対決、闇ギルド! 3
「強いのね?」
「魔物の生態調査を生業にしていたからな。常に危険と隣り合わせだから自然と戦える様になるさ……まぁ、お前には負けるが。」
「うん?」
俺の倍以上の数を相手に、無傷で俺よりも早く捕獲して平然としている彼女には絶対に敵わないな。
「ギルス……テメェ!」
「さて、どうする?」
「このまま影の心臓の皆さんに回収してもらって私達は奥に行きましょ?」
ファイブ、シックス、セブンは拘束された状態で地面でジタバタと暴れている。他の連中は全員気絶させられて拘束されている。
「外の連中への合図はどうする?」
「……出来ればこのまま決着を付けた方が良いわ。」
「良いのか?仲間を呼ばなくて。」
「変だと思わない?こんなにあっさりと先に進めるの。」
「お前が強い訳じゃ?」
「闇ギルドの本部よ?何故外の軍隊には指揮官が存在せず、中はこんなに少数で待ち構えているの?」
「……確かに変だと思うが。」
「統率がとれていないのにも程がある。むしろ、統率を取る必要が無いと予想した方が納得がいく。」
「それは一体……」
『グルルァ!!』
「「!?」」
会話に夢中になっていてすぐに気付けなかった。突然、妙な魔物が襲い掛かってきた。
「……はっ!」
ブォン!ザシュ!
だが、シャルの一撃でその魔物は真っ二つに斬られた。その後、魔物は溶けて無くなった。
「驚いたな、一体何処から……」
ズズッ!
「?!いけない!!」
シャルが何かに気付き剣を振った。その方向を見ると、拘束していたあいつらが黒い何かに呑み込まれてしまっていた。
ズズズ……、
「逃したか……不覚ね、一瞬考えてしまったのがいけなかったわ。」
「あれは一体?」
妙な魔物はシャルに倒され、その不意を突かれてあいつらが何かに呑み込まれた。
「さっきのが、貴方の親友を操っている元凶よ。」
「……あれが?確かに封印されていたのは不完全な姿だったが……」
俺が見たあの魔物は、普通の状態では無かった。だが形が分からない程のものでは無かった筈だが、
「……今の行動で一つ予想出来た事があるの。もし合っているなら最悪な事をしているわ。」
「それは何だ?」
シャルの反応からして、かなり不味い状況の様だ。奴は何をしている?
「多分今言っても信じられないと思うわ。まずはザードに会いに会いに行きましょう?奥にいる筈よ……そこで答えが分かるわ。」
「……ああ。」
これ以上聞いても答えてくれそうにもないな。奥に行けば奴が何をしているか分かるらしい。奥へ進もう。
◆◆◆◆
「敵が出てこないな。戦力があれだけとは思えないが。」
「私の所為ね。さっきので余計に警戒させてしまったみたい。奥にいるのは変わらないんだけど。」
「色々聞きたいが、奥に行けば分かるんだろう?」
「ええ……!?………ごめんなさいギルス。私がもっと相手の力を分かっていれば……」
「いきなり何だ?」
シャルはかなり動揺しているみたいだ。彼女は気配を人一倍感じ取れるから奥で何が起こっているのか分かるのか?
「急いだ方が良いんだな?」
「……ええ。」
奥に進むと、広い場所に出た。前はここまで広い空間は無かった筈だが……
『ヒヒヒ!ようこそ裏切り者!そして……我々に仇なす忌々しい存在!』
「……ザード。」
「!?…………やっぱり。」
声のした方を見るとザードがいた。見た目は親友であるザードだ。喋っているのがあいつではなく操っている別の奴だと思うと腹立たしいが、
「どうだい?楽勝だったろ?まぁ、そこの女が最後仕向けた魔物を肉体ごと吹き飛ばして再生出来なくしたのは予想外だったが。」
「吹き飛ばした?貴方もしかして見ていなかったの?」
「何を言っている?あれはちゃんと支配していなかったからな、やられてもおかしくは無いが、まさかあっさりとやられるとはなぁ……お前はやはり危険だ。」
「…………。」
シャルは奴の言葉に何か考えている様だが、向こうはこっちをかなり警戒しながら話している。
「さて、そう言えばギルス。どうして戻って来たんだい?あのまま逃げていれば俺は君の事を忘れただろうに……わざわざ殺されに来るなんて随分と物好きだねぇ?」
「殺されに来る訳が無いだろ?取り戻しに来たんだ……親友を。」
「親友?俺をかい?何故?」
「お前がザードを操っているのは明白だ。だから、返してもらうぞ?ザードを。」
「ヒヒヒ!流石に気付くかい?そうさそうさ!君の親友を操っているんだよ!もっと早く話してくれても良かったのに!」
「救う手立てが無かった。だが、今なら救える。」
随分とあっさりと認めたな。 何か策があるのは分かるが、あいつ以外に何も気配を感じないのは異様だ。
「君に出来るかな?ザード君を取り戻す事が!親友と再会する事が!!」
「……やってやるさ。」
剣を構えて相手を見据える。だが、動きだそうとした所でシャルが聞き捨てならない事を言った。
「……残念だけどギルス、彼と本当に再会するのは不可能みたい。」
「……どいう事だ?」
思わずシャルの方を見た。本当に再会するのは不可能?操られている状態をどうにかする事が出来ないのか?
