい体躯(たいく)から()り出されたハンマーの先端(せんたん)は、先程の斬撃とは比べ物にならない速さを見せる。そして、薙ぎ払う事により、ヨシュアを(ふところ)に入らせない工夫もされ、男の目には勝利を確信するものがあった。


高速で襲い来る鉄の(かたまり)、破壊力は想像を(ぜっ)するものだろう。鎧すら紙と思うぐらいに簡単に形を変形させ、身に付ける者を(くだ)く。単純であるが(ゆえ)に、当たれば確実に勝利を約束されていると言っても良い。


だが、そうはならなかった。ヨシュアは向かい来るハンマーを片手で受け止め、ゆっくりと眼鏡の位置を調整すると、微笑みながら飄々(ひょうひょう)と口を開く。


「素手でハンマーを受け止めるのは、痛そうで嫌だったんですが。ダナさんと比べると、身体強化のレベルが違いすぎて驚きです」


大男は唖然(あぜん)とするも、再び撃ち込もうとハンマーを動かそうとするが、ビクともしない。ヨシュアの手は先端を(つか)むどころか掌で触れているだけ、何が起きているのか解らない男にヨシュアは言葉を掛ける。


「私は医者でして、医療魔法と気功……それと雷系の魔法も(たしな)みに(おぼ)えがありまして」その言葉を聞きながら男は顔から血が引くのを感じていた。


「気と微弱(びじゃく)な電気信号を、武器を通じて流させて頂きまして。貴方の身体の自由を(うば)わせて貰いました」


男が「おっ! お前は「鮮血の死神ヨシュア」か!」そう叫ぶと同時に、ヨシュアは懐に(もぐ)り込み掌を鳩尾(みぞおち)に当て、「ふんっ」と、気を込めると男は(はじ)ける様に後ろに吹き飛び、他の兵も巻き込み薙ぎ倒しながら十メートルくらいの所で(ようや)く止まる。


「やれやれ、医者に向かって死神とは失礼な方ですね。そういう人は(ごう)……お仕置きですかね」


「「今、絶対拷問(ごうもん)って言おうとしてた」」


アリッサとアドレアが心の中で突っ込むと、その二つ名を聞いた兵士達は、武器を投げ捨てると(きびす)を返し脇目も振らず走り出す。十数年前に無手で戦場を渡り歩き、返り血でその身を染め上げた最凶(さいきょう)の医師。その(うわさ)色褪(いろあ)せる事はなく、戦場にいる者は出会わない様に祈る程の猛者であり。実力を()の当たりにして疑う事はなく、蜘蛛(くも)の子を散らす様に兵士は逃げて行く。


アリッサは「貴方、何したの?」と、呆れながら聞くとヨシュアは「いや〜 若気の至りといいますか、若さ故の(あやま)ち? と言いますか」頬を掻きながら誤魔化す様に答える。


「しかし、私の出番はありませんでしたね」そうアドレアが呟くと、「安心しなさい、これからが本番の様だわ」そう答えたアリッサは、向かって来るフルプレートの一団を視界に捉えていた。


その数は約六十程で、戦ではそこまで規模は大きい物では無い。しかし、それは魔導兵器であり、数以上の戦力である事は間違いなく、先程の敵兵団と比べる事は出来ない。そして、その後ろには失った腕を取り戻し、復讐に燃える憎悪の光を目に宿したロドスの姿が見え、歪んだ笑みを浮かべ口を開いた。


「私を馬鹿にした罪、死を持って(つぐな)うがいい」


未だ勝利の糸口は見えず、王達を襲う新たな試練。鎧の不気味な音が戦場に響き渡る。

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