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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
上陸、魔大陸!魔王と四魔公
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上陸、魔大陸!魔王と四魔公 3

 〜船着き場〜



『ウォット大陸行きの便、出航しま〜す!!』



 シャルはブルーマリンにある船着き場に来ていた。今回秘密裏の依頼の為、フィーに見送りは遠慮してもらった。



(ウォット大陸か、どんな所なんだろう?)



 船に乗り込みながら、まだ見ぬ大陸にワクワクしていた。魔大陸と呼ばれ、魔族が多く住む地。ブルーマリンで魔族は何人も見かけていた。その魔族の故郷となる大陸には興味があった。



(前世で見たゲームだと、魔王は敵として存在した。でも、この世界では友好な関係を結んでいる……確か、アルスさんが種族間の差別を無くしたって聞いたけど。)



 英雄“黒の奇術師”。種族間の差別を無くしたという事は、元々魔族は他の種族と仲は悪かったのかもしれない。もしかしたら、他の種族も、



(本当に凄い人だなぁ。フィーにどんな人か聞いたけど、どっちかと言うと天然な所とか失敗談を暴露してて、凄さが霞みそうになったけど。)



 尊敬はするが、凄さと共に天然な所を知るので同時に大丈夫かな?と彼が残した物に関して心配になる事もある。



(前魔王。“ガングリフォン・D・イレスター”。黒の奇術師ではない、アルスさんを知る数少ない存在。)



 500年前の詳しい状況を知る存在は、皆の話では本当に少ないらしい。それだけ世界が衰退しかけていた事にもなる。だが詳しく知る存在は皆500年前の事を詳しく話そうとしない。それ故に、500年前から生きている存在から有力な情報を得る事が出来るだろう。



(何とか、少し会話するくらいは持って行きたいわね。)



 話さないのには何か事情がありそうだが、何もしない訳にはいかない。



(そういえば。)



 考え事をしていたシャルは、ふと疑問に思った事があった。



(この世界に黒い魔物の影響があるのは知っているけれど。海や空はどうしているのかしら?大陸周辺の海域に封印の効果はあるけど、海全体って訳でも無かったわよね?)



 本当に世界の破滅を導く存在であれば、大陸やその周辺だけ食い止めても意味がある様に思えなかった。しかし、実際に500年間その存在を封印する事は出来ている。前世の経験を考えれば不思議ではないが、心配にはなった。



(ここがもし一つの星だとして、星の外に関しては、多分前世の事を考えればこの星で事を成せば世界そのものを破滅に導く事は可能……だとしたら、全部封印の影響を与える必要は無いのかな?)



 細かく考え過ぎればキリがない事、ただ疑問に思う事は大事な事だ。



(こうやって色々考えてると、前世の時の事を思い出すわね。いつも、考え過ぎてマグナスに諭されてたっけ。)



 ◆



【世界の破滅って言っていたけど……世界は広いわ。星は一つじゃない。何でこの地球が終われば世界の破滅につながるの?】


【そうだな、世界は広い。お前が思っている以上に。だからこそ、きっかけなど些細な事だ。小さな星が一つ消えるエネルギーが、大きな消滅を生む事もある。小さく例えるなら、小石に躓いただけで、街一つが消えるきっかけになる事もある。】


【そんなこと……】


【あり得ないと思うか?もう一度言おう。世界は広いと。この世にあり得ない事などない。全ての世界に可能性がある。その可能性を生かすも殺すも。その世界で生きている存在次第だ。

 お前が生きているルールは、元々世界にあったか?自分達で作ったのだろう?それに縛れられ、苦しめられて生きている。そして、理不尽に世界を恨む。お前が持つ概念を改めろ。でなければ、世界に取り込まれ無惨に死を迎えるだけだ。】



 ◆



(あれ?どうしてかしら?無性にイライラして来たわ。)



 良い思い出だという風に思い起こしていたが、だんだん前世での相棒の上から目線の物言いを沢山思い出し、苛立ちを覚えた。



(よくよく思い起こせば、彼だいぶ偉そうな事を言ってたわね。まぁ、当然なんだけど。とりあえず、私を心配してああいう言い方をしたって思わないと、もし今度会ったら頰をつねりたくなるわ。)