「あいつは操られているんだろ?」
「ええ。」
「ならそれを何とか出来れば……」
「操られているのは何とか出来るわ。でも、それだけ。」
「何を言って……」
「……貴方の親友、ザードは死んでいるわ。」
「…………死んで、いる?」
どういう事だ?ザードは精神を蝕まれて操られているだけじゃ……
「……あぁ、やっぱりお前は危険だ。いつ気付いた?」
不意に奴が口を開いた。その言葉はザードが死んでいる事を認めている。
「その可能性に気付いたのはついさっき、そして貴方を見て確信した。貴方、正確にはザードの体からは生者の気配がしない。感じるのは死者の気配。」
「ヒヒヒ!大正解だ。ザードはとっくの昔に死んでいる。私はこいつの体を操り、ザードの振りをしていた。」
「……何だと?」
とっくの昔に死んでいる?何時からだ?確かあいつが完全におかしくなったのは……
「もっとこの世界の事を真剣に考察すれば良かった……その可能性を初めから考慮していれば、こんなに犠牲者を出す事は無かったわ。」
「後悔しているのかい?ヒヒヒ!もう手遅れだよ!!」
ズズズズズッ!!
「な!?」
俺の目の前に、さっき拘束した幹部の三人。そして他の行方が分からなくなった人間、妙な魔物、キメラが黒い影から現れた。
◆
「アイス・ジャベリン!!」
「ギャァ!?」
「グァァ!?」
闇ギルド本部入口前。魔物を凍らせながら、相手の様子を見るリナリー。
「どう思う?フランソワ?」
「余りにも脆い軍勢ね。数は多かったけど、指揮官がいないから奇襲も不意打ちも喰らわない。実験台にされた人達もすぐに捕獲出来たわ。もうすぐ全員何とか出来る。」
「そうよね。何か隠し玉があるのかな?」
ホルンは前に出ている冒険者達に補助魔法を後ろで掛け続けていた。前に出た冒険者達は魔物を倒し、実験台にされた人達を次々に捕獲していく。さっき影の心臓のメンバーが城にいた人達は殆ど捕獲したという事を聞いた。
「実験台にされた人達は、意識を奪ったと思っても動き出すし、最初から操られていた可能性が高いわ。」
「まぁ、中にはお尋ね者になった奴も居るけど。利用されたみたいね。」
捕獲した人達の中には、悪さをしてギルドから追われていた者達もいた。皆、意識がはっきりしておらず操られている様だが、
「リナリー団長!何か来るぜ!!」
「ん?」
一人の冒険者がリナリーに声を掛けた。その声を聞くのと同時に黒い影が広がり、何かが現れた。
「……アァァ。」
「……ウゥ。」
「……グァァ。」
「アンデッド!?それにこの数……」
「これが本命みたいね。」
魔物とキメラの死体を黒い影が取り込み、中からアンデッドの群れが現れた。数も増えており戦力を温存していた様だ。
「おい!このアンデッド、光魔法で攻撃しても完全には死なないぞ!」
「おいおい、再生するのがいくら何でも早過ぎないか!?」
「ただのアンデッドじゃない?」
「再生する?」
リナリーとフランソワは敵の異常性に首を傾げた。アンデッドに再生する個体は存在しない。実体を掴めない者や、切った部分が動くなどの個体はいるが治癒するという現象自体が発生する個体はいないはず。
「フランソワ!リナリー!捕まえた人達が!!」
ホルンの叫びを聞いた二人は後方を見た。そこには、実験台にされた人間が黒い影を纏って蠢いていた。
「……あれは?」
「……あの様子じゃ、生きていないみたい。」
あの人達から生きている人間の気配がしない、全ての人間達が何者かの手によって殺され、操られた様だ。
「……待って、生きていない?死者を操っている?」
フランソワは思考を巡らせた。古い文献で該当する存在がいた様な……
「……まさか、死霊術師!?500年前にリース大陸を危機に陥れた唯一の個体。」
死霊術師、死者を操り支配する存在。文献によると、支配下にある個体は本体が滅びなければ完全に滅びないという。かつてリース大陸が死の大陸と言わた元凶であり。その確認された個体は唯一その500年前の一体のみ。
「文献にはその後どうなったかは書かれていなかったけど……」
「あたしがエルフの里にいた時聞いた話じゃ、何処かに封印されたって聞いたわ……」
「嘘……じゃあこの場所に封印されていた存在って……」
◆
「……貴方は、死霊術師なのね?」
「ヒヒヒ!そうさそうさ、その通り!私は死霊術師!死者を操れる存在!三柱の一つ!“イビル・マリオネット”、それが私の名だ!!」
「“イビル・マリオネット”……」
死者であるザードを操っている存在はそう名乗った。もう、演じる必要が無くなったからなのか、その表情はもう人のものには見えなかった。
ジャキッ、
「死者を操れる存在……何処かの文献で見た記憶がある。ここに、封印されていたという事は、お前がその文献にあった死霊術師なのか?」
「その通りだよ!忌々しいあの男に封印され、長き間動きを封じられた。目を覚ましたら、あの方さえも封印されていた!本当に忌々しい!!」
あの方?こんな危険な奴を従える存在がいるのか?……それに封印した奴もいたのか。驚いていると、奴は急に態度が急変した。
「だが奴はもう居ない!我々を害する存在はもう居ないとそう思っていた……だと言うのに!!」
ガンッ、ガンッ!
