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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
集結、青の薔薇!!スター商会とホルンの試験
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集結、青の薔薇!!スター商会とホルンの試験 5

 〜夜〜


「ただいま〜でごぜーます!」

「ただいま。」


 飲み会が終わった後、シャルとフィーは自宅に帰って来た。シャルはお酒を飲まないので酔わなかったが、ほとんどの団員は飲み過ぎて潰れ、スカーレットさんに怒られていた。リナリーはセーブしていた様だが、ガーネットとコリンに預けるまで、終始シャルの膝の上に座っていた。


「明日は、ホノるるの商会に行くのでごぜーますよね?」

「うん、商業エリアにあるスター商会の本部にね。」


 ホルンから商会の詳細は聞いていた。商業エリアに本部があり、ホルンは普段そこかギルド総本部にいるらしい。


「ねぇ、フィー?」

「何でごぜーますか?」

「キューマスターがメチスっていう人に残した商品開発に奴立つ本って、一体何なのかしら?」

「う〜む?」


 フィーは少し考えた後、


「残念ながらフィーもその本を見た事は無いでごぜーますが、少なくともキューマスターは、世界に大きな影響を与える物は残さないって言っていたでありますからなぁ。」

「それって、どれくらいの基準なのかしら?」

「世界が崩壊しないレベル!」

「あ、うん。その基準だと大抵の物は出回ってそうね。」


 実際に見ないと判断は出来なさそうだ。


「メチスって人はどんな人だったの?」

「一言で言うならキューマスターと同様、イケメンでごぜーます。」

「あれ?商人とかの要素は?」

「ふむ?確かに商売が上手そうな感じだったでごぜーます。あと、ホノるる同様、商品開発に役立ちそうな物を見つけると我を忘れるであります。屋敷の道具を見て興奮していたでごぜーますが、ほとんど作り方が分からず落ち込んでいたでありますよ。」

「教えてあげなかったの?」

「キューマスター曰く、『自分の力で解析したり閃かなければ、その物の真価を発揮出来ない。』と無駄にカッコ付けて、俺の親友が訪ねて来ても教えるなと言われていたでごぜーますからなぁ。」

「なるほど。」


(とりあえず、ホルンさんも屋敷にはあげられないわね。)


 絶対に屋敷に通って来る未来が見える。


「とにかく、明日ホルンさんの所に行って試験を受けないとね?でも私、薔薇の集いの全員に認められると絶対に目立つから頑張りたくない。」

「今更!?シャル様、手遅れでごぜーます!もう目立つのは避けられない運命でありますから、顔と素性を隠し通す以外無いでごぜーます!」

「やっぱりそう思う?……頑張るしかないか。」


 何だかんだ試験に不合格するのは嫌なので、顔と素性を隠せればこの際目立っても良いと思うシャルだった。



 〜商業エリア〜



「着いたわよ。」

「ここがスター商会の本部」

「ほほう。」


 シャルとフィーは、ローブで顔を隠したリナリーの案内で、スター商会の本部に辿り着いた。初めは二人で行くつもりだったが場所が分からずホルンが暴走するだろうからと、リナリーが道案内も兼ねて着いて来てくれた。


