竜騎姫と闇ギルドの影 6
「当然でしょ?出なきゃこんなに堂々と出て来ないわ。」
シャルは、相手を軽く威圧する様に答え前に出た。
「フォルズ様、如何致しますか?」
「ふん……殺せ。」
「「「「「御意!」」」」」
ザザッ!
フォルズの言葉を聞いた配下の人間達は一斉にシャルに襲いかかった。
(柳の型“柳泳”。)
キキキキン!
「はっ!」
ドドド!
「「「「「ぐっ!?」」」」」
シャルは剣で攻撃を全て受け流した後、足で蹴り飛ばした。
「何を馬鹿正直に突っ込んでいる?魔化を使え。」
「は、はい。」
「がぁぁぁ!」
フォルズの一言で、配下の人間達は体の一部が異様な形状に変化した。
(なるほど、力を増大させる事が出来るのね。)
「グガァァァ!!」
「喰らえ!」
半分理性を失った人間と、まだ理性を保てている人間が同時に襲ってきた。
「はぁ!」
ザシュ!ドッ!
シャルは一人の腕に付いた魔物の腕を切り落とし、もう一人の人間を蹴り飛ばす。
「「「ガァァ!!」」」
(……斬!)
キンッ、
「な、なんだ……」
ザシュッ!
「ぐぁぁ!?」
「ガァ!?」
「ぐぅ!?」
さらに襲い掛かって来た人間を一閃して深手を負わせた。
「……まだやる気?」
「なるほど……ミルディア王女を背負いながら、ここまで戦えるとはな。」
フォルズはシャルの強さに素直に驚いた。ミルディアを背負い動きが鈍る筈だが、ミルディアに負担がかからない様に動きを最小限に抑え、相手を圧倒していた。
「本来はオリビア王女の為に用意してもらった物だが……」
パチン!……ヴォン!
「なに?……魔方陣?」
「なに、すぐに分かるさ。」
シャルが疑問の声を上げると、フォルズは魔方陣に向かって腕を振るう。
「“黒き監獄”。」
ギギギギギ!
「……これは?」
シャルの周りを囲む様に黒い檻の様な物が現れた。
「闇よ、あの物を捕らえよ!」
ズズズズ!
「!?」
シャルは咄嗟に避けようとしたが、ミルディアを背負っていた事を思い出し、ミルディアに当たらない様にあえて黒い何かに捕まった。
「!!?」
ギュ、
目を瞑っているミルディアは得体のしれない物体の気配に怯える様にシャルの肩を強く掴む。
「どうだ?動けないだろう?あのお方から頂いた魔方陣だ。オリビア王女でさえ動く事はかなわないと聞いている。」
「ふ〜ん……あのお方って、“ザード”っていう人の事かしら?」
「……貴様、何故その名を知っている!?」
(私がいる事を知らないで、普通に話していたけどね。)
「何故でしょうね?」
「貴様ぁ〜!」
シャルの態度が気に入らなかったのか、フォルズはかなり怒った様子で力を増大させた。
ブチッ、ブチブチ!
(あの見た目……もう魔物と変わりないんじゃない?それにしても……まるで蟷螂ね。)
フォルズの姿は異様の一言だった。両手に蟷螂の様な鎌を生えさせ、体の殆どが緑色に変色し始めた。その姿は魔物そのものだった。
「……殺す!」
ブォン!
フォルズが魔方陣に捕らわれているシャルに向かって鎌を振るおうとした。
ズズズ!
【ヒヒヒ!……フォルズ、そこで止まれ。】
ピタッ、
「そ、そのお声は……ザード様!」
フォルズは鎌を振り下ろす寸前の所で黒い影から声が聞こえた。そしてフォルズの動きは止まり、声の主に驚いた。
(……来たか。)
【いやはや、中々面白い者がいた様だ。観察させてもらったよ。】
「貴方は、何者なのかしら?」
【んん?……ヒヒヒ!私は“ザード”。彼らの主さ。】
黒い影が蠢き、人の形を取りながらシャルの問いに答えた。
「そう……ここに来た時から観てたのは貴方だったの?」
【気付いていたのかい?……ヒヒヒ!本当に面白い者の様だ!】
シャルが自分の存在に気付いていたのに驚いた後、黒い影は大きく笑った。
【……まぁ、本体はここには無いんだけどね?あの竜騎姫がどうなるか見たかったんだけど、それよりも面白そうな者を見つけちゃったなぁ。】
(変なのに目を付けられちゃったわね。それにしても、やっぱり本体では無いのね。
ここに来た時からザードの影の存在に気付いていたが、無視をしていたシャル。
【さて、君の名前も聞いておこうか。】
「私?私はシャル、Cランクの冒険者よ。」
【シャル?……ああ!突如現れた謎の冒険者!“隠者”のシャルとは君の事だったのか!】
黒い影は、不気味に笑った。
【…………そうか、お前が我々に仇なす者か。】
(仇なす者?それにしても、随分と精神状態が不安定なのね。)
ザードの影は子供の様に無邪気に笑ったかと思えば、急に大人びた喋り口調になるなど不安定だった。
【ヒヒヒ!俺は運が良い、丁度殺したかった相手を実験台に使える。】
「実験台?悪いけど協力は出来無いわね。」
【お前を捕らえているその魔方陣は、ただの魔方陣ではない。決して逃れる事は出来ない強力な檻だ。俺は研究していたのだよ。“魔素から生まれた存在ではない者”を我々の影響下に置く研究を。】
ズズズズ!
