集結、青の薔薇!!スター商会とホルンの試験 6
パタン、
「すみませんホルンさん。何も分かりませんでした。」
「……そうですか。」
シャルの回答に、かなり落ち込むホルン。
「まぁ、キューマスターとやらと深い関わりのあるフィーでさえあまり分からなかったし、しょうがないわね。」
「そうでごぜーますよ、わっちですらあまり分からなかったでありますし。」
しばらく落ち込んだホルンだったが、気を取り直すと、
「仕方ありませんね。では、『メチス・ブック』の話しは後日フィーさんにじっくり聞くとして……」
「わっち、ロックオン!?目が怖い!目が怖いであります!」
商人の目になったホルンにフィーが見つめられつつ、ホルンはシャルの方を向くと、
「シャルさん、試験の内容をお伝えします。」
「は、はい。」
急に真面目な表情になったホルンに困惑しつつシャルは返事をした。そういえば、白薔薇のエンブレムを持つのに相応しい人物か見極める試験をすると言っていた事を思い出したシャル。
「試験の内容は……」
ホルンは一呼吸おくと、
「フィーさんと協力して、私が驚く様な商品を開発してください。」
「「「…………。」」」
(リナリー団長の予想通りね。)
完全にどんな試験か分かっていたので、驚きも何も無かった。
「ねぇ?ホルン。白薔薇のエンブレム関係無しに完全に私情が混ざってない?というかやっぱり商品開発じゃない。」
「うっ、ですがこんな機会中々無いですし、フランソワはともかく、リナリーが認めているなら殆ど試験は必要無い様なものですし。」
「ぶっちゃけたわね?あんた初めからそのつもりだったのね?」
「そ、そんな事ありませんわ。」
リナリーに問い詰められてさっきまでの真面目な表情から一転、怯えた子うさぎの様に小刻みに震えながら長いうさ耳をパタパタさせるホルン。
「と、とにかく、商品の内容は問いません。期間は一ヶ月、原案でも構いませんし、実際に作って頂いても構いません。その間必要な物があれば、私の商会が全面協力致します。早く出来ればご報告頂ければと思います。宜しいでしょうか?」
「はい!頑張ります!」
「フィーも付いているでごぜーますよシャル様!お任せあれ!であります!」
一ヶ月、短い様で長いホルンの試験、『新たな商品開発』が始まった。
◆◆◆◆
「第一回、商品開発会議〜。」
「ぱふ、ぱふー!」
シャルとフィーは自宅に戻って来た。そしてリビングで商品開発会議を開いた。
「さてと、商品開発会議をする前にフィーに確認したい事があるわ。」
「なんでございましょう?」
「キューマスターの残したあの【俺的!OKライン商品!】は全部読めるの?」
「全部では無いごぜーますなぁ、所々分からない文字があったでごぜーます。まぁ、日本語は『映写機』でだいだい習得済みであります!」
「『映写機』?」
シャルが首を傾げると、フィーは何処からか『映写機』なる物を取り出した。
「これでごぜーます!わっちの宝物!不壊の魔導具で、キューマスターが地球で見たアニメやドラマ、映画などを見る事の出来る道具であります!キューマスター曰く『地球に転移は出来なかったが、地球から電波的な物を受診して、好きなアニメ、ドラマ、映画とかが観る事は出来た。」とか言っていたでごぜーます!」
「何そのとんでも仕様。」
ふよふよと中に浮かびながらも、不思議なサークル状の魔方陣に包まれた全体的に丸いフォルムの『映写機』の仕様を聞いて驚くシャル。
「シャル様、今日の夜にでも映画鑑賞するであります!」
「そうね、そうしましょう……話し逸れたけどあの本の内容はほとんど理解出来ていたって事で良いかしら?」
「うん!」
シャルと映画鑑賞出来る事を喜びながら頷くフィー。
「何を開発したら良いと思う?私自身、商品開発が得意な訳じゃ無いから前世での知識を生かそうかと思うけど、あの本にある物を再現したら色々聞かれそうだし、下手な物を流通させて悪用されても困るし。」
前世では、物によっては世界に悪影響を及ぼす物もある。かといってキューマスターの遺した本の商品を再現すれば目立つし、ホルンに物凄く目を付けられる可能性もあった。
「ふ〜む?正直、あの本に載っている以外の物だとこの屋敷にある物でごぜーますが……。」
フィーはちらっと周りを見渡すと、
「ホノるるがほぼ毎日通って来る可能性大であります。」
「却下で。」
フランソワさんは各地を転々として洋服店を営んでいるが、ホルンさんは基本商会にいる筈なのでそんな未来が見えた。
「う〜ん……あ、でも。」
「ぬぬ?何かあるでごぜーますか?」
少し考えた後、そういえばとシャルは顔は見えないが顔を上げた。
「あの本の内容を全部見たんだけど、あってもおかしく無い物が幾つか無かったのよね。この前買い物に行った時に色々見て回ったけど、流通してないみたいだし。あれなら良いかも、私も欲しいし。」
「あの短い時間で、あの分厚い本を全部読んだでごぜーますか?チートでごぜーますか?して、その商品とは?」
突っ込みつつも、その話の続きが気になるので質問するフィー、
「シャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメント、ボディーソープとかよ。」
「何かの呪文でごぜーますか?」
シャルの言葉を聞いて首を傾げるフィー。
「違うわ、商品名よ?髪を洗う物と、髪の表面を保護する物、体を洗う物の事を言うの。まぁ、リンスとコンディショナーは保湿効果とかが違うけど似た様な物だし、実際トリートメントだけあれば充分だけどね。ボディーソープは石鹸があるけど、ボディーソープの方が個人的には使いやすいのよね。」