 この世界の状況から察するに、いつか再会する確率は高いだろう。その事を考えると、もし会ったら若干憂さ晴らしをしたかった。



(世界は広い……か。確かにそうよね。ゆっくりと外の景色を眺める事なんてなかった。景色を綺麗だと心から思えなかった。でも、今は……)



 シャルは船から見える外の景色を見ながら、自身の記憶を巡らせた。かつての自分のとの違い、そして今見える景色。今いる沢山の仲間と、この世界を守ろうとした英雄の事。



(必ず守ろう。皆が笑顔で暮らせる世界の為に。)



 彼女はその想いをより一層強くした。




 〜次の日〜



『間もなくウォット大陸に到着しま〜す!荷物など忘れ物が無いようにして下さ〜い!』



(いよいよウォット大陸か。まずは、情報を集めないと。確か、フランソワさんが言ってたこの街の名前は、“クルト”だったかしら?そこから王都に迎えば良いのよね。)



 港街“クルト”。リース大陸からの便のほとんどがこの港街に着く。流石に王都ほど広くはないが、交易が盛んで人で溢れ返っていた。



(人が多いなぁ。下手に目立つ行動は避けないと。あまり喋らない方が良いのかなぁ。)



 自分を知る人間もここにはいる可能性が高い、というよりちらほら見た事のある人がいる。逆に知っているが故に向こうから声を掛けてくる様子はないが、妙な騒ぎになって魔王の所にすぐに情報がいくのは避けたい。

 港から入るにあたって、門番がいたが。声でバレる可能性があるので。声を出さずに冒険者証を見せてみた。



「はい、冒険者証を確認……?どっかで見た名前だな?」


(早速バレたかしら?)


「ま、気のせいだな。ようこそ、“クルト”へ。」


(警備、大丈夫なのかな?)



 心配になる雑さ加減だが、今はそれが有り難かった。



(ここが“クルト”か。)



 改めて街を見ると、栄えている事がよく分かる。魔族の故郷というだけあって、割合としては魔族の方が多かった。



(まずは冒険者ギルドへ向かわないと……あ、丁度良い所に冒険者っぽい人が、あの人について行こう。)



 知らない人について行くのは危ない、という年齢ではないので、そのまま冒険者っぽい人について行くシャル。



(流石に港街だから魔族だけって事はないのね。でも、ここまで来ると見た事のない人ばっかりだから大丈夫そうね。)



(((((なんで隠者のシャルがここに?)))))



 実はバレているし、という事はシャル知らない。ただ気軽に干渉する事は薔薇の集いに禁止されているので、皆静観しているだけである。



(さて、最近おかしな事が起きていないか聞き込みしないとね。封印が実は解けていましたってシャレにならないから。)



 そんな事とはつゆ知らず。シャルは目の前の冒険者っぽい人について行くのだった。


 スタスタスタ、




「…………。」

「…………。」




 スタスタスタ、




「…………。」

「…………。」




 スタッ、




「……え〜と、お嬢さん?何故私の後をつけるのかな?」

「…………。」


(う〜ん、失敗したわ。露骨に付いていったのもそうだけど、この人冒険者じゃなかったのね。)



 初めて此処に来て迷い、ヒヨコの様に上級の冒険者に付いていく新人冒険者を演じたが、そもそも冒険者ギルドに行く気配がなかったし、冒険者じゃなかった様である。なので、シャルはすぐに謝った。



「ごめんなさい!冒険者ギルドに行こうと思っていたんですけど、場所が分からなくて、誰かについて行けば辿り着けるかと……」

「?!あ、ああ……そういう事。」



 一瞬、シャルの声に驚いた様だが、すぐにシャルの最もらしい言い訳に納得し、親切に冒険者ギルドの場所を教えてくれた。



「冒険者ギルドは反対側だよ。向こうの道を真っ直ぐに行って左に曲がった先にある。」

「ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしました。」



 そして何事も無かったかの様に立ち去ろうとしたが、



「あ、冒険者ギルドに行く前に少し良いかな?」


(バレたかしら?)



