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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
竜騎姫と闇ギルドの影
52/111

竜騎姫と闇ギルドの影 3

「フレイムインパクト!!」

「はぁ!」


(斬の型“(げん)”……合わせ、“凍幻(とうげん)”!)



 バァーン!ヒュウ……パキパキパキ!



「爆炎を凍らせるか!面白い!……だが!」



 バッ!



「燃えろ!妾の炎!!」



 ジュゥゥゥ!



「氷は通用しないと思っても、思わず使ってしまいますね。」

「一瞬でも妾の炎を凍らせておるのじゃ、誇っても良い。」


『『『『『次元が違い過ぎる。』』』』』


 オリビアが爆発と爆炎の魔法を発動させ、シャルはその魔法を氷魔法で合わせた斬撃を残像が幾つも残る程のスピードで繰り出し凍らせた。だが、オリビアの炎がそれを溶かす。


「シャルよ、お主まだ余力があるな?」

「オリビア王女殿下も、まだ何か隠していらっしゃいますね?」


 互いに距離をとりつつ会話をする二人。


「ははは!そうじゃな……ああ、それとシャルよ、妾の事は呼び捨てで構わぬ。もちろん言葉遣いも普通で良い、お主の強さは剣を交えただけでも分かる。妾と対等かそれ以上……妾は気に入った者、良き友人となる者には対等に接して欲しいのじゃ。」

「対等に……ですか?」


 オリビアの思わぬ言葉に驚くシャル。


「しかし、オリビア王女殿……」

「……ぬぅ。」

「……え?えっと〜……オリビア?」

「うむ!」


 オリビア王女殿下と言おうとしたが、物凄く悲しそうな顔をされたので、呼び捨てで呼んでみたら物凄く嬉しそうな顔をした。



 ◆



「オリビア、シャルちゃんの事、相当気に入ったみたいね。」

「そうですね。それにしても、リナリーでもあの爆炎は対応するのは辛いでしょう?」

「まぁね、あそこまで遠慮無しの魔法は難しいわよ。シャルちゃん、私と手合わせした時よりも力を上げて戦ってるし。」

「リナリーなら対応出来そうな気がしますが。」

「本気を出せばね?問題はあの二人はまだ本気じゃないって事よ。」



 ◆



「……お主なら。」

「ん?」


 オリビアは小さく呟くと、


「さてシャルよ、お主が強者であると見込んで頼みがある。」

「何でしょ……何?オリビア。」


 オリビアは先程までの楽しげな表情から真剣な表情になり、シャルに声を掛けた。


「妾の本気を受け止めてくれぬか?」

「本気を受け止める?」


 オリビアの言葉に首を傾げるシャル。


「妾は自分を高めたい……だが、竜族の王でも妾の本気をまともに受ける事は叶わなかった。伝説のエンシェントドラゴンなら判らぬが、妾が近付いても眠ったままじゃったからな……妾は思いっ切り誰かと力を競ってみたいのじゃ。」

「……オリビア。」


(力を持つ者の辿り着く壁って所かしら?)


 シャルも前世では、いつの間にか自分に並ぶ実力を持つ者、競える者が居なくなっていた。一時期はそれに悩みどう鍛えれば良いか分からなくなった事がある。


(私は自分答えを出して乗り越えた……でもオリビアどうなのかな?)


 彼女自身で答えを出せる日が来るかもしれない。でも、この世界では実力のある種族が沢山いる。


「どうじゃ?」


(私もオリビアと対等に戦える一人のはずだから、彼女に未来を見せてあげたい。)


 彼女の目指す高みへの道を、


「わかったわオリビア、貴方の全力を受け止める。」

「本当か!?」

「ええ、自らの持てる全てをぶつけて来て。」


 シャルの回答にオリビアは喜んだ。そして彼女の眼が変わった。


(竜の眼?)


「シャルよ、妾の本気を見てくれ!行くぞ!!」



 ゴゴゴゴ!!



 ◆



「……オリビア、今本気(・・)って言わなかった?」

「……ええ、間違いありません。私の耳にも本気(・・)と聞こえました。」


 リナリーとホルンは顔を合わせると、


「皆!出来るだけ遠くに離れなさい!オリビアが本気を出すわ!」


「「「「「ほ、本気!?」」」」」


「リナリー様!?真にございますか!?そうだとしたら一大事ですぞ!?」

「ええ、間違いないわ!すぐに城の人間にも伝えなさい!何処まで影響があるか分からないわ!!」

「私が全力で防御の陣を張ります!ですが完全には防げません!何が起きても良いように避難を!!」


「「「「「た、大変だ〜!!」」」」」



 ◆



 ──誇り高き竜の血を呼び覚ませ!