「貴様が現れた!!我々の息が掛かったミノタウルスとあの魔物達を消滅させた!あの方が密かに蒔いた種を潰した!どうやって?一体何をした!?」
奴の怒りはシャルに向いていた。狂気と怒りに染まったその声は今すぐにでも相手を殺したいという強さがあった。
「私はただ純粋に倒しただけ。もし何か秘密があって死なない存在であるのなら、滅したのは私の流派が関係している。今言えるのはそれだけ。」
「流派?それが何だって言うんだ?そんなもので消滅する訳が無いだろう?」
シャルの答えに納得がいかず苛立つ様子をみせる。そのまま戦闘になるかと思ったが、
「……まぁいい、私達がまた始めれば良いだけだ。その為の足掛かりは用意した……あの男の所為で思っていた程集まらなかったが。」
「…………。」
ズズズ……バタン。
不意に奴は黒い影から出した連中を仕舞った。そしてザードの体から黒い影が分離し、ザードの体は地面に倒れた。
「!?……ザード!」
【ヒヒヒ、この体はもう必要無い……と言いたい所だけどギルス君、君の為に最高の演出を用意したよ?】
ズズッ!
「グルゥ……ギギ、ガァ?」
「……あれは?」
「生きているキメラ?」
今まで見たキメラの中で最も歪で、生きているのが不思議なくらい不気味な存在が現れた。
【……これをこうするのさ。】
「「な!?」」
グチッ!メキメキッ!
奴はザードの死体をキメラに融合させた。ザードの体を取り込んだキメラは人型の異様な姿になった。
【ヒヒヒ!是非ギルス君の手で仕留めて欲しい。君の親友を取り込んだこのキメラをそこの女は消滅させられるのかなぁ?出来なければ、彼も私の軍勢の仲間入りさ。悪いけど、そこの女とはまともに戦いたく無い。まだ戦力が足りないからね。今は退かせてもらうよ?】
「……貴様ぁ!」
「…………。」
奴は笑いながら姿を消そうとする。
「ギルス、許可を貰えるなら私が彼の死体だけを取り除く。イビル・マリオネットも確実に仕留める。」
「出来るのか?……いや、待って欲しい。あいつは俺にやらせてくれ。シャルは奴を。」
「でも。」
「ザードは、俺自身の手で決着をつけたい。流石に死者を操る術はどうにも出来ないが、生きているあのキメラを仕留める事は出来る。」
「……分かったわ。」
シャルは一言応えると、前へ出た。奴は既に姿を消していた。
「なら、せめてこれだけはさせて欲しい。」
彼女はおもむろに剣を構えると、
「……“斬”。」
キンッ、
「……何をした?」
「イビル・マリオネットとの繋がりを斬ったわ。もう、彼が術で操られる事は無い。」
「……本当か?」
正直かなり驚いたが、その話が本当なら有り難い。
「ありがとう。これでザードを弔える。」
「……私は何も出来なかったわ。」
シャルは自分を責めている様子だった。彼女が協力してくれた事で助かっているのは間違いない。
「気にしなくて良い、一人の人間が救える命は一握りだ。シャル、お前は充分に戦ってくれている。ここは俺が引き受ける……奴を必ず仕留めてくれ。」
「……うん、任せて。」
シャルは奴を追う為に一瞬で姿を消した。俺はザードを取り込んだキメラを見据える。
「グッ、ガァ?ギギギィ!」
「さぁ、親友を返してもらうぞ?」




