対決、闇ギルド! 4
◆
「……アァ〜。」
「ガァァ!」
「ハァッ!!」
「いけ、“オリジン”!」
「光よ!」
リナリー、フランソワ、ホルンはアンデッドを倒しながら作戦会議をしていた。リナリーは氷剣セルシウスを振るい、フランソワは自動追尾式の独立型射出武器、魔筒オリジンを周囲に飛ばし、ホルンは聖扇イノセンスで光属性の攻撃をしながら、
「フランソワ、死霊術師の特徴について文献に何か書いてあった?エルフの里だと、『もし出会ったらすぐに相手のいない大陸に逃げる様に』って言われてたんだけど。」
「“黒の奇術師”が残したものによると、凍らせて動きを封じるのが一番有効らしいわ。本体がまともに活動している限り配下を倒してもすぐに復活するって書いてあった。肉体を滅ぼしても支配した魂が残り、その魂に新たな器、肉体を与えて復活させる……その繰り返しよ。」
「黒の奇術師……英雄ですわね。フィーさんの元主のキューマスターという人物がその黒の奇術師だと気付いた時は驚きましたが。」
「ええ、この世界に出回っている知識の全てにその人が関わっているんじゃないかと言われているくらい、色んな文献に黒の奇術師の名があるくらい偉大な人。このリース大陸を死霊術師の手から救ったのもその人物らしいし。」
“黒の奇術師”、500年前に存在していたという英雄。混沌としていたこの世界に現れ、最近分かった事だが、当時ルーインの元凶とも呼ばれる黒き魔物達を一掃、封印してこの世界に平和を訪れさせたと言われる存在。あらゆる知識を残し、世界中に富を与え、種族間の差別を無くし、全ての魔術に通ずると言われた人物らしい。伝説級の魔導具は全て黒の奇術師が創ったのではないかと予想しているが、明確ではない為分からないと言っている。未だに詳細は不明。黒の奇術師はその呼び名と、とてつもない魔力と魔法技術の持ち主だという事は分かったが、謎が多い人物でもある。
「魂……か、肉体が無事なら蘇生が出来そうな気がするけど。」
「文献にもあったけど無理らしいわ。魂と肉体は繋がりが無くなってしまって本当の意味での蘇生は不可能、更に死者の魂を支配しているから宿主の肉体が腐っていくのは止められないらしいの。そして支配されている魂にはまともな意識は残っていない、解放しても本来の死の理通りに消滅するだけ。」
「……そっか。」
「『死者は死者であるべき。』、黒の奇術師はそう残しているわ。とにかく、まともに倒す事が出来ない以上、動きを封じるしかない。本体を封印出来れば良いんだけど。」
「シャルちゃんが倒してくれたりは?」
「いくらシャルちゃんが強くてもそれは出来ないと思う。英雄と呼ばれた黒の奇術師でも倒せず封印した存在よ?竜の里に封印されているあの黒い魔物も、魔大陸に封印されているあの魔剣も、そしてこの地に封印されていた死霊術師も。強いだけでは絶対に滅ぼす事の出来ない特別な何かを持つ異常な存在。黒の奇術師も『倒す事は考えず封印する事を考える様に』と残している。」
「シャルさんは大丈夫なのでしょうか?」
英雄すら倒せない存在。思っていた以上に危険な戦いに三人に緊張が走っている。
「シャルちゃんならやられる事は無いと思う……確証はないけどね。とにかく、こいつらの動きを封じてとっととシャルちゃんの加勢に行きましょ?」
「ええ。」
「はい。」
三人は武器を構え直すと、
「氷剣セルシウス!」
「魔筒オリジン!」
「聖扇イノセンス!」
「「「その内なる力を解放せよ!!」」」
武器の力を解放した。
キン!キキン!
「くそ!倒しても倒してもキリが無い!」
「倒しても、また奥の方で復活している。流石に倒せない相手に戦い続けるのは厳しいわ。」
「アズライト!ラピス姉さん!!キメラの群れが!!」
『アイス・ワールド!!』
キィーン!パキパキパキ!!
「お待たせ。」
「「「団長!」」」
ジュエルナイトの三人がキメラの群れを迎え討つ準備をしていると、リナリーが目の前のキメラの群れを凍らせた。
「作戦を伝えるわ。奴らを倒す事は現状不可能。凍らせて動きを封じるのは可能。あたしとフランソワが中心になって奴らを凍らせる。他のメンバーは敵の誘導と、氷魔法で凍らせる手伝いをして。守りはホルンと防御魔法が得意なメンバーに任せて。散らばった他の皆にも伝えてくれる?」
「「「分かりました!」」」
キュゥン、キュゥン!!
