竜騎姫と闇ギルドの影 2
バタバタバタッ!
「何事だ!?」
「ジード様!」
騎士達に案内され城の中を急ぎ足で移動していると、白い髭の生えた老人が通路から出てきた。
「シャル様が城に参られました!!」
「何と!?では、其方の黒尽くめのローブ姿の者が……」
「は、初めまして、シャルと申します。」
身分的に偉い人なのか、背筋をピンと張った騎士達がジードという人物に状況を説明した。とりあえず挨拶はしないといけないので、挨拶をするシャル。
「む!?何と美しい声……と、それどころではなかった!シャル殿!儂は“ジードルト・フォン・フォレスター”、姫様の教育係を務めております。」
「教育係の方でしたか。」
「本来であれば、初めに国王陛下に謁見するのが礼儀でありますが、今は少しでも早く姫様の元へ!」
「え?は、はい。」
ジードルトという人もオリビア王女殿下の元へ急ぐ様に言い、何が起きているのか分からないが向かうしかなかった。
◆◆◆◆
ドカ〜ン!
「うむ!これなら何時でも戦えるのじゃ!」
「「「「「姫様!そろそろ止めましょう!!」」」」」
(え?何この光景……)
シャル達がとてつもなく広い訓練場の様な所に着くと、一人の女性が立っており、その周りは倒れた体勢のまま抗議をする騎士達と、気絶している騎士達がいた。まさに死屍累々、誰も死んではいないのだが、そんな言葉が似合う光景だった。
「姫様!」
「ぬ?ジードか……おお!次の騎士を連れて来てくれたのか?珍しいのぅ、ようやく妾のやり方を分かって……」
「そんな事は一生ありませんぞ!」
「ぬっ、一生とか言い過ぎでは……」
「それよりも、姫様の会いたがっていたシャル殿が参られましたぞ!!」
「……何!?」
ジードの返しに一瞬しゅんっとした彼女だったが、次の言葉を聞いて目を輝かせた。
「何処じゃ!?……ぬ!そこの黒尽くめのローブの者か!?」
(どうしてかしら?凄く名乗り出たくないんだけど。)
目を輝かせる彼女に一瞬名乗り出るのを止めようかと思ったが、此処に来る時点で面倒事は覚悟していたので挨拶する為、前へ出る。
スッ、
「お初にお目に掛かりますオリビア王女殿下。私はシャルと申します。青の薔薇所属のCランク冒険者でございます。先日書簡を頂戴致しましたので、馳せ参じました。」
「ぬ!?う、うむ、妾はオリビア・ディル・ドラグニア。ドラグニア王国の第一王女じゃ。会えて嬉しいぞ。」
彼女は深紅の髪を編み込み、ショートヘアーの様にしており、程よく焼けた肌の美女だった。王女殿下なので失礼があってはいけないと思い丁寧っぽい感じの挨拶をしたが、何故かオリビア王女殿下も含めて全員が動揺していた。
「……姫様よりも礼儀正しい。」
「ジード、何か言ったか?」
「いえいえ、何も。」
ジードの呟きを聞いたオリビアが睨んだが、そっぽを向かれてとぼけられた。
「まぁ良い、シャルよ。噂通りの美声じゃな。」
「ありがとうございます。」
「ちなみに顔は見せぬのか?王族に顔を見せないのは失礼にあたるのじゃが。」
「たとえ王族であろうとも、個人的な事情で見せる訳にはいきません。」
「妾の頼みでも、力尽くでもか?」
「勿論でございます。」
「……ほう?」
ドン!
流石に隣国の王女なら、王女であった自分を知っている可能性が大いにあったので 、顔を見せるのは全力で避けたかった。シャルの回答を聞くと、訓練場全体に殺気が走った。
「では早速手合わせと参ろうか。」
「……え?」
「力尽くでも顔を見せぬのであろう?ならばやるしかあるまい。」
「ぐっ、姫様……我々が耐えられない殺気を出すなど……そもそも、シャル殿の事情はリナリー様やフランソワ様から聞いていたでしょう!単に手合わせしたいだけですな!?」
「ぬっ、ばれたか……」
(なるほど、戦うのが好きなのかしら?)
