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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
集結、青の薔薇!!スター商会とホルンの試験
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集結、青の薔薇!!スター商会とホルンの試験 8

 ◆◆◆◆



 〜一日目〜



「蜂蜜とかも良いのよ?」

「おぉ〜!贅沢でごぜーますなぁ。」



 ◆



『なんだか凄く良い香りがしますね?』

『何を作っているのかしら?』

『……今日も此処でお茶ですか。』



 〜二日目〜



「よく考えたら屋敷にずっといたから、材料を買うついでに拠点とかにも寄りましょ?ホルンさんとリナリー団長も今日は近くにいないみたいだし。」

「依頼を見るのでごぜーますな?」

「うん、冒険者としてもしっかりと活動しないとね。」



 ◆



「おはよう、ガーネット。」

「グッモーニング!ガネッち!」

「あ!シャル、フィー、おはよう……ん?なんだか良い香りがするね?」

「ほほう、それに気付くとは流石でごぜーますね。」

「何が流石なの?……あれ?フィーの髪が凄いサラサラな気が……」




 〜三日目〜



「石鹸の香りって落ち着くわよね?」

「ボディソープに取り入れるであります!」



 ◆



「ご機嫌ようシャルさん、フィーさん。何か商品で進展がありましたね?」

「まだ無いですね。」

「まだでごぜーます。」

「フィーさん?髪が凄いサラサラで、二人から良い香りがするのですが。」

「気のせいですよ。」

「そうでごぜーます。気のせいであります。」

「……いいでしょう。まだその時では無いのですね。」




 〜四日目〜



「薔薇とか椿とか、あとひまわりも良いのよ?」

「素敵でごぜーます!」



 ◆



『ねぇ皆?気付いた?フィーちゃんの髪がサラサラで肌ももちもちして、赤ちゃんみたいな肌になってるの。』

『気付きました。』

『シャルちゃん何を使ってるのかな?凄く良い香りがするし』




 〜五日目〜



「……何?……抱き付くとシャルちゃんから凄く良い香りが……」

「リナリー団長?何で会った早々抱き付くんですか?」

「わっちの特等席!!」

「特等席では無いのよ?」


『やっぱり何かあるわ。』

『『『『『絶対にそうね!』』』』』




 〜六日目〜



「保湿効果とか美肌効果とか高めてみよっか?」

「最高でごぜーます!」



 ◆



「シャルちゃん?何か凄く良い物使ってない?」


「「「「「シャルちゃん?」」」」」


「えっとコリンさん?ガーネットに女性陣の皆さん?なんでそんなに目の色を変えて詰め寄って来るんですか?とりあえず私から言える事はまだ無いです。」



 シュッ!



「消え!?……逃げたわ!追って!」



 〜七日目〜



「……どうしてこうなったのかしら?」

「美を追求したい女性の想いが暴走した結果でごぜーますなぁ。」


 今屋敷の結界の外には、シャルのよく知る女性の冒険者達と今まで知り合った女性の人達、そしてホルンとリナリー、フランソワが集まっていた。


 《シャルちゃん!貴方は完全に包囲されているわ!おとなしく最近使っているフィーの髪がサラサラの艶々になった物と、フィーの肌がもちもちのすべすべになった良い香りのする商品を出しなさい!!》


「まさか、現実であんなセリフを聞く事になるなんて。結界があって良かったわ。」

「刑事ドラマとかで見た事あるでごぜーます。」


 シャルとフィーは屋敷に閉じ籠っていた。シャンプー、トリートメント、ボディソープを作った当初はまだ早過ぎたという事もあり隠していたが、一緒に付いていくフィーを見た女性陣が最初はスルー出来たが、徐々に輝きを増していくフィーを見て目の色を変え始めた。

 元々この世界に美容系の商品が少なく、女性達はその生活に慣れていた。だが、美しくなりたいという想いはどの世界でも共通だった。もしかしたら身近に美しくなれる道具があるのでは?と分かれば、聞きたくなるのも当然。その想いが暴走して屋敷を包囲して押し掛けようとするのは、この世界特有かもしれないが。



