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隠者のプリンセス  作者: ツバメ
家とダンジョンとシャル
36/111

幕間〜とあるシルキーの物語・後編〜

明日は登場人物紹介を投稿します。

 ◆◆◆◆



「ふんふんふ〜ん♪」


 どれだけ時間が経ったかは分からない、感覚で言えば数十年経った気がする。その間にこの周辺の聖域も変わっていった。


「ふ〜む……人も増えて来たでごぜーますねぇ。」


 マスターから貰った双眼鏡を使って、屋敷の周辺の様子を伺う、この屋敷から離れた所に街が出来た。元々聖域と言っても魔物が入って来ないようにしているだけで、人も住めると言っていた。その際、マスターの親友を名乗るメチスという男が訪ねて来た。


「あいつから話は聞いている。あいつの残した物を守っていきたい。どうか、この辺りに街を作らせて欲しい。」


 メチスは旅の商人だった。まだ駆け出しらしいが、旅をしていたマスターと仲良くなって、色々聞いていたらしい。本格的に商人として腰を据えて活動するためにこの地にやってきたそうだ。


「ふ〜む?わっちにその権限は無いでごぜーますが、具体的にどの範囲を希望するでごぜーますか?」

「中央に行ったら、水の精霊に森の大部分を残して欲しいって言われてな。この屋敷からもっと離れた所に作るつもりだ。」

「そうでごぜーますか。なら勝手にすると良いであります。マスターも元々は人や動物も暮らせる様にこの辺りの大地を再生する取り組みをしていたでごぜーますからなぁ。」

「ありがとう。」

「ちなみにこの屋敷に住むでごぜーますか?メッちんなら大歓迎であります。」

「メッちん!?……あぁいや、嬉しい誘いだが、俺は魔力がそこまで高くないし、この屋敷を維持するには力が足りない。だから、せめて近くに街を作ってあいつの守りたいものを守ろうと思ってな。」

「イケメンだ!?イケメンがここにおる!?」

「え、何!?いけめんって何!?」


 メチスとはその後仲良くなり、ちょくちょく遊びに来てくれていた。息子とも仲良くなったが、三代目辺りからパッタリ会う事が無くなった。元々メチスの代で商人として大成して忙しそうにしていたから、息子である二代目もあまり来れなくなっていた。そのまた息子を連れて行く余裕もなく、わっちの存在も一時期忘れさられていたらしい。



 ◆◆◆◆



 また月日が流れた。わっちは妖精、大暦などは気にしない性分なので、どれだけ時間が経ったかはよく分かっていない。それでも、100年以上経ったと思う。風の噂で一つの王国が建ったと聞いた。


『この地は我々の領地だ!中央にある水源も我々の財産だ!』


 この地が栄えて来ると、強欲な連中が増えて来た。メチスも危惧していた事だが、マスターの作った魔導具と、土地を狙ってやって来る連中がいた。


「おお!屋敷があるぞ!」

「この屋敷は私に相応しい!」

「いや、私だ!そこのシルキー!屋敷を渡してもらおう!」


「拒否でごぜーます!オマイらみたいな連中に渡す土地も屋敷も無えでごぜーますよ!!」


 ビュンビュン!


「「「うわぁぁぁ!?」」」


 そういう連中は、ちょっと痛い目を合わせて追い返した。何度か争っている内にパッタリと来なくなった。



 ◆◆◆◆



 また月日が流れた。わっちは、新たな主探しに奮闘した。


「お邪魔しま〜す。」

「待つでごぜーます!靴は脱いで上がるであります!」


「何これ?使い方がよく分からないや。」

「捨てるなでごぜーます!料理も出来ないでありますか!?」


「この屋敷、どんだけ魔力喰うんだよ!?無理だよ!」

「気合で何とかするでごぜーます!」


 色んな人間を招いた。でも、わっちが気に入る人間には会えなかった。そもそも、マスターの様な人間には会う事は無かった。それに、マスターの屋敷はわっち用に改良を加えてくれていたが、魔力を込める事が出来ても完全に稼働させる事が出来る人間はいなかった。マスターもわっちも気付いていなかったでごぜーますが、完成した水の宝玉アクアオーブもチートアイテムでありますが、この屋敷も充分チートでごぜーます。