「……空へ方陣を描け。」
ヴォン!!
「アイスレイン!!」
フランソワは、魔筒オリジンで巨大な魔法陣を描き広範囲に氷魔法を放つ。
「団長!ウチらも手伝うよ!」
「私も!」
「手伝いなのよ〜!」
「お任せなの〜!」
魔導具店マスクウェル勤務の団員もフランソワの元に駆け付けた。
「アイスジャベリン!」
「アイスアロー!」
「「ダブル・アイストルネード!!」
少しずつだが確実に相手を凍らせていく。沢山蠢いていたアンデッドもリース大陸で最高クラスの戦力の前に押されていく様に見えた。
「リナリー!フランソワ!凍らせたアンデッド達が!!」
ホルンの声がした方を見ると、アンデッド達を凍らせていた氷が黒い影によって溶かされていた。
「……何故?あたしの氷剣で凍らせた奴はまだ……」
「リナリー!あなたの氷剣の力か、この氷原の氷クラスの魔力を込めないと、簡単に溶かされてしまうみたい!」
「何とかならないの!?」
「ここの氷を使った魔導具も多少効果があるみたい!!今は敵がばらけてどうにも出来ないけど、一箇所に集めてリナリーの氷剣と私の作った魔導具で足止めするしかない!」
「やるしかないわね!!」
「「全員!一箇所にアンデッドを集めて!!」
「「「「「はい!!」」」」」
リナリーとフランソワの指示を受け、一箇所にアンデッドを集め始める冒険者達、凍って一時的に動けないアンデッドを移動したり、戦いながら誘導したり。様々な手を使って一箇所に集めていく。
「死霊術師の力がこれほどとは思いませんでした……犠牲者がこんなに出るなんて……」
「……団長、分かっていてもこれは防ぎようがないぜ?魔物の一部……死骸の部分を操って生きていた人を殺す。そしてアンデッドにして配下に……不死身の兵に変えるなんてな。相手の能力が異常過ぎるんだ。」
ホルンは、一人でも多くの人を救いたかった。だが結果は捕獲した人も含めて全滅。死霊術師の力は予想外過ぎた。防御の陣を展開しながら、怪我をした冒険者を治療するホルンは嘆いた。
「この現状を喰い止めるのは、死霊術師を封印するしかない……でも、どうやって?」
「フランソワが何か考えがあるらしいんですが、上手くいくかどうか。」
「祈るしかありませんね。私達は全力で補助しましょう。」
「はい!」
アンデッド達は順調に一箇所に集まっていく。フランソワとリナリーは、継続的に凍らせる準備をしていた。
「フランソワ、上手くいくの?」
「分からない……相手は英雄すら倒せない存在の配下。完全に凍らせる事は難しいけど、自動で継続的に凍らせる事が出来れば余裕は作れる。その間に最善を尽くすしかない。」
「そうね。シャルちゃんとも合流したいし。」
彼女達はアンデッド達を足止めする準備を着実に進めていった。
◆
死霊術師。名前だけは聞いた事があったが、あれほど強力な力を持っているなんてな。
「グギィ!ガァァ!!」
「その薄汚い叫び声を今すぐ止めろ。すぐに仕留めてやる。」
目の前にいるザードを取り込んだキメラは生きているらしい。奴は死者の魂を支配して操り弄ぶ。だが生きている魔物もキメラとして創り出し弄んでいる。奴はザードを殺した後成り代わり、ザードとして振舞ってきた。肉体が腐っていなかったのは恐らく奴の能力で腐敗を抑えられていたのかもしれない。
(まずはどんな魔物を混ぜたのか調べる必要があるな。)
魔物の特性が掴めれば、弱点も分かる。一匹や二匹じゃない。恐らく数多くの魔物を混ぜている。でなければここまで異様な姿にはならないだろう。強力な力を持っている様だが弱点も多くなっている筈だ。そこを突けば倒せる。
「……問題は、ザードの遺体をどうやって取り除くか……」
ザードを取り込んだキメラは人型になっていた。人型になっているだけで見た目はかなり異様だが、人型になっているという事はまだザードだけを取り除く事も出来るはず。例え親友が骨だけになろうともこのキメラは倒すつもりだが、早い方が良いだろう。
「グガァァァ!!」
考えが少しまとまった所でキメラがこちらに向かって走って来た。形は歪だが早い、
「まず一つ。」
ヒュン……ドッ!
