表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隠者のプリンセス  作者: ツバメ
竜騎姫と闇ギルドの影
54/111

竜騎姫と闇ギルドの影 5

(……それにしても、今は普通に会話しているけど、あの人達からもあの気配がするわね。彼等は望んで魔物の一部を体に取り付けたのかしら?)


 会話を聞く限りでは、組織に何か不満がある様子では無かった。当たり前の様に魔物の一部を体に取り付けているとしたら、異常な事である事は間違いない。


(ミルディア王女殿下の安全を確保したら、少しでも情報を集めた方が良いわね。)


 シャルは気配を消しつつ、奥へと進む。



((あり)の巣みたいな構造ね。あの庭園から結構離れた所にあるみたいだけど、地下にこんな場所があるなんて……今まで足取りが掴めないのは、こういう所に拠点を作って活動していたから?それにしたって、さっき私が情報を聞き出した男の人は、ボスの名前以外随分とあっさりと情報を吐いていたけど。)


 罠を元々張っていたにしても、今までその全容が掴めていないにしては、闇ギルドの人間の雰囲気が緩い気がしていた。


(……ん?ここは随分と広いのね。集まって何か話をするには丁度良さそうな場所だけど。)


 しばらく移動すると、かなり広い空間に出た。集まって話をするにも、体を動かすにも丁度良さそうな場所だった。


(……あれは。)


 奥の方で、鼠色のローブを着た者と、黒いローブを着た男が会話していた。


『フォルズ様、オリビア王女の偵察は如何致しましょう?』

『良い、遅かれ早かれあの王女は必ずここへやって来る。迎え撃つ準備をしておけ。』

『はい!』


(あれがフォルズって人?)


 フォルズと呼ばれた男は、緑の長い髪を後ろで縛っており、他の人間とは桁違いの邪悪な気配がした。


(気配からして、体の殆どが魔物と融合しているわね。)


 離れた位置からでも、フォルズという男の気配は邪悪そのものだった。


『それにしても、この数はやはり少ないのでは?』

『お前、ザード様の意向に意を唱えるのか?』

『い、いえ!その様な事は決して……しかし、オリビア王女はこの国で……この大陸で一番の実力者と言っても過言ではありません。我がギルドの力を総結集するべきでは?』

『ふん、ザード様は“魔化(まか)”を施した我々精鋭部隊に期待しているのだ。それに、あの王女如き敵ではない。自分達の持つ力に不満があるのか?』

『い、いえ!ザード様に頂いたこの力。不満がある筈がありません!!』

『なら良い、余計な事は考えるな、あの王女を迎え撃つ事だけ考えろ。』

『は、はい!』


(魔化(まか)?それがあの姿の名称かしら?随分と自分の力に自信を持っている様だけど。)


 彼等の気配だけで判断するなら、オリビアに匹敵する力を持っているかもしれない、だけどそれはオリビアだけの話で、リナリーやホルン、他の冒険者や騎士達を結集すれば、対応出来る気がした。


(何となく読めてきたわね……本当、こういうの相手にする時って、気分が悪くなる事しか起こらないわね。)


 何かを察したシャルは、フォルズ達から見付からない様に移動して更に奥へと進んだ。



 ……ズズズ、



【…………ヒヒヒ。】



 〜数分後〜



(人数が少なくて警備が薄いだけはあるわね。こんなにすぐに奥に来れるなんて。)


 シャルは、拠点の奥深くの扉まで来ていた。この奥にミルディア王女殿下がいるのは分かったが、誰も扉近くを警護していなかった。これだけ奥が深い場所に閉じ込めているからこその安心感なのか、人数が少なくそこまで手を回せないのか、どちらにせよ詰めが甘い。


(扉に鍵は……)



 バキッ、



(……無かったわね。)


 錠前らしき物はあったが、老朽化していたのか砕けたので見なかった事にしたシャル。



 ギギィ〜、



『!?』


 トトトッ!


 扉を開けると、薄暗い部屋に幼い少女がいた。誰か入って来た事に驚いたのか、部屋の隅に逃げてしまった。


「あ、驚かせてしまってごめんなさい。心配しないで、助けに来たわ。」

「!!?」


 シャルの声にひどく驚いたの様だが、幼い少女ことミルディアは、怯えた様子で震えていた。


(怯えるのも無理はないわね。いきなり助けに来たって言ったって、信用できる筈がないもの。)


「えっと、ミルディア王女殿下。私はシャルと申します。貴方を助けに来ました。」

「…………。」



 フルフル、



 改めてミルディアに声を掛けた。近付きよく顔を見ると、銀髪の編み込まれた髪が輝き、オリビアの顔をもう少し可愛いらしい感じにした美少女だった。シャルは、安心させる様に優しい声音で言ったが、ミルディアは頭を左右に振って拒否した。


(まさか、こんなに警戒されるなんて……どうしたら、警戒を解いてくれるかしら?)


