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剣の世界

メイドは、呆気(あっけ)にとられ唖然(あぜん)とした表情を浮かべている凌二に、肩まで伸びた(つや)やかな黒髪を(なび)かせるように、首を(かし)げ言葉を掛ける。


「あの〜 お客様、如何(いかが)なさいましたか? お具合でも崩されましたか?」


「えっ、いや、大丈夫です」


「そうでございますか。では、此方へどうぞ」


導かれるまま、凌二は後ろをついて歩き門をくぐる。目に入って来たのは、青い芝生と色とりどりの花、隅々まで手入れの行き届いた広い庭園。メイドが脇目を振らず歩く先には大きな屋敷が見えた。


「あの、すいません。此処(ここ)ってどこなんですかね?」


此方(こちら)は、クワド・リュクス様がお住みになられる領内となっております。久方(ひさかた)ぶりのお客様に、お喜びなさると思います」


「はあ〜」と我ながら間の抜けた返事を返す。

俺の知りたい事はそこじゃ無い、この世界についてなんだよね。まあ、いいか。話の流れで聞ければ良しとしよう。ていうか、二度目となると耐性が出来たのか、思いのほか冷静でいられる自分に感心してしまう。


「クワド・リュクスさん……様は、どんな方なんですかね?」


「そうですね、旦那様はお優しいお方です。私どもの様な下々の者にも、気を掛けて下さいます」


冷静ではいるが、やはり緊張していたんだろう。それを聞いて、ほっと胸をなで下ろす自分がいた。別に取って食われる訳ではなさそうだな。


「ただ、敵に対しては容赦(ようしゃ)のないお方ですね。戦では先陣を切り、幾千の(しかばね)を積み上げ恐れられておりました。そのため敵からは「残虐王(ざんぎゃく)」と畏怖(いふ)の念を込め呼ばれております」


「残虐王」そう聞くと、血の気が引く感覚を覚え思わず唾を飲み込む、一体どんなに恐ろしい人物なんだろうか、会って大丈夫だろうかと新たに緊張感が生まれる。


屋敷の玄関に辿り着くと、メイドさんは扉を開き「どうぞお入り下さい」と俺を招き入れ、中に通されると主人の書斎と思われる部屋の前に導かれる。メイドがコンと乾いた音を4回鳴らすと、扉越しに声を掛けた。


「旦那様、お客様をお連れしました」


「はぁ、旦那様? ……入れ」


ため息混じりの返事を受け、「失礼致します」と一言掛け扉を開き一礼。数歩ほど室内に入り横に一歩譲る様に動き立ち止まると、視線を凌二に向け「お入り下さい」と告げ入室を(うなが)した。


それに従い入室すると、大きな本棚に使い古された立派な机と来客用のソファー。そして、目の前には短めで少々癖のある黒髪に、蒼い瞳と薄い灰色の肌、装いは屋敷と相応に整っており、身長はメイドと差がなく140センチ位の少年が迎えてくれた。


「久しぶりの来客だな。僕がクワド・リュクスだ、種族は青眼(せいがん)魔族だよ」


「あっ、む、宗方 凌二って言います。種族は人間です」


「ふふっ。我が屋敷にようこそ、気を楽にしてくれていいよ。掛けたらどう?」


「あ、有難うございますクワド様」と緊張しながら対面の椅子に腰掛けようとすると、「緊張しなくていいよ、堅苦(かたくる)しい(しゃべ)り方も無し。それと僕のことはクワドで頼むよ」と、あどけない面持ちで言葉を掛けられた。その風貌(ふうぼう)は想像とは違い驚いたが、結構フレンドリーな子なのかなと、最初の印象としては好感が持てた。


「さてと、客人を迎えた訳なんだけど。どうしようか、何か聞きたいことが有るかな?」


「それなら、この世界について教えて貰いたいです……かな」


緊張し、まだ慣れていない言葉遣いに微笑む。その後、クワドは呆れた様な表情を浮かべながら、メイドを睨む様に視線を送り、溜息をつきながら呆れた様に肩を竦め口を開く。


「やれやれ、説明も無しか。客人にお茶を()れる事もしない、それで本当にメイドなのかな? 全く……」


素知らぬ振りを決め込み、涼しい顔で嫌味を聞き流すメイドを余所に話を続けるクワド。


「此処は剣の世界だよ。最後に触れたものを、思い出したら解る(はず)だけど」


「えっ、王剣の中って事?」


「ああ、そうなるよ。で、僕は君が来た時代から数えて、二代前に剣の持ち主だったんだ」


「三百年以上も昔の人って事か……「残虐王」って呼ばれていたって聞いたんだけど、その理由を聞いても?」


頬を()きながら考え込むクワドの姿を見て、不味いことを聞いてしまったと思い。「今のは無かったことに」と言いかけた時。


「青い瞳を持つ僕らは、魔族では最弱の部類に入る。その社会で位の高さを示すものは「力」で決められ、それを持たない者は服従するしかない。拒絶したものは蹂躙(じゅうりん)される、そんな世界だったんだ」


俺の言葉を(さえぎ)る様に、ソファーの背もたれをギシりと鳴し。ゆっくり(まぶた)を閉じ当時を思い出すと、少し苦い表情を浮かべながら口を開いた。


「たまたま、剣の持ち主になった僕は力を求め、襲いかかる敵から仲間を守る為に闘った……それだけだったんだけど、気付けば数えきれない屍を築き上げ「残虐王」と呼ばれていた。って所だよ」


「残虐王」と物騒な名を聞き、不安に思って(たず)ねた事だった。話の意味合いとしては、嬉々として敵を討っていた訳では無く、仲間を守る為に仕方なくと言った感じが伝わってくる。戦乱に関わった事は無いが、彼の姿を見ていると何とも言えない想いを抱いてしまう。