「ドラゴン・ソウル!!」



 ゴゴゴゴゴ!!



(見た目が変わっていく……人型ではあるけど、あの姿はまるで……)


 オリビアが一言叫ぶと、彼女の見た目に変化が訪れた。編み込まれた髪は解け深紅の髪は炎を纏い、爪は伸び角が生え、首元などが鱗で覆われ翼が生えた。人型ではあるがその姿は竜の様だった。


「シャルよ、これが妾の真の姿じゃ!」

「凄いわね。とてつもない覇気がここまで伝わって来る。」


 見た目は変化したが、オリビアの内面は変わっていない様だ。無邪気にシャルに問い掛けているが、その姿から放たれる覇気は常軌を逸していた。


「……怖いか?」

「いいえ、格好良いわ。それが貴方の持つ本当の力なのね?」

「う、うむ!」


(これは私も気合いを入れた方が良いわね。)


 恐る恐るシャルに聞いたオリビアは嬉しそうに頷き、素直に答えたシャルは強敵との手合わせに気合いを入れる事にした。


「すぅ…………はぁぁぁ!!」



 ズズズズ!!



「な!?」


 シャルは息を吸うと、自らが持つ気の力と魔力をオリビアの領域まで高めた。


「全力で来てねオリビア?私がちゃんと全部受け止めるから。」

「おぉ!おぉぉ!?」



 ◆



「何考えてるのあの二人!?ていうかオリビアの本気は久々に見たけど、シャルちゃんもあの領域まで踏みこめるの!?」

「……私の防御の陣。絶対に持ちませんわ。」



 ◆



(ホルンさんが周りの被害を抑えようとしてくれてるけど、こっちも対策しないと大変な事になりそうね。)


 煽ったのはシャルだが、ホルンとリナリーの様子を感じ取り少し考える。でも、やる事はただ一つ、


(全て受け止めれば、そこまで被害は出ないわよね?)



 ──オリビアの攻撃を受け止める。ただ、それだけ、



(空の型“遊影(ゆうえい)”。)



 スッ、



(加え、柳の型“柳泳(りゅうえい)”。)



 ヒュンヒュン、



(まずはこれで受け止めて、相殺しよう。)


 シャルは遊影でゆっくりかつ、軽やかに動き、柳泳でオリビアの攻撃を受ける準備をした。


「準備は良いか?シャル。」

「ええ、いつでもどうぞ。」

「そうか……ならば!」



 ギュンッ!



「行くぞ!!」


(翼を利用した瞬間加速……凄いわね。」



 バキキキン!!



「ぬ!?剣を複数使って防ぐとは。」

「一本じゃ保たないみたいだったから。」

「そうか……では!」



 ブァッ!



「ドラゴンブレス!!」

「……!?口から炎を!?」


(そういう事も出来るのね。)



 ヒュンヒュン、



(柳の型、“柳風陣(りゅうふうじん)”!)



 ビュンビュンビュン!



「くっ!?はぁぁ!」



 ギュン!



「フレイムストーム!!」



 ゴォォ!!


 二人の攻防は拮抗していた。オリビアが翼を利用した加速斬りを繰り出せば、あらかじめ技を発動していたシャルが剣を複数個消費して完璧に防ぎ、オリビアが口から炎を出せば、シャルは回転しながら風の魔法と技を合わせオリビアを吹き飛ばそうとする。そして、オリビアはシャルの技に魔法で対抗する。


「ふん!」


 ブォォ!ブォォン!!


「はぁ!」


 ガキッ!バキーン!


 シャルがオリビアの攻撃を相殺する度、剣の砕ける音が聞こえ、衝撃波が訓練場の端まで届く。



 ◆



「くっ!シャルさんがどうやら、オリビアの攻撃を全て相殺してくれている様ですが……それでも凄まじい衝撃です。」

「シャルちゃん、オリビアの攻撃を相殺出来る様に力を調整してるみたい……とんでもないわね……というか、一体いくつ剣を用意したの?」



 ◆



「ドラゴンクロー!」

「はぁ!」



 ギキーン!



