集結、青の薔薇!!スター商会とホルンの試験 7
シャルがお風呂に入りますが、顔は読者にも作者にも見えない仕様となっております。予めご了承ください。
◆◆◆◆
「じゃあ、早速試作品を作りましょう。」
「シャル様?何故にキッチンに?」
「え?煮詰めたりとか混ぜたりとか、抽出したりとか、全部ここでやるのが手間がかからなそうだったから。」
「ほほう?」
シャルは早速フィーとキッチンに来ると、材料になる素材を並べ始めた。
「まずは大豆に似たこの食材から、必要な成分を抽出が出来るかどうか……」
「どうやるのでごぜーます?」
とりあえずアミノ酸系シャンプーの基本となる素材を選んでみた。大豆に含まれている成分は非常に肌と相性が良かった気がするからだ。よく、豆乳とかイソフラボンとか前世ではよく聞いた美容系の商品があるから、
「……ねぇ?フィー?魔法でどうにかならない?」
「魔法にそんな万能な力は……む、しかしシャル様なら?」
「私なら?」
「キューマスターに似た魔力を持っているシャル様なら、出来るかもしれないでごぜーます。キューマスターの魔法は、普通の人とは次元が違ったでありますからなぁ。まさに、万能っと言っても良いくらいでごぜーますよ。」
「そっか。」
(要するに、明確にイメージ出来れば、私なら出来るかもって事かな?)
普通の魔力の持ち主なら難しい事かもしれないが、シャル自身も屋敷を復活させた事といい、妙にイメージ通りに魔法が使える事から、薄々自分の持つ魔力は普通では無いのでは?と本当に今更ながら自覚はしていた。
「試してみるね?」
「いざいざ!」
(対象は大豆に似たこの食材、抽出するのはアミノ酸……というより、アミノ酸を含むたんぱく質と、他には食物繊維、カリウム、カルシウム……)
まさに呪文の様に前世で学生の頃、家庭科で習った食材の成分を片っ端から心の中で言うシャル。
パァァ、
「ぬぬ!?シャル様!?何か神々しいでごぜーますよ!」
「えっと、とりあえず上手くいってるみたい。」
(でも、大豆に含まれている成分って実際に目で見た事無いかも……あ、でもサプリメント系の物って色々成分が含まれているけど、見た目が小さい錠剤にみたいなのがあったから、そういう形で出てくる様にすれば良いのか。)
もはや何でも有りな気がするが、シャルは徐々にイメージを定着させる。
(うん、上手く出来そう。魔法の名前があった方が、また使う時イメージしやすいかな?)
「“抽出”。」
ピカ!
「……これは。 」
大豆に似た食材が強く発光したかと思うと、シャル目の前には小さい錠剤の形をした物がいくつか現れた。
「成功でごぜーますか!?」
「うん、でもどれがどれだか分かんない。」
「ズコー!」
試しに抽出出来る物はほとんど抽出したが、色が若干違うだけで、形が全く一緒で見分けがつかなかった。
「う〜ん、抽出は出来たから後はどれがどれだかわかる様にしたいなぁ。一個一個抽出すれば分かるけど、時間かかるし、纏めて個々に文字とか刻めるかな?」
「……シャル様の魔法といい、キューマスターの魔法といい、何でもありでごぜーますな。」
食材から成分を抽出して、小さい錠剤の形に変えたり、対策を考えながら綺麗な文字を小さい錠剤型の成分に刻むシャルを見ながらフィーは呟いた。
「フィー?鑑定の魔法とかってあるのかな?あると凄く便利なんだけど。」
「何となくでなら、分かる物はあったはずであります。正確に分かる物は無いでごぜーますが。でも、キューマスターがよく分析とか言っていたでごぜーますから、何か手があるのかもしれないであります。」
「なるほど、分析ね。」
(……それなら。)
シャルは、フィーの話しを聞いて、小さな錠剤の成分に手をかざした。
「“分析”。」
キュィィ、
(あ!情報がいっぱいだけど分かる!情報を絞れたり出来るのかな?……あ!大丈夫そう!)