「これはとてつもなく大変な商品を作ってしまったでごぜーますね。」

「今更ね。まさか此処までの反応があるとは思わなかったけど。」

「そうでごぜーますか?必然でありますよ。」

「……そうなのかな?」


 フィーの言葉に首を傾げながら、このままの状態でいる訳にもいかないので作戦を考えるシャル。


「とりあえずホルンさんの試験で新しい商品を開発して、効果を試している所って事は伝えて。」

「ふむふむ。」

「商品の説明をした後、ホルンさんに丸投げしよう。」

「丸投げでごぜーますか!?」


 ホルンに丸投げする。そんな大胆な作戦を立てたシャルに驚くフィー。


「きっとホルンさんなら何とかしてくれるわ。」

「何その信頼度の高さ!?ホノるるの負担が大き過ぎる様な……ま、いっか!でごぜーます!」


 二人は、開発した商品を持って外に出た。


「出てきたわ!」

「「「「「シャルちゃん!!」」」」」


「……うわぁ。」

「シャル様?うわぁはどうかと思うでごぜーますよ?……あ、でもまぁ……うわぁ。」


 シャルとフィーは外に出ると、あまりの人の多さにちょっと引いた。屋敷の外からだとよく分からなかったが、かなりの人数がいた。


「……本当に結界があって良かったわ。」

「……本当にでごぜーますなぁ。」


 二人は結界の存在に感謝した。


「シャルさん?随分と早かったですが商品が完成したのですね?そうですわね?」

「シャルちゃん?どうして前に結界の中に入れたのに入れないのかしら?」

「シャルちゃん!結界の中に入れて!そして屋敷を調べさせて!」


「えっと?とりあえずフランソワさんだけ目的が違う気が……」

「久々に戻ってきたら、皆してシャルちゃんの屋敷に行くって言うから、どさくさに紛れて屋敷を調べようかと。」

「銀髪の魔女!貴様はお呼びで無いごぜーます!!」


 さりげなく混ざっていたフランソワをフィーがあしらいつつ、シャルはホルンに声を掛ける。


「ホルンさん。商品について説明するので、代表して結界の中に入って頂けますか?」

「分かりました。」


 ホルンはシャルの言葉に頷くと、結界を抜けられるか確認しながらゆっくりと結界の中に入った。


「抜けられましたわ。」

「では商品の説明をするので、庭にあるお茶会が出来るあの場所へ行きましょう。」

「分かりました。」


 シャルの言葉に頷き付いてくるホルン。周りの目があるからなのか、端から見ると清楚な雰囲気が出ているが、目はギラギラと輝き完全に商人の目と化していた。


「どうぞお掛け下さい。いま紅茶を淹れます。」

「お願い致しますわ。」


 コポコポ、


「どうぞ。」

「ありがとうござます……え!?美味し!?」


 シャルの淹れた紅茶の美味しさに驚くホルン。


「……シャルさん?副業で喫茶店など経営しませんか?いい物件があるのですが……」

「ホルンさん、本来の目的を忘れてますよ?あと、喫茶店は経営しません。」

「……残念ですわ。」


 本当に残念そうな表情をしながら、話を進めようとするホルン。


「ではシャルさん。新商品の開発という試験でしたが、どうやら素晴らしい商品を開発した様ですわね?」

「素晴らしいかどうかは分かりませんが、一応は完成しました……これが、その商品です。」


 そう言ってシャルは、シャンプー、トリートメント、ボディソープが入った透明なボトルを取り出した。


「……これは。」

「まずはですね、このシャンプーから……」

「シャルさん!」

「は、はい?」


 急に興奮し始めたホルンの様子に驚きつつも、聞き返すシャル。


「この容器はどうやって作ったのですか!?」

「え?」


 まさか容器について聞かれるとは思わず首を傾げるシャル。


「なんの騒ぎでごぜーますか?」


 急に大きな声を上げたホルンに反応して、フィーがフランソワを放って置いてやってきた。


「どうやらその様子だと、この容器がどれだけ素晴らしい物か理解していない様ですわね?」

「えと、良い物だとは思いますよ?」

「シャル様、おそらくこの容器も革命的でごぜーます。」

「……あ。」


 シャンプーとかを作るのに集中したので全く気にしていなかったが、このボトルも中々な代物である。


「この容器はどうやら見た目の美しさだけでなく、強度も高い様ですね?」

「よく見ただけで分かりますね?」

「長い事商人をやっていれば一目で分かりますわ。」

「プ、プロがここにいるでごぜーます!」

「さらに保存性も優れていそうですね?こんなに良いとこ取りな容器の素材は見た事がありません。」

「商人って怖いでごぜーますなぁ。」

「ホルンさんが特殊なだけなんじゃ。」

「さぁシャルさん!」

「は、はい。」

「どうやってこの容器を作ったのですか!?」


 静かにボトルの考察をしたかと思うと、急に大きな声で前のめりなってシャルに問う、


「えと、スライムを乾燥させて作りました。」

「スライムを……乾燥?」


 思いもよらない回答だったのか、その場でフリーズするホルン。


「試験用に作った商品の紹介に移りますね?」

「……スライムを乾燥?……それだけでこんな美しい容器が?」

「ホノるる絶賛熟考中。」


 ブツブツと呟きながら考えるホルンを見ながら、そのまま商品紹介に移ってしまおうと話を始める。


「ホルンさんから見て左から、シャンプー、トリートメント、ボディソープになります。シャンプーが髪を洗う物、トリートメントが髪を保湿して潤いを与え髪を保護します。そしてボディソープが体を洗う物で、石鹸の代わりになります。」