 正直、子供にここまで警戒されるのは初めてだったので、どうしたらいいか分からず焦るシャル。


(何かお話をする?……でも、警戒してるから聞く耳持たないかも……あ!白薔薇のエンブレムを見せるとか。)


 スッ、


「ミルディア王女殿下、これを見て下さい。」

「……?」

「白薔薇のエンブレムです。私は薔薇の集いに認められた人間なのです。」

「!?…………」


 フルフル、


(駄目なの?あ、見た目だけなら偽装が出来るから信用してくれてない?)


「えっと……はい、本物ですよ?」


 スッ、


 シャルは白薔薇のエンブレムから、以前商品開発で使用した花を出してみた。


「!!?」


(どうかしら?)



 サッ!



(あ……)



 トトトト……フルフル、


 ミルディアは一瞬花を見て目を輝かせたが、花を手に取ると、すぐに隅に移動して首を振った。


(これでも駄目なの?よっぽど怖い思いをしたのね。)


 花を見て目を輝かせた所、一瞬警戒を解いてくれた様だが、やはり信用はしてくれないらしい。


(どうしたら良いのかしら?もう無理矢理連れ出すしかないかな……何とか警戒を解いてくれると良いのだけど。)


 思った以上にミルディアの警戒を解くのが難しく、首を捻るシャル。


(変顔をしてみる?頬を目一杯引っ張れば、笑って警戒を解いてくれるかも?でも私、顔を隠したままだ…………あ。)


 ここで重要な事に気付いたシャル。


(……私、フードで顔を隠してたんだわ。ああ、通りで警戒も解けない訳よね。もう、このスタイルが定着してて、完全に忘れてたわ。)


 この拠点にはローブを着た人間が何人もいた。闇ギルドの人間かもしれない人物を……ましてや顔が完全に見えない怪しい人物を信用しろという方が無理な話だ。それに気付いたシャルは、今まで必死に説得していた自分が途端に恥ずかしくなった。


(ミルディア王女殿下はまだ幼いし、今回は緊急事態だから。)



 パサッ、



 そう思って、シャルはフードとマスクを外した。


「?!?!?ふぇ!?!?」


 何とも可愛らしい声が聞こえた。ミルディアはフードとマスクを外したシャルを見てひどく驚いた様だ。


(ん?何でこんなに驚いているのかしら?まぁ、良いわ。)


「ミルディア王女殿下。改めてまして、私はシャルと申します。貴方を助けに来たのです。どうか、一緒にご同行をお願い致します。」

「…………。」


 笑顔でミルディアに言ってみたが、ミルディアは固まったまま動かない。


(駄目なのかしら?)


「ミルディア王女殿下?」

「!?」



 コクコク、



 シャルがもう一度ミルディアに声を掛けると、ミルディアは大きく頷いた。


「……良かった。では、一緒に参りましょう。」



 キュ、



 ミルディアはシャルの言葉を聞くと、即座にシャルの右手を握って一緒に行く意思表示をみせた。


(良かった。顔が見えないから不安だったのね。)


 シャルはミルディアの様子に安心すると、


「では、行きましょう。」


 フードを被り、マスクを付けて行こうとした。


「!?」


 途端に凄く残念そうな不安そうな、悲しい表情になるミルディア。


「え、えっと?ミルディア王女殿下?私は訳あって顔を隠しているのです。今回は緊急事態の為顔を見せましたが、普段は誰にも顔を見せないのです。顔が見えず不安でしょうがどうか。」

「…………。」


 シャルの言葉に何かを考えるミルディア。


「……なら、ミルって呼んで下さい……敬語も無しです。」


 先程まで全く喋らなかったのに、急に小声でお願いし始めたミルディア。


(ミルって……敬語もいらないって、どれだけ信用してくれたの?)


「えっと……“ミルちゃん”……で良い?」

「?!」



 コクコク!