 急に呼び止められ、シャルは足を止めた。自分が隠者のシャルだとバレた可能性が高かった。



「実際に会った事はないが、“隠者のシャル”という人物は、とても美しい声で、漆黒の黒いフード付きローブを身に纏った人物と聞く。」

「他人の空似ですね。」



 案の定バレたていたが、すぐに否定する事で会話を流そうとした。



「ちなみに、大騒ぎにはなっていないが、ついさっき隠者のシャルがこの“クルト”に来ている事が噂されている。」

「…………。」



 だが、冒険者っぽい人……魔族の男は更に証明する。



「それと、そのローブ。認識阻害や色々と能力がある様だね。申し訳無いけど、少し探りを入れさせてもらった。まあ、見るだけだと弾かれるみたいだけど。」

「…………。」



 そして、どうやら、只の冒険者っぽい魔族では無かった様だ。



「さて、“隠者のシャル”。この国に何の用かな?もし、あの件で来たのなら。対応を変えなければならない。」

「ごめんなさい!!」



 シャルはすぐ素直に謝り、自己紹介した。更に白薔薇のエンブレムを取り出し、自身が本物である事を証明した。



「えっと、改めまして。私はシャルです。ちなみにこれが白薔薇のエンブレム。」

「……やはり。」



 魔族の男は予想が当たった事に納得し、何かを考える動作をした。


「あの、貴方は?」

「私は……」



 シャルはすぐに相手の素性を知ろうと聞いたが、魔族の男は周りを見渡すと、少し考えた後シャルに提案した。



「少し場所を変えて良いかな?此処では騒ぎになる。一応、私も変装をしていのでね。」

「分かりました。」


(……これはやらかしたかもしれないわね。)



 男の只ならぬ雰囲気を察し、自分が相当偉い立場の存在に出会ってしまったと確信し、男に付いて行く事にした。



 〜とある食事処〜



「いらっしゃ……!?」

「ああ、すまない。今回はお忍びでね。」

「は、はい!ではこちらに!」



 魔族の男とシャルが来店すると、一人の店員が声を掛けた。その時、魔族の男が何か特殊な動作をし、店員が男の顔を見ると驚愕した。

 すぐさま席に案内され、落ち着いた所で男が話始めた。



「ここなら情報は漏れない。さて、改めて自己紹介しよう。」


(変装を……取ったのね?)



 男は変装を完全に解いた。シャルには効いておらず素顔を見ていたシャルだったが、その容姿は黒髪に金色の目。少し皺のあるダンディなその顔立ちは、前世の親戚の叔父に似た顔立ちをしていた。鎧も身に纏っていたので、いかにも上級の冒険者に見えていた。そして男は、改めてシャルを見ると自己紹介を始めた。



「私は、ベルフェゴーレ・F(フル)・カース。この魔大陸を収める魔王だ。」

「ま、魔王殿下ですか!?」


(……とんでもない大当たりを引いてしまったわ。)



 偉いの基準で一番上の存在に出会ってしまった事に驚愕しつつ、敬意を払うシャル。その様子を見てベルフェゴーレは不思議そうに首を傾げた。



「魔王殿下?初めて言われたね。周りの皆は魔王様が言いやすい様でね。君も好きな様に呼んでくれたまえ。」

「えっと、で、では魔王様?」



 思ったよりもフランクな魔王に戸惑いつつも、シャルは殿下を付けずに呼んでみた。



「ふむ……まぁ、今はその呼び方でも良い。出来ればもう少し砕けた感じで名前で呼んでくれると嬉しい。堅苦しいのは本当は嫌いでね。オリビア君は“ベルフェ”と呼んでくれた。」