「フィー、ありがと!分析出来た!」
「このチート持ちが!っでごぜーます!何で言った側から出来るのでありますか!?」
シャルの魔法チートっぷりに驚きながら、物凄く喜んでいるシャルに突っ込みを入れるフィー、
「これなら、一度に抽出しても何とかなりそう。よし!どんどん行こう!」
「うむうむ!ならわっちは、入れ物を用意するであります!」
シャルはどんどん色んな素材から必要な成分を抽出していき、フィーはその抽出されて小さい錠剤の形になった成分を瓶に入れ続けた。
〜数十分後〜
「こんな所かな?」
「充分でごぜーますな。」
キッチン近くのテーブルには、沢山の抽出した成分が瓶に入れて並べられていた。
「今度は、水を使って上手く配合させるんだけど……水の宝玉の水って浄化の力があるから、配合は難しいかな?」
「浄化するのはあくまで害のあるものだけでごぜーますよ?」
「どのくらいの基準なのかしら?あのお風呂に入るだけで結構肌が綺麗になるのよね。」
「まぁ、シャル様は……とにかく試してみるであります!」
「ねぇ、何を言いかけたの?」
「気にせずゴー!」
フィーの言葉が気になったが、とりあえず試してみる事にした。
「とりあえず、常に分析した状態で水に入れていくわ。」
「ふむふむ。」
「それで必要な成分が消えたら普通の水に変更っと。」
チャポン、
「……うん?成分が消えないどころか、良い成分だけ残った?」
「ぬぬ?」
チャポン、チャポン、
「……あ、これ前世とは比較にならない程良質な物が作れそう。」
「シャル様?解説してくれないと、わっち置いていかれるであります。」
「えっとね?成分によって良し悪しがあるんだけど、小さい錠剤型の成分を入れて細かく分析すると、悪いものは微弱なんだけど、その悪い効果をもたらすものが消えるみたいなの。」
「何そのチート!?」
改めて水の宝玉の凄さを知ったシャルとフィー、
「流石、キューマスターが作った魔導具でごぜーますなぁ。」
「何それ初耳よ?」
「ふぇ?言っていなかったでありますか?元々水の宝玉の調整をする為に此処に屋敷を建てたってキューマスターは言っていたでありますよ?」
「初めて聞いたわよ?」
(キューマスターって、本当に何者なの?)
二人して可愛く首を傾げながら、キューマスターのチートっぷりに驚くシャルだった。
〜さらに数十分後〜
「うーん……どうかな?」
「わっちに聞かれても……分析が使えるのでは無いのでごぜーますか?」
「分析の結果だと、上手くいってるみたいなんだけど……こういう形で見るのは初めてだからちょっと不安になっちゃって。」
ボウル型の器に入った液体を見ながら二人は会話していた。分析の結果、イメージ通りの配合が出来てはいた。アミノ酸系の花の香りのするシャンプーが。
「よく考えたら、ちゃんとした入れ物を用意して無かったのよね。」
「この瓶では駄目でごぜーます?」
「それもお洒落で良いけど、ポンプ式のボトルが便利なのよ。」
「ポンプ式?」
そう言ってシャルは、ジェスチャーでフィーに伝えようとした。
「こんな形で、押すとノズル部分から適量が押し出されるやつなの。」
「うんうん、あの映画で見た不思議な形のボトルの事でごぜーますね?ジェスチャーしなくても、絶対に伝わったでごぜーますよ?」
「……そうだったわね。」
フィーに突っ込まれて若干ジェスチャーで伝えようとした自分が恥ずかしくなったが、平静を装って話しを進める。
「プラスチックって、どうやって作るのかしら?」
「あの妙に軽くてそこそこ丈夫な素材の事でありますか?キューマスターはその手のものは残して無かった様な……」
ポンプ式のボトルを作るのには最適な素材だが、メチスブックにもプラスチックの作り方は載っていなかった。分析を使おうにもそもそも材料が分からないので、どうしようも無かった。
「代わりに使える素材はあるかしら?」
「う〜む?」
二人して首を傾げていると、
「ぬぬ!スライムはどうでごぜーますか!?」
「スライム?」
フィーが急に何かを思い付いて言った。シャルはスライムという言葉にさらに首を傾げた。
「スライムの種類は沢山いるのでごぜーますが、核を潰した後のドロドロしたスライムの中には、乾燥させると硬くなる種類のスライムがいるであります。それを上手くボトルの形に出来れば……」
「良い考えね!よく思い付いたわねフィー。」
「キューマスターがスライムの生態や特性を得意げに話していたでごぜーますから、魔導具の一部の素材にも確か利用していたはずであります。」
「キューマスターって、凄いわね。」
「ふふん!」
キューマスターが使っていた方法を聞き、キューマスターを褒めたシャル。フィーは自分の事の様に胸を張ってドヤ顔した。
「どんなスライムが良いのかしら?」
「白いスライムが良いでごぜーますよ。日の当たる場所によく生息するらしいであります。乾燥させると、透明になるから色々便利だって言っていたであります。」
「なるほど、分かったわ。すぐに取ってくるわね。」
シュッ!
