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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
謎のルーキー
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謎のルーキー 4

時間が飛びます。展開急かな?ここから少し真面目な展開になります。鬱要素はありません。

 〜二週間後〜


「おはよう、ラルちゃん。」

「あ、シャルさん!おはようございます!今日も素敵な声と洋服ですね!」

「ありがと、今日も森の方に行くと思うから、帰りは遅くなるってキエラさんと、ボルクさんに伝えておいてもらえる?」

「わかりました!伝えておきます!いってらっしゃい!」


 装備を整えてから二週間経った。あれから依頼を目立たないレベル(ミリー監修)でこなし、Dランクになった。次のCランクに上がる為には試験が必要で、この街では行っていないのでこの街から一番近く、王都にも近い大都市“ブルーマリン”に行く必要があるそうだ。


「お、シャルちゃん!良い肉が手に入ったんだ食べて行かないか?」

「ごめんなさい、これからギルドに依頼を受けに行く所なんです。」


「あ、シャルちゃん!良質なポーションが入ったの!寄ってかない?」

「ごめんなさい、今日は森に行くので、帰りが遅くなるのでやめておきます。」


 ただでさえランクが、この辺りでは最速で上がり注目されているのに、これ以上ランクを上げて目立ちたくなかった。


「あら!シャルちゃん!今日は洋服は見て行かないの?」

「あ、はい、今日は森へ行くんで」


「おや、シャルちゃん!よかったらまたウチの依頼受けとくれよ。掃除の依頼、随分と手際が良かったからね。」

「・・・はい、また機会があれば」


 街の人とも交流が深くなり、仲良くなったのに街を離れるのも、という理由もある・・・・・・だから、


「あぁ、シャルちゃん!装備何か必要ない!?おまけするわよ!」

「・・・いえ、大丈夫です。」


「おぉ、シャルちゃん!何か必要な道具は無いかい?安くするぞ!」

「・・・・・・いえ、大丈夫です。」


 “白薔薇のエンブレム”の影響で有名人になり、大都市に行ったらもっと目立つから行きたくないとかそんな理由じゃない!


 ギギィ〜、


「お、期待のルーキーの登場だ。おはようシャルちゃん。」


 絶対に!!!



 ◆◆◆◆



 正直、失念していた。


 フランソワさんが、服と魔導具をくれて舞い上がっていた。よく考えるべきだった、超有名なSランク冒険者が、私を含めてたった五人(・・・・・)にしか渡していない希少な魔導具を渡していた事に、フランソワ・ポワ・マスクウェルがその人物を保証するという事がどういう事なのかを、


 そして、言われるがまま人の目に入る指輪に変えて付けてしまった事を、


「ふふ、今日も人気者ねシャルちゃん。」

「ミリーさん・・・他の所には言ってませんよね?」

「もちろんよ、目立ちたくないシャルちゃんをこれ以上困らせたくないわ。」

「・・・きっかけは、ミリーさんですけどね。」


 二週間前、ミリーさんをよしよしとした後、復活したミリーさんが依頼の受付をしてくれた際、指輪を見て、「あら、指輪も買ったんです・・・?!!そ、そのエンブレムは白薔薇のエンブレム!!?・・・はえ!?どういう事!?え、えぇ?!」と騒ぎになり、一躍有名人になった。

 その場で何とか騒ぎを一時的に納め、他の街や都市に情報がいかないようにしてもらったが、この街には情報が行き渡り、毎日純粋な好意で声を掛けてくれる人と、店に箔を付けようと必死になる人に声を掛けられ、気疲れしていた。


「う、ごめんなさい。でも、マダム“フランソワ”が白薔薇のエンブレムを持っているのは、自身を含めて四人しかいないって前に言ってたらしいから、目の前にそのエンブレムを持っている人がいたら驚くわよ。」

「・・・フランソワさん。今度会ったら文句言わないと」


 確かに警戒される事は無くなったが、フランソワ自身は良かれと思って渡したつもりが、シャルにとっては迷惑極まりない状況を引き起こした魔導具になったので、今度会ったら文句の一つでも言おうと心に決めたシャルだった。