「は、はぁ。」



 ちょっと不服そうな表情をしながら言うベルフェゴーレ。オリビアとは随分と打ち解けている様だ。お互い名前と素性を知った所で、シャルが疑問を投げ掛けた。



「何故、此処に?」

「それはこちらが先に聞きたい。封印の件なら、こちらに任せて欲しいと伝えた所だが?」

「うっ、実は……」



 だが、逆に質問され。隠してもしょうがないと、これまでの経緯をイビル・ネクロマンサーの事も含めて話した。



「……なるほど、死霊術師……か。噂は本当だったんだね。あのお方なら何か知っていたかもしれないが……そちらが大変な時に力に慣れなくて済まない。」

「い、いえ。もう、済んだ事ですから。」



 ベルフェゴーレは、本当に申し訳なさそうに頭を下げた。急な戦闘だった為、援軍要請は出来なかったが、力になれなかった事が非常悔しい様子だった。



「それにしても……封印されていた存在を……いや、“黒の奇術師”ですら倒せなかった存在を倒したとは……にわかに信じ難いね。」

「偶々、相性が良かったんです。」



 イビル・ネクロマンサーを自分が倒した事も伝えた。完全には信じてくれなかった様だが、そのまま話は続いた。



「ふむ、それだけで済まされる問題ではないが……まぁいい。こちらの件で君達に心配を掛けた様だね。」

「はい、いつ封印が解けてもおかしくはない状況ですから。」



 そして、今回の件についてしっかりと話した。誠意を持って話せば協力を要請するかと思ったが、ベルフェゴーレの反応は著しくなかった。



「その事だが、心配は要らないよ。」

「そうですか……」



 ベルフェゴーレは柔らかい声で否定した。だが、目は真剣だった。危機が迫っているのは間違いないはず。此処で引くわけにはいかなかった。



「来てもらって早々で申し訳ないが、すぐに帰りの竜の定期便を……」

「……いえ、それは出来ません。」



 なのでシャルは、強めに否定した。



「……何故だい?」



 少し怒気を含んだ様子で、ベルフェゴーレがシャルを見る。その辺の人なら卒倒してしまいそうな程の圧が掛かっているが、シャルは澄ました様子で答えた。



「その様子を見る限りだと、封印が解けているか、解けかけているのでは?」

「どうしてそう思う?」



 その問いに対して、シャルは可愛く首を傾げた。



「……女の感?」

「えぇ……?」

「と言うのは冗談です。」

「こ、この雰囲気の中、よく冗談が言えるね。」



 意表を突かれたベルフェゴーレは、その後何も言えずにシャルの言葉を聞く。



「明らかに動揺しているのが分かりますし、魔王様がここに居るのにも理由があるのでは?ただお忍びで港街に……というには殺気立っていましたから。」

「…………。」

「常に警戒を怠らない。出で立ちから上級の冒険者かと思っていたんですが、魔大陸を収める魔王様がそんな殺気立って動いているのは少し普通の状況ではないかと思いまして。」



 シャルなりの考察ではあったが、ベルフェゴーレは納得した様子で彼女を褒めた。



「……驚いたね。ほんわかとした雰囲気だったから、油断していたけど。薔薇の集いに選ばれたという事はある。」

「……やっぱり此処まで噂は広がってるんですね?」

「え?何でちょっと嫌そうなの?」



 薔薇の集いに選ばれたという言葉をベルフェゴーレの口から聞いて、フランソワさんが言っていた様に本当に噂が広がっていたのかと思い。元々本意ではなかったのでその事を思い出し、ちょっと嫌そうにしながらも、シャルは話を続けた。


「私に出来る事があれば協力します。その為にここに来ました。手伝わせて頂けませんか?」

「……そうだね。」



 シャルの言葉を聞き、俯きながら考えるベルフェゴーレ。時間が掛かるかと思われたが、すぐに顔を上げたシャルの方を見ると、



「元々、協力を拒否していたのは、ガングリフォン様だけなんだ。」

「えっと、魔王様の前の魔王様ですよね?」



 前魔王、“ガングリフォン”について話始めた。



「そう、かのお方は暗黒の時代を生き抜き、“黒の奇術師”と共に魔剣を封じ込めた古の時代から生きる真の魔王。助言はしてくれるんだけど、魔剣との戦いの影響なのか、我々にも完全に心を開いてくれた訳でもなくてね。出来れば私側の方は協力をお願いしたい。」



 ガングリフォンについて語っているベルフェゴーレは苦い表情をしていた。ただ、他の国からの協力は必要らしい。彼の言葉を聞いたシャルは、改めて問い掛けた。



「では、協力は問題ないと?」

「ああ」



 そしてベルフェゴーレは答えた。



「隠者のシャルよ。君に魔剣との戦いに備えて協力して欲しい。」



 頭を下げ、シャルに協力の依頼をするベルフェゴーレ。その姿を見て、言葉を聞いたシャルは立ち上がり、オリビア達に連絡を取ろうとした。



「分かりました。オリビア達にも連絡を……」

「あ、待った。」



 だが、すぐに呼び止められた。不思議そうに首を傾げていると、何故呼び止めたのか理由を話し始めた。



「彼女達の協力もお願いしたい所だが、ガングリフォン様にバレたら只では済まないかもしれない。あのお方は魔大陸で一番強い。ドラグニアの王女様でも敵わないくらいにね。」

