竜騎姫と闇ギルドの影 1
第五章始まります。乗車券→搭乗券に修正しています。先程、台詞一部修正しました矛盾があったので。
バサッ、バサッ、
「間もなく、王都行きの便が出ます!王都に行かれる方は早めに搭乗して下さい!」
(まさか、竜に乗れる日が来るなんてね。)
シャルは竜の定期便の乗り場に来ていた。無料搭乗券を貰い、今回王都に行く予定のジュエルナイトの三人と一緒に、
「シャルが竜の定期便を利用するのが初めてって聞いてびっくりしたよ。誰もが一度は利用した事があるって言うくらい有名なのに。」
「ほら、私山奥でずっと暮らしていたから外の世界あんまり知らなくて。」
「その設定まだ言い続ける気!?」
シャルを知る人達はもう山奥設定が嘘だとバレバレで、シャル自身もその設定が皆に嘘だと思われているのは気付いていたが、一応何処にアーランド王国の人間がいるか分からないので設定は生かす事にしていた。
「でも、ありがとうガーネット。アズライトさんにラピスさんも、一緒に来てくれてありがとうございます。」
「別に構わないさ、元々王都に行く予定があったしな。」
「ガーネットも、シャルちゃんが一緒で嬉しそうだしね。」
「うん!」
シャルと三人は、世間話をしつつ王都行きの竜の元に向かう。
「皆様!今回ライダーを務めるリリアンです!宜しくお願いします!」
「「「「「キャ〜!リリアン様〜!」」」」」
「あ!今日のライダー、リリアンさんだ!」
「リリアン?どっかで聞いた事がある様な……」
軽装に身を包み、金髪の顔立ちの整った男性。女性ファンがいるのか、黄色い悲鳴を上げられていた。
「ほら、コリン副団長のお茶会メンバーの一人だよ。」
「ああ!なるほど!」
ガーネットから、コリンのお茶会メンバーの一人と聞いて疑問が解消された。
「おや?そこに居るのはガーネット君?アズライト君にラピス君も。」
「おう、今日は王都まで宜しくな。」
「宜しくね。」
リリアンがジュエルナイトの三人に気付き声を掛けた。
「リリアンさん、こんにちは!」
「こんにちはガーネット君、相変わらず元気だね……そこの全身黒尽くめのローブの子はもしかして……」
「初めましてリリアンさん。シャルと申します。」
「な!?噂通りの美声……宜しくねシャル君。僕はリリアン、竜騎兵という王家直属の騎士部隊の一人だよ。」
「王家直属の騎士部隊?あっ、宜しくお願いします。」
王家直属と聞いて首を傾げるシャル、王家直属の騎士という事は城に居なくては駄目なのでは?と、少し疑問に思ったからだ。
「あ、分かりずらい言い方しちゃったかな?細かく言うと、王家直属の冒険者ギルドの組織“竜の牙”の団員なんだよ。王家に使える騎士でもあり、冒険者でもあるのさ。竜の定期便の人は皆竜騎兵なんだよ。」
「なるほど。」
冒険者をやりながら、副業と騎士も兼ねているのかと納得するシャル。
《リリアン!いつまで話している!もう出発の時間だぞ!》
リリアンと話していると、待機している竜が喋った。
「竜が喋った!?」
「え?シャル?竜族は皆話せるよ?知らなかったの?」
「ごめん、カリム!ついつい話し込んじゃったよ!今行く!じゃあ皆、また後で!」
そう言ってリリアンはカリムという竜の元に向かった。
「シャルって知らない事が結構多いよね?」
「う、うん。世間知らずだから。」
(((相当な箱入りお嬢様だなぁ。)))
常識は、シャルにとっては全然常識じゃないんだなと、ジュエルナイトの三人は色々教えてあげようと思った。
◆◆◆◆
バサッ!バサッ!