「そういえば、今日も森に逃げるの?」

「逃げるって・・・依頼を献身的にこなす生真面目な冒険者って言って下さい。」

「献身的って・・・ほぼ毎日朝一で森に入って、日が暮れた頃に戻ってきてたらそう見えるかもだけど、さすがに分かるわよ?」

「・・・・・・。」


 シャルの実力を知っている人は、大した依頼も受けず毎日森に入って戻ってきている彼女を見ながら、あぁ有名人は大変だなぁと、思いながら微笑ましい目線を向けていた。


「まぁ、あんな毎日声を掛けられればね・・・・それはそうとシャルちゃん、毎日森に入っているから聞くけど何か変化とか無かった?」

「変化・・・ですか?」


 ミリーは真剣な表情になると、シャルに問いかけた。


「最近この近辺で、魔物の動きが妙に計画性があるって話しなの、もしかしたら王種が誕生した可能性が高いって噂なのよ。」

「・・・王種ですか?」


 話には聞いた事がある。王種はわかりやすいのだと、ゴブリンキングやオークキングなど種族の王として誕生する強力な個体だそうだ。最近、一部の魔物が常に集団で行動しており、何者かの指示に従って行動しているように見えるらしい。


「今の所、森にそういった事は起きて無いですね。もし何か異変を感じたら報告します。」

「分かったわ、お願いね。」


 ミリーから情報を得たシャルはギルドを後にした。



(王種誕生の噂か、いつも以上に警戒した方が良いわね。前世にはいなかったタイプの敵だもの。)



 街の出口に向かいながら、シャルは王種について考えた。知性があり、同種の魔物を統率する強力な個体。

 かつて乙戯暮葉(おとぎくれは)だった時、意志が無く、本能のみで人々を襲う残魔(ざんま)という化物と戦ってきた彼女。転生した先でも戦いに身を投じるとは思わなかったが、この方が性に合っていると内心思っていた。


「おや、シャルちゃん。今日も森に逃亡かい?」

「ディックさん・・・逃亡じゃなくて、依頼です。」


 前世での戦いの日々を思い出し、若干憂鬱になっていたシャルだが、ディックの一言でその気持ちは無くなり、顔は見えないがローブの中で頬を膨らませた。



 ◆◆◆◆



(今日も薬草採取と、依頼の魔物を狩る一日・・・もっと奥まで行ってみようかな?)


 森で薬草採取をしながら魔物を探すシャル、ミリーの言っていた王種の事が気になり、森の調査も少ししてみようかと思った。


(・・・静かね、森にいる小さな動物達が怯えて出てきてないわね。)


 気配を探りながら進むシャル、少しずつ森の状況が変わっていく、奥に行くに連れて動物の数が少なくなっていることに気づいた。小さな動物達は、木にあいた穴や地面に掘った穴に籠り、小さく震えていた。


(今の所、何も妙な気配は無いけど、別に私に怯えているって訳じゃなさそうね。)


 以前森で好き勝手に魔法を使った際、魔物だけでなく動物にも怯えられ、森の一部の区間が一時的に静かになった時があった。今は抑えて行動しているため、森も本来の状態に戻っていたが、


(昨日とは雰囲気が違う・・・あれ?この気配・・・)


 シャルは、不意に感じた気配に既視感(デジャブ)を覚えた。


(デジャブ?・・・ううん、違う、この気配は間違いなく前世で感じたのと一緒・・・いえ、少し違う?)


 シャルは、森の奥から感じる前世の敵と似た気配に動揺した。


(あれとは決着をつけた。ならこの気配は一体・・・)


 シャルは真剣な表情で警戒心を高め、森の奥へと進んだ。



 ◆◆◆◆



「準備ハ、ドウダ?」

「上手ク、イッテイマス、計画ヲ実行デキルノモ、時間ノ問題デス。」

「ソウカ、我ラガ王モ喜ブ。」


(喋る魔物?意志がある・・・気配はあの魔物達からするのに、やっぱり別物なの?)