「ふぇ!?魔法も使わずに消えた!?ニンジャ!?ニンジャ!?」
シャルは一瞬で屋敷を飛び出し、フィーの驚きの声が響き渡る。
『シャルさん。屋敷を急に飛び出してどうしたのでしょうか?』
『緊急事態って訳じゃ無さそうね。』
『お二人とも、屋敷の庭にすら入れないからって、近くにテーブルと椅子を出してお茶をしなくても。』
(なんでうちの庭の近くで優雅にお茶しているのかしら?)
庭の近くでティータイムを楽しんでいる三人を見て疑問に思いながらも、最速で大都市の外に出るシャル。
〜数分後〜
シュン!
「ただいま。」
「早い!?そしていつの間にでごぜーます!?」
とてつもない早さで戻ってきたシャルに驚きつつ、フィーは驚きのポーズをとった。
「これよね?」
ドロドロッ、
「ふむ、これでごぜーますね……短時間でどれだけ狩ったんでごぜーますか?」
「いっぱい?」
「……ふむふむ。」
とりあえず沢山とってきたという事は分かったので、フィーは突っ込まず頷くだけにした様だ。
「これって魔法で私のイメージしているボトルの形にしてから、乾燥させれば大丈夫かしら?」
「シャル様のチート魔法なら問題無いであります。」
「よし、やってみるわね?」
ズズズッ、
テーブルの上に出したスライムの素材を魔法でボトルの形に近付けた。しっかりとポンプ部分も形作り、ドロドロしているが見た目の形は前世でよく見るボトルの形になった。
「じゃあ、乾燥させるわね?」
「かしこまりであります!」
パキパキ、
一瞬ヒビが入ったかと思ったが、白いスライムの素材はドロドロした状態から少しずつ収縮し、表面が薄くなっていった。そして、徐々に透明になっていく。
「綺麗ね。」
「光が綺麗に反射して高級感が出ているであります!」
少し時間が経って出来上がったのは、全てがクリアな綺麗なボトルだった。フィーの言う通り、高級感があった。
「触った感じ、プラスチックに近いわね。でもプラスチックよりも丈夫そうで、見た目も綺麗。」
プシュプシュ、
「うん!ポンプ部分もちゃんと出来てる!」
「大成功でごぜーます!」
予想以上の仕上がりに大満足の二人。
「表面も加工したみたいにツルツルしてるわね。」
「スライムの特性でごぜーますな。保存性にも優れていると聞いたであります。」
「よく覚えてるわね。」
「毎日のようにスライム素材の素晴らしさを語られれば嫌でも覚えるでごぜーます。」
「ああ、なるほど。」
若干遠い目をするフィーに同情しつつ、先程作った花の香りのするシャンプーをボトルに入れる。
トポトポ、
「意外とお洒落ね。しかも中身が見えるからいつまで使えるのかわざわざ開けて確かめる必要も無いし。」
「中々に素晴らしいシャンプーの完成でごぜーますなぁ。」
とりあえずシャンプーを作る事には成功した。後は実際に使って効能や肌に異常が起きないか確かめるだけだが
「トリートメントも作らないと髪を傷めるから、このままトリートメントとボディソープも作ってからお風呂入ろっか?」
「かしこまりでごぜーます!」
シャルはシャンプーを作った容量でトリートメントとボディソープを作り、見た目が一緒だと見分けが付かないので、ボトルの形状を変えて詰めていった。
トポトポトポ、キュッキュ、
「うん、とりあえず試作品第一号が完成したわ。」
「もう、完成品と言っても問題無いレベルでごぜーますが。」
お風呂での必須アイテムがここに誕生した。試作品とは言ったが、多分これでほぼ完成である。他にやる事といえば香りを変えたり、男性向けのを作ったりとか細かい所になってくる。
「じゃあ、お風呂で試してみましょう。」
「いざいざ!」
そう言って二人はお風呂に向かった。
「シャル様?その手に持っている瓶はなんですか?」
「あ、これ?スター商会で作っていた化粧水ね。さっき分析したけど、良い効能だったから、お風呂上がりに使おうと思って。」
「いつ買ったでありますか?」
「材料を買う時。」
「いつの間に!?」
〜お風呂場〜