一瞬、殺気を出されて身構えたが、ジード必死の突っ込みに動揺したオリビアを見てなんとなく人物像が見えた気がした。
「そういう事じゃ!では早速!」
「お待ち下さい、オリビア王女殿下。周りに人が居ては全力で戦えないのでは?」
「ぬ?それもそうじゃな。よし!皆の者!妾とシャルから離れるのじゃ!!」
「「「「「言われなくてもそうします!!」」」」」
シャルの言葉に納得したオリビアは騎士達に呼び掛けた。そして気絶した騎士達をボロボロの騎士達が抱え米粒くらい遠くに避難した。
「ふむ、行ったか……では!」
「一つだけ宜しいですか?」
「……なんじゃ?」
戦いを始めようとした所を止められ、オリビアは不機嫌そうに聞き返した。
「何故騎士達がボロボロに?」
「妾の日課じゃ。」
「日課?」
思わぬ回答に首を傾げるシャル。
「冒険者の活動を今禁止されておるからな、身体が鈍らぬ様相手をしてもらっておるのじゃ。ただ妾は自分で言うのもあれじゃが国で一番強くてのう。あまり加減出来ずにああなるのじゃ。」
「えぇ?」
(あれで手加減?まぁ、彼女が本気出したら死者が出そうな感じだし、手加減なのかな?それにしても……)
「……やり過ぎでは?」
「ぬっ、い、いや、何時もはもうちょっと加減するし、治療師も待機しておるのじゃが……お主に会えると思ったら血が騒いで……ついな?……後で皆には謝る。」
(反省はしてるみたいね。)
これで悪いと思っていなければとんでもない事だが、オリビアの様子から反省はした様だ。
「日課のやり方を変えてみては?あれではいつ大怪我をしてもおかしくは無いですし、今まであった事は?」
「う、うむ、辛うじてな?たまたまホルンもいて大事無かった。」
「それでは危険なのは変わらないですね?同等の相手に頼むか、匹敵できる数で隊列を組んで、防御陣、攻撃陣で別れて行ってみては?オリビア王女殿下は縛りを入れて同格で戦えるように調整するとか、力量差があってもやり方を変えれば幾らでもやり様はありますし。」
「そ、そうじゃな……確かにやり方には問題があったかもしれないのう。」
『何だかよく分からないが、姫様がシャル様に凄い謝ってる。』
『まさか、姫様があんなに誰かに謝るなど初めてみたぞ』
『シャル殿、もしや我々が思っている以上に凄い方なのでは?』
この世界の常識は分からないが、こういった事はちゃんと制するに限る。自分も記憶を取り戻してから、力の感覚がズレているが、ちゃんと調整しないと大事になる。
オリビアは、シャルの謎の威圧感にたじたじになり、今までの自分の行いを恥じて、絶対に改善しようと思った。
「では、一段落した所で手合わせといきましょうか?」
「う、うむ!ようやく戦えるのじゃな?」
オリビアは嬉しそうに今持っている剣とは別の剣を取り出し、シャルも剣を抜き互いに距離を取る。
「ぬ?ちなみに妾は、不壊の竜剣“ドラグニア”を使うつもりじゃが、お主はその剣で良いのか?多分すぐに壊れるぞ?」
「此処に来る時点で予測はしていました。替えの剣を沢山用意したので問題ありませんよ?」
「おお!流石じゃな!」
(リナリー団長よりも強いって聞いたから。)
「会ったらすぐに手合わせしようとか言ってくるから、準備はあらかじめしといた方が良いわよ。」 とリナリーに言われたので、前回の手合わせの事も考えて用意はしておいた。国で一番強いという事は、リナリー団長よりも強いという事、油断はしない。
「「はぁぁ!!」」
ドンッ!!