 物凄く嬉しそうに頷くミルディア。


「じゃ、じゃあミルちゃん。行きましょっか?」

「!」



 キュ、



 元気良く返事をすると、シャルの手をしっかりと握って答えるミルディア。妹がいたらこんな感じかしら?と思いながら、ミルディアと一緒にオリビア達の元へ向かうシャル。



 〜数十分後〜



「疲れてない?」

「……大丈夫……です。」


 ミルディアを連れて数十分。シャルが一人で移動する時はすぐだったが、まだ6歳であるミルディアにとっては、かなりの距離であった。口では大丈夫と言っても、息が切れている様だった。


(闇ギルドの人達は……あの広い場所に集まってるみたいね。オリビアを迎え撃つ為に集まってるみたいだけど。)


 闇ギルドの人間達の気配を探ると、どうやら先程の広い場所に集まってる様だった。


(向こうはいつでも戦える……そういえば。)


「ねぇ、ミルちゃん。」

「?」

「ちょっとだけごめんね?」


(“分析(アナライズ)”。)



 キュィィ、



「?」

「うん、ありがとう。大丈夫みたいね。」

「???」


 シャルの行動に首を傾げるミルディア、


(良かった。ミルちゃんに何かしてたら、オリビアじゃなくても怒ってたかも。)


 闇ギルドは危険なギルドだという事は、あの気配や会話の内容で把握していた。なので、ミルディアに魔化の様な事を施しているかもしれないと思い分析したが、何も問題なかったので安心した。


(このままオリビア達の所に行くには、あの広い場所に出る事になる。それだと、あの人達をどうにかする必要があるわね。でも、どうやってミルちゃんと行こうかしら?)


 自分一人なら難なく切り抜けられるが、ミルディアを連れてとなると難しそうな状況ではあった。何処かに隠れてもらう事も考えたが、


(……隠れるのは流石に危険ね……それならあれしか方法はないわね。)


「ミルちゃん。」

「?」

「ここから先、闇ギルドの人達と戦闘になると思うの。ミルちゃんだいぶ疲れてるみたいだし、守りながら戦いたいから背負っても良い?」

「?!」


 コクコク!


 シャルは、ミルディアを背負って行動する事を提案した。するとミルディアは、驚きながらも嬉しそうに頷いた。


「よし、じゃあ……乗って?」

「!」



 キュッ、



 ミルディアはしゃがんだシャルの背に回り、小さな手でしっかりとシャルの肩に掴まって背負われた。


「?!」

「しっかり掴まっててね?」

「……うん!」


 シャルはミルディアを背負って、闇ギルドの人間達が集まってる場所へと向かった。



『……何故あの王女は来ない?』

『他の者に止められているのでは?』

『いや、過去の情報では同じ薔薇の集いのメンバーの言葉も聞かずに行動するそうだ。』



(確かに……オリビアならそうするかも。でも、今回は私が先に乗り込んでいるのよね。)


 フォルズ率いる闇ギルドの人間達は、広く開けた場所で話していた。なかなか乗り込んで来ないオリビアの話をしていた様だ。


「……ミルちゃん、これから戦闘になるわ。見ていると気分が悪くなる事が起きるから、目を瞑ってて。」



 コクコク、



 ミルディアは頷くと目を瞑り、シャルにしっかりと掴まった。



 タッ、



「こんにちは。」


「「「「「?!」」」」」



 シャルは闇ギルドの人間達に声を掛けた。人数は十数人全員いる様で、後ろから声を掛けられるとは思っていなかったのか、全員驚きながら振り返った。


「お、お前は一体……な!?何故ミルディア王女がここに!?」

「貴様!何故ミルディア王女を連れ出した!?」


(仲間だと思われてるのかしら?)


「何故って、彼女を助けに来たんだから当然でしょ?」

「助けに?……まさか、“影の心臓(シャドウハート)”の人間か!」

「まぁ、そんな所ね。」


(う〜ん、違うけど面倒だからこのまま勘違いさせておこう。)


 最初は仲間、次に“影の心臓(シャドウハート)”の一員だと勘違いされたが、そのまま否定せずに答えた。


「我々に気付かれずに行動するなど……ドラグニア王国はどれだけ強者が多いんだ……」

「だが、一人でどうにかなるとでも?幼い王女を背負って戦えるのか?」


 始めは気付かれずにミルディアを連れ出したシャルを警戒していたが、ミルディアを背負った姿を見て、馬鹿にする様に言った。

シャルが顔をミルディアに見せましたが、ご察しの通り作者と読者には見えない仕様となっております。


ここから先、残酷な表現が含まれています。読む際はご注意下さい。章の最後近くまで続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