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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
隠された封印、お助けシャルちゃん
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隠された封印、お助けシャルちゃん 25

お久しぶりです。次でこの章は終わりとなります。今年も残り少ないですが、この章を完結させて幕間も投稿後、登場人物紹介と次の章(新展開)は来年から始める予定です。

「席は大胆に真ん中でごぜーます。」

「ここに座るのは初めてかも。」

「そうですわね。いつも個室でしたので。」



 そう言いつつ席に腰掛ける五人。マリリィとセバルト以外の三人はいつも注目される側なので、中央の席に座って食事する事も無かった。



「こうして朝からゆっくり食事出来るのも久しぶりじゃないかい?」

「スカーレット。」



 席についた所でスカーレットがリナリー達に声を掛けた。どうやら一人の様だ。



「他の子達は?」

「少し休んでもらってるよ。昨日は後半から忙しくなったから、休める時は休んだ方がいいからね。」

「そう……ちょっと良い?」

「なんだい?」


「「「「「???」」」」」


 急に小声でスカーレットを呼ぶと、そのまま隅の方まで行った。他の五人は不思議そうに首を傾げた。



「……ごめん。今気付いたんだけどホルンが暴走するかも。」



 スカーレットを呼んだ理由はホルンの事だった。平静を装っているが、シャルが見た事が無い美味しい料理を振る舞ったと聞いて、完全に商人モードになっていた。リナリーのその言葉を聞いたスカーレットは呆れながら言った。



「今気づくのかい?あたいら全員気付いてたよ。」

「やっぱり?」



 昨日リナリーが薔薇の集いのメンバーに話すというだけで簡単に想像出来た。リナリー自身はこれ以上混乱が起きない様に抑止力となればと思ったが、それを加速させる存在がいる事を普通に忘れていた。ちなみに通信用の魔導具で話を聞いたオリビアは行きたいと駄々をこねたが、シャルから直接「今度作って行くから」と説得された。



「でも黙ってる方がもっとひどい事になると思わない?」

「同感だね。ホルンだけで済まなくなるのが想像がつくよ。」



 そう、商人の血が騒いで暴走するのはホルンだけではない、その部下である者達も美味しい料理の噂を聞いていてこっそり昨日調査に来ていた。料理人の正体は全てスカーレット達の手腕によって隠されたが。



「おはようございます。」

「「「シャルちゃん(さん)!」」」



 しばらくすると、厨房からシャルが挨拶をするため出て来た。貸切の為、出てきても問題なかった。だから普通に挨拶をしようと思ったら、



 ガシッ!



「もう、シャルさん?料理が得意なら初めにおっしゃって下さい。しかも見た事の無い様な料理を沢山ご存知だとか?」

「ホ、ホルンさん?落ち着いて下さい?」

「ホノるる……ステイ!」



 目にも止まらぬ速さでホルンがシャルの腕を掴んだ。その目はギラギラと輝き、暴走しようとしていたので、フィーが手刀でその手を弾いて落ち着かせた。



「全く、ホルンさ…………あれ?この子は?」



 ビクッ!



 ホルンに一言文句を言おうと思ったシャルだが、こちらをじっと見つめてくる視線に気付いてその方向を見た。そこにはマリリィがいるのだが、シャルが不思議そうに首を傾げると、マリリィは驚いた表情を一度した後、もう一度シャルを見つめた。



「じ〜。」

「マリリィ、ご挨拶は?」

「はっ!?」



 マリリィは、フランソワに言われて思い出したかの様に立ち上がると。



「マリリィです!よろしくおねがいします!」



 元気よく挨拶をした。



「よろしくねマリリィちゃん。私は“シャル”……」

「ふわぁ!?」

「ふわぁ?」



 そして挨拶を返そうと思ったシャルだが、シャルの名前を聞いてマリリィが突然驚いた声を上げた。



「あ、この子シャルちゃんに憧れてるの。」

「え?私にですか?」



 何故驚かれたのかと疑問に思っていると、フランソワがその理由を説明してくれた。どうやら憧れの存在が目の前に現れて物凄く驚いたらしい。



「私の一体どこに憧れる要素が……」

「最短でCランク。そして薔薇の集いに認められる。謎が多いけど、礼儀正しく強く優しい人柄に一度聞けば忘れられない美声。ほぼほぼ完璧と言っても良いくらいに隙のない能力に憧れない人がいないとでも?」