「こうして空から大都市を見ると、いかに大きな都市かって分かるわね。」
「そうだね、王都よりも大きいからね。」
シャルとジュエルナイトの三人は、竜が持つ大きくて頑丈そうな籠の中で話していた。
「そう言えば竜の定期便って、籠に乗るのと、竜の背中に乗るのと二種類あるんだ。てっきり背中に乗るだけかと思ってた。」
「うん、背中に乗るだけの方が運賃が安いけど、竜の背中に捕まらないといけないし酔いやすいし、自分で身を守る必要が出てくるから冒険者向きで、籠の方が運賃が高いけどフランソワさん印の魔導具で守りもしっかりしてるし、揺れも感じないから酔わないし、人数も多く乗れるから、貴族とか一般の人向けだね。」
「へぇ〜。」
竜の定期便の詳細を聞きながら頷くシャル、料金によって待遇が違うのはどこの世界でも一緒の様だ。
《黒尽くめのローブだったか?嬢ちゃんが噂の“隠者”のシャルかい?》
「え?ええ?」
「ん?シャル?」
何処からともなく声が聞こえ驚く、
《ああ驚かせてすまないな、これは念話だ。》
「念話?」
《ふむ?知らないか?というか、嬢ちゃん一人だとあれか……ガーネットの嬢ちゃん。》
「あ、カリムさん?」
《おう、そこの噂の嬢ちゃんが念話を知らないみたいでな?悪いが一緒に会話してくれ。》
「あ、そう言えば竜族が話せるの知らなかったっけ。今話しているのはカリムさん。竜族は基本念話で会話するの。フランソワさんが念話を音声にして出せる魔導具を作ってから、普通の会話も可能になったけどね。」
「なるほど……あっ、カリムさん。シャルと申します。宜しくお願いします。」
《おう、宜しくな。噂通りの美声と怪しさだな。》
カリムと挨拶を交わし、シャルは疑問に思っている事を聞く、
「私に何か?」
《うん?ああ、噂の“隠者”のシャルが搭乗してるってリリアンから聞いて気になってな、それにしても……面白い魔力を持っているな。》
「面白い魔力?」
面白い魔力と聞いて首を傾げるシャル。
《自慢する訳ではないが、竜族はあらゆる種族の中でも最上位の力を持っている。その竜族の俺が完全に見極める事の出来ない魔力を見るのはお前が初めてだ。》
「え?」
「シャルってやっぱり凄い魔力の持ち主だったの?」
《ああ、まず魔力の底が見えない。あの王国最強の姫さんでも分かるのにな。次に魔力に色が無い。魔力を持つ者は何かしらの色を持ち、その色が得意な属性となるが、シャルの嬢ちゃんは無色。リナリー嬢と戦った時の話を聞く限り、属性を持つ魔法が使えない訳でも無い。つまり予測ではあるが、何色にでも染められるって事だ。》
自身の魔力についてちゃんと考察した事は無かったが、改めて自身の持つ魔力について言われると、とんでもないチートだなと思った。
「シャル……オリビア王女殿下よりも魔力が強いの?しかも全属性が得意なの?」
「ちょっと引かないでガーネット。」
カリムの解説したシャルのチート魔力にちょっと引くガーネット。
《今度、竜の国に来てくれないか?それだけの魔力を持っていれば、あのお方も起きると思うんだ。》
「あの方?」
「カリムさん?その方って?」
カリム真剣な声に、二人揃って疑問を投げかける。
《皆が古竜と呼ぶ存在だ。》
「エ、エンシェントドラゴン!?」
「エンシェントドラゴン?」
ガーネットが驚き、シャルは首を傾げる。
「……って、何ですか?」
ガクッ!
『な、なんだ!?ちょっと揺れたぞ!?』
『何かあったのか!?」
《あ〜、驚かせてすまない、ちょっと体勢を変えただけだ。》
『『なんだ、びっくりした〜』』
シャルの反応にずっこけたガーネットとカリム、カリムはずっこけた拍子に多少揺れて乗客に驚かれたが、すぐにアナウンスしたので問題無かった。
「…シャル?嘘でしょ?エンシェントドラゴンよ?伝説と言われてる竜の中の竜だよ?」
《シャルの嬢ちゃん……流石にあのお方を知らないのはびっくりしたぞ?》
「え、えっと、すみませんでした。」
(エンシェントドラゴンって、前世のゲームでも名前だけ聞いた事があるけど、あんまりよく知らないのよね。)
前世ではあまりゲームをしなかったシャル、ファンタジー知識に偏りがあるのは仕方無いが、ガーネットとカリムに凄く驚かれ、しかも乗客にちょっと迷惑が掛かったのですぐに謝った。
「ここまで知らない事が多いと逆に心配になってくるよ……冒険者になれて良かったねシャル、色々と外の世界を知れて世間から遠ざからずに済みそうだね。」
「なんだかその言い方は気になるけど……」
《まぁ、俺が驚かさせるとは思わなかったが……う〜ん、その、なんだ……これからだな。》
「気を遣われてる!?」
ガーネットからの憐れな視線と、カリムの妙に優しい念話に突っ込みを入れるシャル。
《とにかく、機会があれば竜の国に来てくれ。シャルの嬢ちゃんの事は話しておくから。》
「分かりました……えっと、ずっと寝たきりのエンシェントドラゴン……さん?に機会があれば会いに行けば良いんですね?」
《ああ、機会があればな。後、正式な名前では無いからさん付けはいいぞ?》
「あ、はい。そう言えば、どれぐらい眠っているんですか?」