(あの気配が濃くなった?)
ザードの影の意味深な言葉を聞いた後、シャルを捕らえていた黒い何かの力が増した。
【実験は中々成功しなかった。今回も竜騎姫を捕らえる為に、わざわざ竜騎姫以外の人間の注意を引く捨て駒を用意したというのにな……まぁ、お前がいれば何も問題はない。】
「捨て駒……ね。」
「ザ、ザード様?捨て駒とは、一体……」
【言葉の通りだよフォルズ君。まさか、この程度の人数でどうにかなるとでも?ヒヒヒ!やはり、魔化の影響が強すぎて、逆に知性が無くなってしまったのかな?】
(予想はしていたけど、本当に気分が悪くなる話ね。)
シャルはこの拠点の状況を確認してから、彼らが捨て駒である事を予測していた。実際にその事を告げるザードを見て、かなり気分は悪いが、
【君達が気を引いて、死ぬなりしても、この魔方陣を発動出来ればそれで良かった……あと、雑な魔化を施した君達が、どんな状態になるのかっていうのもね。】
「……雑な?一体それはどういう……」
【いやいや、捨て駒に貴重な素材は使えないでしょ?】
「く、くそがぁ!!」
もはやザードに敬意も何も無かった。フォルズはザードに向かって鎌を振り下ろそうとした。
【止まれ。】
ピタッ、
「な、何故だ!?何故動かない!?」
ザードの一言で、フォルズの動きは止まった。
【お前は私の支配下だ。魔化を施した時点でな?】
「くそ、くそぉ!!」
【短い間だったが、幹部になれて良かったね……さよなら。】
ドスッ!
「がぁ!?」
ザードの影は黒い影を鋭く伸ばし、フォルズの胸に穴を開けた。
【無能はいらいよ。】
ドサッ!
【君達もそう思うよね?】
「ひ、ひぃ!」
「ど、どうか我々に慈悲を!」
「ザード様!!」
【……慈悲なんてあるわけ無いでしょ?】
「「「「「ひ、ひぃ!!」」」」」
ズズッ、
【逃げないでよ。】
「「「「「ギャァァ!?」」」」」
ドス!ドスドス……
【……もう用済みなんだからさぁ!】
ドス!
ザードの影は配下達全員を殺した。血の臭いが辺りに充満する。
「?!」
ギュ、
「大丈夫よミルちゃん。私が必ず守るわ。」
ずっと怯えていたミルディア。目を瞑った状態で悲鳴と濃い血の香りを嗅ぎ、強くシャルに抱き付く。
【おや?随分と余裕じゃないか。この状況をどうにか出来るのかい?】
「ええ。」
【ヒヒヒ!おいおい、言ったろ?この魔方陣はただの魔方陣じゃない。竜騎姫でも解けない特別仕様だ。準備に色々必要だったが……】
ズズズズ!!
【そろそろ始めようか!!】
(嫌な気配……この魔方陣は多分、彼が作った魔方陣じゃないわね。我々って言っていたから、彼やミノタウルス、荒野で戦った魔物を変えた本当の元凶が創った物……私の魔力を使って拘束する力を増しているのね。)
魔方陣自体は、どうやら対象の魔力を奪い拘束する力を増している様だ。強い力を持つ者程、負荷が大きく掛かる嫌な仕様の。
(でも、ただそれだけ。)
「はぁぁぁ!!」
ズズズ……ギギッ!
【…………何?】
シャルは自身の魔力を高めた。魔方陣が異名な音を立てて軋む様子を見て、フォルズの表情が変わった。
(ミルちゃんに当たらない様にしてて良かったわ。私の着ているローブが殆ど無力化してたみたいだし。それに……)
ギギギギッ!…………バキィーン!