「……そうなんですね。」



 謙遜するシャルに対して、きちんと自覚するように説明するフランソワ。そして、無言で頷く他の五人。その様子を見て一言返す事しか出来なかった。



「あ、シャルさん。挨拶が遅れて申し訳ありません。初めまして、私はセバルト。妻がいつもお世話になっております。」

「あ、どうもシャルです。こちらこそフランソワさんには服とか色々良くして頂いて、いつもありがとうございます。」



 そんな空気の中、初対面の二人は思い出したかの様に挨拶した。フランソワの家族の事は聞いていたのが、今回が会うのは初めてだった。そして挨拶が終わる頃にミントがやって来た。



「いらっしゃいませ!おはようございます皆さん。」



 元気良く挨拶をしてお辞儀するミント。リナリー達は挨拶をしてきたミントに挨拶を返すと、



「あ、ミント。休んでなくて良いの?」

「はい、私はいつも何かしら作業しているので。」



 ミントは基本出勤して来た時点でずっと何かしらの作業をしているので、逆に休むと調子が狂うので働いていた。



「流石はリーダーでごぜーますなぁ。」

「フィーちゃん?それは言わないで?」

「本当に嫌そうでごぜーますな?シャル様同様諦めが肝心でありますよ?」


「「どういう意味?」」



 シャルにも飛び火して思わず二人してフィーに突っ込みを入れる。フィーはそんな二人を気にせずニコニコするだけだったので、諦めて注文を取る事にした。



「どんな料理が良いですか?」



 シャルが皆に聞くと、



「あたしは前とは違う可愛い料理。」

「私達は家族で楽しく食べられる料理。」

「私は未知の料理を!」


「わ、分かりました(未知の料理って何?)。」



 ホルンの未知の基準が分からないが、とりあえず適当に作ろうと決めたシャル。心の中で突っ込みを入れながら頷いた。



 ◆◆◆◆



「何を作るでごぜーますか?」

「えっと、リナリー団長は【クマを可愛くデフォルメしたフレンチ】。ホルンさんは【天ぷら】。フランソワさん達は【家族プレート】と【お子様ランチ】かな? 」

「【家族プレート】? 」



 フィーと厨房に戻って来たシャルは、フィーに料理名を言った。その中で聞き慣れないワードを聞いて思わず聞き返した。



「ホットプレートで料理を作って、皆で取り分けて食べる料理の事よ。」

「ほほう、家族で食べるのに適した料理という事でありますなぁ。」

「【お子様ランチ】も作るからそこまで多くは作らないけどね。」



 フランソワが希望する【家族で楽しく食べられる料理】は、基本取り分けて食べるタイプの料理が楽しく食べられるだろうと思い考えた。料理の準備をしていると、シャルがホットプレートを取り出した。その様子を見てフィーはふと疑問に思った。



「ホットプレートなんてあったでごぜーますか?」

「うん、アルスさんが作ってたみたい。」

「……えっと、シャル様?」

「さぁ、作ろっかな。」



 アルス作。それを聞いたフィーは一瞬不安がよぎった。確かそれはホットプレートとしての機能を最大限に発揮する魔導具で素晴らしく便利な物である事は間違いない。しかし、ホルン、そしてフランソワの事を考えればそれを出すのは不味い気がした。なのでシャルに忠告しようとしたが、