 シャルは、妙な気配のゴブリン達を見つけ、隠蔽魔物で隠れて様子をうかがっていた。彼らは何か計画を立てている様だが、前世で戦った敵と似た気配の魔物の事が気になっていた。


「ムコウノ、王ハドウダ?」

「荒野デ、数ヲ集メテイマス。」

「我ラガ王モ、ソコニムカッテイル。破壊ノ実行ハ、モウスグダ。」


(・・・今は、目の前の事に集中した方が良いわね。魔物の話しを聞いている限りだと、王種は二体いる。)


 たった一匹の存在で、場合によっては一軍に匹敵する配下を揃える王種。それが二体、数は分からないが配下を集めているようだ。


(荒野、森とは反対の方向ね。もう少し情報を引き出したいけど、今この場でこいつらは倒しておいた方が良いわね。)


 ザッ、


「「何者ダ?!」」

「お話し中の所、ごめんなさいね。あなた達は(・・・・)何者かしら?」


 シャルはわざと、喋るゴブリン達の前に出ると少し殺気を周囲に放ちながら問いかけた。


(普通のゴブリンと見た目が違う、ハイゴブリンかしら?加減しているとはいえ殺気にも耐える様だし。)


「カカカッ、人間カ、愚カナ、ノコノコト姿ヲ現シテ生キテ帰レルト思ウナ。」

「ソウダ、見タ所一人ノヨウダナ、愚カナ。」


 シャルの姿を見たハイゴブリン達は笑うと、持っている武器を構えた。


「あら、そう?私これでも強いのよ?」


 キンッ!・・・ドーーン!


 そう言って剣を抜くと、真横にあった木を一振りで切った。


「カカカッ、ソノ程度ドウトデモナル。」

「タッタ一人デ来タ事ヲ後悔スルガイイ!!」

「それはどういう事かし・・・」



 ガサガサガサ!!!


「「「「グォォォォ!!!」」」


 いつの間にか(・・・・・・)ハイゴブリン達に囲まれていたシャルは、一斉に飛び掛かられた。


「・・・やれやれ、舐められたものね。」

(乙戯流刀術、柳の型“柳陣(りゅうじん)”・・・合わせ、“柳風陣(りゅうふうじん)”!!


 そしてシャルは、回転しながら全方位からの攻撃を受け流し、風の魔法を纏い小さな竜巻を起こし、相手を吹き飛ばした。


「「「グ、グギャアアア?!」」」


 シャルの技で吹き飛ばされたハイゴブリン達は、木々に体を打ち付けられると、その強い衝撃で一匹を除き絶命した。


「グ・・・オ、オ前ハ一体?」

「それは秘密よ・・・まぁ、あなた達に正体を明かした所で意味無いけど」


 シャルは、まだ息のあるハイゴブリンに剣を向けながら答えた。


「それよりも、答えてもらおうかしら?あなた達の目的は何なの?」

「・・・知レタ事、王ガ望ムノハ破滅ダ。」

「・・・破滅?・・・はぁ、最悪ね。」


 シャルは、ハイゴブリンの言葉を聞くと機嫌が悪くなった。


「・・・カカカッ、臆シタカ?ドウセ貴様モ我ラガ王ニ」

「・・・“(ざん)”。」


 キンッ、


「・・・・・・?」

「悪いけど、あなた達の王は私が倒すわ。」



「何ヲ・・・イッ・・・テ・・・グ?」


 その言葉を最後に、この森にいた最後のハイゴブリンは、絶命した。



(あれで全部か・・・数が少なすぎる。街に戻って、一度報告しないといけないわね。)


 荒野に王種が二体、もうすでに戦力は集まっているとみて間違いない。


(破滅・・・か、あの敵も望んでいたわね。一つ違うのは意思はなく、本能のみで破滅を望んでいたという事。あれは消滅させたけど、今世に現れた敵があれほど強大な存在でなければいいけど。)