手始めに魔法で生み出した石を相手にぶつける。当たりはしたが軽く弾かれた。最初に気になっていたがやはり……
(スライムか……予想通りだな。)
弾力性の高い体、特性からしてスライムなのは予想出来た。人型に成れるのも頷ける。恐らく核が何処かにあるだろうが……
(今核を潰せばどうなるか分からない。試すのは後だな。)
「二つ目だ。」
ガガガガッ!
土魔法で相手のいる足場を石の棘だらけにした。動けば棘が刺さる単純な仕掛けだ。
「グギィ?」
メキメキメキッ!バサッ!バサッ!
(ほう、棘だと理解して翼を生やすかあの形状はワイバーンだな。知性も少しある様だ。)
二体目はワイバーン。翼をの形状からして間違いなさそうだ。棘を見てから翼を生やした所を見ると知性も少しあるし、視覚もある。
(……やれやれ、こんな状況だと言うのに研究欲が湧くのは研究者の性か。)
親友を取り込まれたというのに、純粋に未知の魔物に対して興味が湧く自分に嫌気が差す。しかし、相手の特性を掴めなければ勝てないのも事実。
(ペースを上げよう。人型でいるのも時間の問題だ。)
スライムが混ざっている時点で猶予はあまり無い。急がなければ、
「シィィィ!!」
「!?」
ガキッ!
相手の突然の攻撃に咄嗟に籠手で受けてしまったが、この形状は……
「サーペント?……つっ!?石化……コカトリスか!?」
籠手が石化を始めたのですぐに籠手を捨てた。少し受けた所が黒ずんでいた事からコカトリスの石化と毒。恐らくその魔物の特性を使って攻撃してきている。あのまま付けていたら石化か毒の影響を受けていただろう。
(厄介だな……迂闊に近付けないのか。)
打撃系は無効、空を飛び石化と毒で攻める。厄介極まりない。
「三つ目か……」
(これだけか?いや、まだ何かある筈だ。)
あの死霊術師の事だ。まだ何かある。
「グッ、グルゥゥ!!」
メキメキメキッ!
「「「グギィ!!」」」
「何!?」
人型のキメラから三つの犬の首が生えてきた。まさか……
「……ケルベロスか。」
文献でしか知る事の出来なかった魔物だ。地獄の門番と言われているらしいがこの魔物単体で脅威の筈だ。だが、この状況は好機かもしれない。
(あのケルベロスは勝手に出てきたな。完全には混ざっていないのか、もしそうなら隙を突けるかもしれない。)
全ての特性を持って活かしているならまだしも、活かしていないのなら、
(弱点を突いてキメラとして混ざっている状態を解く。)
キメラは混ざった性質上、その状態が無理やり解かれれば混ぜられた魔物達の寿命は短くなる。それも、あっという間に死んでいくらしい。
(ザードが残した資料が役に立つな……あいつはもしかしたら、こうなる事を予測していたのかもしれない。)
あいつの為にも、とっとと終わらせないとな。
「「「グゥ、ギュルルル!」」」
「ガァァ!」
「流石に騒がしいな……だが……」
さっきと比べると明らかに動きが鈍っている。それぞれが生きる為に主張している。
「……ファイヤーボール。」
ボン、ボン!
まずは牽制で攻撃する。一見効果が無さそうに見えたが、魔法耐性が低い個体に当たったのか少し表面が焼けた。
(……効果があるなら強めに行くか。)
次に火の魔力を宿した魔石を細かく砕いた物を投げる。
「ガァ?」
「「「ギュルルル!!」」」
ケルベロスの個体が魔石を幾つか喰った。確か資料だと魔石が好物らしい。甘味を感じるらしく喰い付くと書いてあったが、まさか本当に喰い付くとは、
「……ファイヤーボール!」
ドォーン!