「オリビアより、ですか?」



 ガングリフォンという男は、本当にベルフェゴーレ達にも心を開いていないらしい。彼の表情は苦渋の顔に満ちていた。



「本当済まないと思っている……だが、内密で動く為に、協力をお願いしたいのはシャル君だけにしたい。」

「でも、それじゃあ……」



 シャルが反論しようとしたが、ベルフェゴーレは首を横に振る。



「言いたい事は分かる。でも、怒らせたら本当に協力所の騒ぎではなくなる。理不尽なのは分かっているんだけどね。」



 彼自身も、理不尽な理由で他のメンバーの協力を断っている事は自覚している。でも、ここだけは譲る事が出来ないのだろう。納得は出来ないが、自分が動けるだけマシだろう。そう考えたシャルは、軽くため息をはくと。



「……分かりました。けど、本当に危険だと感じたら、すぐに援軍を要請します。犠牲者は出したくないので。」

「……ありがとう。」



 一応、一言釘を刺しておき答えた。ベルフェゴーレはお礼を言い、気を取り直すと、



「さて、それでは私と王都に行ってもらう。」

「王都ですか。」



 元々、目的地はそこだったが、ベルフェゴーレから直接その言葉を聞いて、聞き返した。



「ああ、私の部下も紹介したい。魔剣と戦う上では共に戦う仲間になるからね。」

「なるほど。分かりました。」



 部下、恐らく四魔公の事だろう。確かに、一人ではイレギュラーには対応出来ない。シャルはすぐに納得した。シャルとベルフェゴーレは、意思表示に互いに握手を交わした。その時、ベルフェゴーレが、



「あと……」

「はい?」

「……非常に申し訳ないのだが……一つ私の用事にも付き合ってもらいたいんだ。」

「用事ですか?」



 申し訳なさそうな表情で、シャルに言うベルフェゴーレ。用事とは一体何なのか、



「ここに来ていたのは魔剣の封印が解けかけている事をギルド長達に伝えていてね。ここから王都に帰る時にまだ伝えていない街に呼び掛けていこうと思っているんだ。」

「ギルド長達、ですか?」



 確かに危機を知らせるのは悪い事ではない、ただ効率が悪い様な気がした。そんな事を考えていたら、その考えを読み取ったのか、彼は理由を話した。



「全員に呼び掛けては混乱を招く可能性が高い、上の者達だけに把握してもらう事で、いざという時に冷静に対応出来るようにしたいんだ。」

「なるほど。」



 多少納得しつつも、魔王が直接一つ一つ声を掛けに行くのは効率が悪そうな気がした。ただ、ここは異世界、確かに遠くの距離から連絡を取る魔導具は存在するが、数は少ないらしい、手紙で伝えるにしても、もしかしたらこの方法の方が効率が良いのかもしれない。



「分かりました。一緒に行きます。」

「ありがとう……あっ!あともう一つ。」

「はい?」



 納得して、同行する事を伝えたシャルだが、もう一つお願い事がある様だ。ベルフェゴーレは真剣な表情で話し始めた。



「君が隠者のシャルである事は隠したい。ガングリフォン様の耳に入るのを避けたい……というのもあるが、シャル君は有名人だから騒ぎになる。」

「私ってそんなに有名なんですか?」



 認めはしたが、どうしても認めたくないのであえて、有名であるのかと問うシャル、その問い掛けにすぐにベルフェゴーレは言葉を返した。



「薔薇の集いに入るだけでも凄いのに、ドラグニア王国で一番強いオリビア君よりも強いというシャル君の実力は、こちらにも噂ではあるが届いている。正直、物凄く騒ぎになる。」

「そうなんですね……」



 もう、どこに行っても自分の噂は広がっているんだなと、改めて諦めた。今まで顔を隠し、偽名を使ってきたが、今は更に正体を隠さなければいけないらしい。



「あと、私も変装していたので分かる通り、正体を周りにバレたくなくてね。王都までの道のり私達二人は、仮想の名前と関係でいきたい。」



 この大陸を治めている魔王と分かれば、確かに騒ぎになるだろう。更に有名であると言われた自分も加われば、困った事態になるのは間違いない。なので、お互いに設定を考える事にした。