「……石鹸の代わりに?用途ごとに分ける事に何か理由が?」

「あ、戻って来たんですね。髪と肌では洗剤の相性が微妙に変わります。石鹸一つで済ませても大丈夫ですが、より肌を傷めず輝きを与えて潤いを保ちます。」

「輝きを与えて潤いを保つ!?しかも肌を傷めない!?」



 ザワザワ!



 シャルの最後の言葉で、ホルンが衝撃を受け大声で叫んだ。そしてその声は結界の外まで響き、集まっていた女性達がザワついた。


「フィーさんの髪がサラサラで、肌も輝いているのはやはりその商品の影響だったのですね!素材は!?作り方は!?早速大量生産して売り出しましょう!!」


「「「「「宜しく!!」」」」」


「あ、でも特殊な作り方をしたので現状私しか作れないと思います。」


「「「「「ええ!!?」」」」」


「そ、それはどういった製法なのでしょうか?」

「それはですね……」


 シャルは、ホルンに製法を伝えた。


「……分析?……抽出?その成分を取り出すにのにもしかして複雑な魔法が?……え?シャルさんは魔法でさっくりと?現状シャルさんにしか出来ない?フィーさんそれは本当ですか?」

「うむうむ!あれ程の精度で出来るのはシャル様だけでごぜーます!」


 フィーも混ざり、製法を聞いたホルンは徐々に暗い顔をする。


「……どうしても、その魔法の会得は不可能でしょうか?」

「不可能ではないと思いますけど、感覚で使っているので詳しく説明が出来ないです。」

「フランソワに頼めば……」

「詳細が分からないので難しいと思いますよ?」

「断固拒否でごぜーます!」


 出来るかもしれないが、フィーが物凄い勢いで首を振っているし、転生者であるとかキューマスターの持っている知識に近い物を持っていると知られれば面倒な事になりそうだったので避けたかった。


「……そうですか……少数の生産で今は我慢するしかないですか。」

「あ、広めはするんですね?」

「当然です!こんな素晴らしい商品を広めない手はありません!それに……手ぶらで戻ったら大都市中の女性達に恨まれますわ。」

「恐怖でありますなぁ。」


 結界の外を囲む様にいる女性達の視線が痛い。


「それにしても……この商品はどうやって発明を?観察していた所、すでに作り方が分かっていた状態で研究していた様ですが……」

「商人怖い!!」

「ああ、それはフィーが知っていたんです。スライムで入れ物を作るのもフィーから聞いたんです。

「シャル様!?」


 今更ではあるがこれ以上目立ちたく無いので、全ての矛先をフィーにいく様にした。真実と虚偽を混ぜながら、


「やはりそうでしたか!フィーさん!やはり貴方はキューマスターなる人物から様々な知識を!」

「間違ってはいないでごぜーますが!間違ってはいないでごぜーますが!!」

「フィー、貴方の犠牲は無駄にしないわ。」

「シャル様〜!?」


 シャルは、フィーに後日埋め合わせをすると囁き、恨めしそうにシャルを見ながら渋々ホルンに捕まるフィー。


「では色々課題はありますが、彼女達に結果をお伝えしましょう。そうそうシャルさん、試験は合格です。」

「ほとんどフィー任せでしたけど良いんですか?」

「シャルさんがいなければ完成しなかった商品の様ですし、リナリーが認めた時点でほとんど合格でした。」

「「…………。」」


 まぁ、それは初めから分かっていた。


「行きましょう。」


 ホルンは言いたい事は言ったのか、結界の外に向けて歩き出した。



「……シャル様、埋め合わせは美味しいスイーツを。」

「……お腹一杯食べられる量を用意するわ。」



 ホルンは結界の外に出ると、魔導拡声機をリナリーから受け取った。


 《皆さん!少数かつ販売まで期間は掛かりますが、私達女性とって素晴らしい商品が発明されました!》


「「「「「おぉ〜!!」」」」」


 拳を上に突き上げ、叫ぶホルン。女性陣も合わせ拳を上に突き上げる。


 《その名は“しゃんぷー”、“とりーとめんと”、“ぼでぃそーぷ”、さらにそれを入れる新しい容器も開発されました!販売はスター商会本部にて予約を受け付けます!一度皆さんの手に行き渡ってから大量生産の研究に入ります!》