だが、ケルベロスに餌を与える為に投げた訳では無い。投げた魔石に向かって炎の魔法を放つ。魔石の魔力は爆発する様に調整していて、丁度大きく口を開いているケルベロスの頭の一つと共に爆発した。
「ガァァァ!!」
意外と簡単に頭が吹き飛んだかと思ったが、少しずつ再生していた。恐らくスライムの特性が作用していそうだ。これは先に核を潰した方が良いな。個々が主張しているという事は核を潰しても混ざったままだろうが、スライムの特性は潰せる筈だ。
(核は何処だ?人型なら心臓部か?)
正面から見る限り核は見えない……なら、
(これでどうだ?)
「「「ギュルルル!!」」」
魔石をばら撒き、ケルベロスの個体の注意を引く。奴は狙い通り他の個体を引っ張る様に魔石に向かう。
(良し、後ろに……)
「シィィィ!!」
「な!?」
後ろに回った所でコカトリスの個体が蛇の尻尾で攻撃してきた。寸前の所で避けたが危ない所だった。
(一つの個体の注意を引いても別の個体はこちらを警戒しているか……混ざっている分、相手の行動が読みずらいな。)
だが、核は確認出来た。正面がケルベロスに占領されている所為なのか、背中に核を移動していた。あれなら狙いやすい。
(問題はどうやってコカトリスの個体の注意を引くか。)
コカトリスの蛇の尻尾が常にこちらを警戒していた。ケルベロスの影響であの場から動けない様だが、こちらをずっと見ている。
「……サンダーボルト。」
バチバチッ!
コカトリスは雷の魔法に弱い、かといって倒せるほどの威力を出せるかと言えば怪しい所だが、
「ガァァ!!」
気を引くことに成功した。後は……
(そのまま突っ込む!)
キメラに向かって走り出す。コカトリスの個体が攻撃してこようとするがその瞬間を狙って、
バチバチバチッ!
強く放電させる。攻撃力は無いが目眩しと警戒させるのには有効だった。
「ガッ?!ガァァ!!」
「……遅い。」
ガキン!
目眩しを喰らったコカトリスが攻撃してこようとしたが、上手く隙を突いてスライムの個体の核を狙った。核は音を立てて砕けた。
シュゥゥ、
「……これは、あまり良い状況とは言えないな。」
スライムの個体が倒された事でキメラが形を変えた。ケルベロスの形を元にワイバーンの翼、コカトリスの蛇の尻尾が生えた状態に、そして元々ザードの遺体は不完全な融合をした為か、ケルベロスの背中に張り付く様に混じっていた。ザードの遺体が溶かされる心配は無くなったが、融合した状態は完全には解けていない様だ。
「「「グルゥゥ!!」」」
(完全に再生出来なかった所を見ると、スライムの特性を潰すのには成功したみたいだな。後は……)
ヒュン、
ケルベロスの頭一つが傷を負ったままの状態を見る限り、スライムの特性は潰せた。そして先程と同じ様に砕いた魔石をばら撒いたが、
(……喰いつかない、学習したか。)
ケルベロスの個体が魔石に反応はしたが、先程の様に喰いつく事は無かった。あの不意打ちはもう通用しないみたいだ。
(次はコカトリスの個体を何とかしないとな。)
ただ攻撃を喰らうだけなら何て事はないが、石化と毒は厄介だ。あのキメラを倒すには一定距離近付いて大技を喰らわせる必要がある。
(雷に強く反応していた……なら。)
ダッ!
「「「グルァァァ!!」」」
俺が動き出すとキメラが反応したが、それぞれの個体が主張している所為か上手く俺に近付けない。それを利用して後ろに回ると、水魔法を相手に繰り出した。
「……ウォーターボール!」
大量の水をコカトリスの個体に掛ける。
「ガァァ?!」
ずぶ濡れになった事に驚くコカトリス。全く効いていない様だが、これは下準備にしか過ぎない。
「……サンダーボルト!!」
バチバチバチッ!!
「ガァァァァ!?」
強力な雷魔法をコカトリスの個体に向けて放つ。キメラそのものに影響が及んだが、コカトリスの個体に一番効いている。
「ガァ………」
そしてあっさりとコカトリスの個体は息絶えた。蛇の尻尾は力無く地面に垂れていた。
(やはり通常の個体に比べると弱体化しているな。こうもあっさりと潰せるとな。ケルベロスの個体もあの爆発で一つ頭が吹き飛んでいた。融合した事で通常より攻撃が通りやすくなったと考えるのが妥当か。)
融合した事によりその個体本来の強靭な肉体が弱まり、魔法が効きやすくなっている可能性が高かった。俺にとっては非常に有難いが。
(だが奴がこのキメラにこれだけしか組み込んでいないのはおかしい。観察はしていたが他の個体が混ざっている様子は………あれは?)