 オリビアの攻撃は続く、先程とは威力が桁違いのドラゴンクローを放ち、シャルはそれを相殺する為剣を振るう。


「ははは!シャルよ!お主程の強者は初めてじゃ!妾の本気を受けて、苦も無く相殺する!お主は何処まで強いのじゃ!」


 オリビアは嬉しそうに攻撃を仕掛けて来る。本気で戯れる子供の様に。


「オリビア、貴方今まで本気で長い時間戦った事が無いんじゃない?」

「ぬ?よく分かったな。いつもすぐに戦いが終わってしまうのじゃ。こんなに身体を動かせるのは生まれて初めてじゃ!」

「そう、それは良かったわね。」


 会話そのものは和やかだが、地面は和やかでは無かった。城の一部は訓練場が広いのと、ホルンのお陰で今の所無傷だが、守れない地面は衝撃波で穴とヒビだらけだった。


(剣を沢山用意したとはいえ、何時まで保つかしら?。)


 シャルは白薔薇のエンブレムから次々と剣を取り出していくが、その度に砕けていくので消費するペースはかなり早かった。


「まだまだ行くぞ!!」

「ええ、どんどん来なさい!」

「うむ!……纏え!妾の炎!」



 ゴォォ!



「喰らえ!!」


(“斬”!)



 キンッ!



 ◆



「はぁ、はぁ……あの二人、そろそろ決着を付けてくれないでしょうか?」

「う〜ん、オリビアも疲れてきてるみたいだから、もうすぐだと思うのよね〜……シャルちゃん、全然疲れて無いのが本当にびっくりするけど。」

「……リナリー、変わって下さっても良いんですよ?」

「ごめんねホルン。あたし防御系得意じゃないから、今度埋め合わせするわ。」

「安全なの分かったからって、寛がないでくれませんか?」



 ◆



「はぁ、はぁ……シャル……お主、全く疲れていないのう。」

「鍛えてるからね。」

「……いや、それだけで済む問題なのか?」


 二人の攻防は一時間以上も続いていた。大量に用意した剣の破片は散らばり、地面は荒れ、オリビアにも疲労の色が見えた。


「……妾の負けは決まったようなものじゃが……シャルよ、大技を使っても良いか?」

「大技?」

「うむ、妾のとっておきじゃ。」


(剣のストックもあと少しだし、そろそろ決着を付けた方が良いわね。ホルンさんも流石に疲れてるし。)


 シャルは体力的に全く問題無かったが、オリビアもホルンも疲弊しており、次の攻撃が最後になりそうだった。


「良いわよ、私も使ってみたい技があるから、お互い次で終わりにしましょう。」

「うむ!」



 バサッ、バサッ!



 オリビアは大きく頷くと、空高く飛んだ。


「ぬ?あそこに居るのはリナリーとホルンか……リナリー!ホルン!これから大技を放つぞ!衝撃に備えるのじゃ!!」


「大技って……あれを撃つ気!?正気!?馬鹿じゃないの!?」

「ちゃんと加減しなさいオリビア!周りの被害を抑えている私や訓練場から避難している者達の事も考えなさい!!」


「うっ、あの二人相当怒っておるなぁ……特にホルン。」


 空高く上がり周りを見渡すと、リナリーとホルンの姿が見え声を掛けたオリビアだったが、二人の様子を見て今自分がどれだけ周りの事を考えずに戦っていたのか自覚した。


「ジードや他の者達にも怒られるな……シャルよ!少し威力を抑えて放つ!お主もそのつもりで備えるが良い!」


「分かったわ!」


(後で私も一緒に怒られそうね。まぁ、仕方ないわね。)


 二人は後で皆に怒られる事を覚悟して、オリビアは魔力を、シャルは気力と魔力を高める。


「行くぞ!!」



 そしてオリビアは、詠唱を始めた。




「──空を支配する者、その大いなる存在は気高く強靭なその身を焦がし、全てを焼き尽くす煉獄の炎と化すだろう。」




 ゴォォォ!!




「──天高く昇り。」




 ギュィィィ!




「──虚空より降り注ぐ。」




 ゴォン、ゴォン……、




「──全てをあかく染める為!」




 ゴォォォォ!!





「“紅き流星クリムゾン・ミーティア”!!」




 ゴガァァァァ!!!