【馬鹿な!?】
(この程度の力じゃ、私は拘束出来ない。)
シャルは、自らが持てる魔力を使って魔方陣を破壊した。魔力を自在に操れるからこそ、簡単に対応が出来た。
【何故だ!?あのお方の力の一部を借りていたのだぞ!?……いや、やはり封印の影響で……】
「はぁ!」
ブォン!
【ちぃっ!!】
シャルは即座に動いて剣でザードの影を斬った。手応えは無かったが、魔方陣を無力化した事が相手の動揺を招いた様だ。
【……お前は、我々の想像以上に危険な存在の様だな。】
「そうかしら?」
ザードの影はシャルを警戒しながら距離を取った。
【まぁいい、計画を早く進めるだけだ……】
「進めさせると思う?」
【ヒヒヒ!無駄だ!】
ズズズズ!
ザードの影はそう言うと、地面に消えていく。
【俺はあくまで影、本体に攻撃が届くことは決して……】
(……斬!)
【ヒ!?】
キンッ、
「…………逃げられたわね……惜しかったわ。」
シャルは斬をザードの影に放ったが、逃げられてしまった。少し手応えは感じたが、仕留める事は出来なかった様だ。
(私の流派に、本体じゃないから……は通用しない。と言っても、逃げられたら意味無いけど。)
相手の本当の居場所が掴めない以上、逃がしたのは大きかった。自分の甘さに嫌気が差すが、考えてもしょうがない。
「ミルちゃん。」
「?」
「もうしばらく目を瞑ってた方が良いけど、危険は去ったから安心して?」
「!!」
ギュ、
シャルの言葉に嬉しそうに肩に掴まり直すミルディア。
「えっと、このまま背負われたまま出たい?」
コクコク!
背中で凄く頷く気配がした。
「分かったわ。じゃあ、オリビア達の所に戻るわね?」
「……うん!」
シャルはミルディアを背負ったまま、オリビア達の待つ庭園へと向かった。
◆◆◆◆
「“ミル”!!」
抜け道から出ると、すぐにオリビアに会った。背負われているミルディアを見付けると嬉しそうに大きな声でミルディアを呼び近付く、
「無事で良かったミル。」
「……リビー姉様!」
ミルディアも嬉しそうにシャルの背中でオリビアの名前を呼んだ。
「シャル、本当にありがとう。この恩は決して忘れぬ。」
「良いのよ、オリビア。無事に助け出せて良かったわ。」
「「シャルちゃん(さん)!!」」
「リナリー団長、ホルンさん。」
リナリーとホルンも、シャルの元にやって来た。
「ミル!!」
《ミル!!》
「「「「「姫様!!」」」」」
バサッ、バサッ!!
(あれ?あの竜……ゴルディア国王陛下が乗っているみたいだけど。)
そして沢山の竜と、全身を鎧に身を包み武装した騎士達とゴルディア国王陛下がやって来た。国王陛下の乗っている竜は、女性の声の念話でミルディアに声を掛けていた。国王陛下と同じ呼び方で、
「父上、母上!」
ミルディアがシャルの背中から嬉しそうに手を振った。
(え?もしかしてあの竜、リーリア王妃殿下!?)
どうやら、ゴルディア国王陛下の乗っている竜は、リーリア王妃殿下の様だ。
「無事だったのだな。」
《ミル、良かったわ。》
「……はい!」
シャルの背中越しから、嬉しそうに答えるミルディア。
「それにしても母上、元の姿に戻ったのを見るのは久しぶりな気がするのじゃが。」
《確かにそうかもしれないわね。人の姿でいる事に慣れてしまったから、逆に元の姿に戻るのを忘れてしまうのよね。》
(リーリア王妃殿下は、竜族だったんだ。)
リーリアが竜族だった事に驚いたシャル、オリビアと和やかに会話しながら、人の姿になった。
「さて、ミル。服も汚れてしまった様だし、王宮に戻ろう。」
「うん。」
キュ、
「えと、ミルディア王女殿下?」
「むぅ……ミル。」
ゴルディア国王陛下がミルディアを抱きかかえようと手を差し出すが、ミルディアはシャルの背中から降りようとしなかった。シャルは両陛下の手前、ミルちゃん呼びはまずいかと呼び方を変えたが、物凄く不機嫌そうな顔で訴え掛けられた。
「……えっと、ミルちゃん?」
「うん!」
「背中から降りよっか?」
ギュ、
「……やっ。」
シャルがミルちゃん呼びに戻したまでは良かったが、いざ降りて貰おうとすると拒否された。
「ミ、ミルちゃん?シャルよ、随分とミルに好かれたのだな?ミルは人見知りでな、リナリーやホルンでさえ、愛称で呼ばせないのだが。」