「大きいですね。」

「宮殿みたいでごぜーます。」

「まぁ実質、この大都市というより大陸の商売を牛耳っているのがスター商会だから、建物も大きくなるわよね。」


 総本部並に大きいじゃないかと思われるその建物。イメージとしては、アラビアの宮殿が近いかもしれない、


「シャル様、リナリー様、フィー様、お待ちしておりました。 」

「あ、ベルモットさん。おはようございます。」

「ダンディ!おはよう!」

「あら、ベルモット?今日は本部で勤務なの?」

「ダ、ダンディ?はい、御三方がスター商会本部にお越し下さると聞いて皆で待っておりました。」

「皆?」


 入口の近くに行くと門番らしき人が対応する前にベルモットが迎えてくれた。どうやら三人で来る事は予測されていた様だ。皆が待っていると聞いたが、


「ええ、スター商会の幹部が来れる者だけですが来ております。」

「なるほど、面倒ね。」

「い、いえ、決してホルン様と皆様の邪魔は致しません。」

「本当に〜?ベルモットはともかく、他は絶対に何かしら絡んで来るわよ?」

「……善処します。」


 スター商会幹部、リナリーの反応を見る限り癖がありそうだ。



 〜スター商会 内部〜



「うわぁ、綺麗。」

「ほうほう!これは立派な内装でごぜーますなぁ!」

「相変わらず人が多いわね。」


 中に入ると、綺麗な装飾が施された広い空間に出た。どうやら、ここが商会の総合受付の様で、向こうには様々な窓口があり、人も沢山いた。


「商売を始める者、商品を売り込む者、他にも商売に関しての様々な受付を行っているので、毎日人は絶えないですね。」


 商売に関してしては、ここに行けば全部分かると言われても納得する様な雰囲気だ。


「さて、奥にご案内いたします。ホルン様がお待ちですので。」

「じゃあ、シャルちゃんフィー 、行くわよ。」

「はい。」

「は〜い。」


 四人は、ホルンの待つ部屋に向かった。



 ◆◆◆◆



 コンコン、


『どなた?』

「ベルモットです。シャル様、リナリー様、フィー様をお連れしました。」

『分かりました。どうぞ入って来て下さい。』


 中に入ると、宙に浮かぶ社長椅子的な物に座ったホルンと、幹部らしき人が見えた。その一人に、


「あれ?ロンさん?」

「ぬ?ひょろ金!」

「いやひょろ金って何だよ!?」

「ひょろっとした金髪でごぜーますよ。」

「ロンって名前があるから!」


 “ペネドゥ”のロンがいて不思議に思った。だが、理由を聞く前にフィーと呼び方について言い争いになった。


 ポカッ、


「「あ痛!?」」

「あんた達、落ち着きなさい。ロンも一応スター商会の副会長なんだから、周りをよく見なさい。皆呆れてるわよ?」

「……あ、すまん皆。ホルン会長も、失礼致しました。」


 ロンは見られている事に気付いて皆に謝った。それにしても、


「ロンさん。スター商会の副会長だったんですか?」

「おう、そういえば言って無かったな。普段は“ペネドゥ”で店長やってるが、これでもスター商会の副会長だ。」


 正直、全然そんな感じはしなかった。でも、副会長という事はそれだけ実力があるという事、


「ふむ、オーラが無いでごぜーますなぁ。」

「なんでそこの妖精は俺に精神的な攻撃をしてくるんだよ?」

「多分、昨日の変なシルキー呼びを根に持っているのかと。」

「器が小さいぞ。」

「ロン金に言われても。」

「何で普通に呼べないんだよ!」


「そろそろ、話を進めたいのですが?」


  また言い争いをしそうだったので、ホルンが声を掛けた。


「すみません!ホルン会長!」

「仕方ないでごぜーますなぁ。」

「……お前なぁ。」


「では、まずシャルさん、フィーさん、そしてリナリー。ようこそスター商会へ。せっかくなので、スター商会の幹部を紹介致します。あ、ロンとベルモットは知っている様なので、初めての者だけ紹介を。」