 ◆◆◆◆



 また月日が流れた。余りにも条件が厳しくて、誰もこの屋敷に近付く人間がいなくなった。その時期に水の精霊に聞いたが、人間はどうやら中央部の森の大部分を残して円を描くように都市を築いたそうだ。わっちは知らなかったが、この屋敷と中央部も都市の一部にしようとしたらしい。でも精霊達の耳に入り、大反発され交渉の末そういう作りになったらしい。

 わっちはというと、主を探しが難航し気分が沈み、何に対してもやる気が無くなっていた。


 でもそんな中、出会いもあった。


「ふ〜ん、あれが噂の屋敷ねぇ。」

「だら〜。」

「え?何!?なんか庭に白い物体がいるんだけど!?」

「白い物体とは失礼な!?シルキーでごぜーますよ!?」


 同士ことリナッちだ。たまたま外で日向ぼっこしている所を見られて酷い一言を言われたが、その後ちょくちょく顔を見せて様子を見てくれるようになった。主にと誘ったが、住む場所があるからと断られた。何でもリナッちはCランクの冒険者らしい。


「まぁ、あたしは最近忙しいから、今度様子でも見に来るわ。その時は屋敷の掃除とかしなさい!あんな汚い屋敷、入りたくないから!」

「そんな!?同士よ!」

「同士言うな!お互いその話題は禁句よ!」


 リナッちが屋敷に入る事は無かった。その時にはだいぶボロくなっていたし、入る気にもならなかったそうだ。



 ◆◆◆◆



 また月日が流れた。リナッちは本当に忙しくなったのか、来れなくなった。それでも何年ぶりに顔を見せたりとかしてくれるので、わっちに会いに来たく無くなった訳じゃない。


「……暇だな。」


 一切人が来ない訳じゃない。でも、最初の頃よりはるかに少なくなった。何でも噂が流れているらしい。森の中央の屋敷に住む変なシルキーとかなんとか、


「……マスター。」


 寂しく無いと言えば嘘になる。映写機があるからまだ寂しさを紛らわせる。


「……わっちは、いつまで待てば良いでごぜーますか?」



 ──本当に、マスターみたいな主に会えるでごぜーますか?



 ◆◆◆◆



 また月日が流れた。今がいつかは分からない、分かりたくないし、もう外の世界を知りたく無い。でも、以前に比べて活気に溢れている事は分かる。マスターの望んでいた大地が蘇った平和な世界。きっと、外の世界はわっちの知っていた頃より良くなっている。


『……この屋敷、魔導具?こんな珍しい屋敷、調べない理由は無いわ!』


 宿敵が現れた。弱っていた結界に無理矢理穴を開けて侵入した銀髪の女。


「おのれ何奴!?不法侵入は駄目絶対!!」

「え、何!?シルキー!?……はっ!?ここが噂の屋敷なのね!お願い!調べさせて!」

「断固拒否でごぜーます!喰らえ!」

「そんな!?くっ!?なにこの魔力!?」


 銀髪の魔女はフランソワと言うらしいでごぜーます。後日リナッちが謝ってくれたでごぜーます。しかし、最初の出会いは大事とマスターが言っていたでごぜーますが、その通りでごぜーます。マスターの作ったものを結界であろうとも傷付けるなど言語道断。一瞬で奴はわっちの宿敵となったでごぜーます。それにしても、