「分かりました。どういう設定にしますか?」

「う〜ん。シャル君はいくつだい?」

「15歳です。」

「なるほど、私はヒューマンの基準で言えば50代だから……どうしようか?」



 魔族もそうだけど、この世界は見た目で年齢を判断出来ない存在が多くないかな?と思いながらも、ファンタジーな世界にそんな突っ込みは野暮だろうと自制するシャル。お互いに色々と設定を考え提案する。



「親子はどうですか?」

「う〜ん。一人息子がいるし上手く演技出来る自信がない。」



「冒険者同士のパーティーは?」

「その設定自体は悪くない。だが、変に関係性を疑われる可能性がある。」

「関係性ですか?」

「若い女性を連れ回す往年の冒険者とか言われたら、私は傷付く。」

「な、なるほど。」



「たまたま出会って目的地が同じな冒険者は?」

「他人過ぎて変だろう。王都まで行くんだぞ?」



「「う〜ん。」」



 お互いに設定を考えるが、いまいちしっくりと来ない二人。自分の設定が適当過ぎて本当の正体はバレなかったが、設定そのものは信用されなかったシャルとしては、違和感の無い感じにしたい。



(後は、魔王様が前世の叔父にちょっとだけ雰囲気が似ているから……)



 ふとシャルは、ベルフェゴーレを見て、前世で自分に気さくに接してくれた叔父の事を思い出した。そして、閃いた。



「あ、魔王様?叔父と姪の関係はどうですか?」



 叔父。父方の弟等を呼ぶ呼び方。そしてその姪。関係性としては深過ぎず、浅過ぎで丁度良い気がした。



「ああ!それならしっくり来るね。話やすそうだよ。」



 ベルフェゴーレも納得した様で、シャルの意見に賛同する。そして、関係性が決まった所で、呼び方の話になった。



「なんて呼ぼうか?」

「そうですね……」



 シャルは少し考えたが、一つしか思い付かなかった。



「……“クレハ”は、どうですか?」

「クレハ?別に構わないが、随分と早く考えたね?何かから名前を貰ったのかい?」



 すぐに答え事に対して、ベルフェゴーレは首を傾げたが、流石に前世の自分の名前からとったとは言えない、なので彼の言葉に頷いた。



「ええ、まぁ、そんな所です。」

「成る程ね。私はどう呼ぶ?ベルフェと呼ぶかい?」



 ベルフェゴーレの呼び方について提案されたが、その呼び方に違和感を感じたシャルは、



「それだと、叔父と姪という感じがしないので……え〜と……」



(前世と同じ呼び方で良いわよね?上手く演技出来そうだし。)



 少し考えると、小首を傾げてこう言った。






「……おじ様(・・・)?」





 ズッキューーーン!?







「ど、どうしました?!だ、大丈夫ですか!?」



 ベルフェゴーレのが急に苦しそうに胸を抑えたので心配するシャル。



「……くぅぅ……な、何という心地良い響き……」



 シャルとしては、前世で呼んでいた呼び方だったので、これで大丈夫かな?と思いながら言った。だが、魔王“ベルフェゴーレ”の心にダイレクトに響いた様だ。彼は胸を抑えながら愚痴を言い始めた。



「……思えば息子はよく反抗するし、まだ結婚する気無いし孫の顔も見れない……本当の姪っ娘は全く懐かない……そうか、これが慕われるという事なんだな。」


(どうしよう、何だかよく分からないけど、急に胸を抑えて苦しみだしたわ……まさか、封印されている存在の影響が!?)



 全く見当違いの事を考え心配するシャル。そして、今まで自分がいかに親戚に冷たい対応を取られていたのかと衝撃を受けるベルフェゴーレ。すごく混沌とした状況になりつつも、シャルはベルフェゴーレに再度声を掛ける



「ま、魔王様 !大丈夫ですか!?」

「……はっ!?私は何を?」



 シャルの一言で正気を取り戻したベルフェゴーレ。すぐに深呼吸をすると、シャルに謝った。



「す、済まないシャル君。取り乱した様だ。心配いらないよ。」

「そう、ですか。」



 本当に大丈夫そうなので、安心するシャル。ベルフェゴーレは気を取り直すと、右腕を上に突き上げて意思表示をした。



「よ、よし!シャル君……ではなかったクレハ。これから王都まではこの設定を貫き通そう!」

「はい!まお……おじ様!」

「ぐぅぅ!?」



 こうして、シャルもとい“クレハ”。ベルフェゴーレもとい“おじ様”は、王都に向けてクルトの街を出るのだった。

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