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05


最初の印象は、マジふざけたインチキおかま野郎だった。


どこかの物語のヒーローみたいに、ピンチになった時に助けられた覚えはないけど、スラム出身の私が、また一般市民と同じように働けるようになったのは、シンディア様のお蔭だ。


父が生きていた6年前の頃と同じか、それより少し上の暮らしを手に入れた私は毎日朝になると、シンディア様に感謝していた。


私は、人並みの生活を与えてくれた事が嬉しかった。


だから、大好きな人だ。


誰よりも大切だと思うし、幸せになって欲しいと思っている。


どんなに憎まれ口を叩いていても、どんなに無理難題押し付けられても、全部、全部シンディア様だったからだ。


シンディア様の前では素直になんかなれないし、だけどシンディア様だから、どんな無茶な事を言われても仕方ないと割り切ったつもりで、スパイ染みた事だってした。


シンディア様に頼ってもらえた事が嬉しかったんだ。


だから、卑怯だと思った。


最後のお別れの言葉が、「君が好きだよ」なんて、あんまりだ。






「ルナさん、随分ボーっとしてますね。寝不足ですか」

客が引いた店内で、気付けばサージャ様が目の前に居て私の顔色を見ていた。

「……ひっ!!!?」

心臓がドッドッドッと激しく脈打っている。

吃驚した。吃驚した!!

「…サージャ様…」

「店主と奥方が心配していらっしゃいましたよ。最近のルナさんは上の空で、暇さえあればボーっとしているって」

「……すいません。ご心配お掛けしました」

「時間をいただきました。少し、お茶しましょうか」

そこから、有無も聞かずにサージャ様は私の手首を掴んで茶屋へと入り、適当に二人分を店員に頼んだスマートさを見せてくれた。

ヤバい。これは、サージャ様モテる。

「それで、最近どうなされたんですか」

「………あ、あの、シンディア様は元気ですか…?」

「………え?」

サージャ様に最後にシンディア様が私の部屋に来た事を話した。その時にあった事を洗いざらい全部喋った。喋ったらスッキリした。

「なるほど。それで…」

何か思い当たる事があるのか、サージャ様もスッキリした顔をしていた。こっちは何を納得したのかはわからないので、説明してほしい。

「詳しい説明は現時点では出来ませんが、もしも一国の王子とスラム出身の娘が結ばれるとするのであれば、それは夢物語だけです。国の事を思っている王がおちおちとシンディア様を最下層の娘と結ばれるような事をするとは思えません」

そんな事は、言われなくてもよくわかっている。私がもし王様だったとしたら、私だってそう思うし。一国の王子様がスラムの娘と娘と結ばれる。それはとんだ夢物語だ。

「奇跡でも起きなきゃ、思うだけ無駄って事ぐらい知ってます。まぁ、奇跡が例え起きたとしても、無理でしょうけど」

「………ルナさんのお父上の話が聞きたいです」

どんよりとした気持ちを察せられたのか、サージャ様は無理矢理話を変えるように私の父の話を求めた。

とは言え、私は父の事をあまりよくは知らないのだ。でも、知っている父の姿はいつも私を守ろうとしてくれていた気がする。

「父は、小さな酒屋の店主をしていました。その前の事は、よく知りません」






父は、小さな酒屋の店主だった。

来る客は陽気な客が多くて、私は客によく可愛がられていた。その中には国の兵士様や警備隊の人達、近所のおじさんがよく来ていた。

たまに、白いローブを着た人が来るけど、それぐらいだ。白いローブが着た人が来ると、父はすぐさま私をカウンター下に隠してくれていた。話す内容は変な所は一切なかった気がするけど、私がその人に話し掛けようものなら激しく怒られた。

どうしてかはわからない。けど、私はその人と話してはいけない事なのだと漠然とそう思った。

そして、それからすぐに父は流行病で床に付き、店は閉めざるをえなくなり、その半年後に父は死んだ。

暫くは父が残してくれた少しばかりのお金で暮らしていたが、それもすぐに奪われたり盗まれたりして底を付いた。そこからは、シンディア様と出会うまではスラムで生活をしていた。

そこまでサージャ様に話すと、サージャ様は考え込んでいた。

「サージャ様?」

「ルナさん。白いローブを着た者達、というのは」

「うーん。詳しくは覚えていませんが、その時は頻繁に緑色の長い髪の人が来ている事ぐらいしか…」

「緑色の髪ッ!?」

酷く驚いた様子のサージャ様は、急を思い出したとこで、すぐに帰ってしまったので私も店に戻り、店主と奥さんに心配を掛けてごめん、と謝ると二人は私を強く抱き締めてくれた。