「リナッち?その武器はなんでごぜーますか?」

「ああこれ?“セルシウス”って名前を付けたけど、あたしの専用武器。あの阿呆賢者も持ってるんだけど、ある所で手に入ってね?」

「ふ〜む?」


 同士と宿敵の持つ武器は、なんとなく気になったでごぜーます。特にあの女の使っている武器は……



 ◆◆◆◆



 その後、メチスの子孫が訪ねてきた。何代目かは知らないでごぜーますが、初代から屋敷を見守る様にと遺言を授かっていたらしく、今の代になってようやく再開したらしい。


「明確な理由は従業員には伝えません。何か別の理由を伝えておきます。私は、初代の意志を継ぎたいと思っております。秘密裏に見守らせてもらいますわ。」

「ふ〜む?構わないでごぜーますよ?」

「……それにしても、修復はしないのですか?流石に、見守るにしてもボロボロなので、手を加えたいのですが……」

「魅力的な提案でごぜーますが、新たな主にやってもらいたいのでありますよ。」

「……そうですか。」


 それから、また月日が流れた。



 ◆◆◆◆



「……寂しい。」


 誰も訪ねて来なくなって結構経った気がする。以前ほど時間は経っていないのは分かるでごぜーますが、


「……このまま、屋敷と一緒に朽ちるのもありでごぜーますね。」


 マスターの思い出と共に生涯を終えるのも良いと思えてきた。思えば、一体どれだけの時間を過ごしたのだろう。100年や200年じゃ足りない時を。


「……ああ、懐かしき日々。」



 ──もう、疲れてしまった。だからこのまま……



『実際に見たのは初めてだったけど……酷いね。』

『これで、敷地内に入らせてもらえないんだから、誰も住めない訳よね。』


「……ぐぬぬ。」


 久々の来客者だ。しかも、好き勝手言ってくれるでごぜーます。流石に野放しには出来ないでありますね。


「……行かねば。」



 だからわっちは、全力で迎える事にした。



 ◆◆◆◆



 カンッ!カンッ!カンッ!



「「「「何事!?」」」」


『侵入者ぁ〜!お久しぶりの侵入者ぁ〜で、ごぜーます!!』


 久々にこんなに大声を出したかもしれない。そんな事を思いながらも来客者に声を掛ける。


『いやぁ〜いけませんね〜、不法侵入を実行しようなど言語道断でごぜーますよ!』


 そして、ヒーローもので見た爆発エフェクトを使い、


 ザザッ!ドーン!


「わっち……推参!」


 来客者に姿を見せた。


「出たわ!噂の変なシルキー!」

「変とは失礼な!わっちこそは、この屋敷を守護する偉大なシルキーでごぜーますよ!?異議を申し立てるであります!!」

「こんなシルキー、初めて見るよ。」


 酷い言われように反論しつつ、来客者を見る。


「それにしても新顔ばかりですな〜?髭の生えたダンディな方は、前に見かけた事はごぜーますが……一人は、完全な不審者でありますな〜。」


(男一人に女子二人、あとは……あのローブは?)


 一瞬、動揺した。だって、マスターの身に着けていたローブにそっくりだったから、でも動揺はあの四人には伝わらなかった様だ。


(……マスター。)


 マスターがもういない事は分かっていた。だから正直、もうそのローブを見たくない。思い出すと、寂しくてたまらないから。


「ではでは!皆様お帰りくださいませ!」

「「「「え?!」」」」


 だから早々に帰ってもらう事にした。


「まずいわ、弾き飛ばされる!」

「え?!何か対策しないと!」

「まさか、こんなにすぐに追い返されそうになるとは……」


 一人を除いて慌てる三人。お願い、帰って……魔力を高める、


「…………。」


 ローブの人間が何か魔法を使おうと魔力を高めた。その時、ひどく懐かしい魔力を感じた。


「むむ?!」


 絶対にあり得ない、でも知っている。この独特な魔力は……


「……マスター?」

「「「「え?!」」」」


 涙が出るのを堪えて聞いた。でも、返ってきた声は凄く綺麗な声だった。


「んん?綺麗な声の女性?……マスターじゃない……で、ごぜーますか?」

「「「「ええ??」」」」


 向こうも驚いているがわっちも驚いた。マスターの着ていたローブにそっくりなものを着て、そっくりな魔力を持つ人間は、綺麗な声の女性だった。だから、凄く混乱したし、今までマスター以外で感じた事のない運命を感じた。


「ふむ……こんなに運命的なものを感じるのは、マスターに会った以来でごぜーます……とにかく、一度あなた様を屋敷に案内してみるのも一興。」

「え、えっと?」


 だから、やる事はただ一つ。


「という訳でご案ナ〜イ!!」

「ええ??」

「シャル様?!」

「「シャル(ちゃん)」」


 彼女が新たな主に相応しいか、見極める事でごぜーます!



 ◆◆◆◆



 彼女は今までの人達とは違った。玄関でまず靴を脱いだ。屋敷がボロボロだとか関係無しに靴で上がろうとせず、キチンと理解して靴を玄関で脱いだ。


(なんと!?初めての衝撃!)