 ホルンがそう言うと、幹部達が前に出て来てきた。


「まず魔導具関係の担当、ハロルド。」

「宜しく。」


「次に雑貨関係の担当、フルール」

「宜しくね。」


「家具関係の担当、アイリス。」

「宜しくお願いします。」


「食品、植物関係の担当、ティーザー。」

「宜しくな。」


「化粧品関係の担当、ソフィア。」

「宜しくお願いしますわ。」


「以上が今日来れた幹部ですわ。ちなみにベルモットが不動産関係、ロンは武具と鍛冶関係、その他にも受け持っています。」

「宜しくお願いします。」

「宜しくお願いするであります!」


 シャルとフィーは、簡単にスター商会の幹部達と挨拶を終えた。


「では皆さん、仕事に戻って下さい。」


「「「「「え!?」」」」」


 挨拶を終えてすぐにホルンがロンと幹部達に仕事に戻る様声を掛けた。


「ホルン会長?流石にそれは無いですよ。」

「そうですよ、凄く面白そうな話しをするって聞いて来たのに。」

「是非私達も関わりたいですわ。」

「「「そうそう。」」」


 ロンや幹部達が文句を言うが、


「あなた達、呼んでもないのに朝早く打ち合わせに来たのは噂のシャルさんを見に来たのと、私が『メチス・ブック』をフィーさんに見せると聞いたからでしょう?」


「「「「「そうです!」」」」」


「……元気良く返事しない。残念ですが、今回はシャルさんとフィーさん、リナリー以外に見せませんわ。」


「「「「「えぇ〜!!」」」」」


「あんた達がいたら絶対に沢山質問されるから、シャルちゃんやフィーが対処出来ないでしょ?帰った帰った!」


 ホルンとリナリーにあしらわれて、渋々ロンと幹部達が部屋から出て行く。


「では、ホルン様。私も失礼致します。」

「ありがとうベルモット。後で紅茶を淹れて来て貰えるかしら?」

「かしこまりました。」


 最後にベルモットが出て行く際、ホルンが紅茶を淹れる様に頼み、部屋にはホルン、シャル、フィー、リナリーだけになった。


「 後で紅茶を淹れて来るって事は、ベルモットさんは良いんですか?」

「ええ、ベルモットは私の家に仕える執事でもありますから。『メチス・ブック』の事も良く知っています。」

「執事なんですか?」

「ええ、そうですわ。」

「ほほう、ダンディは執事。似合っているでごぜーますなぁ。所で『メチス・ブック』とは?」

「昨日話していた本の事です。私の先祖がフィーさんの言っていたキューマスターという人物に貰った商品開発に役立つ本ですわ。」


 そう言って、ホルンが一冊の本を取り出した。


「こちらが『メチス・ブック』です。」

「ほうほう!」

「…………。」

「あたしも前に見せて貰ったけど、何が書いてあるか分からなかったのよ。」


 見た目は分厚く、ホルンの先祖がキューマスターから貰ったという事は500年前の代物だが、傷一つ無く綺麗な状態だった。


「フィーさん!どうでしょうか!?」

「ふ〜む?」


 ちょっと興奮したホルンを無視しつつ本を手に持つフィー。


 パラパラパラ、


「…………。」

「ふ〜む、ふむ?これは……。」

「どうでしょうか!?」

「どうなの、フィー?」


 フィーはページをめくって時折驚いている。その様子を見たホルンはちょっとわくわくしていた。リナリーもちょっとわくわくしながら聞いた。


「よく分からないでごぜーますなぁ。」


 ズコッ!


「あんた何か分かってそうな表情してたじゃない!」

「いや〜、文字も分かるのはあるし、見た事ある道具もごぜーますが、全ては分からないでありますなぁ。」

「そ、それだけでも充分ですわ!どれですか!?」

「…………。」


 フィーの言葉にずっこけた二人だったが、分かるものがあると聞いてホルンがフィーに詰め寄った。


「この馬車に取り付ける道具……」

「振動や衝撃を吸収緩和する道具ですね!開発済です!」


「この井戸に取り付ける道具……」

「水を汲み取れる道具ですね!開発済みです!」


「このトイレの形……」

「座りやすい形ですよね!開発済みです!」


「この楽器……」

「開発済みです!」


「この靴……」

「開発済みです!」


「この遠くの見える道具……」

「開発済みです!」


「解読出来なかったのでは無いのでごぜーますか?」

「私も含めた歴代の会長が絵を見て想像して作りました。」

「わっち必要?」


 フィーの道具の説明を受け、開発済みである事を伝えるホルン。文字が読めなくても全てでは無いが、結構開発していた様だ。


(『メチス・ブック』って響きの良い名前付けてるけど。)


 そんな中、シャルはキューマスターの残した本のタイトルを見て言葉を失っていた。



【俺的!OKライン商品!】



(ネーミングセンス!代々伝わってる貴重な本のタイトルじゃ無いでしょ!?)