「……シャル様?キューマスターが作ったホットプレートは……」

「ふんふ〜ん♪」

「聞こえていない!?」



 料理に集中し始めたシャルには聞こえていなかった。



 〜数十分後〜



「お待たせしました。」

「ヘイ、お待ち!」



 シャルの料理は完成してしまった。厨房からフィーと出たシャルは料理を皆の前に持ってきていた。



「わくわく。」

「わくわく。」

「……ふふふ……薔薇の集いの一人が経営する料理店……」

「そこの兎人族の商人の方。不穏な事を言わないで下さい。」



 帰って来るなり不穏な事を呟いている兎人族の商人に突っ込みを入れつつ、料理を出す準備をする。



「任せてシャルちゃん。私達が全力で止めるから、服屋の二の舞いにはさせないわ。」

「任せて!」

「お願いします。」


 ホルンを止めてみせますと意気込むリナリーとフランソワはシャルにしっかりと意思表示をした。シャルはそんな二人にしっかりとお願いし、料理を出し始めた。



「では、料理を置きますね。」

「「「「わくわく」」」」



 そう言って、最初にリナリーの近くに行った。



「まずはリナリー団長。」

「わくわく。」

「【可愛いフレンチ】です。」



 そう言って出された料理は、クマを可愛くデフォルメしたフレンチだった。その料理からは愛らしさが溢れ出ていた。



「何この可愛い動物は!?また食べるのに覚悟がいるんだけど!?」



 溢れ出す愛らしさは、可愛い物好きのリナリーにとって食べるのにとても勇気が必要だった。あのオムライスヒヨコの様に。



「自分で可愛い料理を頼んでるのに何を言ってるんですか?知りませんよ?次は、ホルンさん。」

「私ですね!」



 しかしシャルはさらっと毒をはいて流した。葛藤するリナリーをよそに、次はホルンの近くに行った。



「ホルンさんには【天ぷら】を作りました。」

「【てんぷら】?」



 ホルンの前に出された料理は、前世では良く知れ渡っていた【天ぷら】だった。今世では見かけた事がなかったので、作ってみた。



「食材を特別な衣で包んで揚げた料理です。」

「普通の揚げ物との違いは?」

「このつゆに漬けたり、かけてたりして食べる所ですね。あとはさっき言った通り、衣が普通の揚げ物で使っているのとは少し違います。」



 揚げ物は見た事があるが、天ぷらの様な揚げ物は見た事がなかったので、興奮した様子で話を聞くホルン。全ての説明が終わりと納得した様に頷き、



「成る程……では早速……」



 フォークとナイフを持って料理を食べようとしたが、



「はい、全員の料理が出てから食べて下さいね〜。次はマスクウェル家の皆さんです。」



 シャルにスッと手の届かない位置に置かれ、フォークとナイフを持ったまま、ショックで固まってしまった。



「わくわく。」

「わくわく。」

「こんなに嬉しそうにしている二人を見るのは久しぶりかもしれな……いや、割と最近も見たな。」



 母娘揃ってわくわくしながら料理待つ様子を見たセバルトは、久しぶりに楽しそうに料理を待つ二人を見たなと一瞬思ったが、割とよくみる光景だったので、即座に否定した。おそらく、主夫であるセバルト自身も料理を待つ側だったので、新鮮な気分になったのだろう。



「今から仕上げますね。」



 そう言うと、シャルはホットプレートを取り出した。



「「!!?」」


「わぁ!すごい!」

「これは、凄いですね。」

「本当、凄いわね。」


 ジュ〜!



 突然現れた謎の魔導具を見て驚くフランソワとホルンを他所に、料理の仕上げに取り掛かるシャル。次々と目の前で焼きあがっていく料理を見てセバルトとマリリィ、そしてリナリーは驚いた様子で料理をするシャルを見つめた。



「この板で食材に火を通しているんですか?」

「はい、持ち運びがしやすい大きさなので、卓上の真ん中に置いて常に暖かい料理を作れたり、魔力で動いているので外でも使えますよ?」

「たのしい!」

「たのしいね。あ、そうそうマリリィちゃんは【お子様ランチ】を用意してるの。」

「“おこさまらんち”?」



 そう言ってシャルは、マリリィの前にお子様ランチを出した。可愛いケチャップライスの上に食べられる食材で作った旗を立て、子供が好きそうなメニューをミニサイズで詰め込んだバランスの良い色取り取りなお子様ランチがマリリィの目の前に置かれた。ちなみにデザートでプリンも別皿で出てきた。



