隠された封印、お助けシャルちゃん 7
「石碑……かしら?」
「う〜む?文字が刻まれているでごぜーますよ?」
シャルとフィーは、石碑の様なものに近付いた。それにはこの世界の文字が刻まれていた。
◆
──ここへ辿り着き、封印の力を注げる資格のある者へ告ぐ。
──この封印は、全ての闇へと通ずる道であり、大いなる闇を封じ込める巨大な術式の一つである。
──この封印は決して解いてはならない。
──もし解かれれば、この世界は真の暗黒に染まるだろう。
◆
「……この書かれてる内容って……」
【予想、マスターがこの封印の地へ辿り着き、コアに魔力をまともに注げる存在へと残したメッセージ。】
「でも、どうして石碑に?」
封印を守るシステムがいれば、石碑に言葉を遺す必要はないはずだが、
【予想その一、システムがまともに機能せず。意志を継ぐ者にこの場所の説明が出来なった可能性。】
「それはありそう。」
「うむうむ。」
【予想その二、重要情報を秘匿する様に伝えられていたので、今回の様な特例ではなく、通常時、システムより情報が伝えられなかった可能性。】
「それはあり得るの?」
「わっちがいたから何とかなったでごぜーますからなぁ。」
【予想その三、封印のコアに魔力をまともに注げる存在。真にこの封印の存在を知るべき相手に確実に情報を残す為に用意した可能性。】
「なるほど。」
「シャル様?まだ文字には続きがあるみたいで
ごぜーますよ?」
フィーの言葉を聞き、更にその石碑に書かれている言葉を読んだ。
◆
──もし……もしも世界に立ち向かえる資格があるのなら、覚悟があるのなら、
──この場所へ以下の者を訪ねよ。
◆
「うん?」
そこにはこう書かれていた。
◆
──ネオ大陸、太古の竜。
──ウォット大陸、古の魔王。
──リース大陸、屋敷を管理する妖精女王。
──俺の故郷、宝物庫を管理する者。
──俺が死んだ後に、永き時を託せる者に渡してある。もし受け継いでいるのなら、もし生きているのなら、“アルス”から『未来を託された』と伝えてくれ。
──決して部外者には話すな。話した所で絶望するしかない。
──もし資格があるなら、俺の残したアイテムはきっと役に立つだろう。
──最後に、武器が欲しければネオ大陸に行くと良い。実力さえあれば、望む武器が手に入るだろう。
──健闘を祈る。
◆
「…………。」
「…………。」
【予想その二と三が濃厚の様でスネ。】
確かに、機械音声の言う事が正しいのだろう。今までに無い情報が書いてあった。“アルス”の名前と共に、
「ねぇ?フィー?」
色々と気になる単語はあった。いくつか予想出来た事もある。アルスは未来を託せる者に何かアイテムを遺していた様だ。その言葉の中に非常に気になる単語があった。
「リース大陸にね?屋敷を管理する妖精女王が居るって書いてあるんだけど……」
フイッ、
「さぁて?何の事だかわっちには?」
しかしフィーはシャルから顔を背けてしまった。
「そう?でもアルスさんが『永き時を託せる。』って言葉を遺しているのは、もっとも信頼する存在に託したって事よね?フィー以外にアルスさんと深く関わりがあって、最重要存在にまで指定されて、リース大陸で屋敷を管理しているなんてピンポイントで言われる妖精は……」
ズサァッ!
「わっちでごぜーます!わっちでごぜーますから!!威圧しないで!?お願いするであります!!」
とぼけるフィーにちょっとお仕置きも兼ねて威圧したら、綺麗なスライディング土下座を披露したフィー。
「でも、妖精女王……ね。そんな風には見えないけど。」
「割と酷い!?……ああ、でも形だけでありますよ?ちゃんと妖精王様がいるでありますから、ちょっとその辺の地域一帯の妖精や精霊の統率を任されたら、そう呼ばれただけで……」
「それでも十分に凄い事だと思うけどね?」
フィーの意外な肩書きに驚いたシャルだったが、いつも通りのフィーの姿に微笑んだ。
「それで?どんな物を預かったの?」
「……それは秘密でごぜーます。」
さっきとは打って変わって、真剣な表情で言うフィー。
「どうしても?」
「……シャル様なら……いやいや!やっぱり駄目でごぜーますよ!!」
一瞬揺らいだフィーだったが、首を横に勢いよく振り拒否した。意志は固い様だ。
「でもフィー?意地悪な言い方かもしれないけど、世界が破滅の危機を迎えようとしているのに、アルスさんが託した物を隠すの?」
「ゔっ……だって……」
「だって?」
フィーは顔を上げると、涙を堪えながらシャルに言う、
「また大切な人が戦いから帰って来なかったら嫌でごぜーます!!これを渡したらシャル様はきっと、大いなる闇と戦うでごぜーます!!シャル様も帰って来なくなったら、わっちは……わ゛っちは!!」
ポフッ!
「ごめん……フィー!もう、それ以上何もいわなくて良いから……ごめんね。」
「ゔぅ……ゔぅぅ……。」
泣きながらフィーが言った言葉は、酷くシャルの心に突き刺さった。フィーは普段は明るく振舞っているが、彼女は辛い経験をしているのだ。シャルはフィーを抱き締めながら頭を撫でて宥めた。
〜数分後〜
「ごめんね、フィー。」
「……良いでありますよ、シャル様。最早何も考えられないくらいの包容力がわっちを支配……」
「もう大丈夫そうね。」
「ああっ!?」
フィーがいつもの調子を取り戻した所で、シャルはフィーを離した。
「……取り乱して申し訳ないでごぜーます。キューマスターの事を思い出したらつい……」
「良いのよ。私も悪かったわ。フィーの事を考えないで言ってごめんね?」
「わっちも、ごめんであります。」
お互いに謝りつつ、二人は気を取り直した。
「……シャル様。」
「うん?」
「……シャル様なら……ううん……シャル様だからこそであります。」
そう言って、フィーは何処からか虹色に輝く宝玉を取り出した。
「……これは……もしかして?」
「『世界に立ち向かえる資格があるのなら、四つの宝玉の力を身に纏い、不壊の武器をもって世界の闇と戦って欲しい。』キューマスター……黒の奇術師“アルス”が遺した言葉であります。そしてこれがその宝玉の一つ『ムー』でごぜーます。」
「『ムー』?」
シャルは、フィーから『ムー』と呼ばれる虹色に輝く宝玉を受け取った。
「……本当に良いの?」
「うむうむ!シャル様ならきっと、キューマスターの意志を継いで……いや、それ以上の事をやってのけると信じているであります!!……でも、無理は禁物でごぜーますよ?」
「うん。絶対に無理はしないわ。」
「約束でごぜーます!!」
「約束ね。」
シャルとフィーは固い握手を交わした。