 日本語・・・で書かれた物凄く軽いノリのタイトルの本を見て、心の中で思いっきり突っ込んだ。


「シャルさん!」

「は、はい?」


 そしてフィーと話していたホルンは、興奮した様子でシャルに声を掛けた。


「今まで誰もフィーさんと契約出来た人はいませんでした!もしかしたら、シャルさんならまだ開発されていない商品で何か分かる物があるのでは!?」

「リナッちは一応誘ったぜごぜーますがな。」

「断ったけどね。」


 どいう理屈かは分からないが迫るホルン。フィーとリナリーの話しは聞こえていなかった様で、メチス・ブックを持ったホルンはシャルに手渡した。


「え、えっと?」

「さぁ!どうぞ!」


(どうぞって言われても……)


 仕方なく【俺的!OKライン商品!】を開くシャル。


 パラパラ、


(……絵は完全に写真ね……随分と細かく撮ってある。多分、写真だけでも理解出来る様にしているのね……説明文は完全に日本語だけど。)


 前世の記憶を持ち、日本語を理解出来るシャルだからこそ、この本の内容は全て理解出来た。説明文は全て日本語にしているので読ませる気が全くしないが、写真はパーツなど細かいショットが多く、写真だけでも充分理解出来そうな物が多かった。


「どうでしょうか!?」

「どうなの?シャルちゃん?」

「シャル様〜?」


(全部は理解出来てないだろうけど、フィーは多分わかっててシラを切ってるわね?屋敷で見た道具も結構あるし。この内容を見る限り、あえて開発済みの道具を狙って答えてた様ね。)


 ざっくりページを飛ばして選んで指を差して答えたりしていたので、フィーもこの本の内容はだいだい理解出来てそうだった。


(香水……ガラス……石鹸……絵本……サンドウィッチ……花火……コンロ……下着……眼鏡……調味料……拡声機……リバーシ……チェス……色々あるわ。フラソワソワさんも見た事のあるのかな?この本からヒントを得たような商品見た事あるし。)


 日本で見た事のある商品から、経営のシステム的な解説まで、商売に役立つ情報が色々と載っていた。


「どうなのかしら?どうなのかしら!?」

「落ち着きなさいホルン。」

「シャル様〜?」


(ん?最後のページに何か書いてある?)


 パラパラとページをめくって最後のページにいくと、商品の解説では無いこの世界の文字と日本語の文字があった。


「“親友、メチス・リー・スターに捧ぐ、商品開発に役立つ本”?」


 短い言葉だったが、この世界の文字でメチスに宛てた言葉が書いてあった。


「ああ、それはキューマスターという人物がご先祖様に残した言葉です。その言葉を読んで初めてご先祖様に宛てたものだという事が分かったのですわ。下にも何か書いてある様ですが、分かりませんでした。」

「なるほど。」


 確かに、メチス宛に残した物だという証拠が何処にも無かったが、最後の文章で納得した。


(キューマスターは、親友の為を思ってこれを残したのね。)


 シャルはもう一つの日本語で書かれた文章をみて思った。それは、メチスに宛てた手紙、


【メチス、お前がこの本を受け取る時には、俺はもう死んでいるだろう。お前が読めない日本語でこの文章を残したのは、俺がこの文章を読まれるのが恥ずかしいから日本語で書いた。この世界の言葉で残すのは、上に書いてある文章だけで充分伝わるだろう?お前が知りたがってた商品やら商売に役立つ情報をこの本に残しておいた……だが、タダで全部分かると思ったら大間違いだ!文章を全部日本語にして写真だけで一応分かる様にはしてある。俺なりの優しさだ。再現するだけなら誰でも出来る。その商品や内容を写真から読み取って自分達の力で開発すれば、新たな発想が生まれやすくなる。誰かが既に作った物でも、自分達の力や知識で作った事に変わりは無いからな。】


(ただの意地悪って訳ではないのね。)


【最後に別れた時に何も残して無いと言ったな?あれは嘘だ!俺から親友に渡す最後のプレゼントだ。お前自身、そしてその先の意志を受け継ぐ者達へと繋いでいってくれ。いつかお前の一族なら、全部開発出来る日が来るかもな。じゃあな。】


(キューマスターって人は凄い人なのかも……でも、本のタイトルはどうかと思うわ。)


 キューマスターが日本語でメチスに宛てた手紙を読みつつ、感動しながらタイトルをディスるシャル。

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