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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
対決、闇ギルド!
67/111

幕間〜その頃フィーは〜

「ふんふんふ〜ん♪」


 屋敷の掃除をしながら鼻歌を歌うフィー。


「シャル様は多忙でごぜーますね〜、シャル様が気持ちよく帰宅出来るよう、掃除はちゃんとやっておかないとシルキーの名折れでありますからなぁ。この後は何をするかでごぜーますが……」


 シャルが闇ギルドとやらを壊滅させる為に氷原に向かったのは聞いていた。帰って来るまでに日数が掛かりそうなので、その間どうするか考えていた。



 ガチャッ、



「……ふむ、シャル様お手製スイーツが後少し……くぅ!材料さえあれば、大量に食べられるというのに!」


 少し前にフィーが食べ過ぎた所為で、スイーツの量を制限されるという辛い目に遭い、今はシャルが必要最低限の材料しか買って来なくなった。それからというもの一日三食しかスイーツが堪能出来なかった。


「……まぁ、これ以上贅沢を言うのは良くない事でありますな。たまには外で買い食いでもするでごぜーますか。お小遣いも貰ったでありますからな。」


 フィーは、外出する事に決めた。



 ◆◆◆◆



(こうやって外に出れるのも、シャル様のお陰でごぜーますね。)


 シャルがハウス・コアに魔力を注いだ事により屋敷は本来の姿を取り戻し、結界も本来の力を取り戻していた。それによって、フィーが外出して例えフランソワによって屋敷の周りに被害が及んだとしても、屋敷そのものに被害が及ぶ事は無くなった。


(……さて、何を買い食いするかでごぜーますが……肉、スイーツ……いや、でもスイーツの質はそこまで高くないでありますからなぁ。キューマスターがもっと広めてくれれば。)


 シャルがスイーツを作ってくれた事で判明した事実だが、キューマスターは甘味系をちゃんと広めていなかった事が分かった。シャルの作る料理が美味しい事もあるが、それを抜きにしても、明らかに美味しい甘味系をフィーは映像で見た事はあるが食べた事は無かった。


(そろそろ商業エリアでごぜーますね。)


 フィーは商業エリアに辿り着くと、辺りを見渡す。


「おや?フィーちゃんじゃないか?」

「ぬぬ?おお!ココッちではあーりませんか!」


 キョロキョロしていたら、最近仲良くなったご近所のおば様に出会った。ふくよかなその見た目は母性に溢れていた。


「……ココットと呼んでおくれと、いつも言っているじゃないかい……まぁ、良いけどね。どうしたんだい?今日は?」

「今日は買い食いに来たのでありますよ。」

「買い食い?シャルちゃんは今日はいないのかい?」

「シャル様は依頼をこなしている最中でごぜーますからなぁ。わっちはいつも通りお留守番であります。」

「偉いねぇ。」


 そう言ってココットはフィーの頭を撫でた。


「ココッち?わっち見た目は永遠の美少女でごぜーますが、年上でありますよ?」

「う〜ん、思わず頭を撫でたくなっちゃうのよね。」

「ふふん!わっちの愛らしさにやられたでありますな!」


 フィーは嬉しそうに頭を撫でられた。


「ではココッち、また会おう!」

「またねフィーちゃん。」


 ココットと別れたフィーは少し移動すると、串焼き屋を見付けた。


「串焼き10本!」

「おっ、フィーの嬢ちゃん。今日は外で食事かい?」

「うむうむ!今日はこの通りの店舗を食べ尽くすであります!」

「一体その小さな体の何処に食べ物が入ってるんだ?」

「乙女の秘密!!」

「はいよ!串焼き10本!!」


 フィーは代金を払い、串焼きを受け取り頬張った。店主に手を振りながら店を後にした。フィーは、最近シャルが不在の時は都市中の飲食店を食べ歩いていた。元々フィーは目立つ容姿をしているので、すぐに色んな人に覚えられて声を掛けられていた。