 オリビアが詠唱を始め、竜剣から発せられた魔方陣から強大な炎が放たれた。その炎は天高く昇り、雲を割き、更に巨大な魔方陣になった後、そこから紅い炎を纏った巨大な隕石の様な物が幾つも降って来た。


(想像の何倍も危なそうな大技を撃ってきたわね……あれで手加減?)


 リナリー戦から学び警戒はしていたが、想像よりも強大で巨大な大技にかなり驚いた。


「シャ、シャルよ!済まぬ!加減を間違えた! 」

「えぇ?」


 オリビアが物凄く焦った様子でシャルに衝撃の報告をした。おそらく本気を出した事で、何時もより大きい威力になってしまったのだろう。


(これは、頑張って防がないといけないわね。)


「オリビア!そこから動かないでね!今から私も大技を放つわ!」

「だ、だが!」

「大丈夫!何とかなるわ!」


(あれを完全に防ぐには手数が足りないけど。)


 長い時間戦っていたので、剣のスットクはまだあるが、オリビアの大技を防ぐには数が足りなかった。下手な大技を放てば城ごと破壊してしまうので、使う技も選ぶ必要があった。



「あの馬鹿!加減を間違えたわね!……アイスシールド!アイスウォール!……とにかく全力で防ぐのよ!シャルちゃん!こっちに退避して!」

「聖扇イノセンス!内なる力を解放せよ!……はぁぁぁ!!……シャルさん!早く!」


 リナリーとホルンがシャルに呼びかけるが、シャルは空から降り注ぐ巨大な隕石群を見ていた。


(あの大技を防ぐには一瞬で吹き飛ばすほどの威力の技を放つか、武器が沢山必要になるわね。)


 シャルは、地面に散らばった剣の破片を見ながら考えをまとめていた。


(本当に丁度良かったわ、この技を試そうと思ってたから。)


 剣を構え、技の準備をする。



(“武器が無いなら、創れば良い”……)



 ザッ!



沢山・・ね!……乙戯流“型合わせ”……“二元型”!!)



 ◆◆◆◆



 ━━“そう”を考えた乙戯流後継者の技を借り、



 ━━彼女は、その技を新たな段階へと昇華させる。



 ━━沢山の武器を創り続け射出するその技の名は……



 ◆◆◆◆



(……集まれ。)



 地面に散らばった剣の破片を魔法で全て集め、自らの間合いまで近付ける。



(一の型……ざん!)



 そして作りたい武器をイメージして、その鮮明なイメージで精密な斬撃を放つ。作るのは小さくても武器として成り立つナイフの様な物や針の様な物、とにかく武器として成り立つ物は全て、



(二の型……くう!)



 そして彼女は、強大な魔力と空間が歪む程の真空波を創った武器に纏わせ目標へと飛ばす。巨大な隕石へと、



(乙戯流刀術“二元型にげんけい”……“そう”!)



 ズガガガガッ!



「な!?散らばった剣の破片で妾の技を!?」


 シャルが放った武器は隕石を次々と砕いていく、


「だが、まだ欠片が……」


(集まれ!)


 だが、シャルは更に砕けた剣の破片を魔法で溶かし、金属の塊にしてまた武器を創り、隕石の破片すら集め斬り、自分の為の武器へと変えた。



(……“(くう)”!!)



 そして残る巨大な隕石へと射出する。



「なんという規格外な事を……」


 オリビアは驚き過ぎて呟く事しか出来なかった。



(あえてこの技に新しい名前を付けるとしたら。)



「乙戯流刀術“二元型”……“そう”……合わせ……」



 ズガガガガッ!!



「……“演創えんそう”!」



 ガガガガガガッ!!



 幻想的で破壊的なその光景は数分に及んだ……そして音は鳴り止み。


「……ふぅ〜、何とかなったわ。」


 オリビアの大技は完全に防がれた。

今回のMVPはきっとホルンですね。


〜乙戯流解説〜


・“柳泳(りゅうえい):優雅に泳ぐ様な剣捌きで受け流す技、柳風泳(りゅうふうえい)は更に受け流した勢いを使って、風魔法と合わせて斬撃を飛ばす。


・“(げん):残像が幾つも残る程のスピードで幻影を見せて斬る技。凍幻(とうげん)は氷魔法を合わせて繰り出し凍らせる技。


・“演創えんそう”:“(そう)”と魔法を使って広範囲を殲滅可能とした技。武器に出来る物があれば、魔法で集め創りやすくし、射出する。その姿は指揮者が演奏している様に優雅で破壊的。

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