《あのお方は約500年程眠っておられるからな、俺はまだ生まれて200年くらいだから眠りに入った当時の話は知らないが、大きな戦いの後眠りに入ったらしい。》
「そうなんですか。」
(500年ってキューマスターがいた時代?というか、カリムさんも200年くらい生きているって……現実に聞くと全然現実味が無いわね。)
フィーとリナリー、その他諸々の知り合いがその現実味の無い年月を生きている分類に入るが、シャルは普通に気にせず接していたので、改めて考えてみると凄い事だった。
「はい、カリムさん!その辺りの話詳しく聞きたいです!」
《良いぞ……と、言いたい所だが、そろそろ王都に着くぞ。》
「あ、もう着くんですね?」
(空の旅って、快適だとあっという間に目的地に着いちゃうわね。)
ガーネットがエンシェントドラゴンについて詳しく聞こうとした所で、カリムから目的地にもうすぐ到着する事を伝えられた。
「うう、カリムさん。今度カリムさんの竜の定期便を利用する時は必ず聞かせて下さいね?」
《ああ、約束しよう。と言っても、今回の仕事が終わったら暫く休暇を取る予定だからすぐには無理だな。》
「そんな〜!?」
カリムの話を聞いて落ち込むガーネット。
《まぁ、他の奴にでも聞いてくれ……あ、あ〜間もなく王都に着く、皆降りる準備を。》
籠の中にカリムのアナウンスが響き渡った。そして落ち込むガーネットを慰めながら、降りる準備をするシャルだった。
〜王都〜
「ガーネットとシャル、カリムと色々話してたみたいだが何を話していたんだ?」
「そうね、エンシェントドラゴンとかとんでもない言葉が聞こえてたけど。」
カリムの持つ籠から降りたシャルとジュエルナイトの三人は、先程の会話について話していた。
「……うん、色々話してたんだけど、カリムさんにエンシェントドラゴンについて聞けそうだったけど、聞けなかった。」
「そういう事ね。」
「なるほど、それで貴重な情報が聞けずに落ち込んでたのか。」
「うん。他の竜族に聞くしか無いけど、絶対カリムさんが一番詳しいもん。」
ガーネットの落ち込んでいた理由を聞いて納得したアズライトとラピス。
「竜族の中でも情報通だからな。まぁ、落ち込んでてもしょうがない。ギルドに行くぞ。」
「うん……あ、シャルまたね。」
「シャルちゃん、またね。」
「はい、ありがとうございます。」
シャルは城へ、ジュエルナイトの三人はギルドに行く為別れた。
『リリアン様〜!!』
『あれ?アズライト君!?皆も声くらい掛けさせてよ!!』
((((いや、あそこに行くには勇気がいるって。))))
目の色を変えたファンに囲まれるリリアンは無視して、
《さて、俺も休暇に入るかー。》
『カリム!?せめてちょっと手助けを!』
《頑張れリリアン、いつもの事じゃないか。じゃあな。》
『カリム〜!?』
◆◆◆◆
(大都市も広いけど、王都も充分広いわね。)
王都に着いたシャルはまっすぐ城に向かっていた。リナリーの話だとオリビアは「会いたいと言ったら、すぐに会いたいと思うからちょっと急いで行った方が良いわよ。待たせるだけ被害が増えるわ。主に騎士団。」と不穏な事を言っていたので、王都の観光は後回しにした。
(会った事無いけど、騎士団の人達大丈夫かな?)
王女であるオリビアの事をよく知らないので、リナリーの言っていた被害状況がどれぐらいなのかわからなかった。
(あ、門が見えてきた。)
しばらく歩くと、大きな城門が視界に入った。
(手紙は持ってきたけど、すぐに入れて貰えるのかな?王女様に会うってなかなかよね?)
王女に会うって相当な事だなっと、王女である自分を棚に上げて思うシャル。
「ん?誰だ!」
「黒尽くめで顔の見えない怪しい奴め!」
「あ、えっと。」
城門の前に着くと二人の門番がシャルを睨んだ。大都市では皆シャルの格好に慣れてしまったので、この警戒心たっぷりの反応も久し振りだった。
「実はですね……」
「む!?」
「ず、随分綺麗な声だな?」
「あ、ありがとうございます。えっと、オリビア王女殿下に手紙で会いたいと言われまして……」
「「何!?」」
(どうなんだろ?この反応……)
シャルの美声に驚きながら、警戒とも納得という様な微妙な顔をした門番二人の反応を伺うシャル。
「……手紙は?」
「ここにあります。」
「ふむ……確かに、一言しか書かない感じと筆跡、姫様っぽい。」
「身分を証明出来る物は?」
「ギルドカードがあります。」
「ふむ……シャル?……まさか!?“隠者”のシャルか!?」
「何!?」
「は、はい、そうです。」
(急にどうしたんだろ?)
シャルがギルドカードを見せると、急にそわそわしだした門番。
「開門!開門だ!!」
「来たぞ!噂の“隠者”シャルが来たぞ!!すぐに門を開けて姫様の元へお通しするんだ!!」
『『『『『何!?』』』』』
ギギギギィ〜!
(え?何?なんなの?)
予想外の反応に戸惑うシャル。そんなシャルを尻目に門が開き騎士達が集まって来た。
「お待ちしておりましたシャル様!!」
「すぐにオリビア王女殿下の所へ!」
「え、え?は、はい。」
そして状況が理解出来ないまま、城の中に案内されるシャルだった。
竜の国のフラグは結構後の章で回収します。