バサ、
「じゃあ、入りましょうか?」
「……何度見ても慣れないでごぜーますね。」
「何が?」
「なんでも無いでごぜーます。」
シャルとフィーはお風呂場に入った。ボディソープに使うタオルも購入しているので、準備は万端だ。
「そういえばフィーもシャンプーとか使ったら、髪質変わるのかしら?」
「わっちでごぜーますか?住む環境によって精霊は形を変えるでありますから、変化はあると思うでありますよ?」
「そっか、なら使い方を教えるから一緒に使おう。」
「かしこまりでごぜーます!」
シャルとフィーは、隣合わせに座る。
「まずはシャンプー、髪や頭皮を洗うのに使う物ね。アミノ酸系のシャンプーは泡立ちが少し悪いけど、しっかりとぬるま湯かお湯と合わせながら泡立てると問題無く泡立つわ。」
プシュプシュ、ジャブジャブ、
「おお!石鹸よりも泡立てやすいであります!」
「なるほど、石鹸と比べたら泡立てやすいのか。」
容器に入れて泡立て、テンションの上がるフィーの言葉を聞いて、石鹸との違いを実感するシャル。
「じゃあ、髪を洗ってみよっか?結局洗浄効果があるのって泡の方だから、しっかりと泡立て洗ってみて。」
「了解!」
ゴシゴシ、ゴシゴシ、
「ふぉぉぉ!?良い!良いでありますよ!」
「思ったより洗う感触が良いわね。成分の良い所取りしたからかな?」
想像以上の使い心地の良さに驚きつつも、髪を洗っていく二人。
「じゃあ、流しましょっか?」
「うむうむ!」
ジャバ〜、
「洗ったって感じがするわね。石鹸も良かったけど慣れてなかったし。」
「泡立てる効率が段違いでごぜーますよ!しかもワンプッシュで適量が手に取れる!老若男女問わず使えるでごぜーますね!」
「予想以上に良かったのね。」
もの凄く嬉しそう語るフィーを見て微笑みながら、今度はトリートメントを使う、
「今回は洗い流すタイプのトリートメントを作ったから、コンディショナーやリンスみたいに使えるわ。」
「どれも使った事が無いから分からないでありますよ?」
「それもそうね。」
シャルが使い方を教えながらフィーがトリートメントを手に取る。
「ポンプ式のボトルで使えるようにしてあるから、使いやすいと思うわ。上手く成分を浸透させる為に水気を切ってから頭皮に付けないように髪の中間あたりから付けて馴染ませる。」
「ほうほう。」
「そして、ゴシゴシ洗わずに馴染ませながら洗い流す。」
「なななな!?」
髪を洗い流すと、とてもつなく滑りが良くなった。フィーは今までに無い感触に驚いていた。
「なんという手触り!水に濡れているのに髪の触り心地が段違い!」
「予想以上ね。こんなに効果が高いなんて。」
二人してトリートメントの効能に驚きつつも、髪を洗い流す。
「次はボディソープね。このタオルでしっかりと泡立ててから体を洗うだけ。」
「すぐにやるであります!」
ゴシゴシ、ゴシゴシ、
「おおおおおお!?」
「これも大成功ね。」
泡立ちも良く、香りも良い、触った感じの肌触りも良くなる事から、今回の試作品は一個目にして大成功だった。
「じゃあ、上手くいった事だしこのままゆっくりしましょう。」
「かしこまりでごぜーます!!」
〜数十分後〜
ビュォォ、
「髪が今までに以上にサラサラね。ボディソープで肌も良い感じ。」
「ふぁさ!ふぁさ!」
「そんなに髪を振り回したら、歌舞伎みたいよ?」
髪を乾かしながら、効能のチェックをするシャル、フィーは嬉しくなって髪をふぁさふぁさとしているが歌舞伎みたいだった。
「これで一応は完成ね。」
「もうホノるるに見せるでありますか?」
「ううん、流石に早過ぎるし本来は一ヶ月以上も試してアレルギーテストとか肌に影響が無いか確かめないといけないから。あの水を使ってるから問題無いとは思うけど、他にも試したい香りとか成分とかもあるから色々作ってみるつもり。」
「ほほう!ではわっちも実験に付き合うでごぜーます!」
「宜しくね。」
シャルはさらに研究するべく、試作品を作り始めた。