「「「「「おぉ〜!!」」」」」


 《そして開発者はフィーネリアこと、フィーさんです!シャルさんの協力無しでは完成には至らなかったそうです。》


「「「「「おぉ〜!!」」」」」

「いやぁ〜照れるでごぜーますなぁ!」


 ホルンに紹介されながら照れるフィー、満更でもなさそうな反応だ。


 《そして今回、シャルさんが薔薇の集いに相応しいかどうかの試験も一緒に行いました!結果はもちろん合格!後はオリビアのみとなりましたが時間の問題でしょう!》


「「「「「おぉ!?」」」」」


「凄いよシャル!」

「凄く名誉な事よ!」


(え?薔薇の集いに入る為の試験をした覚えは無いけど。)


 白薔薇のエンブレムを持つのに相応しいか確認する試験では無かったのか?そう疑問に思いながらちょっと嫌な予感のするシャル。


 《それでは皆さん!商品については後日詳細をお伝えします!今日の所は解散と致しましょう!》


「「「「「はい!!」」」」」


 こうしてフィーの犠牲と色々と不安要素がありながらも、シャルは見事ホルンの試験に合格した。



 ◆◆◆◆



 〜ホルンの自室〜



(今日は非常に有意義な時間を過ごせましたわ。)


 ホルンは今日の仕事を終え自室に帰って来た。キューマスターという先祖と深い関わりのある謎多き人物と共に暮らしていた500年以上の時を生きるシルキー、フィーネリア。彼女の持つキューマスターから受け継いだ知識は自身の想像を遥かに越える物だった。


(身近にいる魔物、身近にある素材、それだけであれだけの物が開発出来るなんて……それに……)


 フランソワとリナリーが認めた顔の一切見えない素性不明の冒険者、シャル。驚く程の美声で話してみるとその人柄の良さが分かり、立ち振る舞いから貴族の位だとわかる。何故この大都市にやって来たのかは謎だが、オリビアの事を考えれば家出の線もある。

 詳細が分からず感覚だけで魔法を使う……それで聞いた事も無い魔法技術を使い、高品質な物を作り出す。フランソワやリナリーの話を聞く限り魔力の量、魔法を扱う技術は彼女達を越える……それがどれだけ異常か、彼女自身はあまり分かっていなさそうだった。


(あれだけの才能を持った者がこの国でひっそりと暮らせる筈がありません。)


 いれば強者を求めるオリビアの耳に届く筈。おそらく他国からやって来た貴族、訳ありかもしれない。


( いずれにしても、彼女自身は信用に足る人物なのでしょう。)


 今までけ仲良くはなれど、契約にまで至らなかった噂のシルキーに気に入られ、入団希望者が多いがリナリーによって選定さなければ入団出来ない青の薔薇(ブルーローズ)に入団。顔が見えないがあの美声と可愛らしい仕草と親しみ易さ、都市での噂も良好で密かに好意を持つ男性も増えているそうだ。


(オリビアもそろそろ動きそうね。)


 謹慎中ではあるが、オリビアの事だから彼女に会う為に何か策を練るだろう。だいだい予想は出来るが。


(とにかく、私は新しい商品の量産研究に入るとしましょう。最初の商品の作製はシャルさんにお願いしましたが、継続的に販売するにはフィーさんと彼女一人では荷が重いですから。)


 フランソワの件もあったので、また商売関係で友人に負担をかけるわけにはいかない。


(それにしても……サンプルは頂きましたがどうやって研究しましょう?)


 ホルンは白薔薇のエンブレムから、シャルから受け取った商品の試作品を受け取った。試作品といっても商品として売り出すには完成しているので後はどうやってシャルから聞いた方法を再現するか、


(『メチス・ブック』に何かヒントは……)


 おもむろにメチス・ブックを取り出すホルン。しかし、何度読み返してもそれらしい情報は載っていなかった。


「……やはりありませんか……“しゃんぷー”、“とりーとめんと”、“ぼでぃそーぷ”……一体どうやってこちらで作製するか……」



 パァァッ!



「……え?」


 ホルンが呟くと、不意にメチス・ブックが輝きだした。ホルンは酷く驚き、光が収まるまで固まっていた。


「……一体、何が……」


 恐る恐るホルンは本をめくる。心なしか本が分厚くなっていた。



「………これは!?」

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