「フィーちゃ〜ん!」

「ほいほい!」

「フィーちゃん!!」

「うむうむ!」

「フィーさ〜ん!」

「ほよほよ!」


 まるでアイドル。そんな言葉が似合うくらい人気が出ていた。


「おがぁ〜さ〜ん!!」

「はいはい……じゃないでごぜーますよ!?」


 流れで返事をしかけたが、移動していたら目の前に迷子の女の子が現れた。


「おがぁ、さん!!」

「……迷子でごぜーますか?この子を知っている人はいるでありますか!!」


 周りの人に声を掛けるが、全員首を横に振った。


「ふ〜む?ここの都市出身じゃないでごぜーますか?参ったでありますなぁ。」

「……うう。」


 目の前の女の子は、何故かフィーの服の袖を掴んだまま離そうとしない。心細い様だ。


「しょうがないでごぜーますな。とりあえず……ほっ!」


 ポンッ!


「……わぁ!」


 フィーは、アイテムボックスから花を取り出した。キューマスターに教えてもらったお洒落な出し方で花を出すと、女の子は驚き喜んだ。


「これはあげるであります。」

「……ありがとう。」

「お名前は?」

「イロハ!」

「イロハちゃんでごぜーますか、いい名前でありますね。お母さんとは何処ではぐれたでありますか?」

「お母さん?………ひっぐ……おがぁさん……」

「ああぁぁ!泣かない、泣かないでありますよ!」


 名前は元気に教えてくれたがお母さんの事を聞くと、はぐれたのを思い出し泣き出そうとした。フィーは慌てて女の子の涙を拭いてあげた。


「イロハちゃんは運が良いでありますなぁ。」

「……運が……いい?」

「うむうむ!わっちがお母さんを呼び出して上げるであります!!」


 そう言ってフィーは、メガホンの様な物を取り出した。


「パンパカパーン!『呼び出しメガホン』〜!」

「……よびだし?」

「見ているでありますよ。」


 そう言ってフィーは、メガホンに口を当てると、


【ピンポンパーン!迷子の〜迷子のお知らせでごぜーます〜。何処から来たのかは知らないでありますが〜、小さな小さな女の子〜、“イロハ”ちゃんのお母様〜!イロハちゃんのお母様〜!イロハちゃんが迷子になってわっちの所にやって来ました〜!至急商業エリア、噴水広場までお越しくださいであります〜!商業エリア、噴水広場までお越しくださいであります〜!ピンポンパーン!】


『な、何だ!?何処から声が聞こえるんだ!?』

『この口調はフィーちゃんか!?一体何処から!?』


「多分これで大丈夫でごぜーますよ?いざとなれば最終手段もありますからな。」

「……すご〜い!」


 フィーが取り出したこの『呼び出しメガホン』。キューマスター作の魔導具で、やろうと思えば大陸中に声を届ける事の出来る。一方通行の通信魔導具なのである。フィーのお遊び用に造られた魔導具だが、以外と連絡手段の持っていない相手を呼び出すのに重宝していた。


「さぁ、わっちと一緒に噴水広場に行くであります!」

「うん!」


 フィーは、女の子と噴水広場に向かった。


「イロハちゃんは何処から来たでありますか?」

「あーらんど!」

「あーらんど?……ああ、アーランド王国でごぜーますか。」

「うん!あーらんど!」


 噴水広場で母親を待つ間、イロハと話をするフィー。意外な所でシャルに関わりのある国名が出てちょっとびっくりするフィーであった。


「アーランドはどういう所でごぜーますか?」

「う〜ん……すごくいいところ!すみやすい!」

「なんと……まさか幼い女の子から住みやすいという育ちの良さそうな回答が……」


 イロハちゃんの回答に驚きながら話を続ける。


「その国って王女様がいるでありますよね?」

「うん!いるけどみたことない!“悪いお姫様”だってみんな言ってた!!」

「ほ……ほうほう!」


(……なんとシャル様、好感度がマイナス域にいってそうな印象が広まっているでありますよ!)