 何度か人間を招いた事はあったが、実はマスター以外、靴を脱いで屋敷に上がる人間はいなかった。マスター曰く「そういう習慣が無い世界。」らしい、なのでかなり衝撃的だった。


「さてさて!案内する前にあなた様のお名前は?」

「シャルよ。」

「……ふむ、偽名ですな?」

「え?!分かるの?!」


 一発で偽名だと分かった。だって、フードとマスク付きローブで顔が一切見えないけど、気品が隠せて無かったでごぜーますから、貴族で顔を隠して名前が短い=偽名、なんて推理朝飯前でありますよ。


「ええ、乙女の感というやつです。」

「ああ……そう。」


 でもあえてその情報は言わない。何故なら、


「ご安心を……お客様の秘密をお守りするのはシルキーの務め。」

「……絶対に違うわよね。」


 速攻で突っ込みを入れられた。まぁ、映写機で聞いたセリフを変えて言っているだけでごぜーますからな。


「わっちはシルキーの“フィーネリア”でごぜーます!気軽に“フィー”と呼ぶであります!」

「わかったわ、フィー。」


 そして家の説明をする中で、


「え!広いキッチンがあるの?!」

「そうでーす!……もしや、シャル様は料理をされるのでごぜーますか?」

「ええ、一人暮らしの時はいつも色んな料理つくっていたから。」

「ほうほう!……これはこれは!」


(料理が出来る!しかも反応を見る限り料理好き!貴族のお嬢様が一人暮らしとは意味がよく分からないでごぜーますが、これは素晴らしい!)


 料理好きという事が雰囲気で分かった。マスターも料理好きだったので、主としてはそれだけでも好条件だった。


「えっと?」

「さあさあ!行くでごぜーます!まずは地下から!」

「う、うん。」



 ──彼女はこの屋敷を気に入ってくれるだろうか?



 ◆◆◆◆



「こちらは地下一階でごぜーます!こちらのフロアはとある部屋・・・・・と、広いお風呂があるであります!」

「広いお風呂?!見たいわ!」


 彼女は凄くテンションが上がっていた。お風呂好きの様だ。実際に見たらショックを受けていたが、この屋敷が魔導具で修復可能な事が分かれば何も問題無いだろう。


「次は二階でごぜーます!」

「キッチンを見てみたいんだけど……」

「後で紹介するでごぜーます!」

「……そう。」


 そしてメインであるキッチンを避けて、二階に向かった。


「……そういえば。」

「どうしたでごぜーますか?」

「どうして私を屋敷の敷地内に入れてくれたの?」

「ふーむ?」


 もっともな質問をされた。だから正直に答えた。


「本来であれば、こんな怪しい格好した輩は有無をも言わさず追い返すでごぜーますが……」

「さっきみたいにね。」

「しかーし!シャル様から発せられた魔力がマスターと一緒だったので、思わず手が止まったであります!」

「そのマスターって一体何者なの?」


 マスターについて質問された。でも、マスターの事を詳しく話すつもりは無かった。そう簡単には話したくない、なぜなら……



 ──マスターは最高の相棒だから、話すのはわっちが認めた人だけ。



 ◆◆◆◆



「……炊飯器?よく見たらこれ、冷蔵庫だし……ミキサーも?!何コレ?!」

「なな?!」


 今までで一番の衝撃だった。彼女は、この世界の人間が知らないはずのアイテムの名前を言ったからだ。


(ありえない……もしかしてシャル様は……)


「……もしやシャル様、ここにある道具全てお分かりに?」

「ええ、全部分かるわ……使い方もね。」

「なななんと?!これはこれは!?」


(使い方も知っている!?ということはやはり……)


 そしてわっちが聞くよりも早く、彼女は問いかけた。


「ねぇ、フィー。」

「イエス!シャル様!」

「地球もしくは、日本って言葉に心当たりはある?」

「なんと?!」


 彼女はマスターと同じ故郷の出身だった。推理する限り、マスターと同じ転生者の様だった。正直、そんな人物に会えるとは思わなかった。だからついうっかり、マスターの情報を伝えてしまった。でも、彼女が本当にマスターと同じ転生者なら……


「う〜む、これはクイズを出す必要がありそうですな〜。」

「え?クイズ?」


 どうやらクイズは知っている様だ。それならこのまま続けてしまおう。


「という訳で!マスタークイ〜ズ!!」

「え?ねぇ、ちょっと?」


 混乱しているでごぜーますが、気にせずゴー!