コカトリスの個体が倒された事により、キメラの形が変わった。その時、新しい個体がいる事が分かった。
(スケルトンにヴァンパイアか?……よく見ればリッチの特徴も……だが、全部動いていない?)
アンデッドが三体混ざっている事に気付いたが、その三体はもう活動を停止している様に見えた。今になって混ざっているのが分かったという事は、表向きは混ざっているのを隠していた様にも見えるが、
(まさかシャルがあの時何かしたのが原因か?)
【イビル・マリオネットとの繋がりを斬ったわ。もう、彼が術で操られる事は無い。】
不意に彼女が言った言葉を思い出した。死霊術師との繋がりを斬った。あの時は驚いて冷静では無かったが、よくよく考えればとんでもない事だ。繋がりを斬るという事は、奴の死霊術の影響が無くなるという事。
(アンデッドを操る死霊術師にとって、天敵じゃないか。)
このキメラも、もっと強力な力を持っていた可能性が高かった。だが彼女の手によって、その力は削がれていた。
(シャルには、沢山恩が出来てしまったな。)
彼女が俺を信用すると言わなければ、この場所にはこれだけの戦力を揃えて立ち向かえなかった。彼女が一緒に侵入しなければ、こんなにあっさりと奥までは来れなかった。そして、彼女が死霊術師にとって天敵とも言える力を持っていたからこそ、ザードを弔える。
(必ず恩は返す。)
「「「グルゥゥ!!」」」
残るはワイバーンとケルベロスの個体のみ。ワイバーンの個体は翼だけ動いており、頭は見えなかった。恐らくケルベロスの個体と強く融合している可能性が高い。
(なら、ケルベロスを倒せば一気に倒せるか。)
下手な火力ではあれは倒せない、かと言って魔石で注意を引くのはもう出来ない。至近距離で大技を喰らわせる必要がある。その為には右腕一本犠牲にする必要がありそうだ。
(前にザードに貰ったとっておきがある。これを使う日が来るとは思わなかったが。)
他でもないザードが、身を守る時の為に残した特別な魔石。使うなら今しかないだろう。
「「「グルゥゥ!!」」」
ダッ!
俺は一直線にキメラに向かって走り出した。右手に特別な魔石を持ち、自身に防御魔法を込めながら。
「「「グルァァァ!!」」
一頭が俺の右手に喰らいつくと、他の二頭は右腕に喰らいついた。恐らく持っている魔石ごと俺の腕を喰おうとしているのだろう。
「……右腕の一本くらいはくれてやる。だがその代わりに親友は返してもらうぞ?」
キィィィン……
魔石に魔力を込めつつ、ザードの遺体に防御魔法を掛ける。この魔石を使った後、どうなるかは賭けだが、ザードの遺体はできるだけ綺麗な状態で回収したい。
「「「……グルァ?」」」」
「……それだけ混ざってるんだ。お前の体が吹き飛ぶだけで済んでくれよ?」
キィィィン!!
「魔力……解放!」
カッ!!
──終わりにしよう。
「エクスプロージョン!!」
ズッ………ドォォン!!
キメラの体と共に右腕が吹き飛ぶ。内側からの大爆発に耐える事は出来なかった様だ。咄嗟に左腕でザードの遺体を回収する。多少傷付いたが、防御魔法をのお陰で吹き飛ぶのは免れた。
「……よう、ザード……お帰り。気付いてやれなくて済まなかった…あれだけ一緒にいたのにな……俺は本当に馬鹿な親友だ。」
ポーションで血が流れるのを止めつつ、ザードに謝る。色々と思う事はあった。だけど、他に言葉が出てこなかった。表向きは冷静でいたが、心の奥底では辛くて仕方がなかった。
『……気にするな。』
不意に声が聞こえた。ひどく懐かしい声音で、
『俺の方こそ研究で我を失ってしまった。謝らなければいけないのは俺の方だ。済まなかった……そして、ありがとう……ギルス。』
「……な?!ザード!?」
ザードの声が聞こえ名前を呼んだが、反応は返って来なかった。どうやら本当に逝ってしまった様だ。
「……全く、あいつらしいな、言うだけ言って去るなんてな。」
俺は涙を流し、しばらくその場から動かなかった。