シャルは練気をオリビアは魔力を開放する。
◆
「やはり後を付けて正解でしたわね?」
パァァ、
「……ホ、ホルン様、ありがとうございます。」
「いつもの事でしょう?お気になさらず。」
「お互い様子見って所かしら?」
「その様ですね。」
シャルとオリビアが互いに軽く力を開放し様子を見ている中、後を付けて城に来ていたホルンは怪我をした騎士達を治療しつつ、リナリーはその補助をしながら二人を観察していた。
「最近、オリビアが行う騎士達への訓練が激しいって苦情が来てた所だったのよね。」
「注意はしたんですけどね……でも、驚きました。オリビアがあんなに素直になるなんて。」
「シャルちゃんって15歳らしいんだけど、妙に大人びた所があるのよね。」
「やはり謎が多い子ですわね。」
◆
「シャルよ、リナリーからお主の実力は聞いておる。本気で来るが良い、妾も全力を出す。」
「それはお互いに剣を交えてからにしましょう。いきなりではどれだけの影響が出るか分からないですから。」
「ほう?それは強者の余裕か?」
「いえ。」
(ギルド総本部の時も結構建物が危なかったし、遠慮無くいくと荒野の時みたいになりそうだから、様子を見たいのよね。)
この世界で遠慮無く戦う事はあったが本気を出した事は無かった。今までの事を考えれば、おそらくタダでは済まないという予感がした。
「ふむ……ならばお主の意向を汲むか、では戦う前に名乗りを上げるとしよう。妾の名はオリビア・ディル・ドラグニア!ドラグニア王国の第一王女にしてギルドを統括する薔薇の集いの一人じゃ!そしてSランクの冒険者!父上は竜人、母上は竜族で竜人の妹が一人おる!妾は竜人じゃ!愛剣は不壊の竜剣“ドラグニア”!」
「……これは続いた方が良いのかしら?……え、えっと私の名はシャル!青の薔薇所属のCランク冒険者!素性と顔は訳あって明かせませんが、山奥でずっと暮らしていた為世間知らずです!現在愛用の武器はありません!」
「ふむ?山奥?」
((山奥設定って、もう意味ないんじゃ。))
オリビアは一応フランソワからシャルが家出した貴族のお嬢様という事は聞いていた。なので山奥設定は意味が無いが、シャルは知らなかった。
「フランソワから事情は聞いておるぞ?」
「え?……そうなんですか?なら、そういう事です。」
(((え、どういう事?)))
オリビアと遠くから声を拾ったリナリーとホルンがシャルの返しに首を傾げた。シャル的には、フランソワさんから聞いているという事は、もう何も説明しなくても良いかな?とちょっと投げやりぎみに返していた。
「ま、まぁ良い……では行くぞ!」
「はい!」
((あ、強引に始めた。))
早く戦いたかったオリビアは、深く考えるのをやめて剣を構えた。
「まずは一撃!!」
ダッ、ブォン!
「!?」
ガキッ、ドォーン!
シャルはオリビアの攻撃を一度受けようとした。だが思いの外重い一撃に、受けるのを止めて受け流した。
ピキッ、
(あの剣、リナリー団長の氷剣みたいに何か特性があるのかしら?妙に重い一撃だったわ。)
オリビアは竜人、種族的な力の差もあるだろうが、それ以外にも持っている剣にも何か秘密がありそうだ。
「……ほう?受けきらずに受け流したか、今の一瞬でよく判断できたのう。」
「思いの外、重い一撃だったので。」
『姫様の一撃を軽く受けた後に受け流すなんて……』
『シャル殿、相当やりますなぁ。』
まだ軽い様子見の段階だったが、周りの騎士達からしたら軽くは無かった。
「では、連続で行くぞ!」
ダッ!
(柳の型……“柳泳”!)
キキキン!ピキピキ!
「む?」
(さっきのでもう限界が来たのね……なら。)
クイッ、
(合わせ……“柳風泳”!)
ビュン!キ、キン……パキーン!
「何!?」
オリビアの連続攻撃を優雅に泳ぐ様な剣捌きで受け流したが、最初の重い一撃ですでに剣が限界が来ていたので、そのまま攻撃に転じた。剣は折れたが、風の魔法と一緒に相手の斬撃を跳ね返した。
「やるではないか。」
ゴォォ!
(炎!?)
タッ!
だがオリビアは、竜剣ドラグニアから炎を出し、その斬撃を燃やした。
「面白い剣ですね?斬撃を燃やせるなんて。」
「竜剣ドラグニアは大いなる竜の力を宿した剣でな?竜の質量、竜族が扱える特殊な炎を最大限に発揮できる力を持つのじゃ。」
「……そういう事ですか。」
(質量……特殊な炎……それを最大限に……つまり一撃一撃が竜の全力の攻撃に匹敵かそれ以上の威力があるって事かしら?リナリー団長の氷剣セルシウスもだけど、随分とチートな武器を持ってるわよね?)
武器の出所が非常に気になるが、とにかくまともに受けるのはやはり難しい様だ。
(でも、剣を沢山用意したから今回に限っては一本にこだわるのは止めよう。)
ただでさえ武器をよく壊すのに、更に折れやすいこの環境では剣が折れるのを気にするだけで油断になる。
スッ、
「私からも行かせていただきます。」
「うむ、来るが良い。」
(斬の型……“舞零”!)
ピキピキピキ!
シャルは氷気を纏って舞い、斬撃と共に氷気を広げた。
「氷気か……ふっ!」
ブォン!ゴォォ!