「デデン!第一問、マスターは転生者である?マルかバツか?」

「それ、さっき答え聞いた……」

「マルかバツか!」

「……マル。」

「正解!」


 実はこのクイズ、マスターが考えた「同郷の転生者、見極めクイズ」だそうだ。結局このクイズを使うことは無かったというマスターだったが、同郷のノリの良い人間なら絶対にやってくれると謎の自身を持っていた。だからやってみた。


「ねぇ?なんで急にクイズが……」

「続いて第二問!」

「聞いて!?」


 もの凄く突っ込みを入れられたが、彼女はノリが良く、クイズに素直に答えたくれた。途中、今がマスターと別れてから500年も経っていると判明し驚いたが、元々覚悟していた事、マスターの事を思い出しながら感傷に浸った。

 そして彼女は、後半二問の難問に見事に全問正解した。凄く嬉しかったし、楽しかった。マスターと遊んでいた時と同じ様な感覚だった。答えの分かるクイズ、答えを知らなくちゃ答えられないクイズ、その全てに答えるられるのは、俺と本当に気が合う人間だけだと言っていた。だから、全てに答えてくれた彼女は……シャル様はわっちの探していた人。


「認めましょう……シャル様が新たなマスターとなる事を!」

「え?」


 だから、わっちは割と真面目にシャル様に言った。



「ずっとこの日が来るのを待っていたでごぜーます……」



 マスターと別れてから500年、



「あれから500年経っていようとは……待ち過ぎていた様であります。」

「……フィー。」



 本当に待ち過ぎていたでごぜーます。でも、そのお陰でシャル様に会えた。



「しかし遂に運命の時は訪れたのでごぜーます!これでボロボロの屋敷と、一人寂しい生活は暫くオサラバであります!」

「…………。」



 ──だから、


「さあさあ!シャル様!いざ!ご契約を!!」

「まだ契約するなんて、一言も言ってないんだけどなぁ?」


「……あれぇ?」


 正直、断られる事を想定していなかった。でも良く考えたら、シャル様がこの屋敷を選ぶ理由が無い。


「いやいやシャル様?物事には流れと言うものがありまして?」

「え?でも流石に整備するのにお金も時間も掛かりそうな感じだし。」

「そこは問題ナッシングですよ!?ちょいちょい言っていたでごぜーますよね?!」


 そういえば、肝心な事を話していなかった。契約する事で頭が一杯で、屋敷が魔導具である事を言い忘れていた。


「あと懐かしい道具を見られたけど、全部壊れているし。」

「大丈夫!大丈夫でごぜーますから!!」


 わっちは焦っていた。すぐに説明すればいいのに完全に混乱していた。


「フィーのテンションに付いていけるか……不安だし?」

「何故そこで疑問系?!そしてわっちにダメージ!!うわぁーん!」


 嘘泣きのつもりだったけど、本気で泣いてしまった。もう二度とこんなチャンスは無い。なのにそれを自分のミスで無くしてしまった。また寂しい思いをする。そんな今までの思いも一気に押し寄せて涙が止まらなかった。


「……なんてね?冗談よ、フィー。」

「ぐすっ……ほ゛んどに゛?」

「ふふ、泣きすぎよ。」


 でもすぐにシャル様が冗談だと言ってくれた。今度は嬉しさも混じり余計酷くなった。


「家の整備はゆっくりとやっていけばいいし、懐かしい道具も全く同じは難しいかもしれないけど再現してもらえばいいし、フィーとも一緒に話していて凄く楽しかったし、私はここで暮らしたいな。」

「うう……シャル様〜!!」

「おっと。」


 ポフッ、


 思わず抱き付いてしまった。そしてあまりの抱き心地に涙が吹き飛んでしまった。


「ぬぬぬぬ?!?!」

「だからねフィー。」


 そしてシャル様は、私が待ち望んでいた台詞を言ってくれた。


「私と契約してくれる?」

「もっちろんでごぜーます!というか至上極上の抱き心地!!」

「あれ?なんか別のワードも入ってない?」

「気にせずゴー!」

「そ、そう?」


 そして、シャル様と契約を交わした。シャル様の抱き心地は最高でごぜーますから離れたく無かったでありますが、ちゃんと契約するために離れた。そして、無事契約が完了した。あとは屋敷を復活させるだけ、


「この屋敷を稼働かどうさせるでごぜーます!」

「……稼働?」


 ──さぁ、マスターの残した屋敷を復活させるであります!



 ◆◆◆◆



「それで?魔力を込めるとどうなるの?」

「屋敷が稼働するでごぜーます!」

「う〜ん……とりあえずやってみるわね。」


 シャル様はよく分かっていない様子でごぜーましたが、屋敷の心臓部に魔力を込め始めた。



 ガタン!ガタガタガタ!



(それにしても本当にマスターの魔力とそっくりでごぜーます。)


 シャル様の魔力を改めて感じ、不思議に思う。マスターにそっくりな魔力、もしかしたら同じチート魔法の使い手?それにしても、魔力を込めるまで感じられなかったのは何故……



 ガタガタガタ!バキバキバキ!カカカカカ!