「そうなの?結構あっさりと、許してくれたけど。」
手を差し出したままの姿勢で固まるゴルディア国王陛下をスルーして、オリビアとシャルは会話をする。ミルディアは人見知りの様だが、最初に怖がっていた時以外は別にそんな様子は無かったので、首を傾げながら聞くシャル、
「シャルさんの事、相当気に入ったのね?」
「うん!将来、シャルお姉様みたいになる!!」
「ええ?」
「ミ、ミルちゃん?」
「ミ、ミル?」
それはつまり、フードとマスクで顔を隠して冒険者になる事を言っているのかな?と、ミルディアの将来が心配になるシャル。
「ミ、ミル。ほら、将来妾みたいになりたいと言っていたではないか。」
「……リビー姉様は私の理想像と違ったの。」
「うぐっ!?」
(……子供の純粋な返し程、残酷なものはないわね。)
ミルディアはまだ6歳、まだまだ色んな事に憧れる時期なので、おそらく自分を助け出してくれたシャルに憧れを抱いたのだろう、
「では、シャルさん?ミルもその様子だとしばらく降りそうにないですし、ゆっくりと帰りましょう。」
「は、はい。」
固まるゴルディア国王陛下と、心にダメージを負って地面に両手をついて落ち込むオリビアを無視して、シャル達は城に戻る事になった。
◆◆◆◆
ズチャッ、
「グッ……まさか……影に攻撃を当てて俺の体に傷を負わせるとは……」
薄暗い空間で、彼は傷を付けられた自分を忌まわしげに見た。
「戦力を増やす必要がある。あの女を殺すには、今のままでは力が足りない……ヒヒヒ!必ず殺してやる。」
彼は、不気味に微笑んだ。
◆
「戦力の増強?ザード、お前は一体何と戦う気なんだ?」
「ヒヒヒ!シャルという女だ。ギルス、お前も知っているだろう?“隠者”のシャル……あれは俺達の脅威となる存在だ。早急に殺す必要がある。」
とある一室、二人の男が話していた。一人はザード、もう一人はそのザードの親友であり幹部のギルスという男。
「本当に脅威なのか?」
「……どういう意味だ?」
「ザード、俺達闇ギルドの人間は外法な研究をしている。犯罪に手を染めている者すらいる。だが、噂の“隠者”のシャルだとして、出てきたばかりの新人冒険者に何故目を付けられる?お前が何か仕掛けたのか?」
「……細かい事は気にするな……そう言えば、魔化の技術を希望している人間が確かいたよな?」
「魔化?あれは意味の無い研究だと言っていなかったか?」
「そんな事を言ったか?とにかく、希望者や興味のある奴を連れて来い。」
「…………話はしておく、あとはあいつらが決めるだろう。」
「ギルス、何故そんなに非協力的になってしまったんだ?もっと人を集める努力をするとか、協力してくれても良いだろう?お前は変わってしまったなぁ。」
「…………。」
ザードの言葉に、不機嫌な表情をするギルス。
「俺には俺のやりたい、研究がある。俺達の本来の研究をな。」
「ふん、勝手にすると良い。」
ギルスはザードの言葉を聞いた後、部屋を出て行こうとした。
「そうだ。一つ聞いておきたい事があった。」
「どうした?」
「フォルズ達はどうした?姿を見かけないが。」
「ああ、残念ながら実験中に死んでしまったよ。」
「…………そうか。」
ギルスは一言そう言うと、部屋を出た。
◆
「……変わったのは、お前の方だザード。」
ギルスは自分の部屋に向かいながら呟いた。ザードとは昔からの親友だった。ある事がきっかけで外法な研究に手を染めたが、他種族や人間に危害を加える事は無かった。だがある時、ザードが変わってしまった。平気で人を実験台にし、誘拐や殺人も行っていた。何度かやめる様に言ったが、聞く耳を持たなかった。
(やはり、こんなギルドがあるのがいけないのか?)
闇ギルド、ザードが変わってから出来たギルドだが、今では各国に拠点があった。ザードの信者や純粋に表の世界では生きられない者達が集まり、自由に行動していた。犯罪に手を染めて、
(ザード、あの時の様に純粋に研究をしていたあの頃に戻れないのか?)
ギルスは、ある覚悟を決めていた。彼は自分の部屋に戻り荷物をまとめると、出発の準備をした。
(ドラグニア王国……あの国の猛者達ならきっと……)
ギルスは闇ギルドから姿を消した。もっとも、彼はギルスが抜け出した事に気付いていた。あまり興味の無い事だったので無視した様だが。