 前世で対峙した敵を思い出しながら、シャルは街に向かって走り出した。



 ◆◆◆◆



 街の入り口まで戻ったシャルは、門番のディックがおらず別の門番がいることに気づいた。


「あぁ、シャルちゃん!丁度良い時に戻って来たね。」

「えっと、ディックさんの同僚の人?」

「・・・ロイルと呼んでくれ。」

「ごめんなさいロイルさん。」


 つい先日いる事を知ったディックの同僚ロイルが気さくに声を掛けたが、シャルは覚えていなかった。


「まぁ、いいや、すぐに冒険者ギルドに行ってくれ、ディックもそこにいる。」

「何かあったんですか?」


 まさかもう魔物が街の近くまで?と思い、ロイルに問いかけたシャル。


「あぁ、この周辺にある集落が魔物に襲われたらしい。幸い、冒険者が依頼で側にいたから、村は駄目だったが、死んだ人間も大怪我した奴もいないらしい。」

「・・・そっか、良かった。すぐにギルドに行きます!」

「あぁ、魔物の詳細は向こうで聞いてくれ!」


 ロイルの話しを聞いて、シャルは安堵した。そして一刻も早く森での出来事を報告するため、ギルドに向かって走り出した。


 バタン!


「ミリーさん!!」

「あ、シャルちゃん!丁度良い所に!」


 ギルドに戻ると、少人数だが人が集まっていた。入ってすぐミリーの姿が見えたので、シャルは声を掛けた。


「君が、ミリー君達の言っていた。噂のルーキーかい?」

「え、えっと?あなたは?」


 ミリーが何か言う前に、落ち着いた雰囲気の40代ぐらいの男性に声を掛けられ、慌てて足を止めるシャル。


「初めまして、クレメンスのギルドマスターをしている“ホイット”だ。しばらくギルドの報告会で留守にしていて、今帰ってきたばかりでね。宜しく。」

「えっと、シャルです。宜しくお願いします。」


 軽く握手を交わすと、ホイットはシャルが左手にはめている指輪を見た。


「・・・その指輪のエンブレム・・・やはり賢者“フランソワ”の」

「ギルドマスター、私達の言った事を信じていなかったんですか?」


 ホイットと挨拶をしていると、ミリーが少し怒りながら近くに寄ってきた。


「い、いやぁ、流石に世界でフランソワ様を含め、四人しか持っていなかった証を新たに持つ人間がいるなんて、自分の目で見るまで信じないよ。偽物かもしれないし、ギルドマスターとしてね。」

「しばらくの間、皆で仕事を放棄してやろうかしら?」

「い、いやミリー君、謝るから本当にやめてくれ、特に今は」

「・・・えっと、報告とかしたいんですが?」

「「・・・ごめんなさい。」」


 このままだと話しが進まなそうなので、若干怒りながら言ったシャルに、今の状況を思い出しハッとした二人が謝った。


「この辺りの集落が、魔物に襲われた件なんですけど、ロイルさんに集落の人は無事だって聞きました。」

「あぁ、たまたま依頼で冒険者がいたから助かった。軽い怪我人は出たが皆無事だ。ただ、その襲った魔物が問題だった。」

「・・・知性のある魔物ですか?」


 シャルはホイットが答えるよりも早く、魔物の特性について答えた。


「あ、あぁ、よく分かったな・・・いや、報告があると言っていたが、まさか?」

「そのまさかです。森にも知性のある魔物が出ました。」

「・・・そんな。」


 察しの良いホイットがシャルに問いかけ、それに肯定して答えるシャル。ミリーはその話を聞いて、両手を口に当てて驚いた。

この章のディック以外の門番は空気です。


乙戯暮葉の過去とは?


〜乙戯流解説(刀術)〜


・斬の型“(ざん)”:空間をも切るような錯覚が起きるほどに強力な一閃を、目の前の敵にお見舞いする技。ハイゴブリンに使ったのはその威力を最小限に抑えたもの。


・柳の型“りゅうじん”:回転しながら全方位の攻撃を受け流す技、“柳風陣(りゅうふうじん)”はそこに風の魔法を纏い小さな竜巻を起こし、相手を吹き飛ばす技。

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