(……はっ!?魔力量は大丈夫でごぜーますか!?思えば、500年間ロクに魔力供給してないであります!)


「……ねぇ?フィー?これって何時まで……」

「多分、500年分の魔力を取り戻そうとしているのでごぜーます!屋敷の状態を見る限り、あと少しでごぜーます!!」

「そ、そう?まぁ、魔力残量は全然平気みたいだけど。」

「このチート持ちが!で、ごぜーます!」


 どうやら、心配はいらなかった様でごぜーます。シャル様が疲弊した様子は一切無かった。500年分の魔力を吸われてケロッとしているのはチート持ちの証であります。屋敷に魔力を注いでいるシャル様は輝いていた……文字通り……うん?文字通り?


「……ぬ?シャル様、ローブが光っているでごぜーますよ?」

「え?……あ、本当だ。多分、このローブが魔導具なのと関係あるのかな?」


「……魔導具?」


 シャル様の言葉を聞いて首を傾げた。魔導具?あれ、この光り方、何か浮かび上がっている?



 ◆◆◆◆



「……紋章、でごぜーますか?」

「あぁ、俺は目立ちたくない。でも魔導具を作る者として、一人の職人として隠しマーク的なものを残しておきたくてな。まぁ、俺に似た魔力をある領域まで込めなきゃ浮び上らない仕様だけど。」

「へぇ〜。」

「特別に見せてやるよ。」



 ◆



 ──紋章が浮かび上がっていた。もう、それを見る事は叶わないと思っていた。マスターの残したものはたくさんあるけど、それを見る事は無いと思っていた。そしてよく見ればそのローブは……



 ◆



「正直これは俺の作った中でも一位、二位を争う、好き勝手いじった魔導具だ。いつか俺が死ぬ前に破壊するつもりだ。機能を全て使えなくても、チートな性能だからな。」

「勿体無いでごぜーますねぇ。」

「悪用しない人間に渡るなら良い。でも、悪用されたら危険な代物だ。仕方ないさ。」

「そうでごぜーますか?」



 ◆



 ──よく好んで身に付けていた。性能も抜群らしい。そしてあの時も……



 ◆



「……行ってくる。」



 ◆



 ──漆黒・・フード・・・マスク・・・付きのローブを身に纏って、マスターは去って行った。そう、シャル様の身に付けているローブは……



 ◆◆◆◆



「……よく見たらその漆黒のローブ……“隠者”の?」



 ──そう、間違いなくマスターのローブだった。



 ガタンガタン!ゴゴゴゴ……、



 屋敷の修復は完了した。でも屋敷が直った事よりもマスターが処分すると言っていた懐かしい魔導具にまた会えた事が嬉しかった。そして、シャル様がそれを身に付けてくれていて本当に良かった。マスターがいつも身に付けていたお気に入りの魔導具。


「……フィー?何で泣いているの?」

「ふぇ?」


 シャル様に言われて気付いた。多分、なかなか酷い顔をしている筈だ。


「……ぬぬ?!泣いて無いでごぜーます!これは汗かヨダレでごぜーます!」

「その言い訳はどうなの?」


 多分シャル様は、マスターの意志を知らずに継いでいる。何故シャル様がマスターと同じ魔力の持ち主なのかは分からないが、きっとそうだ。だから……



 ◆◆◆◆



「おはようからの〜ダーイブ!!」


 ポヨン、


「あれ?フィー?朝から布団で遊んでるの?」

「早起き!?シャル様早起きでごぜーますね!?キューマスターはお寝坊さんだったから、起こすのが日課だったのに!」

「そうだったの。」

「はっ!待てよ……これは逆にシャル様に朝早く起こしてもらうという、甘〜いシチュエーションのチャンス!とうわけでおやすみなさい!……すやー。」

「え?フィー?寝たフリはいいから……」

「……すぅ、すぅ。」

「本当に寝てる?!」


 全力でお仕えするでごぜーます!でも、今はゆっくり寝かせて欲しいであります。安心して寝れるのは500年ぶり・・・・・・だから。


「……しょうがないなぁ。朝食が出来たら起こしてあげよう。」



 ──シャル様、フィーはシャル様に会えて本当に良かったであります。

フィーの幕間でした。リナリーとは結構前から知り合いです。フランソワ達は設定通りの年齢です。なので最後の方はそこまで時間は経っていません。

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