複雑な表情を浮かべながらも話してくれた事に、申し訳なく思い。頭を深々と下げ「ごめん」と謝ると、「聞かれたから答えただけ、気にしないで良いよ」と微笑みながらクワドは言ってくれた。俺は雰囲気を変えようと、他の話題を持ちかける。


「二代前とか言ってたけど、他にも持ち主っているのかな?」


「居るよ、もし良ければ僕が案内しようか? あのメイドよりも役に立つと思うしね」


クワドは席を立ち部屋の隅にある、180センチくらいの長方形を型どった紫の布を取り払い、大きな(かがみ)を凌二に見せた。鏡に手を向け「門よ開け、そして、世界を(つな)げ」と呟く。すると鏡面が波打ち始め、次第に光に埋め尽くされたと思うと、室内とは違った景色が映し出される。

「じゃっ行こうか凌二君」そう言うと、扉をくぐる様に鏡に吸い込まれていくクワドを、追いかける様に凌二も慌てて飛び込んだ。


鏡の向こう側には青々とした草花、樹齢(じゅれい)が千年有るのではないかと思ってしまうほどの大樹が、所狭しと生い茂っており、辺りからは歓迎するかの様に、鳥の(さえず)りが聞こえてくる。


「凌二君、こっちだよ。(はぐ)れないように気を付けてね」


確かに、こんな所で逸れて遭難でもしようものなら、一日も持たないかも知れない。そう思った俺は急ぎ足で、クワドの横に並ぶ。


「今案内するのは「知」を(つかさど)る者「精霊王」と呼ばれた、エルフのフィルフィアだよ。僕の次に剣の主人になったんだ」


「へえ〜 ん「知」を司る? クワドは「力」を司っているの?」


「うん、正解。あとは「技」と「心」と「運」を司る者が居るんだけど、ちょっと訳ありで休眠中ってとこかな」


複雑な表情を浮かべ、ははっと乾いた笑声を出し誤魔化そうとするクワド。その時背後から声が掛けられる。


「ですが、会うだけでしたら「心」の者とは可能ですよ」


視線を向けるとメイドの姿があった。睨む様な視線を浴びせ「なんだ、着いてきたのか。帰っても良かったのに」とクワドは言葉を放ったが、先程と同じ様にさらっと受け流すメイド。


なんだろな主従関係なのに、この二人仲が悪いのかな? そう疑問に思うが、口には出さずに胸に秘めておく。


「あっ、ほら見えて来たよ、あそこがフィルフィアの屋敷だよ」


「えっと、よくわからないんだけど。ん〜」


そう言われて見てみるが、辺り一面緑に囲まれ解らなかった。目を細めもう一度見直すと、薄っすらと石造りの(へい)が見えた。もう少し近づくことで(ようや)全貌(ぜんぼう)が解る。

クワドの屋敷より規模が小さく、屋敷と言うよりは一軒家。至る所に(つる)が絡みつき、周りの景色と同化している。家の玄関らしき場所に辿り着くと、クワドは声を掛けた。


「お〜い、フィルフィア! 久方ぶりの来客だよ〜」


家の中からドゴッボキッと、物騒な音が玄関に向かって来る。音が消え扉が開かれると、中は蔓に埋め尽くされていた。

手入れが行き届いていない長い金髪、丸みを帯びた眼鏡は斜めにずれていたが、そんな事はお構いなしといった感じで、深緑のローブを(まと)ったエルフの女性が()う様に出て来た。


「おお! 本当に客人ですね〜 ようこそ我が森へ、私はフィルフィア・シルドフィードです。あっと種族はエルフね〜」


凌二に視線をやると、とのんびりとした口調で言葉を掛ける。

種族的に寿命が長いから、のんびりした人が多いのかな? と、凌二は軽い疑問を抱きつつ、微笑みながら言葉を返した。


「宗方 凌二と言います。種族は人間です」と告げると、手を差し出して助力を申し出る。


「はは、有難うね。あと扱いはクワドと同じでよろしくね〜」


這いながら凌二に近寄るその姿を見て、笑いを(こら)えつつクワドは口を開く。


「フィルフィア。せめて家の中は剪定(せんてい)しないと、住めなくなっちゃうよ」


「全くだね、読書に夢中で気が付かなかったよ〜」


フィルフィアは凌二の手を取り立ち上がりながら、少し顔を赤らめ間の抜けた言葉を返す。和気藹々(わきあいあい)と笑い声を上げる三人だったが、それを遮る様にメイドが言葉を放つ。


「それでは次は「心」の者に会いに行きましょうか、お客様」


その言葉を受けたクワドとフィルフィアは、メイドに視線を移すと口を開いた。


「いやそれは必要ない。僕は凌二君を見て、剣を(ゆだ)ねる事に問題は無いと思う」


「私も同意見だよ、私は「技」の者に任命権を委任されている。そして、クワドも「運」の者に託されている。問題はないはずだよ」


話の内容が解らず、取り残された様な感じを覚えフィルフィアに質問を投げ掛ける。


「えっと、どういう事なの?」


「剣の持ち主になる為に、それぞれの力を司る者に会うことが必要なんだよ。最低でも半数ね。で、事実上半数以上が凌二君を認めている、だから元の世界に帰れるの」


その言葉を聞いたメイドは、口角を上げ薄ら笑いながら口を開いた。


「そうですか、残念です。「心」の者は嫌われている様ですね、己の命をかけて民を守った立派なお方なのですが……」


表情を隠す様に背を見せると、さらに口角を上げ言葉を続ける。


「確か下々の間では「英雄王」と呼ばれておりますが」


凌二は「英雄王」と聞いた瞬間、時間が止まった様な感覚に襲われた。


「さて、如何致しましょう? お会いになられますか?」

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