「ふむ、ふ〜む?」
フィーは頷いていたが、あまり理解は出来ていなかった様だ。
「詳しく説明する?」
「大丈夫でごぜーます!とりあえず分かった事は、シャル様はお風呂が大好き!」
「確かにお風呂好きだけど……商品の内容を理解するの諦めたわね。」
とりあえず、商品は開発する事になるのでフィーに知識を叩き込んで、立派な助手として活躍してもらおうと考え話を進める。
「じゃ、作ってみましょう。」
「作れるでごぜーますか?」
「うん、一応知っているわよ?材料は買いに行かないと無いけど、商会で買い揃えればいいだけの話だし。」
「かしこまりであります!レッツゴー!」
◆◆◆◆
シャルとフィーは買い物に来ていた。ちなみに必要な材料が無ければ取り寄せてくれるし、材料費は全てホルンが負担してくれるらしい、
「でも意外ね?映画とか観れるなら、シャンプーとかリンスとか絶対に見ているはずよ?」
「ふ〜む?お風呂のシーンに出てくる変なボトルでごぜーますか?」
「そう、それ。」
「なな!?見た事はあったでごぜーますが、名前までは知らなかったでありますよ。」
「なるほど、知識に偏りがあるのね?」
雑談をしながら、材料を物色するシャル。
「う〜ん、アミノ酸系のシャンプーを作りたいのよね。」
「あみのさん?」
「大豆みたいのとか、魚とかお肉に含まれている成分かな?他にも色々必要だけど、ただ入れればいいって物でもないし……色々必要よ?」
「シャル様?何故かわっち不安になってきたでごぜーますよ?」
「大丈夫よ、前世でも頑張った事があるから。」
「成功したとは言わないんでごぜーますか!?」
なんせその手の事をやったのは、興味本位でちょっと試した程度だったので、自分なりに頑張ったとは思うシャル。
「それにしても、キューマスターは何故そういうの残さなかったのかな?化粧水とかもあって作られていたし、美容系が全く無いわけでもないし。」
シャルはキューマスターの残した本の内容を若干疑問に思った。作り方を残しておいてもおかしくない物もいくつかあったし、作り方を知らなくてもそれに近い知識などを残しておいても良さそうだった。
「キューマスターが作るのは危険だと思ったでごぜーますか?」
「余程の事がない限り悪用は難しいし、材料をきちんと選べば危険では無いわ。」
「ふむ?なら、キューマスターがお風呂で石鹸を使う時『石鹸一つでこの身全て洗うのが男ってもんだ。』と口走っていたから?」
「それかも。」
価値観の違い、それが大きな原因の一つかもしれない。いくつか例外の品はあったが、仮に男性が必要かというと必要では無い物が本には載っていなかった気がした。
「例外はあったけど、多分妙に本に載っている商品に偏りがあったのは、必要と感じて無かったからね。」
「ほほう、ではキューマスターが知っていても作らずさらに文献にも残っていない品がいくつかあると?」
「そうね、今後個人的に作ろうと思うわ。」
「ホノるるが気付きそうでありますなぁ。」
「流通すれば便利だけど、あんまりホルンさんに商売関係で目をつけられたく無いから、全力で隠すわ。」
「頑張ってー。」
「なにその無駄だろうな〜みたいな目は?」
「頑張ってー。」
「もう……材料買い揃えるわよ。」
着々と材料になりそうな物を買い揃えるシャル。
「白薔薇のエンブレムがあるから、色々気にしないで買っちゃったけど。全部経費で落ちるのよね?」
「限度はあると思うでありますよ?というか、シャル様お金持ってますね?」
「討伐とか採取とかの依頼片っ端から受けて、その日の内に終えるって事何度かやってたの。皆の依頼が無くなるから止めてくれって、リナリー団長とかコリンさんとか、ガーネットに言われたけど。」
「……シャル様。」
なんだか凄い表情で見つめるフィーをスルーしつつ、シャルは買い物を進める。
「今回作るのは、シャンプーとトリートメント、ボディーソープにしようと思うの。」
「それと花とか果物を買っているのは何か理由が?」
「香料を作ろうと思って、何が相性が良いか分からないし良い香りのするものは片っ端から買おうと思うの。」
「買い方がセレブだ!?」
今のシャルは普通の冒険者ではなく、貴族のお嬢様が片っ端から商品を購入するセレブな雰囲気を物凄く醸し出していた。
「商売人のおじさんとおばさんがあんなに笑顔で手を振っている。」
「まぁ、ほぼ全部買っているからね?私も売ってる側だったら嬉しいわよ?」
「一応わっちは何もしていないでごぜーますが、手を振り返すであります!」
「それはそれで笑顔にさせてるわよ?」
何か可愛らしい妖精に手を振ってもらっている。確かに微笑ましい絵だった。
『シャルさん……だいぶ買い込んでいましたが、何を作るつもりでしょう?』
『さあね?でも良いの?シャルちゃんがあんな遠慮なく買ってることも驚いたけど。その金額を全部あんたが払うのよ?』
『問題ありませんわ。商品開発には出費がつきものです。』
『太っ腹ね。』
『ホルン様、リナリー様?ローブでお顔が見えないとはいえ、だいぶ怪しいです。』
『気にしなくて良いですよベルモット。シャルさんにばれ無ければ良いのです。』
『そうね。他は気にしなくて良いわ。』
(あの三人何してるんだろう?)
速攻でばれているのだが、材料を買い揃えたシャルはホルン、リナリー、ベルモットの尾行を気にせず屋敷に戻った。