「陛下!陛下!!ご報告したい事があります!」

大きな声でかつ、扉をコンコンコンと三回鳴らす。

この国の王は暇があれば王妃をすぐに抱き潰そうとするのだ。急に扉を開けて、交わっている所だったら、王の機嫌は急降下し地獄の鬼ごっこが始まる。あの体力に付いていくのは無理だ。第二王子とシンディア様の底無しだと思われる体力でさえ逃げ切るのは困難を極めているのだ。無理だ無理。

「入れ」

すぐさま許しを得て入ると、陛下と宰相様、それから王妃様が何やら会議をしていた様子。

三者三様、白い手袋を手にハメて地図を広げてチェスの駒を傍らに置いていた。

「あら、サージャじゃない。まさかシンディアに苛められたの?」

「いえ。最近のシンディア様は気落ちしておりますので、それはありません」

それまではあったのかと言いたげな視線を宰相様と王妃様から受け。軽く咳払いをする。

「恐らく、ではありますが、聖女様を見つけました」

「そうですか。それはようございました。陛下、ミケを向かわせても?」

「頼む。これで、うちの国は安定するな」

広げた地図とチェスの駒を片付けてる王妃は、深い溜息を吐いていた。

「サージャ。シンディアに伝えろ。聖女を迎え入れる準備をする、お前が指揮を取れ」

「かしこまりました」

一礼をし、退室するとすぐさまシンディア様が居る執務室に向う。






我が国、フォルセナ王国は聖女が不在の状況が20年近く続く。

聖女は死ぬと次代の聖女が産まれる。

何故かは知らないが、神の思し召しなのだろうと神殿、それに連なる者達は言う。

聖女が居る意味は、主に国の安定である。国民達が王の膝元でより安心できるようにと神から与えられし人間だ。聖女が居るというだけで魔力は安定し、魔物は人を襲う事はせず、また侵略もしない。国同士の戦争は免れない時代があったらしいがその時代以外、存外平和なものだった。そのため、各国には、聖女あるいは神子と呼ばれる神の御使いが必ず一人は居る。

だが、フォルセナ王国は前代の聖女様が亡くなった後、聖女が産まれなかった。正確には見つからなかった。

そこに付け込み、貴族達がここぞとばかりに自分の娘こそが聖女であると、前代の陛下にひっきりなしに申し入れたそうだが、そんな申し入れを受け入れる程当時の王も間抜けではなかったのだが、そんな大事な時期に天才と言われた現在の宰相が姿を消し、捜索まっただ中、同じ時期にその当時の大神官が排斥され、そこから政治から神殿全てに腐敗が始まったのだ。

前代の王だけでは手が全く回らなかったようで、腐った政治を敷こうとする貴族を抑え、無駄遣いをしようとする神殿の経費を減らすぐらいが精一杯で、国が潰れそうになる一歩手前まで行った崖っぷちの時にようやっと宰相が戻ってきたのだ。

宰相が戻り、政治はまた安定を取り戻しつつあった時に宰相が呟いた。「そういえば聖女様はまだ存命ですか」と。その瞬間、王は蒼褪め「すっかり忘れていた」と呟き返したそうだ。そこから当時の大神官を宰相はその日の内にバッサリと排斥。前代の大神官を呼び戻そうとしたが、拒否に拒否を重ねられ、いつの間にか彼は亡き存在となってしまったのだ。

今は、新しい大神官を迎え神殿も落ち着きを取り戻しつつあった。聖女の存在を除いて。

いつの頃か王妃が大層可愛がっている神獣のミケ様は、毎日のように本来聖女様が住んでいるはずの屋敷の部屋や、庭をそれはもう寂しそうに眺めていた。神殿の者も最近は、気落ちしつつあり、このままではまた良からぬ貴族に神殿の最高位を奪われる可能性も見えてきた頃に、ルナさんのあの話である。

「シンディア様!」

「なんですか。もう少し静かに入ってきてください。こっちは二日酔いで気分が最悪で、」

「そんな事よりも!」

「いや、私は一国の王子なんだけど、もう少し思いやってくれても」

近くにあったポットを傾けて、グラスに注ぐと執務机に叩き付けるように置く。

「ルナさんを迎えに行きましょう!」

「は?」

ポカンと呆けるシンディア様の首根っこを引っ掴んで、転移の魔法を展開した。


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