 以前に話には聞いていたが、こんな小さな女の子にまでシャルが前世の記憶を取り戻す前の悪印象が広まっているとは思わず。心の中で嘆くフィー、


「でもね!王様と王子様は凄くいい人だって言ってたの!!」

「ほほう、それはますます……」


(シャル様が国に帰りたくないのも分かるかもしれないでごぜーます。)


 悪印象が国中に広まり、王様と王子様の評判は良い。そして色々あって国を去ったシャルが戻りたいと思う訳が無いと思った。


「ふ〜むイロハちゃん。もう少しそこの所を詳しく……」


『イロハ〜!!』


「あっ!お母さん!!」


 フィーが会話を掘り下げようとした所で、イロハの母親が走って来た。イロハは嬉しそうに母親に抱き付く。


「ごめんね!イロハ!お母さんが手を離したばっかりに!」

「イロハもごめんね!」


 母親は泣きそうになりながらイロハを抱き締めた。


「うむうむ!良かったでありますなぁ。」

「あっ、その声は……貴方がイロハをここまで連れて来てくれんたんですね?」

「そうであります!」

「ありがとうございます!急に声が聞こえてびっくりしましたが、お陰でイロハに会えました。」

「いえいえ。」

「白いお姉ちゃんはすごい!」

「ふふん!」


 褒められて嬉しそうにドヤ顔をするフィー。


「バイバ〜イ!」

「うむうむ!もう手を離したら駄目でごぜーますよ〜!」


 そして、イロハと手を振りながら別れた後、噴水広場の近くの高い建物の天辺に登るフィー、


(……いやはや、まさかシャル様の故郷の話をほんの少しでごぜーますが聞けるとは、シャル様が帰ってきたらその話題でいじらなければ!)


 意気揚々と、建物の天辺で寛ぐフィー。シャルが帰ってきた後の事を考え始めた。



 フヨフヨ〜、



「ぬぬ!?風の精霊?どうしたでありますか?」


 フィーが寛いでいると、風の精霊が慌てた様子でやって来た。


「ふむふむ……やはりそうでありましたか……」


 風の精霊の話を聞いて、真剣な表情になるフィー。


死霊術士ネクロマンサーはすでに目覚めておりましたか……対抗手段も無く、わっち自身、完全に自暴自棄になっていたでありますからな……被害も甚大……いや、あの頃に比べたら優しい方でありますか…… とはいえ、犠牲者が出てしまったでごぜーますな。」


 報告を聞いて辛そうな表情をするフィー、死霊術士の存在もそれを封じる封印の存在も知っていたフィーだが、死霊術に対抗する手段は500年の間で見つからず、フィー自身もキューマスターを失った悲しみで自暴自棄になっていた。氷原の件で気になり調べてもらっていたが、最悪の結果だった。


「今はマスターの封印が完全に解けていないでごぜーますから、外には出られないはず……後はシャル様がなんとかしてくれる事を祈るしかないであります。」


 シャルが氷原に行くと聞いた時、死霊術士関連だとは薄々気付いていた。シャルを危険な場所に行かせるのは避けたい所なのだが、


「……シャル様なら、マスターの意思を継いで……いや、それ以上の事をしてくれそうな気がするでごぜーます。そんな安心感が、あるでありますからな。」


 契約をしているので、シャルが無事かどうかは分かるし、危機が迫っても察知する事が出来る。そして、シャルから感じるのは圧倒的な安心感。


「……少し休むであります。」


 フィーは、建物の天辺でシャルから伝わる契約の気配を感じながら休んだ。



 ◆



 キィーーーーン!!



「な、な、何でありますか!?」


 フィーがうとうとし始めた頃、急に大きな音が鳴り飛び起きた。音のした方を見ると、おそらく氷原のある地から一筋の光が天に昇っていった。


「あれは……もしやシャル様?」


 何となく、こんな芸当が出来るのはシャル以外いないと思えた。そして双眼鏡で覗くと、薄っすらとだが、浄化される魂が見えた。


「……魂が……浄化?死霊術士に支配された魂は永遠に囚われるのでは?……はっ!?も、もしや!?」


 その後、シャルが無事帰還して、死霊術士を滅した事をフィーはシャル本人から聞かされた。

フィーはキューマスターから色々聞かされている事とない事があります。シャルがあっさり倒していましたが、イビル・マリオネットはシャル以外にとっては凶悪な存在です。フィーも知り合いが犠牲にならないよう、それとなく氷原へ行く知り合いに注意喚起を促していました。封印する以外手段が無かった相手ですので。

今日のフィーは、実はシャル達が心配で気をずっと張っていました。

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