隠された封印、お助けシャルちゃん 16
「あ、あっさりして美味しい!?」
「お、美味しい!?かぼちゃってこんなに美味しかったの!?」
「肉汁が!?肉汁が!?」
「サクッ、フワ!?このお菓子サクフワだよ!?」
「うわぁ美味しい!?濃厚だし、パン生地と一緒に食べると食感も変わって美味しい!?」
「え!?この料理、本当に簡単作れるの!?こんなに美味しいなら男性の心掴み放題じゃない!?」
「一口の料理も美味しいにゃ!そこまで熱さを感じないにゃ!こっちは……!!?こここれは革命にゃ!?ピニャと同じ熱くて舌を火傷する友達も絶対に喜ぶにゃ!!」
「はぁん!?至高の味でごぜーます!!」
それぞれが料理の感想を叫びながら悶絶していた。はたから観ると怪しさ満点だが、彼女達しか今はいないので誰もその感想を漏らす事は無かった。
(……凄い絵面ね。そんなに美味しかったのかしら?)
シャルを除いて。
「凄い絵面だね。」
スカーレットも含めて。
「そう言えばスカーレットさん?」
「何だい?」
「よく考えたら、こんなギリギリで料理人を決めて良かったんですか?もし駄目だったら大変な事になっていたんじゃ。」
「ああ、その事かい?」
シャルの言い分も、もっともであった。男連中が王都に行き、今日から女性従業員だけで営業する日だというのに、こんなギリギリで面接して良かったのかと疑問に思っていた。
「あたいもそう思ったんだけど、フィーが『絶対に大丈夫でありますよ!!』て、豪語してたからそうしたんだよ。時間も無かったからね。シャルが料理をするって聞いた時は流石にあたいも不安にはなったけど、全く問題無かったね。」
「な、なるほど。」
絶対大丈夫と言うフィーの言葉に対して、全面的に信頼して行動したスカーレットの器の大きさに驚くシャル。
「さぁ、シャル。ここから忙しくなるよ。開店の準備をしておくれ、一応うちの店の定番メニューは把握してくれてるんだろ?」
「はい、ここに来る前に竜の尻尾のレシピを書いた本の内容は全部覚えました。」
「全部かい!?大したもんだねぇ。それじゃあ、宜しく頼むよ!」
「はい!」
こうして、シャルを臨時の料理番に迎え、大酒場竜の尻尾が開店を迎える事になった。
「「「「「あ、スカーレットさん。おかわりして良いですか?」」」」」
「いつまで食べる気だい!?食べ終わったら、さっさと準備しな!」
「「「「「……はぁ〜い。」」」」」
「わっちは従業員じゃないから、このまま食べ続けるでありますよ。シャル様!新たなスイーツを!!」
「あ、材料はパフェで使い切っちゃったから無しだよ。後、食べた分は働いてね?」
「タダじゃ無かった!?無慈悲!無慈悲でありますよ!!」
「「「「「フィーちゃん、ご案な〜い!」」」」」
「いやぁ〜!?働きたくないでござる〜!!」
◆◆◆◆
「さて、改めて確認だけど。料理を作っているのがシャルだとバレない様にしないといけないね。」
「私が目立ちたくないって希望を汲んでくれるんですね?」
「それは手遅れだと思うけど、単純に“薔薇の集い”の“隠者”シャルが作ってるってだけで、騒ぎになるからね。大酒場だから騒ぐなとは言わないが、普通に酒場として機能しなくなりそうだからねぇ。」
「……はい、そうですよね。」
全く自覚が無かったが、シャルの知名度はもはやリース大陸中に広まっていた。ドラグニア王国最高戦力と言われている“薔薇の集い”の一人になったという事実。“青の薔薇”所属のCランクではあるが、完全にその枠から実力ははみ出ていた。
「幸い厨房は席からじゃ見えないし、表に出なければ問題ないよ。料理を厨房から運ぶのは基本フィーに手伝ってもらうとするよ。収納魔法の込もった魔導具を持っているらしいし、人手も足りないから丁度いい役割だろ?」
「物申すであります!!」
「あ、フィー……何その可愛い衣装?」
「ふっ、わっち手作りの『メイド服』をウェイトレス風にアレ〜ンジ!!」
「やる気に満ち溢れてるわね。」
物申すと言っておきながら、専用の衣装を用意してウキウキしている辺り、実は嫌ではないという事が伝わってくる。
「さぁ、開店だよ。シャルは厨房に行っておくれ。」
「はい、行ってきます。」
「わっちは?」
「一番最初の客はフィーが元気よく迎えな。その後はシャルの料理を運ぶ手伝いだよ。」
「了解であります!」
◆
カランカランッ、
「ふっふっふ、よくぞここまで来た勇者よ!」
「待たせたな魔王!!……って、何してんだよ妖精の嬢ちゃん。」
「臨時の従業員でありますよ……って、お、お主は!?」
「な、何だ?」
「“出会いの無い冒険者”ではあーりませんか!寂しさのあまり朝から美人、美少女揃いの酒場に入り浸るなんて悲しいでありますなぁ!」
「なんでそうなるんだよ!?普通に朝食を食いに来ただけだぞ!?あと、俺は“ボルチ”ていう立派な名前があるから!寂しくなんてないんだからね!?」
「開店してすぐに入り口前でふざけるんじゃないよ!!」
「「……すみません。」」
(厨房に居ても聞こえて来るって相当よね。)
開店してすぐに最初のお客様が来店した。その名は“ボルチ”。かつて観覧席でフィーの隣に居た男である。
なんと“出会いの無い冒険者”が作者の愛着が湧いた事で名前付きで再登場。“ボルチ”さんです。現在恋人募集中のキャラです。重要人物ではありませんがちょくちょく現れます。
補足:勇者はおとぎ話の人物です。英雄はいましたが、実在はしません。魔王は実在します。現在は有効関係を築いています。なのでボルチにもネタが伝わります。