(一振りで相殺か……)
そこそこな威力で放った、オリビアにとっては一振りで相殺出来る程度の威力だった様だ。
「次は剣が壊れるくらいの威力でいきます。」
「ぬ?」
ビュン!……ビキビキビキ!バキーン!
「なんと!?」
なので、荒野時より少し強い威力で放った。
◆
「何……あの氷魔法は。」
「驚きましたね……氷剣無しでリナリーに匹敵する威力ですか。」
◆
「リナリー級か……面白い!」
ゴォォォ!!
(これも一瞬で相殺か……替えの剣を用意しておいて本当に良かった。)
思っていた以上にオリビアの持つ竜剣ドラグニアは強力な様だ。
(今は竜剣の力だけを使っている感じだけど、オリビア王女殿下本人もかなり実力がある筈、荒野の時の力を出しても全く問題無さそうね。)
オリビアの実力はだいたい読めた。ならば後は相手が満足するか替えの剣が尽きるまで戦えばいい、
「ふむ……お主が持つ魔力、不思議な感じがするのう。それに、魔力以外の感覚もある。」
「魔力に関しては生まれ持ったものなので私自身もよく分かっていませんが、魔力以外なら気の力ですね。」
「“き”?」
「闘気と言った方が伝わりやすいかもしれません。魔力とは違った身体能力や技の威力を上げる技術ですね。極めれば飛ばせます。」
「ほう?」
オリビアはシャルの魔力と気に興味を持った様だ。目がキラキラしてる。
「妾にも使えるのか?」
「もちろんです。」
「ほほう?」
(物凄く目がキラキラしてるわね。相当興味があるのね?)
「よし、手合わせが終わったら教えてもらうぞ!」
「終わった時に返事しますね。」
「何故だ!?」
「その時に教える元気があるか分からないですから。」
「ぬぅ、それもそうじゃな。」
暴走しかけたオリビアを即答して止めて、戦いに集中させた。
「そろそろ技を使うか。」
「いつでもどうぞ。」
「そう言ってくれるのはリナリーくらいじゃったが、お主は本当に面白い。」
ゴォォ!
「だからこそ、思いっ切り戦えるというものじゃ。」
ジャキッ、
「ドラゴンフレイム!」
ゴォォン!
「……凄い威力……さっきの騎士達の訓練だとこれすら使ってなかったのね。」
(柳の型……“柳風陣”。)
ビュンビュンビュンッ!バキーン!
「ははは!いとも容易く相殺するのじゃな!」
「剣は無事ではないですけどね。」
(前々から思ってたけど、剣ってこんなに折れやすいのかしら?私がまだ完全に自分の力を扱えきれてないのも関係あるのかな?)
シャルは前世で使っていた乙戯流を再現出来るまでの修行はしたが、今世の自分の力を完璧に制御する修行はまだしていなかった。最初は怪力だから武器を簡単に折ってしまうのかなと思ったが、それ以外にも理由がありそうだ。
「まだまだ行くぞ!ドラゴンクロー!!」
ブォォ!
(空の型……“火弓鳴”!)
キュイン!ドォーン!
◆
「オリビア、楽しそうね。」
「遠慮無く戦える相手が現れたので喜んでいるのでしょう。」
訓練場が広い為、城にはまだ影響はないが、徐々に力を出す二人の影響で地面には幾つか大きなクレーターが出来ていた。
◆
「はぁぁ!」
ブォン!ブォン!
「……はぁ!」
ガキッ、バキーン!バキーン!
(剣を消費する速度が尋常じゃないわね。彼女みたいに自分専用の武器が欲しくなるわ。)
「面白い様に剣が折れるではないか、備えはまだあるのか?」
「ええ、沢山あります。」
(ロンさんは売り上げが伸びるから喜んでたけど、ドッグさんとか鍛冶場の人達は大変そうだったから、迷惑かけちゃったな。)
備えあれば憂いなし、という言葉の通りに剣を購入したが、足りない分を補ってくれたドッグ達に感謝するシャル。
ザザッ、
「さて、様子見もここまでにするかのう。」
「はい、そうしましょう。」
二人は言葉を交わすと距離を取り、
「「はぁぁぁ!!」」
ゴゴゴゴ……!
「「ふっ!」」
ズドォーン!!
『な!?衝撃がここまで!?』
『姫様は納得出来るが、あのシャルっていう女もかなり凄いぞ!』
更に力を上げた二人。攻撃が届いた訳では無いが、軽い衝撃波が端まで届く力を出していた。