「わぁ!可愛い!」

「え?可愛い?」

「リナっちストップ。」



 可愛いという言葉に反応するリナリーをフィーが止めつつ、シャルは家族プレートを仕上げていく、そして料理を仕上げ、



「はい、出来上がりです。後は三人で取り分けて……」


「……シャルちゃん?」

「……シャルさん?」



 ようやく、二人の熱い視線に気付いた。しかしシャルは嫌な予感がしつつも何故二人が自分に熱い視線を送っているか気付かず問い掛ける。



「はい?何です……」



 そしてホットプレートに注がれる熱い視線に気付いた。



「……はっ!?しまった!?」

「……シャル様。」


「「これは!!?」」



 二人に詰め寄られ、顔は見えないが視線を泳がせるシャル。何とか誤魔化そうとするが、その様子を見た二人の簡単な推理が始まった。



「え〜と、これは……」

「きっと屋敷にあったものですね。」

「という事はつまり?」


「「英雄、“黒の奇術師”が作った魔導具!!」」



 見た事のない魔導具、という時点でもはや誤魔化し様がなく、盛り上がる二人を他所に落ち込むシャル。



「……料理に夢中になってて気付かなかった。」

「シャル様ドンマイ。」



 シャルの肩に手を置いて慰めるフィー。これから始まる質問攻めに気分が落ち込むかと思われたが、そこに救世主が現れた。



「……おなかすいた。」

「フラン……あと、ホルンさんも。」


「「はっ!?」」



 マリリィの視線に気付いた二人。お腹を空かせた子供を放っておいて、流石に自分達の要件を優先する訳にはいかない。二人は顔を見合わせ悔しそうな表情をすると、



「くっ……シャルちゃんには後でたっぷりと聞くとして。」

「うっ……今は料理を頂きましょう。」



 渋々席に着いて食事を優先させる事にした。



「マリリィちゃん。デザート追加してあげるね?」

「あまいもの?やった!」



 シャルはそう言いながらマリリィの頭を撫でた。マリリィはなんだかよく分かっていなかったが、甘い物が食べられる事に喜んだ。料理が全て揃った所で五人は食事を始めた。



「「「「「頂きます!」」」」」



 可愛い物に葛藤しながらも食べるリナリー、恐る恐る口に入れるホルン。普段の性格からは想像出来ない貴族らしい所作で食べるフランソワと、教育が行き届いた所作のマリリィ、そして主夫として料理を再現しようと観察しながら口に入れるセバルト。



「んん!?」

「なっ!?」

「ふぁ!?」

「これは!?」

「ん〜♪」



 それぞれが料理をしっかりと味わった後、



「「「「「美味しい!!」」」」」



 全員同じ感想を漏らした。その後は凄い勢いで料理が消えていく、



「皆喜んでくれているみたいで良かった。」

「シャル様の料理は世界一!」



 全員が美味しいと言ってくれたので安心したシャル。食事を取る風景を見ながら、少し一息入れた。



 〜数十分後〜



「やっぱり美味しかったわ。」

「……これほどとは、恐れ入りました。」

「また食べに来たくなっちゃうわね。」

「私もまだまだ修業が足りない事が分かりました。」

「おいしかった!!」



 食事を終えた後、セバルトだけは別の何かに燃えていたが、全員料理の余韻に浸っていた。料理は全て綺麗に完食されていた。



「うむうむ、綺麗に食べたでごぜーますなぁ。」

「さぁ、お茶を用意しておきました。片付けはやっておきますので、後はごゆっくり……」



 そしてシャルは、その余韻に浸っている隙を突いて奥に引っ込もうとしていた。



 ガシッ!



「「では、シャルちゃん(さん)。奥でお話しましょう。」」



 しかし、スイッチの入った暴走する生物に捕まってしまった。



「……フィー?リナリー団長?セバルトさん?」



 シャルは何とかこの場を逃れようと、救いの手を求めるが……



「わっちにはその二人を止められる自身はないでごぜーます。」

「うん。あたしも。」

「すみません。そうなると、私でもフランを止められません。」


「「さぁ、行きましょう!!」」



 願いは届かず。半ば引きずられる様な形で厨房へと連れて行かれるシャル。



「…………私って、絶対今世で抜けてる所があるわよね。」



 改めて自分の抜けっぷりを自覚したシャル。そして、開店するギリギリまで暴走する二人の生物から質問攻めにさせるのだった。

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